第1章:出会いと共鳴
東京の喧騒から少し離れた、閑静な住宅街に佇む私立女子高「清麗学園」。
その数学教師、谷口充(32歳)は、教壇に立つたびに生徒たちの視線を浴びていた。
整った顔立ちと落ち着いた物腰は、女子高生たちの間で「地味だけどなんかカッコいい」とひそかな人気を集めていた。
しかし、充にとって教職はただの仕事だった。
情熱も野心も、どこかで置き忘れてきたような日々。
妻との関係も冷え切り、形式的な会話しか交わさない生活が続いていた。
ある秋の夕暮れ、充は職員室で採点作業に追われていた。
窓の外では、紅葉が風に揺れ、校庭をオレンジ色に染めている。
そこへ、3年生の大島樹里(17歳)が現れた。
樹里は学年でも目立つ存在だった。
長い黒髪、透き通るような白い肌、そしてどこか冷めた瞳。
成績は優秀だが、教師に対する態度は挑戦的で、時に棘のある言葉を投げかける。
「谷口先生、ちょっと質問なんですけど。」
樹里の声は、いつもより柔らかだった。
彼女が手に持つ数学の問題集は、難易度の高い応用問題が開かれていた。
充は一瞬、彼女の真剣な表情に引き込まれる。
「この微分方程式、解法がいくつかあると思うんですけど、どれが一番スマートですか?」
充は問題に目を落とし、丁寧に解説を始めた。
樹里は熱心に耳を傾け、時折鋭い質問を挟む。
そのやりとりの中で、充は彼女の知性と、どこか寂しげな雰囲気に気づく。
「大島さん、数学好きなんだな。将来、理系に進むつもり?」
「さあ、どうですかね。先生みたいに、毎日同じこと繰り返す人生は嫌ですけど。」
樹里の言葉には、17歳とは思えない重みがあった。
充は苦笑しつつ、なぜか彼女の言葉が胸に刺さった。
その数日後、充は樹里の母親、大島江美(38歳)と初めて対面した。
保護者面談の日、江美は遅れて現れた。
スーツに身を包んだ彼女は、年齢を感じさせない美貌と、どこか疲れたような微笑みを浮かべていた。
「大島樹里の母です。遅れてすみませんでした。仕事が…。」
江美の声は低く、落ち着いていた。
充は、彼女の瞳に宿る複雑な感情に引き込まれる。
面談は樹里の進路についてだったが、話は次第に個人的な話題へ。
江美はシングルマザーで、樹里を育てるために必死に働いていること、夫との離婚が樹里に与えた影響について、ぽつぽつと語った。
「樹里は強い子です。でも、時々、私にはわからない壁を作ってる気がして…。」
江美の言葉に、充は自分の妻との冷めた関係を重ね合わせた。
「親子でも、わかりあえないことってありますよね。僕も…似たような経験があるので。」
その一言が、江美の心に小さな波紋を広げた。
彼女の瞳が一瞬揺れ、充を見つめた。




