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【お嬢様】8枠目【ハンティングアクション】

「ああもう!!前回もこんな始まりじゃない!!」



 ゲートを開けた瞬間、物凄い勢いの何かが私の身体を真っ二つに引き裂いた。


 いや、「引き裂いた」って表現はあんまり正しいものじゃないかしら。


 だって、肋骨と骨盤の間が内臓(なかみ)ごと、まるでだるま落としのように消し飛んでいたのだから。



『そうそうこれこれ』

『ここすき』

『初手死亡ノルマ達成』

『世界で唯一安心して見れる死亡』

『心臓に悪すぎるけど心に良すぎるだろ』

『エヴァ様の死亡シーンからしか摂れない栄養素はある』


「ああもう最高、最ッ高です……!」


「エヴァ様エヴァ様、コンテンツとして消費されるってどんな気分ですか?」


「ノーコメントよそんなの!」



 私のチャンネル、【グリーンデザート放送局】の記念すべき第二回配信は初手からこんな美少女のグロ即死で大盛り上がり。


 健全か不健全かと聞かれたら不健全極まりないが、第一回で方向性が確定してしまった以上は仕方がない。


 「今それどころじゃないんだから!」と私は目の前の景色に目を戻し、状況を簡単に整理した。


 取りあえず天候は猛吹雪。「今6月中旬よね?」なんて疑問は浮かんだけれど、ダンジョンにそんな常識が通用するはずがないと考え直す。



「南半球になったんじゃないですか?」


「だから地の文を読まないでって言ってるじゃないリリィ」


『メタメイドだ』

『戦艦持ってそう』

『逆襲?』



 それで次に、火力はだいぶ高い。いえ、あのガラクタほどじゃないけど火力と殺意は◎。


 というかそう、問題は殺意。


 前回のカインドは人間を殺す為の機械だったからあんな初手ブチ殺しアルティメットみたいな挙動も理解出来たけれど、今回は殺された感じからバリバリ有機物。感触的には大型、いえ、超大型哺乳類ってところかしら。



『てか雪ヤバ』

『ダンジョン配信初めて見るから楽しみ』

『初視聴でここはヤバい』

『人間って殺されてもこんな落ち着けるんだ』

『エヴァ様人間カウントしちゃ駄目だろ』



 現在進行系でエンタメとして消費されながらも、私は一発お返しブチ込むために思考を巡らせる。


 とはいえ猛吹雪のせいで視界も聴覚もまともに頼れるもんじゃないし、一応ミルリーフというそこそこ涼しい地域の生まれの私であってもこんな銀世界はアウェーゲーム中のアウェーゲーム。


 まともな対抗手段なんて一つしか浮かばなかった。



「ああもう、結局虱潰しが最適解じゃない……!」


『判断が早い』

『この見た目でスペックゴリ押し勢なの草』

『才能だけで戦うのをやめろ』



 というわけで全方位攻撃をブッ放そうと私はデックに手を伸ばす。


 その次の瞬間だった。



「ヴァオオォォォンッッッ!!!」



 まるで大気が爆ぜたかのような咆哮が、文字通りの爆音で轟いた。


 何度か挟まれた無音を考えると、この5秒弱の咆哮で7度ほど私の鼓膜は破れたことになる。


 ちらっと見ると、『急に音量バカ下がったんだが』『トラブル?』『今大咆哮した?』などと少し困惑気味のコメント欄。


 多分マイクの自動音量調節が仕事したのかしら、やっぱ金なんて掛けておくに限るわね。


 そんなことを再確認しつつ、私は再び目の前の景色に意識を戻す。


 割れんばかりの咆哮は視界を覆っていた猛吹雪まで吹き飛ばし、その咆哮の主の、大山の如き巨体が顕になった。


 降り積もる雪を固めたような分厚い毛皮、氷山の如き圧倒的重厚感の四脚、美しく透き通り悍ましく鋭い巨大な二本の牙、氷の装甲に包まれた「靭やかな巨木」としか形容しようのない鼻……


 そこにあったのは、想像を絶する程に巨大な象の姿だった。



『でけえええええ』

『これ体高とか10m以上あるだろ』

『サイズ倍以上で草』

『最大金冠か何か?』


「というかこれガム」


「エヴァ様」



 互いに出方を伺おうとしているのか、睨み合い、膠着状態になる私と雪象。


 そして姿を現した巨象を見上げ、ミーヤは「やっぱり治ってますよね〜……」と少し苦々しい顔をする。


 「どういうこと?」と尋ねると、彼女はその姿を捕捉したことによって表示可能になったパラメータを表示しながら簡単に解説を始めた。



「ギルドとしても、今までに10組くらい冒険者をこの依頼に派遣してたんです。その甲斐あって内部の探索などは軒並み終わったんですけど、みんなボスの「スノーフォール」の前には撤退するしかなくて、しかもなんか与えた傷全部回復しちゃって、その上この子、っていうかこの種めちゃくちゃ人間嫌いで……」


「回復特化とか一番ダルいボスですね」


「どうして私を見てるのかしら、リリィ?」


『名称:スノーフォール(蘇生体)』『推定誕生年:大陸歴2650年前後』『分類:哺乳綱長鼻目ゾウ科ユキゾウ属』『戦闘能力:高』『対人危険度:超高』『生命強度:超高』『耐魔力性:超高』『全長約28m』『体高約12m』


「ヤバいですねこれ」


「ヤバいのは分かるけどヤバいことしか分からないわ」


「あっじゃあ比較出しますね」


『普通名称:雪象』『分類:哺乳綱長鼻目ゾウ科ユキゾウ属』『平均戦闘能力:小』『平均対人危険度:中』『平均耐魔力性:極小』『平均全長:約10m』『平均体高:約5m』


「イベクエ個体?」


「エヴァ様」



 流石にパラメータについては本職の方が扱いが上手いのか、前回リリィが開いたものよりもより多くの情報が分かりやすくまとまっている。


 というかこのヤケクソ強化、一体どこの超特殊許可よ。いや、確かに特殊な許可は要るのだけれど。


 

『てか生命強度って何?』

『「どれくらいその生物種の平均値より強いか」って偏差値みたいなやつ』

『あっエロい人だ』

『ありがとうエロい人!』

『俺ら基準のエヴァ様ってことか』

『エヴァ様俺の倍くらい強いもんな』

『自惚れるな雑魚』

『どこ住み?てかダンジョン行かない?』



 まあ、これ以上はブン殴ってから考えようと私はガーターベルトのケースに手を伸ばす。


 もう一回ちらっと見ると、『細いのに太ももとはこれ如何に』とコメントした視聴者がバチボコに叩かれていた。



「……あれ、少し待って」


「どうかしましたか?エヴァ様」


「私の見間違いじゃなかったら、魔力耐性ゲロヤバって見えた気がしたんだけど」


「あ、全然見間違いじゃないですね〜。この子信じられないくらい魔力通らないので〜」


「ってことは、私のトランプ紙屑?」


「魔力込めるタイプだったらもう燃えるゴミですね〜。大富豪のラスイチの10くらい通りませんよこの子〜」


「信じられないくらい通らないじゃない」



 第二回にしてまさかのメインウェポン封印。


 「お前トランプとか武器にして戦いそうだよな」なんて性格のよろしくない同級生の言葉を受け、「あ、その手があるじゃない」とメインウェポンに据えてかれこれ10年以上。


 戦闘訓練も定期試験すら共に乗り越えて……いや、無駄な苦労してただけじゃない?私。


 よく考えたら市販品に無理矢理エンチャントしてゴリ押していただけの今までの私に思いを馳せ、実に不必要な苦労をしたと再確認した私は、景気よくケースの中のトランプ4デックをバラ撒いた。



「ああギャンブラーのキャラ記号が」


「というわけでリリィ、何かいい感じの武器ぱぱっと出してちょうだい。待たせちゃってるせいでスノーフォールくん露骨にイライラしてるの」


「エヴァ様動物に好かれませんもんね」


「別に今関係ないでしょそれ」


「ちなみにスノーフォールちゃんです」


「ヴァオォォンッッ!!」


「ほら、もう少し待って。待てが出来ない子は嫌われるわよ?」


「はぁ、仕方ありません」



 鼻をブン回しながら咆哮するガム……スノーフォールを尻目にリリィはため息を吐き、そして「簡単な奴で良いですか?」とお昼を作る忙しい時のお母様のようなことを言いながらゆっくりと手のひらを合わせてパッと開く。


 その手には、一本の短い刃物が握られていた。



「はい、ご注文の品です」


「なにこれ、ナイフ?」


「剥ぎ取り用ナイフです」


「もうこの回パロばっかじゃない」


『隠せ』

『やっぱりメタメイドじゃないか』

『主人の方だぞ』

『二人揃ったらもはやGOリターンズだろ』



 渡されたのは本当になんら変哲のない、何一つ装飾のない剥き身のナイフ。


 こんなもの、手にするの数年前の家庭科の実習以来だし、武器として握るのは初めてだけれど、それでも自然とこの手に馴染むのは流石に17年付き添ってくれてるだけあるなと少し感心してしまった。


 そして私は慣れないながらも力みすぎないよう、添えるように柄を握り、その手を下ろして巨象の方に目をやる。


 血走った瞳と目が合った。



「ふふっ、そう怒らないで。確かに待たせてしまったけれど、その御蔭で貴女の寿命が数分伸びたっていうのも事実なんだから」


「ヴゥゥゥ……!」


「ま、貴女も視聴者も、これ以上待たせてしまうのも酷ってものね。……うん、良いわ」


「ヴァアオオォォンッッッ!!」


「始めましょうか、思いっ切り!!」



 こうしてグリーンデザート放送局第二回配信、ナイフ縛りのハンティングアクションは幕を開けた。



「ま、視聴者というより読者ですけどね」


「良いのよそういうのは!!」

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