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【受付嬢】7枠目【新メンバー】

 はじめまして、ミーヤ・アンブライドルドと言います。


 今年で24です。


 今はギルドで新米受付嬢をやっていて、一応、国家公務員ってことになってます。


 さて、突然ですけど、人には誰しも、あんまり表に出来ない性癖というのがあると思います。


 それは当然、私も例外じゃありません。


 ……皆さん、「リョナ」って、ご存知ですか?


 まあ調べたら出てきちゃうんですけど、「グロ」とか「猟奇的」とか、そういった類のものです。


 R-18というよりは、R-18Gです。


 大量のゴア表現が含まれます。


 同じことを繰り返すみたいになりますけど、とても褒められた趣味なんかじゃありません。


 「傷」やら「血」やら、そんなものを現実にまで求めるのは社会倫理が許してくれないし、私も現実にそれを望みはしません。


 ……そう思ってたんです。たった今、この瞬間までは。



「──!?エヴァさ──」


「しーっ」



 「あまり大きな声を出すものじゃないわ」と彼女が私の唇へと押し当てる人差し指。


 刃渡り20cmは超えてそうな、それこそ彼女の細い身体なら容易に貫いてしまいそうなナイフがその胸に、あまりにも堂々と突き立てられてました。


 ドクンドクン、ドクンドクンと、刺されたことに気が付かないふりをしている心臓が脈打つたび、極上の赤ワインみたいな血が傷口から溢れて、白いシャツを真っ赤に染め上げていきます。


 私は口を抑え、生唾を呑みながら、ひたすらにその様子を目に焼き付けていました。


 「ああ、なんて綺麗なんだろう」と。


 いや、実際はこんなにシンプルな感情じゃありません。もっと汚くて、グロテスクで、性欲混じりな……もっと、気持ち悪い感情。


 そんな内に固く秘め、決して漏らすまいとしていた劣情を隠せなくなるほどに、その光景は美しかったんです。


 そしてその景色からしばらく目を離せずにいると、エヴァさんは「あら」と少しいたずらっぽく口を開きました。



「もしかして貴女、ド変態?」


「……あ、え、あ、いやその、これは〜……」


「だってそうじゃない。まだ成人にさえなってない美少女が心臓ブッ刺されてるのに、頬を赤らめて息を荒くするなんて」


 

 エヴァさんは「私の身体、お気に召したかしら」とクスクス笑いながら、心臓に突き立ったナイフを、まるでゲームカセットを取り替えるかのように慣れた手つきで抜きました。


 真っ赤な血のベッタリとついたその刃はもうボロボロに朽ちていて、彼女が人差し指で軽く弾いただけで崩れ落ち、ぎゅっと握られた柄も同じように、まるで灰みたいに。


 そして一瞬前までナイフだったそれをまとめて、パッパッと、焼肉用のコンロの中へと落とすと、そのお人形さんのような笑顔のまま「リョナラー?」と尋ねてくるエヴァさん。私は静かに、頬が赤くなるのを感じながらこの首を縦に振りました。



「それとエヴァさん、昔やってたエ◯ゲのヒロインに似てたから余計に……」


「十七分割どころじゃありませんけどね」


「まあ学院でも言われたことある……って、どうでも良いのよそんなことは」



 エヴァさんはグラスの中の、溶けかけの氷が浮かんだ水をこくっと小さく呷り、小さく息払いすると、再びその真っ赤な、血の塊みたいな目を私の方に向けてきます。


 そこには私への興味と、ちょっとした期待が詰まってるような気がしました。

 


「貴女に一つ提案なのだけど、もしもっと血塗れで、もっと壊されて、もっとぐちゃぐちゃになるのを間近で見れるなんて話があったら……貴女は興味を持てる?」


「え、それって……」


「そう、スカウト。もちろん、仮に貴女がこの誘いを断ったとしても、決して不利益は与えないし、この先それが理由の不利益が発生することもないから安心して。エヴァ・グリーンデザートの名に誓うわ」


「スカウト……正直に言うと〜、うん、めちゃくちゃ興味あります」



 内容も聞いていないのに、即答してしまった私。


 その答えを聞いて、エヴァさんは「そう言ってくれると思った」なんて言わんばかりにその口角を上げて微笑みました。



「なら単刀直入に言おうかしら。ミーヤ、貴女に私達のダンジョン配信を手伝ってほしいの」


「ダンジョン配信、ですか?」



 私が聞き返すと、彼女は「ええ」と首を縦に振りました。


 「ダンジョン配信」っていうのは、5年くらい前に機密保持なんかのためにダンジョン内への通信機器、電子機器類の持ち込みを制限する「特殊汚染域情報保護法」が改正されてから爆発的に伸びてきたコンテンツです。


 あれよあれよと言う間にその数は増えていって、今や配信者の数は10万近く。


 市場も数千億規模、近々一兆の大台に乗る……なんてのをこの前報告書で見ました。


 まあ、私はごくたまに見るくらいであんま詳しくないんですけど……。



「でも、どうして私が?配信とか、そういうのてんで素人ですよ?」


「あら、奇遇ね。私も一昨日始めたばっかよ。別にそこは問題じゃないし、私もそんなところを気にするつもりはないわ。そんなことより、貴女ダンジョンには詳しいわよね?」


「まあそりゃ〜……伊達に受付嬢受かってるわけじゃありませんし……」


「だからよ。私、顔はめちゃくちゃ良いしある程度の戦闘力だってあるわ。でも、ダンジョンも配信も全くわからないの。けれど貴女だったら……少なくとも、その穴を一つは埋めてくれるでしょう?」



 ああ、卑怯です。そんな言い方をされたら、「はい」と頷く以外の選択肢は残りません。


 私の答えを聞いたエヴァさんは、柔らかく、それでいて子供っぽく笑うと、「よろしく」と私の方へ手を差し出しました。


 私も差し出し返すと、彼女はそれを、両手でぎゅっと握りました。



「私が言うのもなんですが、こんな死にたがりの狂人からの誘いなんて受けて良いんですか?ギルドの受付嬢なんて、普通に考えたら食べていくのには一生困りようもないと思うのですが」


「あはは〜、まあ、確かにそうですけど……」



 「受付嬢なったら血まみれボロボロの冒険者たくさん見れるじゃん」なんて不純な動機はさておき、今の職場環境が中々悪くないのも事実です。


 先輩は優しいし、上司も忙しそうにしてるし、仕事は多いし、DX進まないし、上司も忙しそうにしてるだけでサボってるし、無駄な書類多いし、先輩上司と不倫してるし……。



「……いや今すぐ辞めてやろっかな〜……」


「ミーヤ?」


「って、そんなことは良いんです!そんなことよりほら、そろそろ配信の時間じゃないですか?」



 現在時刻は13時50分。スマホを開いたエヴァさんは「あ、ほんとじゃない」と、グラスを空にしながら、少し驚いたように呟いた。



「出発して、準備して……間に合いますか?これ」


「ミーヤ、あとどれくらい掛かる?」


「ダンジョンまでですか〜?あはっ、ここからなら、一分も掛かりませんよ〜」



 「どういうことですか?」、リリィさんはそう言いかけたところで何かに気が付いたようで、誰もいない店内を見回した後に質問の内容を変えました。



「店員、どこに行ったんですか?」


「……あ、そうじゃない。確かに、妙に静かだったけれど」


「店員さんにはもう帰ってもらいました〜。なので、さっきレバー運んできてくれた子が最後です。巻き込んじゃったら危ないので!」


「……ああ、そういうこと」


「ほら、機材とかってもう用意してますよね?」


「ええ。リリィ」



 エヴァさんが合図をすると、隣のリリィさんはテーブルの隣に置かれたキャリーケースを開きました。


 中にはカメラドローン、マイク、パソコンなどなど、どれも一ヶ月以内に出たばかりの、とびきりのハイエンドモデル。


 「いくら掛かりました?」と尋ねると、エヴァさんは「大したことないわよ」と指を3本立てました。


 既にそれらのセットアップも終わっているみたいで、後はボタン一つで配信開始。チャット欄には開幕を待つ視聴者が2000人近く待っています。


 だいぶ緊張するなぁ、なんて考えていたところで、エヴァさんは「それで」と口を開きました。



「一分掛からないなら、もう配信始めるけど?」


「はい、私はもう準備大丈夫ですよ!」


「いつでも構いません。エヴァ様の匙加減で、お好きなように」


「良い返事ね。それじゃ、スタート」



 テーブルの上のノートパソコン、そのエンターキーを高らかに鳴らす、エヴァさんの細い指の、真っ赤なネイル。


 10秒のカウントダウンの後に、私の人生初配信が幕を開けました。



『こんエヴァ〜』

『出血配信まってた』

『あっ化け物だ』

『こんエヴァ』

『配信乙です』

『この顔で人外なの草生える』

『討伐対象だろ』

『こんエヴァ〜』

「ええ、貴方達こんエヴァ。エヴァ・グリーンデザートの第二回ダンジョン配信、始まるわよ。でもその前に新キャラ追加のお知らせがあるの」



 そう言ってエヴァさんは私にカメラに映るよう促しました。


 わっと流れるチャット欄に少し戸惑いながらも、なんとか平静を保っている私を映すカメラドローン。


 私は小さく咳払いをし、カメラと目を合わせました。



「あ、え〜っと、この度エヴァさん達の担当受付嬢になりました、ミーヤ・アンブライドルドと言います!こうして配信にも出させてもらうことになったので、これからよろしくお願いします!」


『うおでっか』

『平均顔面偏差値が高過ぎる』

『貧並巨全部あるとか万人に優しいコンテンツ過ぎるな』


「ねえリリィ、私と反応違くない?」


「ノーコメントで」



 「私一世を風靡できるレベルの美少女なのだけど……」と少し不満気なコメントもばっちりマイクに拾われているエヴァさんは、少し背を伸ばしてから席を立ち、私の方を向いているカメラドローンを覗き込みました。



「それで今日のダンジョンだけど、まだ私も中身は知らないの。だからここからはもう貴方達と同じ初見配信ね。ミーヤ、案内お願い」

「はい、了解しました!」



 リリィさんもだけど、やっぱエヴァさん慣れてるなぁ、元々こういうのに向いてるタイプなんだろうなぁ、なんて考えながら私は荷物を持って席を立ちました。


 「こっちですよ」と案内すると、少し困惑した様子のエヴァさん、リリィさん、チャット欄。


 その反応が私を少し唆らせるものだったというのはさておき、その困惑は当然のものだと思います。


 だって、私が足を踏み入れたのは店の厨房なのですから。



「なにこれ、ショートカット?」


「いえ、正規ルートですよ〜。ま、ちょっとだけ入り組んでるんですけど……」


「というか土足でよろしいのですか?消毒もせず……」


「大丈夫ですよ?汚染も酷いですし、一回全部ブッ壊ちゃいますから」



 そんなこと言っているうちに、目的地である店の裏口へと到着。


 普段は食材の搬入口として使われているらしいけど、ここしばらくは装いが全く違います。なんせ……



「……、【ゲート】、ですか」


「あっはは、そういうことなの?ミーヤ」


「はい!大変お待たせしました!」



 私はエヴァさんに答えた後、カメラドローンに向けて、それに注目するように手振りをしました。


 そこにあったのはLevel:2nd、つまり中くらいの電子ロックと、一般的には軍事用に用いられるような、気配遮断の組み込まれた強化ノノアルコ鉄の物理的防御で封鎖された【ゲート】、つまりはダンジョンの入口です。


 エヴァさんはよく響く、脳に甘噛みするような、楽しげな笑い声を上げた後、真っ赤な目を私に向けました。



「ねえミーヤ、これは貴女からの「サプライズプレゼント」として受け取って良いのかしら?」


「そこはエヴァさんにお任せしますよ〜。でも……あはっ、先がわからない方が楽しいじゃないですか?ほら、賭け事みたいで!」


「ああもう、貴女最ッ高じゃない!」


「ああ、変態が増えましたか……」


「良いじゃない、正気じゃ人並みのことしか出来ないもの」



 一通り笑いあった後、配信中だって思い出して、「ああ、ごめんなさい、ちょっと楽しくなっちゃって」とカメラの方へ軽く謝罪し、本題へと戻る私。


 そしてセンサーに私が受付嬢である証明、【特殊汚染域管理免許】をかざすと、機械音声と共にゲートに明かりが点きました。


『領域コード:3E2-ABN』

『内部確定度:100%』

『危険度:8/10(生還保証無し)』

『管理者ID:091-1AF』

『登録名:Mija-Unbridled』

『活動者ID:08F-1E61』

『登録名:Eve-GreenDesert』

『活動者ID:092-0D56』

『登録名:Lili-GreenDesert』

『3名、確認しました。生還を祈ります』



 その音声はマイクに拾われ、配信にも文字として表示されました。


 これはダンジョン配信における義務。本人確認のようなものです。


 一応ギルドの方でも動画サイトに対する検閲は行われていて、配信中に死亡者や、深刻な状態に陥った場合は即座に配信の閲覧権がギルド限定へとロックされ、救援及び現地調査のための資料として保存される……ということになっていますから、そのためにも必要ってことなんでしょうか。


 そんなことを考えているうちに、ゲートに組み込まれた最後の物理的ロックが外れました。


 後は、金庫のようなハンドルを回して外部からそれを開くだけです。


 エヴァさんが「私めちゃくちゃやりたいわ」と言うので、まあ都合も良いしと私は彼女にそれを任せました。



「っていうか、ここのゲートは随分と頑丈なのね。オーエンテューダーとは大違いだわ」


「そりゃそうですよ〜。あっちのは一般人が侵入しないためのやつですけど、こっちは一般人を守るためのものですから〜」


「守る……大仰、ですね。軍事用の装備とほぼ変わらないのでは?このゲート」


「しかたないですよ〜。だってここの子……人間、大ッ嫌いなんです」


『エヴァ様ヤバい』

『一般人だったら逃げるべきタイミング』

『はなれて』


「……ん?何よ「逃げろ」って」


 

 そうしてドアを開けたエヴァさんが顔を上げた瞬間、伸びてきた象のような鼻によって、その胴体は真っ二つに引き裂かれました。


 ああ、堪んない……♡

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