【お嬢様】39枠目【満塁ホームラン】
「失礼、ミーちゃん。僭越ながら私ちょっとした好機を嗅ぎ付けましたので少々席を外すことと致します」
「あっ、ちょっ、ニーナ姉!?どこ行くの!?」
「当然、血の薫る方角へ!!」
女子野球部時代から愛用の真銀製長尺バット片手に持ち場を外れ何処かへと飛び出したニーナ姉。
一瞬追いかけようとも思ったけど、多分エヴァさん達の方へ行ったんだろうし、私までついていくと配信範囲が被っちゃってリスナーさん達が楽しめなくなります。
そして何より……。
「この子達、ちょ〜っとしつこくないですかぁ〜っ!?」
一切の容赦なしに詰め寄せてくる氷海龍の群れ。
一応知識として執念深い種族だというのはあったのですが、いざ実践となると思ったよりも思ったよりでついつい後手に回りがちになってしまいます。
こうなると私に出来ることなんて丸鋸ブン回して対症療法することくらい。
中々絵面が変わらないし、それでもギリギリの勝負だしで、グレイズからのカウンター、みたいな戦法が精一杯です。
これじゃあんま面白くない……なんて、言うわけないじゃないですかぁっ♡♡
「しつこい子最高♡最っ高ですっ♡♡」
『本性現したね』
『マジなんなんだよこいつ』
『ミーヤが不死身じゃないという事実』
丸鋸を振り抜く度にどっぷぁ♡♡と頭の中を埋め尽くすドーパミンの濁流。
例え氷の海を征く獣であろうが、傷口から溢れるその血は温いどころか少し熱いほど。
並のシリンダーならぶっ壊れるレベルまで丸鋸エンジンブチ吹かし、私は切り合いを超近接戦に持ち込んだ。
「ヴァルザァァァッッ!!!」
「良い傷してます♡本当に大好きです……っ♡♡」
振り下ろされた爪をジャストタイミングで弾き、激しく赤熱化した丸鋸で逆袈裟を叩き込む。
弾かれた反動でよろめいた氷海龍の巨体の、胸のあたりがぱっくりと大きく裂けて、それから地響きのような音と、絵の具のような血を撒き散らしてからそれは派手に倒れ込んだ。
「大丈夫ですよ、すぐにみんなおそろいにしてあげますから……♡♡」
『愛護団体に怒られろ』
『というかしれっとパリィから致命の一撃するな』
『権利関連もイカれてるのか』
あっは♡
どうやら、今日も私の時代は終わらないようです……っ♡♡
◇◇◇
「なんて考えてるんでしょうねミーヤのことだから!!」
『妄想が逞しすぎるだろ……』
『エロ同人なハートの量で草』
『←エヴァ様はGつくからな』
『合ってるのやめろ』
『こいつ何故か頭いいんだよな』
『キチガイなのに人の心分かるのおもろい』
まあそんなことはさておき、私は目の前の状況に意識を戻す。
「ぷれいぼー!!」と相変わらず安全圏で高みの見物キメてるリリィの声が響いた。
「……ねえニーナ、そんなに氷海龍って負けず嫌いなの?」
「ええ。この方等大層イカれ具合高め系海龍種にございますので、負けず嫌いは愚か場合によってはそんなレベルでさえないような相手の土俵でも戦おうとするという比較的高い知能に反した蛮行に及ぶ場合も少なくありません」
「へえ。でも私初めて見たわ。野球の相手してくれるモンスターとか」
「ヴルァッ!!」
「ヴォウヴォウ!!」
「やる気ね、思ったより」
「……あ、今ググったんですがこいつら勝敗付けば何でも良いみたいですよ」
「雑食?」
『ツッコミ不在の恐怖』
『俺が、俺達がツッコミだ!!』
『お笑いに介入しそうなやつ出てきたんだけど』
ということでバッターボックスにはニーナが立っているが、それを迎え撃つのは氷海龍球界最強選手達。
先発、前人未到の年間全勝を達成した龍の子こと氷海龍T。
一塁手、歴代最高打率を記録した最強助っ人氷海龍B。
二塁手、トリプルスリーの申し子氷海龍Y。
遊撃手、ショート史の転換点氷海龍M。
三塁手、説明不要の「ミスター」氷海龍N。
右翼手、攻守に渡って大活躍して海外にもその名を刻んだ氷海龍S。
中堅手、最高の俊足とも称えられた「世界の盗塁王」氷海龍H。
左翼手、HPB(氷海龍野球機構)の枠を優に超える1500近くのフルイニング出場を達成した「鉄龍」氷海龍K。
こうして見ると向こうも本当に圧巻のメンツを揃えたものね。
『マジで何言ってんのお前?』
ということで私は余った捕手枠として装備もなしにニーナの後ろへ。
「素手でボール……ちょっと痛いかしら」
「ちなみに捕手枠がいないのは最強捕手がどっちもイニシャル被りしてたかららしいです」
『このメイドいらんことしか言わんな』
『というかこいつ何ポジションだよ』
「そりゃエヴァ様の逃げるような変化球をdisるための実況・解説ですけど」
『ほんまに』
『エヴァ様投げれるんか』
『弟は高校で158投げてるぞ』
『前回も見たなそれ』
『というかエヴァ様ストガイだと思ってたわ』
『わかる』
『エヴァ様って絶対イニングイーターだよな』
『じゃあなんでキャッチャーマスク被ってるんだよ』
『←被ってないだろ』
『そういうことではねえよ』
そして一回表第1球。
氷海龍Tは口内にエネルギーを溜め込み、渾身の力で吐き出した。
「ヴォルザァッッ!!!」
風切り音と共にこちらに飛んできた人の頭くらいのサイズの氷塊。
あ、これ痛いどころじゃすまないかしら、なんて考えていた私と、躊躇いなく真銀バットを振り抜いたニーナ。
そして次の瞬間、打ち返された氷塊、弾け飛んだ氷片がピッチャー、ファースト、セカンド、ライトの頭を吹き飛ばしていた。
「4キル。見事先頭打者満塁ホームランでございます」
専門:強化魔法。
内容:バットで打った物体の威力を1/100から×100まで操作する。
「ギルドのホームラン王」の名は、伊達ではなかった。




