【お嬢様】37枠目【食物連鎖】
「貴方達、緊急招集の時間よ!!」
『待ってた』
『エヴァ様キンショーデビューキターーー!!!』
『30000No:エヴァ様愛してるよエヴァ様』
『6回目で先魁は話が早すぎるだろ』
『初見です!おっぱいちっちゃいですね!』
『ミーちゃんから来ました』
『5000No:入場料』
『ルネさんからきますた』
私はハッチを出て銀世界に飛び込むと同時に、画面の奥の視聴者達に向けて配信開始を告げる。
足先から飛び降りた私の身体を撫で、頬を撫で、そして髪を撫でる冷たい風。
そしていつも通りとても目じゃ追いきれないような量のコメント欄に一層テンションを上げながら、近くの氷塊に飛び乗ろうとしたその瞬間だった。
「エヴァ様、頭上注意です」
「……?何よ頭じょ」
少し上に目線を向けた私の頭を凍った鋼のような何かが捉え、私は反応する間もなく氷山に叩きつけられる。
それが急降下してきた氷海龍だということに気がついたのは頭がぐちゃっと押し潰されてからだった。
「ざまあないですね、エヴァ様」
「主人の頭が弾け飛んだ第一声がそれなの?今めっちゃ内臓美味しく頂かれてるところよ、私」
「にしては喋りますね」
「気合よ気合。……あ、貴方達、腹クチュASMRとか興味ある?」
『50000No:言い値で買います』
『サービス精神が旺盛すぎる』
『10000No:エヴァ様にだったら腹クチュされたいかも』
『なんで喰われてるのにこんなに冷静なんだよ』
『というかどうやって話してるんだマジで』
「……あ、右腕も千切れちゃった」
『何を見せられてるんだ俺達は』
『未成年がこれを見れてアルコールは飲めないのおかしいだろ』
『最近人間どころか生物かも怪しいよなエヴァ様』
『現役医学生だけど構造はちゃんと人間なのが逆に気持ち悪い』
相変わらず好き放題のコメント欄を眺めつつ、私はもう一度目の前の景色に意識を戻した。
にしても氷海龍、思ったよりも大きい。
せいぜい乗用車程度と思ってたけれど、タンクローリーくらいはあるかしら。
どっちかというと東洋の龍、もっとわかりやすく言うとゲームの海竜種って感じのフォルムの氷海龍は口の大きさの割にはお行儀よく、私の身体を一部位ずつ味わっていって……
……待って。
「ねえリリィ、私これに叩き落されたのよね?」
「そうですね」
「これ羽根生えてないわよね?」
「そうですね」
「でもこれ上から降ってきたわよね?」
「そうですね」
「飛んでない?」
「まあダンジョンですからね」
「それ言われたら話終わっちゃうじゃない。この小説バトルとかそんなんより適当なやり取りが求められてるんだから」
「いえエヴァ様が喰われる方が読者楽しいですよ」
そんなことを言っていた次の瞬間、戻した私の頭にぽたっ、ぽたっと真っ赤な血が滴ってくる。
「あら、案外耐えないのね」なんて呟きながら私はぐぐっと身体を起こした。
「……最初からそれをやれば良かったのでは?」
「仮にも超大型コラボ、新規さんもたくさん来るでしょう?私がどんな芸風かって魅せておかないとじゃない」
私がそう語ると、リリィは「それもまた否めませんね」とハッチを降り、こちらへと向かってくる。
そして私が指を鳴らした途端に私を貪っていた氷海龍は真っ赤な血となって溶け出し、跡形もなく消えてしまった。
ま、最後の晩餐がこんな美少女なら悔いもないわよね。
「解説しておくと、エヴァ様は肉体そのものが超高濃度の魔力構築体でもあるため、多少体内に彼女の血肉を取り込んでしまった時点で体内に存在する魔力及び新たに生成される魔力がエヴァ様のものへと上書きされて、その負荷に耐えきれず肉体が自壊します。……【因子侵食】、でしたっけ」
「リリィうるさい」
「まあエヴァ様を食べると損をするという話です。ぬか漬けしたら多分いけますけど」
『河豚の卵巣みたいな扱い草』
『でもエヴァ様はアレそのまま行くぞ』
『エヴァ様って毒効かないのか毒効いてるけど死んでないだけなのか分からないから研究ダルそう』
『実験体にする前提のコメントやめろ』
「あ、死にたい時は耐性切ってるけど基本的には分子構造が破壊されるから毒効かないわよ」
『実験済みかよ』
『分子構造が破壊される←は?』
『エヴァ様が理系なのぶっちゃけおもろい』
『死にたい時ってなんだよ』
『オタクだっていつも死にたがってるじゃん』
『↑有言実行が過ぎるだろ』
『エヴァ様オタクに優しくないギャルみたいな見た目してるからすき』
まあそんなこんなで美味しく頂かれながらも復活を果たしたエヴァ・グリーンデザート。
リリィに聞くと、どうやら今回は私とリリィのレフト、ミーヤとニーナのライト、そしてお姉様方のセンターで前線を押し上げ、このネビオロ島の最重要ポイントである港の安全を確保、そこに入港した後に第二ウェーブとして氷海龍の群れを掃討するという計画らしい。
なんでそんな重要な話をされてないのかと講義すると、「エヴァ様シュミレーターで自殺中だったので」という無慈悲な返答。
流石にこれは私に非があるかしら。
そんなことを考えていると、唐突に私の背中がぱっくりと割れた。
「エヴァ様、背中背中」
「あー……」
そう言えば、昔に本で読んだことがある。
氷海龍は非常に縄張り意識が強く、侵入者に強い執着を見せる一方で高い知能によって強固な群れを築き、仲間が殺された際はいわゆる「お礼参り」をするような終生があるのだと。
つまり……
「……リリィ、今何頭いる?」
「反応は10頭くらいでしょうか」
「それ大連続狩猟の2倍はいるじゃない」
「諦めてください、殺したのはエヴァ様なので」
「じゃ、死にそうになったら呼んでください」と無慈悲にも私を切り捨てたリリィは近くの氷塊の影でのんきにコメント返信を始めてしまう。
こっちは死にかけよ四六時中。
「……ああもう!まだとっとくつもりだったのに……!!」
氷海龍に囲まれた中、私はガーターベルトのポケットから幾つかのサイコロを取り出した。




