【お嬢様】33枠目【忠犬マルジュ】
「忠狼じゃないですか?」
「いいのよそんなことは」
「わんっ!」
玄関に自分のクッションを敷き、私達のことを待っていたらしいマルジュ。
抱きかかえてあげると、彼女は話したいことでもたくさんあるのか、「わんわんっ!!」と勢い良く鳴き始める。
「わんわっ、わうんっ!!わんわんっ!!」
「あら、楽しそうなところ悪いのだけれど、私、まだ狼語は上手く訳せないの。でも安心して。貴女がすごく喜んでるのはちゃんと伝わってるから」
「わうっ!わおーん!!」
「で、どうやって入ってきたんですかね?マルジュちゃん」
「エヴァ様のスーツケースに入り込んだみたいです。留守番はやっぱり寂しかったんでしょうか」
「しかも律儀にこんなものまで持ち込んでますよ」とリリィが私の荷物から取り出したのはおもちゃ、おやつ、水用の皿に散歩用のリード。
お留守番を頼んでから出発するまでのあの一瞬でここまで持ち込んだとなると称賛せざるを得ないわね。
「貴女、結構やるじゃない」
「わおーんっ!」
頭をわしゃわしゃと撫でてあげると、マルジュは尻尾をブンブンと振ってその場でくるっと回る。
そして彼女は自分でクッションを引っ張ってリビングの片隅へと移動すると、「ご主人達の仮眠を邪魔するつもりはないんで」なんていわんばかりに、クッションの真ん中をほりほりした後にその上で丸くなった。
「エヴァ様エヴァ様、寝間着用っぽいTシャツありますよ」
「本当ね。「ご自由にお持ち下さい」って書いてあるわ」
「あ〜、これギルドの公式グッズですよ〜。しかも非売品の関係者仕様だ〜」
「私3着持ってます〜」なんて言いながら袖を通すミーヤ。
どうして、なんて一瞬聞きそうになったが、そう言えば元受付嬢だったわ、この変態。
「んん……じゃ、お先に失礼するわ」
「夢の世界にですか?」
「御名答……」
私はふわふわの大きなブランケットを頭まで被った。
◇◇◇
「エ〜ヴァちゃん」
「んん……」
「エ〜ヴァ様♡」
「んむぅ……ぁによぉ……わたしまだねたぃ……」
突然優しくブランケットを剥がされて、私は眠い目を擦りながら顔を起こす。
リリィにしては随分と甘い起こし方ね、なんて考えていると、開いた目に入ってきたのはお姉様方の姿だった。
「あ、起きた笑」
「ヤバいね、破壊力、よわエヴァ様の。頭クラっときた」
「……えなんでここに?」
「あ、えっと……エヴァ様達と同じロールになったので改めて……」
「……まって、いまのじかん……」
時計を見ると8時前。
私にしては随分と早起きね。
でもこの脳のふわふわ感、多分正攻法じゃしばらく続いちゃうタイプのよわよわかしら。
「……りりぃ」
「はい、なんでしょうか」
「あたま。ばーんってやって」
「かしこまりました」
そして次の瞬間、銀の弾丸が私の頭を吹き飛ばした。
ストレス爽快、なんともご満悦といった感じで.44口径の余韻に浸るリリィに、まるでスター選手のスーパープレイでも生で見たかのように歓声をあげるお姉様方、ついでに丁度トイレから戻ってきて一番大事な瞬間を見逃して絶望しているミーヤ。
私はいい感じにリセットされた頭をくるりと回しながらベッドを降りた。
「というわけで良い朝ね。ダンジョン攻略日和だわ」
「わ、めっちゃシャキッとした……」
「切り替えヤバ笑」
「じゃエヴァ様も起きましたし朝ご飯行きましょうか。ビュッフェが用意されてるそうですので」
「あら、随分と豪華なのね」
「ふふっ、エヴァちゃん知ってる?レベル10が許可されてる最上位層がギルドにどれくらい利益出すか、とか笑」
からかうような笑みを浮かべながら問いかけてくるミッシェル。
私が首を横に振ると、彼女は私の耳に顔を近づけた。
ついでにすごい良い匂いがした。
「年80億。平均でね笑」
「あら」
「しかもほとんどが配信やらスポンサードやらもやってるから、実際に生まれてる金額はそれよりも遥かに多くなるの。ウチらの命の価値に比べたら経費なんてゴミクズみたいなもんだよ笑」
「まあエヴァ様は残機無限なんで価値はほぼ0ですけどね」
「一機あたりの価値は出さなくていいのよ。極限みたいになってるじゃない」
「あ、数Ⅲだ。頭痛すぎ」
「わんわんっ!」
忘れないでね、なんて言わんばかりに吠えたマルジュも連れて、私達は食堂の方へと向かった。




