【お嬢様】28枠目【大型コラボ】
「……それでは、皆さんの健闘を祈ります」
私達を運んでくれたギルドのハイヤーさんはそう言い残し、車はすっかり暗くなった夜の道へと消えていく。
そしてそれと入れ替わるように、姿を表したのは、ワイシャツの上からタクティカルベストを着用した、黒縁メガネの男性だった。
「『08F-1E61』、『092-0D56』、そして『091-1AF』……【グリーンデザート】だな、確認した。この度は協力感謝する。国防省ギルド管理委員会のゼン・トサミドリだ」
「ええ、仰る通り、エヴァ・グリーンデザートよ。アイスブレイクしている暇も無さそうだし、要件から伝えてもらえるかしら?」
「なるほど、話の早い人間だな。良いだろう、まずはこの艦に乗れ。15分後の10時丁度、中央会議室で作戦概要を伝える」
「了解。それじゃ行くわよ」
「かしこまりました」
そして真っ暗闇の軍港で唯一つ明かりの灯った軍艦へと、私達は乗り込んだ。
「それとミーヤ」
「……?何ですか?《《先輩》》」
「大当たりを引いたな。大切にしろ」
「……はい。もちろんですよ」
◇◇◇
「久々だな、2年ぶりか?」
「自分はこの規模だと3年は空きますねー」
「ツアー直後でギリ助かったぁ〜!!」
「ええなぁ〜、ウチ、ソロライブには絶対間に合わせんと……」
「うわそれヤバwww」
「でしょ?アイツマジ裏最悪だから」
中央会議室には既にかなりの人数、それこそ100はいないけれど、80くらいなら全然いそうなくらいが集まっている。
ここの誰もが「難易度10相当のダンジョンから生還可能」なんて考えると、とんでもない上澄み集団で笑えてくるくらいね。
そんなことを考えながら空き席に荷物を置いた瞬間、目があった黒髪の女性が「あれ、エヴァ様?」と問いかけてきた。
「ええ、そうだけど。もしかして私のこと知ってるの?」
「うわモノホンだ!ってか知ってるに決まってんじゃん!ここにいるよーなのは全員エヴァ様知ってるからマジで!」
そう応えた彼女は「みんなー!!噂のエヴァ様来たよー!!」と会議室中に聞こえるように大きな声で叫ぶ。
これ知らなかったらめちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃない。
まあ最悪デュラハンすれば良いかしら、なんて考えていた私だったけれど、幸いにもその心配は杞憂に終わった。
「えマジで!?」
「お、やっぱりそれか!」
「よっ!」
「待ってました!」
会議室のあちらこちらからそんな歓声が上がり、私の席は転校初日の転校生ばりに囲まれる。
まあ確かに特異体質の美少女とか転校生がちだものね。
「……いやそれにしたってこんな歓迎される?」
「するって!するよ絶対!だってこの辺の「10許可」久々の新メンなんだもん!」
「前回の新規って誰だっけ?」
「ええっと、赤ウサさんがインヴァソール討伐だから……4年前か」
「やっばwww」
「待って10代どころか20前半すら消えた?」
「お前いくつだっけ」
「26」
「消えたな」
「ウッソだろお前www」
目の前で繰り広げられる全く訳の分からない話。
こういう時に便利な魔法の言葉こと「ありがとう」を使って切り抜けようと思ったその時、「おいおい、あまり期待のルーキー困らせるもんじゃないだろう」と声が響いた。
ふと声の方向を見ると、そこには中折れ帽に黒いスーツという如何にも紳士然とした格好の、頭部が丸々青林檎に置き換わったような、いわゆる異形頭の男性が立っていた。
「それで、君があのエヴァ様か。お目にかかれて光栄だ。もちろん、リリィさんとミーヤさんも」
「あ、ど〜も〜」
「へえ、良い頭してるじゃない。改めて、私がエヴァ・グリーンデザートよ。よろしく」
「ああ、よろしく。僕はルネ・トムフール、一応今回のコラボの主催を務めさせてもらっている」
「まあ、脱サラしただけの中年だ、遠慮しないでくれ」と彼の林檎頭からは笑い声と共に聞こえてくる。
それと同時にリリィは私の肩を叩き、「登録者、520万です」と耳打ちした。
大化け物じゃない。
「いや、そんな大層なものじゃない。時勢が上手くハマったというだけさ」
地の文読める族じゃない……ってのはどうでも良くて。
「じゃあ早速大先輩にお聞きしたいのだけれど、「コラボ」って何のコラボ?」
「ここにいる全てのダンジョン配信者での緊急招集コラボだ。せっかくこれだけの人数が集まっているんだ、エンターテインメントとしても、緊急招集の情報を拡散する意味でも有益な活動だろう?」
「ええ、n理あるわね」
「任意の自然数理ですね」
「良かったら【グリーンデザート放送局】もどうだろう?僕からしたら注目度の高い君達を取り入れられることはコラボが一層活気づくし、君達からしたら合計登録者5000万人以上のコラボ先から自身のチャンネルへと視聴者を引っ張ってこれる。そして何より、君の死亡は緊急招集の危険性を周知させるための極めて有効な手段になる」
「悪い話じゃないだろう?」とこちらへ問いかけてくるルネ。
断る理由も何も無いし、何よりこうやって実益の話と道理の話を同時に出来る人間とのつながりを悪くする必要はない。
「ええ、喜んで」
そう答え、「ああ、よろしく」とルネと握手を交わしたその瞬間。
会議室のスクリーン前に、私と同じくらいの若い女性が姿を表した。
そして、彼女は私達全員に聞こえるような声で告げた。
「皆様、「戦争」の時間でございます」




