【受付嬢】26枠目【変異とペット】
「いや〜、寝落ちってあんなにバズるんですね〜」
「あんなの想定外よ。一度きりのドーピングみたいなものだわ」
「次は値落ちってことですか」
「ちゃんとやかましいわね」
朝ご飯のフライドチキンを食べ終えた私達は、新居の家具やマルジュちゃんのペット用品を用意するために街の方を訪れていました。
結局のところあの配信一回で投げ銭額は合計9200万ほど。
前の私の給料10年分と考えると、本当に一攫千金って感じです。
「……にしても、今日暑すぎない?私が人間だったら5回は死んでるわよ」
「死にませんよ。人間舐めないで下さい」
「マジ?人間超すごいわね」
「わ〜人外」
どうやら暑さはだいぶ苦手らしいエヴァさんは、リリィさんの日傘の下、今にも死にそうな顔で小型扇風機を浴びていました。
反面マルジュちゃんはかなり暑さには強いのか、もふもふながらも一切苦しそうな様子を見せずに日向をとことこと歩いて私達を先導しています。
そしてどこかで涼みたそうなエヴァさんに気がついたのか、マルジュちゃんは「わんわんっ!」と喫茶店の前で足を止めました。
「……あら、「かき氷、始めました」……良いじゃない!リリィ、ミーヤ、ちょっとお茶していかない?」
「あ、私賛成です〜!」
「私としても反対する理由がありません。強いて言えばエヴァ様の奢りだとなおさら反対する理由がありません」
「はいはい良いわよ。思ったよりも稼げたんだし、ちゃんと世間様に還元するわ」
そう言って、彼女は喫茶店のドアを開けました。
中は昼前ということもあり、そう混んではいません。
エヴァさんがアルバイトらしき変異の女の子に「ここってペット大丈夫?」と尋ねると、「あ、全然大丈夫ですよ」と彼女は手をひらひらさせながら答えました。
「あー、ちょっと待ってくださいね、個室用意するんで」
「個室?」
「はい。多分、そっちの方が都合良いんで」
そう答えた彼女は「こっちなんですけど」と厨房の横の扉を開けます。
そこには綺麗なソファやテーブルが置かれ、応接室のようになっていました。
尻尾や耳を見る感じだとイヌ科、狼とかでしょうか、変異の女の子は「あ、今メニュー持ってくるんで」とお冷とマルジュちゃんの飲み水のお皿だけ置いて、部屋を出ていきました。
「っと、お待たせしました。こっちが通常メニューで、こっちが期間限定です。夏場なんで、かき氷とか」
「ふふっ、感謝するわ。それと、1つ聞きたいのだけれど。……貴女、私のこと知ってる?」
突然そう問いかけたエヴァさん。
私は「どういうことですか?」なんて思わず聞きそうになりましたし、リリィさんも「何言ってんだこいつ」という目でエヴァさんを見ています。
けれど彼女は、「あー、分かっちゃいます?」とはにかみながらそれを肯定しました。
「あの、決めつけ前提で行くんですけど、めっちゃ見てます、グリーンデザート放送局」
「あら」
「妹と一緒に見てるんですけど、第一回から」
「あらあら」
「てか昨日ハイチャ投げました。人生初ハイチャ」
「あらあらあら」
意外な遭遇にかなり嬉しそうな顔になるエヴァさん。
そして彼女は「待って、名前当てるわ」と頬を赤らめながら考え始めました。
「……カムニャック半島?」
「あ、正解です」
「そうよね。あのアイコンって春ネイルだったけれど、貴女のネイルって同系統の夏バージョンだもの。ふふっ、少し早いファンミになっちゃったかしら」
「そですね、マジで嬉しいです。あの、サインと握手だけいいですか?お二人の分も……」
「わんっ!」
「あ、この子の足形も追加で……あの、殲滅配信の子ですよね?名前って……」
「マルジュです。エヴァ様が雰囲気で。医者の方には「多分キバオオカミの幼体」と」
「キバオオカミ……だったらお仲間ですね。自分、ヨルオオカミの変異なんで……」
あ、やっぱり狼なんですね。
そして彼女は「この子、触って大丈夫ですか?」とエヴァさんに尋ねて許可をもらうと、マルジュちゃんの身体を持ち上げ、目線を合わせました。
「んー?君、会ったばっかなのに大切にされてるの分かるね。良かった良かった」
「くぅん?わんわんっ!わぉーん!」
「へえ、そっかそっか。いいじゃん」
そしてしばらく話していた二人……いえ、一人と一匹でしたが、それが一区切りつくなり、彼女は言いました。
「多分この子、人間なりますね」
「……は?」
「いや、変異やってると分かるんですけど、おしゃべりな子って変化魔法覚えやすいんですよ。変異の逆で、動物側も人間の影響を受ける、みたいな。しかもああいう魔力系の群れに混じってたってことは……うん、この子が何歳か分からないですけど、2歳にもなったらころころ人間に変化したりすると思います」
「え、かわい〜」
「ケモナーの皆様に怒られそうですね」
「それはマルジュちゃんの才能次第ですね。上手いとケモミミとかまで消えてほぼ人間になるような子もいるんで。というか自分の母親がそれなんで」
「あら」
「わ〜」
「マジですか」
「知った時はだいぶビビりましたけど……今となってはそんな。ほとんど人間ですし……って、ヤバ。注文取ってませんよね?自分」
少し慌て気味になりながら「すいませんすぐ取ります」と、彼女はメモ帳を取り出しました。




