【メイド】23枠目【収益化記念】
はぁ、なんという狂気なのでしょうか。
時代、世界線、作品ジャンルなど、何か1つ違えば今頃は稀代の悪役令嬢として名を馳せていたことでしょう。
無数の黒いリボンの巻かれた写真立てと、その中に入れるための多種多様なエヴァ様の写真を運びながら、私は考えていました。
新居の一番大きな一室は撮影や作業用へと割り当てられ、今は収益化記念配信へと向けて機材などを運び込んでいる段階です。
記念配信はあと30分後の21時とエヴァ様にしては中々遅いスケジュール。
まあやることがやることなのでそちらの方が雰囲気は出るでしょうか。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……エヴァさん、46個で大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないわ。……あ、リリィ、写真立ては上から10、8、10、8、10で並べてって」
「かしこまりました。それと、待機人数がもう10万人を越えましたよ」
「良い感じじゃない、多分」
「良い感じだと思います、多分」
「良い感じじゃないですか、多分」
「そういえばここエアプしかいなかったわ。Metube自信ネキとか落ちてないかしら」
「自信あったら自分でやってるんじゃないですかね」
「そりゃそうよね」
そしてそんな軽口を叩きつつも、準備は次第に整っていきます。
全員エヴァ様かつ全員欠席の集合写真みたいなひな壇を背にし、座布団代わりに床に並べられたそこそこ値の張るふかふかなクッション3つ。
謝罪会見みたいですね。
心当たりはそこそこ、いえ、結構、いえ、かなりありますけれど。
「昇格演出?」
「いえ赤保留ではなく」
ちなみに2つセットを2つ購入したため、1つ余ったクッションはマルジュに与えられ、現在彼女はエヴァ様の部屋でそれに乗ってすやすやと眠っています。
狼は夜行性だったと記憶していますが、これは疲れていたのか、彼女が例外なのか……いえ、私が間違っているはずはないのでそのどちらかでしょう。
そんな無造作な思考に耽りつつ適当に最終確認なんかを済ませていくと、気がつけば配信開始時刻となっていました。
「リリィ、ミーヤ、配信入れるわよ」
「問題ありません」
「準備OKで〜す!」
返事が返ってくると、エヴァ様はたんっと軽やかにエンターキーを叩きました。
画面に表示される1分のタイマーに、ようやくだと盛り上がる30万人以上の視聴者達。
一週間前は全くの無名だったと考えると、本当に才能があり、そして幸運だったとしか言いようがありません。
学院を卒業した2年前にデビューし、それから真剣に取り組んでいたのなら、今頃は天下を取っていた可能性も否めないほどに、今のエヴァ様は異常な勢いを纏っています。
もしかしたら、私も「エヴァ・グリーンデザート」というエンタメにまんまとノセられている最中なのでしょうか。
ふと考えつつ、私はその時を待っていました。
「……あ、貴方達、こんエヴァ」
「ご無沙汰しております」
「こんエヴァです〜!」
『こんエヴァ』
『こんエヴァ』
『こんにちはもこんばんはも行ける魔法の呪文、こんエヴァ』
『お、収益化来たか?』
『こんエヴァ、収益化おめ』
『うわエヴァ様が綺麗な服着てる!』
『何故3人ともスーツ?』
『綺麗な服(血が付いてないの意)』
『絵面が謝罪会見過ぎるだろ』
『背景の黒い布何?』
『黒い服着てきたぞ』
『服装指定するだけでトレンド1位になる女』
「あら、トレンド1位の「ドレスコード」って私のこと?」
「そうですね。告知ツイートの引用で「今日のエヴァ様ドレスコードあって草」っていうのがバズって拡散されたみたいです。女性視聴者がコーデ上げてたりしますよ」
「へぇ、いい心がけね。まあ今日はお祝いだし、取り敢えず本題に入るけれど」
そう言ってエヴァ様はちょっと画角から外れ、手に取ったのは先程せこせこと作って部屋の隅に立てかけておいたらしいプラカード。
彼女はそれを持って、「じゃじゃーん」と再びカメラに映り込みました。
『?』
『なんで今それを出した?』
『それがお祝い??』
『ドレスコードまで指定しておいてやることが煽りかよ』
『「クソバカ」って書いてあるプラカードクソバカ過ぎるだろ』
「エヴァ様エヴァ様、多分裏表逆です」
「……あほんとじゃない」
ようやく気がついたのか、プラカードを持ち手を軸にして180度回すエヴァ様。
そんなことで空気がリセット出来ると思ったのか、んんっと軽く咳払いをした彼女は、改めてプラカードと共にカメラに盛大なドヤ顔を晒しました。
「ということで、グリーンデザート放送局、無事に収益化達成よ!!」
『8888』
『おお』
『おめ』
『これはおおだろ』
『おめでとうございます!!』
『おお』
『おめエヴァ』
『おめエヴァです!!』
『エヴァ様は教育的価値が高い←草生える』
『運営「グリーンデザート放送局は教育的コンテンツ」←!!!???www』
『被っちゃった結婚しろよお前ら』
『何故ドレスコード?』
『めでたいけどドレスコード要求するほどじゃないだろ』
「あら、話は最後までちゃんと聞くものよ?何事も中途半端が一番損するんだから」
『こっちにも衝撃が来たぁ』
「というわけでよろしく」と軽やかに腹立たしく指を鳴らしたエヴァ様。
私とミーヤは息を合わせ、その合図に合わせて先程のエヴァ様写真立てに被せた黒い布を取っ払いました。
『???』
『えなにこれは(ドン引き)』
『気持ち良すぎるやつのラスサビ?』
『50枚弱あるぞおい』
『エヴァ様しかいない街?』
『全員エヴァ様∧全員欠席』
同じ事考えてますこの人。
そしてコメント欄が困惑の嵐に包まれる中、エヴァ様は「まあ落ち着きなさいな」と声を掛けました。
「ほら、一週間ちょっとしかやってないけど、それでも収益化って記念すべきことじゃない」
『そうだね』
「ほら、記念回って振り返りとかやるじゃない」
『そうだね』
「ほら、私って今までの配信でいっぱい死んできたじゃない」
『流れ変わったな』
「ということで収益化記念、犠牲になった計46人の私を弔いつつ死因を振り返っていこうのコーナー!!」
『????』
『!?』
『!!!???www』
『は?????』
『死をエンタメにしすぎだろ』
『エンターテイメント葬式ってこと?』
『私を弔う←は?』
『まだ46人しか死んでないんだ』
『黒い服って喪服ってことかよ』
『意味わからん』
『スーツ着てきて良かったわ』
『今ネクタイ黒いやつにしてる』
『意識高いやついるな』
『えこれって悼んだ方が良いの?』
『良いわけないだろ』
「あ、そこ!ちょっとは悼みなさい!45秒くらい黙祷時間も設けるんだから!」
『1人あたり1秒弱かよ』
『それだけで良いなら祈るか……』
『課金の初心者パックみたいだな』
『あなた達のために、祈るね』
『あなた達(特定個人)』
「はい、じゃあ黙祷スタート!」
とても黙祷のテンションではない声で黙祷開始を告げるエヴァ様。
とはいえ30万超の視聴者達も中々偉く、タイムラグで今送られてきたらしいコメントを除けば、書き込みはほとんどストップしたようでした。
しかし20秒が経過した辺りで何人かの視聴者が「これ現実で黙ってれば良いんじゃね?」という自分の葬式46人分という凶行に及んだエヴァ様に対抗するかのように気がついてしまい、その詭弁によって再び加速するコメント欄。
エヴァ様は舌打ちした後に「そこ!ちゃんと黙祷しなさい!」と口を開きました。
口を開きました。
「良いでしょ少しくらい私の冥福を祈ったって!」
『冥土行く予定あるんですか?』
「いえ一生無いけれど」
『お前マジでずっと何?』
『無を祈れと?』
『RTAか?』
『そりゃ一生の間は行かないだろあの世は』
『冷静に考えればそうじゃん』
「これだから死に急かされてる生命体は駄目ね」
『正体表したね』
『もう隠すつもり無いだろ』
『はいっ上位存在確定 ぶっ啓蒙します』
『死に急かされてないやつが葬式をやるな』
『マジで一度怒られろよお前』
はい、45秒が経過しました。
おかしいですね、20秒と少し辺りからやたらと騒がしかった気がします。
「エヴァ様、心当たりなどは?」
「ねえ地の文読む前提止めてくれない?疲れるのだけれどあれ」
『疲れるんだ……』
『そういう概念上に存在するのかよあれ』
「というわけで始めていくわよ」
何が「というわけ」なのかは分かりませんが、エヴァ様はそんなことを言ってひな壇のように並べられた写真立てを素早く回収し、机の上に並べ直しました。
あ、今更ですが、ひな壇のように並べていたということは芸人の自覚が芽生えてきたということなのでしょうか。
ご安心下さい、美少女枠は私が担いますので。
「んじゃ1番からね」
『自分を何のためらいもなく番号で呼ぶな』
『自己同一性に無頓着過ぎる』
「1番は……あ、串刺しトラップね。初見殺しだったけどそれ以上のものじゃなかったかしら。まあ内臓はぐちゃぐちゃになったし、錆びたトゲを使ってたのは中々のセンスだったわ」
『あこういう企画?』
『そうそうこういうのだよ』
『このチャンネルでしか聞けない話きたな』
「それで2番は……あ、ナレ死かしら。あの時は溶鉱炉どっぷんしてたわ」
『ナレ死言うな』
『溶鉱炉に落ちてどう復帰するんだよ』
『普通に泳いでたけど』
『は?』
『っていうか説明終わった写真立て倒していくのデスゲームすぎだろ』
そんなこんなで、エヴァ様の収益化記念配信が、ネットでは「個人合同葬」なんて呼ばれていましたが、とにかく幕を開けたのです。




