【メイド】21枠目【引き渡し日】
前回の配信から2日後の朝8時半。
私はエヴァ様を叩き起こしていました。
「エヴァ様、起きてください、エヴァ様。」
「んむぅ……あといちじかん……はん……」
「相場は5分ですエヴァ様」
「じゃあ……いちじかんはんと……ごふん……」
「そういうことではなく」
自分が一番楽しみにしていたくせによくもまあこれほどすやすやと眠れるものです。
私は「んじゃ行きますねー」と最低限の警告だけした後、エヴァ様をベッドから引っこ抜きました。
「んみゃぁ……こんなにきょぜつのいしみせてるのにぃ……」
「布団被ってまで抵抗しないで下さい。もうブランケットでも良い時期ですよ」
「でもぉ……」
「ちゃんと起きれないなら朝活しますよ」
「起きたわ」
「ガッツリトラウマで草生えますね」
というわけで目を覚ましたエヴァ様を引き摺って先にビュッフェの席を取っているミーヤの下へ。
ちなみにここにおいての「引き摺る」というのは比喩表現などではなくマジで引き摺っています。
「身体はまだ納得してないから」とのことでした。
変なクスリでもやってるんでしょうか。
「で、リリィ。私まだパジャマのままなんだけど」
「ですね」
「……えそれだけ?」
◇◇◇
「ミーヤ、おまたせしました」
「……あ、おはようございま〜す!」
「ええ、おはよう、ミーヤ」
そしてエヴァ様はまるで何事もなかったかのように大量のフルーツが盛られた皿と共に席に着きました。
相変わらずのやたら整った面と堂々たる振る舞いのせいでただのパジャマも洒落て見えるのはひとえに顔面偏差値の御蔭でしょうか。
腹が立ちますね。
「いや〜、め〜っちゃ楽しみですね、エヴァさん!やっぱり駄目なんてもう言いっこなしですよ!」
「あ、無駄ですよミーヤ。エヴァ様多分分かってないので」
「いやそれは流石に〜……」
「分かってないって何よ。マルちゃんを正式にお迎えする日でしょ。忘れるわけないじゃない」
「あ分かってないかも……」
「ではエヴァ様、今日はマルジュを迎えに行った後はどうするんですか?」
「マルジュを迎えに行った後?そんなの決まってるじゃない。……え〜っと……」
顎に指を当て、少し上を見ながら「絶対なんかあった気がするのよね〜……」と呟くエヴァ様。
そして数秒の間が空いて、エヴァ様はポンと手を叩きました。
「そうそう、新築の引き渡し日よ!!やっとその日が来たって感じなんだから!!」
「お、よく思い出せましたね」
「は?ちゃんと覚えてたのだけれど?」
「覚えてる人間の沈黙ではないですね。いえ、人間ではありませんが」
「あ!!今それ言おうと思ったのに!!」
「だいぶコメディリリーフが板についちゃってる……」
「いえ12年くらいこんな感じです」
「わ〜」
そして上手いこと思い出せたらしいエヴァ様は「こうしちゃいられないわ!!」と、ハイスピードで皿の上のフルーツを口の中に運び始めました。
「ほら、二人も早く!!モタモタしてたら置いてっちゃうんだから!!」
マジで何言ってるんでしょうか。
「マジで何言ってるんでしょうか」
「リリィさん心の声漏れてますよ」
◇◇◇
「グリーンデザートさーん」
「はーい」
何が好きー?
……いえ、冗談です。
「マルジュちゃん、とっても元気ですよー。狂犬病のワクチンも大人しく打たせてくれましたしー」
「あら、そうなの?」
「そうなんですよー。あ、今連れてきますねー」
ここはエヴァ様が見つけたホテルから徒歩5分の動物病院。
一応未汚染ではあるものの、ダンジョンにいた個体ということで少し長い検査となり、マルジュは結局のところ昨日丸一日検査を受けていたそうです。
よく我慢しましたね。
そして受付の人からマルジュを受け取ったエヴァ様は、リュックサックくらいのサイズ感の、ぬいぐるみのような身体を抱きしめて「もうほんっとうにかわいいじゃない貴女〜!」と頬擦りしていました。
「エヴァさんめちゃめちゃあの子気に入ってますね〜。まあマルジュちゃん超絶可愛いし当然か〜」
「ああもう貴女が世界で3番目に決定!かわいい〜!」
「あれでも3番目なんだ……」
「当然じゃない。1位ユイカの2位私の3位マルジュよ」
「あ〜……」
「あ、そんなに納得できる感じなんですか?」
「正直ユイカ様……あ、エヴァ様って4人きょうだいなんですけど、その末っ子がめちゃめちゃかわいくて、彼女に関しては全然納得できます。気弱巨乳ゆるふわ猫耳黒髪ロングとかいう属性過多でめちゃめちゃかわいいので……」
「へ〜……あ、血まみれになったりします!!?」
「それはしないですね」
「あ〜、残念」
本当に心底残念そうな顔しますねこの人。
そしてそんな彼女とは正反対にそれはそれは満面の笑みを浮かべているエヴァ様。
マルジュもエヴァ様の気持ちに応えるかのように一生懸命ペロペロと顔を舐めています。
もしかしたら、このチャンネル始まって以来の良い子かもしれません。
そんなことを考えながら私達は車に乗り込み、新居へと向かいました。




