【お嬢様】20枠目【動物愛護】
「ミーヤそっちいる!!?」
「『いません!!ぜんっぜんいません!!っていうか脳内麻薬切れちゃいましたぁ~!!』」
「その言い方止めなさい!!ただでさえ勘違いされそうなんだからこのチャンネル!!」
ああもうやらかした、またやらかしてるじゃない私いえ私達!!
これだから調子に乗るなって言ってるのよ!!
聞いてるの私!!?
しかもちゃんと戦ってる時よりコメント大盛りあがりだし!!
『やっぱこれだね』
『もうエヴァ様が叫んでる時が一番おもろい』
『っぱエヴァ様はコメディリリーフよ』
『設定開示とかよりもっとくだらないことたくさん書け』
『ちゃんとしたバトル漫画路線なんてお父さんは認めないからな!!』
「お父様本当にそういうこと言いそうだから止めて!!」
『言いそうなのかよ』
『愉快な家庭だなオイ』
『いぇーい!お父様見てる〜?』
『うちのエヴァが大変お世話になっております』
「っ……いや偽者じゃない!!びっくりさせないでよ!!」
どうして私は6月なんていうがっつり暑い時期にこんなにも一生懸命走り回っているのだろうか。
その答えはもうびっくりするくらい簡単。
「ああもうラスイチどこなのよ!!」
……取り逃がしちゃった、最後の一匹。
そう、何をミスったのか、ここにまだ一つだけ生体反応が残ったまま。
いえ、これは言い訳とかじゃないのだけれど、私が取り逃がしたとは限らないわ。
だってついさっきまで、誰一人としてそういうのを気にしていなかったんだから。
私は優雅にサボ……いえ、効率化を図りつつ二人を見守っていたし、ミーヤは駐車場でミンチ肉の生産に従事、リリィに至っては大艦巨砲主義の名とロールバック処理という安全性、冒険者という身分の下にそれはそれは馬鹿みたいな規模の破壊活動に勤しんでいたために、全員「ま、細かいのは別にいっか〜」なんて考えた結果がこれ。
2.6k㎡とかいうだいぶ大きいテーマパークばりの敷地を必死に駆け回る私達の姿は視聴者に大好評だった。
『エヴァ様息切れする度に自殺するのおもろすぎ』
『拳銃が回復アイテムになる女』
『誰かが家庭版を買ったみたいだね』
『ミーヤの目ガンギマリのガン開きで草』
『受付嬢ちゃんの目怖すぎるだろ』
『目のイってる女が丸鋸引き摺って追いかけ回してくるのヤバい』
『リリィのドリフトヤバ』
『私有地だからって出す速度にも限度があるだろ』
『バイクにロケランとか怒りの脱出でもするのか?』
どうやら私達の人気も上手く割れてるみたいでその点だけは今望ましいことかしら、その点だけは。
そして私が息切れによる8回目の自殺を迎えた辺りで、通信越しに「『っしゃあぁぁっっ!!!!』」というリリィの大歓声が響き渡った。
「何!!?いた!!?」
「『はいようやく!!っしゃ絶対にぶっ殺して──』」
「……あら、リリィ?どうかした?」
「『いえ、今気付いたのですが……この幼体、汚染されていません』」
「え、どういうことですか?」
「『ほら、汚染されると魔力による循環系統やらの暴走で目とか真っ赤になったりするじゃないですか。この幼体もそうだと思ったんですが……普通に傷付いてるだけかもしれません』」
『ホントだ』
『ゴミ箱に隠れてたのもそれが理由か?』
『多分親とはぐれたとかじゃなくて必死に逃げてきた感じだろうな。普通の狼は魔力避けるからダンジョンに近寄らないし』
「つまり?」
「『ペット加入イベです』」
「分かりやすいわね。……良いわ、助けてあげて。動物系コンテンツは伸びるっていうのがどのプラットフォームでも鉄則だもの」
『急にツンデレ令嬢みたいなこと言い出したな』
『利己的な理由で誤魔化そうとするの好き好き大好き』
しかし後一頭を殺さなくていいということは、これにて過酷な炎天下鬼ごっこも閉幕。
思わず安堵の息が漏れて、脳天ブチ抜いての感動の追いリセット。
「ということで、今回の配信はここまで。次回からはハートフルな動物系配信者に路線変更していくわ」
『無理だろ』
『HeartfulじゃなくてHurtfulなんだよな』
『申し訳ないがエヴァ虐以外はNG』
「ねえリリィ、もうエヴァ虐出回ってるの?」
『いえファンアートでもエヴァ様はトラウマを植え付ける側ですね。SAN値バリ持ってってます』
「……ま、それは良いわ。ファンアートなんてもらえるだけ最高だもの。それじゃあ貴方達、また次回。おつエヴァ〜」
「『おつエヴァです』」
「『おつエヴァでした〜』」
『おつエヴァ』
『おつ』
『熱中症気をつけろよ』
『狼ちゃんの定期報告待ってる』
『おつエヴァ〜』
ということで今回の配信も無事終了。
念の為ミーヤに残りの生体反応がその狼の子供一つだということを確認してもらってから、私達はリリィのところに集合した。
「お疲れ様、リリィ」
「ええ。そちらこそお疲れ様でした。エヴァ様、ミーヤ」
「はい、お疲れ様でした〜。ところで、その子は大丈夫そうですか?」
「ええ。怯えてるというよりは、敵意が無いのを悟ったのか安心して気が抜けた感じで……」
そう言ってリリィは日陰のベンチに載せた狼の子供の背を撫でる。
画面越しに見るよりも一層小さく見えて、子供というよりはまだ赤ん坊に近いのかもしれない。
そして、もふもふで可愛い。
「ふぅん。機微に聡いのね。素敵じゃない」
「あ、ちょっとだけ失礼しますね。止血と殺菌だけ……」
少ししゃがみ、その子と目を合わせたミーヤは、トントンと、傷口をゆっくり、優しく指先で叩き、回復魔法をかけていく。
すると痛みが和らいだのか、その子の表情が少し柔らかくなったように見えた。
「それで……この子、どうしますか?ホテルには連れていけないでしょうし……」
「取り敢えず動物病院で明後日まで預かってもらおうかしら。どうせ治療も受けさせないとだし、明後日になれば家に移れるから、そうしたら役所に届け出ね」
「だったら、収益化記念配信はこの子も一緒ですね。それまでに名前も決めないと……」
「名前……エヴァさん決めます?」
「あら、良いの?だったら……そうね、なんか丸っこいし、「マルジュ」とかにしましょうか」
「それで良い?」と尋ねると、その子は応える代わりに、私の差し出した指をペロッと舐めた。
「……あら、貴女、女の子なのね。これからよろしく、マルジュ」
私の呼びかけに、マルは「わぉん」と小さな、でも元気な声で応えた。




