【お嬢様】18話【解説席よりお送りします】
じゃんけんの結果、一番大変そうな屋外はミーヤ、その次に大変そうな物流ターミナル棟はリリィ、一番楽っぽい事務棟は私。
ぴーすぴーすって感じかしら。
いえ、事務棟だけでも下手なホームセンターより大きいという想定外の規模感に目を瞑れば、だけれど。
そして私はふわふわと隣で浮かぶカメラドローンをお供に、適当にモンスターを探しつつぶらぶらと歩き回っていた。
「……あ、言っておくけれど、今日の私は省エネでお送りするわよ」
『省エネ?』
『エヴァ様基準の省エネは環境破壊だろ』
『えーエヴァ様死なないの?』
「いえそこそこ出血多量辺りで死ぬ予定ではあるかしら。安心して、貴方達の楽しみは奪わないから」
『悔しいけど嬉しい』
『それ本当に省エネ??』
『エヴァ様基準の省エネは環境破壊(断言)』
『わーい』
『子供の無邪気故の残酷さだ』
『これもうライブ配信にもCERO導入しろよ』
『っていうかエヴァ様のことなら一瞬で殲滅してサボるかと思ってた』
「別にそうしたって良いのだけれど、貴方達、私がリリィとかミーヤを実況してるの見たくない?ほら、同時視聴っていうのかしら」
『!』
『見たすぎ』
『おお』
『これはおおだろ』
『ええやん、気に入ったわ』
『でもその間にモンスター来たらどうするの?』
「あ、言い忘れてたかしら」
私はカメラドローンにちょいちょいと指先で合図して画角をずらし、足元を移してもらう。
そして画面には血まみれで真っ赤な裸足が映った。
『!?』
『心臓キュってなった』
『またエヴァ様が自傷してる……』
「ほら、私の血って任意で劇毒みたいになるじゃない」
『ほら(皆さんご存知)』
『ゆっくりリィ解説で言ってたやつか』
『任意←は?』
『血ってそんな思うがままに出来るやつだっけ』
「だから足首カットしてさっきからドバドバ流すようにしておいたの。血の匂いに釣られたモンスターは私の血に触れちゃった瞬間アウト、内臓からズタズタになって最終的にはスノーフォールね」
『やってること置くタイプの殺虫剤じゃん』
『何らかの国際法に抵触しそうな戦法』
『時代が時代なら魔女裁判だろこれ』
『現代においても魔女だぞ』
『思いつくのも実行するのも意味わからん』
『っていうかそれ撤収は大丈夫なの?』
「ええ、問題ないわよ。消したければすぐ消せるもの」
私が足元の血溜まりを指でなぞると、血溜まりがパッと消える。
「どう?」と私はカメラの方に振り返った。
『うわマジじゃん』
『本当にお前何?』
『俺達が知ってる血液じゃない』
『もしかして古龍でいらっしゃいますか?』
「一般美少女なのだけれど」
『億歩譲って一般ではないだろ』
そんなことを話していると、「ミーヤ接敵したぞ」というコメントが目に留まる。
視聴者にもミーヤの画面を出すよう呼びかけてから、私はカメラドローンの投影機能を使って空中にミーヤの様子を映し出した。
「『あ〜♡やぁっと見つけましたぁ〜♡』」
『もう駄目そう』
『本当にこいつ何?』
『エヴァ様にだけ優しい殺人鬼か?』
『いや最大の被害者エヴァ様だろ』
『クレイジーサイコリョナラー』
『恋愛要素消えてるじゃん』
『丸鋸最高!』
ひとまず私は周りの血を綺麗にしてから、その場に体育座りをしてミーヤの配信を視聴者達と一緒に眺め始める。
よく似合う丸鋸を引き摺りながら一歩一歩と距離を詰める彼女に対して、多分五人組的なスタイルの狼っぽいモンスター達は交代しつつも、ミーヤを囲むように少しずつ広がっていく。
モンスターの割には賢いじゃない。
そして普通だったらこの状況はお互いに後の先?みたいなのを狙って硬直するような場面だと思うのだけれど……
「『じゃ〜あ〜……始めましょうかぁ〜♡』」
まるで蕩けるように、ミーヤは笑った。
『台詞だけならおねショタ』
『だいぶ美人です、最高の身体です←こいつで俺等が興奮できない理由』
『殺されそうじゃん』
『興奮しながら魔改造丸鋸ぶん回してくる女を前にしたら逃れられない死以外を想えなくなるだろ』
『ノムリッシュ翻訳した?』
『丸鋸最高!』
『丸鋸最高!』
丸鋸の刃を地面と擦りながら駆け出した彼女に対して、モンスター達もギアを変えて撹乱して着実に一発をお見舞いするタイミングを見計らう。
膠着、という程でもない空白の後、ミーヤが仕掛けたのは、だだっ広い駐車場のド真ん中だった。
彼女はある意味反射的な仕草で最も近くにいたモンスターへと狙いを定め、エンジンの掛かっていない丸鋸を思いっ切り振り抜く。
そしてその刃が獣の腹を捉えた瞬間。
「『ばぁ〜んっ♡』」
ミーヤは、丁寧にエンジンスターターの紐を引っ張った。
「……あら」
『うおおおおおお!!!』
『やば』
『きたあああああ!!!』
『丸鋸最高!丸鋸最高!』
『かっけぇ』
『すげー!!』
『これは丸鋸最高ですわ』
思わずコメント欄が少年の心を取り戻してしまうほどの景色。
エンジンが点火すると共に再び振り抜かれた丸鋸は魔力に染まった丈夫な毛皮をものともせず、内臓ごと獣の身体を両断する。
血飛沫が雪の結晶のように舞った。
私じゃスタイル上見れないけれど、モンスターは魔力によって汚染されているため、討伐した場合は本来こうして結晶のように魔力へと還っていく。
だから動物愛護の観点から見ても何ら問題はないらしい。
「『あっはぁ♡ミーヤはまだまだ止まりませんよっ♡』」
ミーヤって興奮し切ると一人称ミーヤになるのね、なんてことはさておき、狼が目の前で起きた同族への惨劇に動揺したのか、その動きを止める中、彼女はその隙を逃さず一頭一頭確実に真っ二つの魔力の結晶へと変えていく。
意外と今回のモンスターは仲間意識が強いのか、あるいは同族の死すら獲物と間違えて反応してしまうほどの汚染具合なのか、隠れていた個体もわらわらと絶賛処刑台と化している駐車場に集まってくる。
彼女は口元の魔力結晶を拭って笑った。
「『良いですよっ♡ミーヤがお相手務めますっ♡』」
『というかこいつも結局人外側じゃねえか』
『受付嬢って三種受付嬢の方かよ』
『三種受付嬢って?』
『教えてエロい人!』
『実際のギルドの窓口で働く受付嬢(二種受付嬢)の職分を拡大し、単独でのレベル7以上の0%ダンジョン攻略が可能と認められた受付嬢のこと』
『つまり?』
『クソ強受付嬢』
『ありがとうエロい人!』
「ふぅん、そんなのあったのね」
『エヴァ様も知らなかったのかよ』
『っていうかエヴァ様食われてね?』
「あ、本当じゃない」
すっかりミーヤの観戦に夢中になっていたところ、リラックスして伸ばしていた脚の、ふくらはぎやら太もも辺りに思いっ切り食い千切られた痕みたいな穴が空いている。
でも血液汚染トラップ撒いといたはずなのに、なんて考えたところで、私はようやくまだ全然作業中だったことに気がついた。
それと同時に、ミーヤから一通のメッセージが送られてきた。
「『それ【排血汚染】ですよね』」
「いやなんで見えてるのよ!!」
『そりゃ見えてるだろ』
『エヴァ様配信中ですよ今』
「……あっ、そうじゃない」
『エヴァ様たまにぽんこつだからすき』
そして周りをちらっと確認すると、やっぱりあった見覚えのない血溜まり2つ。
ついでに引き摺ったような痕も2つ。
私は少し名残惜しいながらもミーヤの殲滅作戦を切って、自分のお仕事を果たすことにした。
「……あ、お食事中の人は気を付けるのよ。今から血っぽいのがいっぱい出てくるから」
『今更過ぎるだろ』
『「血っぽい」←意味が分かると怖い話』
そして私はゆっくりと、モンスターの獣臭い魔力を追いかけながら歩いていく。
リリィのところに4万人、私のところに4万5千人、そしてミーヤのところに現在6万人、合わせて15万人弱なんて私達も随分と人気者になったものね、なんて考えつつ、辿り着いたのは事務棟の三階、食料庫。
私はトランプに加えてチップとサイコロという新たな得物を携えてその扉をちょっとだけ開けた。
「それじゃ、貴方達にも効率の良い方法を教えてあげるわ」
『もう参考にならないだろ』
『※エヴァ・グリーンデザート基準です』
「サイコロに魔力と血液を込めて投げ入れるの。ほら」
私は説明通りにサイコロ2つを隙間から投げ入れ、すかさず扉を締める。
その次の瞬間、扉の中で巨大な水風船が弾けるような音がした。
「それで、今みたいな爆発音が聞こえたら扉を開けて。すると……ほら、中の敵は全員血溜まりよ」
『???』
『出力の暴力止めてください』
『発育の暴力はないくせによ』
『おい殺されるぞ』
『それサイコロである必要ある???』
「ゾロ目とか出てたら嬉しいじゃない」
『意味ねえじゃねえか』
『無能、無意味の方の無じゃん』
ということで後は適当に残党狩りしてけばおっけー。
何かを忘れているような気もしたけれど、これで見事省エネ攻略達成。
ぐぐっと背伸びしたその時、再びリリィからメッセージが届いた。
「『ご安心ください、エヴァ様が忘れていようとも私はセルフ実況しておきますので』」
「……いやそれは出してないじゃない口に!?」




