【メイド】17枠目【参戦】
「んむぅ……なによぉ……」
アイスカペイドへと向かう休日故にそこそこ賑やかな高速道路の途中、すやすやと穏やかに眠っていたエヴァ様は、通り過ぎるパトカーのけたたましいサイレンで目を覚ましたようです。
「なに?なんのおと?」なんて目を擦りながら尋ねる彼女に、ミーヤは「ちょっと待っててくださいね〜」と検索画面を開いた後、ネットニュースの一画面を見せました。
「ふぅん……銀行強盗犯と警察がカーチェイスねぇ……」
「そうみたいです。ちょうどこの辺爆走してるみたいで──」
ミーヤがそう言いかけたその瞬間、時速120km超で走る私達の隣を爆速で追い越していく一台の装甲車。
私達は揃いも揃って二度見していました。
「凄いのいましたね」
「いたわね」
「がっつり銃声だったわね」
「バリ銃声でしたね」
「というか銃撃戦ですねあれ」
「銃撃戦ですよねあれ」
どうやら思ったよりも本腰入れた銀行強盗のようです。
もはや何億だよと聞きたくもなりたくなりますが、まあこの場における最大の問題は流れ弾でしょうか。
いえ、どうせ流れ弾の十発や百発程度ではこの場の誰も死なないでしょうけれど。
「ミーヤ、この車って銃弾耐えますか?」
「あ、この子も一応色々と改造ったんで……まあ、.50くらいだったら全然余裕ですかね〜」
「この車対物ライフル効かないんですか??」
変態かつ変態とはどうなっているんでしょうか。
もはやここまで来ると尊敬やらの感情が勝ってくるような気さえしてきます。
いえ、嘘です。
変態がド変態、ド変態がエクストリームド変態へと昇華しただけです。
助手席に座りそんなことを考えていると、後部座席ではすっかり目を覚ましたエヴァ様がぐぐっと背伸びしていました。
「……何をするつもりですか?エヴァ様」
「何をするつもり?そうね、強いて言えば……社会貢献かしら」
いつも通りの笑顔でそう答えたエヴァ様。
その次の瞬間、彼女は後部座席のドアを開け、時速130km台へと差し掛かった車から高速道路へと飛び出しました。
「……リリィさんリリィさん」
「……何ですか?」
「もしかしてエヴァさん……最高に、楽しいことやろうとしてます?」
「ええ。残念ながら」
遥か前方、車体から飛び降りたエヴァ様はカーチェイスに巻き込まれ、一層速度を上げていく一般車の群れの間を脱兎の如く駆け抜け、銀行強盗犯の座する軍用車両を追いかけます。
あっという間にその姿は小さくなり、代わりに私は中継魔法でサイドガラスに彼女の様子を映し出しました。
「『もしもーし。そこの車止まりなさーい』」
適当な声掛けをしながら、パルクールのように車をすり抜け、飛び越え、あるいはくぐりながら装甲車へと突撃するエヴァ様。
良い感じにカッコつけてはいましたが、もちろんエヴァ様はパルクールやそれに類するものなど未経験。
本来であれば轢かれたりぶつかったりで現在は肉ミンチ真っ最中のはずですが、そこは見事に体質でカバー。
一体何が見事だと言うんでしょうか。
そして不死身という人類には追いつきようが無い圧倒的なアドバンテージ、ついでに意味不明の身体能力によってとうとう装甲車へと追いついてしまったエヴァ様。
彼女はボンネットに腰掛けてコンコンと、フロントガラスをノックしました。
「『ねえ、悪いこと言わないから止まってくれないかしら?』」
なんでこの状況でも全く息を切らさない人間があの程度の採掘作業でへにょへにょになっていたのかは今となっては永遠の謎ですね。
まあ残念ながらその声は中の強盗犯には届いておらず、彼らは突如現れた謎の美少女に困惑を隠せないようで、エヴァ様を振り落とそうと必死にハンドルを左右に激しく切ります。
しかしあの気狂いパルクールを乗り越えたエヴァ様にそんな姑息な手は通用せず、何度か振り落としても次の瞬間には「『ちゃんと痛いんだけど!?』」なんて言いながら復活してしまいます。
ああ、こんな怪物を相手せざるを得ないとは、同情の意を禁じ得ません。
「『……あ、もしかして聞こえてないの?』」
やっと気が付きましたか、エヴァ様。
そして彼女は「『まあその分の猶予だけあげるわ』」とその人差し指から弱めの血を流し、「5」「4」「3」「2」「1」と綺麗な鏡文字でフロントガラスに書き込んでいきます。
そして「0」を書き込んだその瞬間、エヴァ様は血塗れの両手でフロントガラスを叩き割りました。
「『っ!!?な、なんだ!!?』」
「『何が起きた!!?』」
「『あら、貴方達そんな声だったのね。はじめましてで悪いのだけれど、ちょっと失礼するわ』」
そう言ってエヴァ様はボンネットから運転席へと身を乗り出し……失礼、身を乗り入れ、強引にハンドルを切ってそのままねじ切り、ついでにブレーキとエンジンもちぎり取りました。
「『多分死なないとは思うけど、ちょっと気をつけるのよ』」
帰りは丁寧にドアを開けて出て行った彼女。
制御不能になった装甲車は思いっ切り左折し、サービスエリア手前の橋を飛び降りて眼下の川へと紐無しバンジー。
彼女は「『ばいばーい』」と現在進行形で水没しかけている彼らへと手を振り、逆走パルクールでこちらへと帰ってきました。
「ただいまー」
「また馬鹿やってましたね、エヴァ様」
「良いじゃない。警察法じゃ犯人逮捕に繋がった行動の内一般人を巻き込んでないならセーフってあるもの。轢かれたりもしたはしたけど、血痕とか傷は残してないわ。こういう細かい善行が大当たりに繋がるのよね」
「はぁ……」
「あら、疑ってるの?「勝利の神様は細部に宿る」って前野球中継かなんかでも言ってたんだから」
「そいつ四連敗で日本一逃したじゃないですか」
「まあ無事で帰ってきたんだから大丈夫ですよ〜。ほら、警察が集まる前に行っちゃいましょ〜」
そう言ってミーヤはさらに強くアクセルを踏み込みました。
一瞬、身体が持っていかれるような感覚を覚えました。
◇◇◇
そして数時間後、アイスカペイドのイズヴェスティア料金所を降りた目の前の物流倉庫。
その敷地は丸ごと柵で囲われ、「モンスター出現につき閉鎖中」という看板と共にゲートが設置されています。
あの後もう一眠りしてそれはもう元気いっぱいになったエヴァ様はパソコンのエンターキーを思いっ切り叩くと、待機している10万人超えの視聴者に挨拶しました。
「貴方達こんエヴァ。今日も今日とてグリーンデザート放送局のお時間よ」
「リリィでーす」
「ミーヤで〜す!」
「……あ、エヴァ・グリーンデザートよ。それで、今回は貴方達からも散々リクエストがあった通り、リリィとミーヤにも戦ってもらうわ」
『おお』
『キタコレ』
『待ってました』
『丸鋸最高!丸鋸最高!』
『丸鋸最高!丸鋸最高!』
『リリィの武器って何?ハリセン?』
『昔のお笑い過ぎるだろ』
「ま、それは見てからのお楽しみね。今日は私視点、リリィ視点、ミーヤ視点の三つを切り替えられるようにしておくから、貴方達で好きに見てちょうだい」
「それじゃ、始めるわよ」、そう言ってエヴァ様はゲートにスマートフォンをかざしました。
第5回グリーンデザート放送局、開幕です。




