【受付嬢】14枠目【産業革命】
「リリィ、産業革命するわよ!!」
そんな一昔前の掲示板のタイトルみたいなエヴァさんの声が聞こえて、私は丸鋸を動かす手を止めました。
「エヴァさ〜ん!私も手伝うことありますか〜!?」
「ええ!一旦集合して!」
「は〜い!」
『エヴァ「リリィ、産業革命するわよ!!」』
『7chのスレタイか何か?』
『懐かしさすら感じる』
『これはエヴァ・グリーンデザートの憂鬱』
あ、言わなかったのに。
◇◇◇
「それでエヴァ様、具体的には何をするおつもりで?一口に産業革命といえど、一次も二次もあるわけですが」
「あら、別に車輪の再発明なんてするつもりはないわよ?蒸気機関も、魔導機関もね」
「わ、車輪の再発明とかスマ動のタグ以外で初めて聞いた〜」
『それな』
『わかる』
『俺も』
『おいどんもでごわす』
「……で、何をする……いえ、私に何をさせようって言うんですか?」
リリィさんがそう尋ねると、エヴァさんはそれに答えるよりも先に「どうやら準備万端みたいね?」と口を手で押さえながら笑います。
私はそろそろ再燃してきた丸鋸ブッ放したい欲を抑えながら彼女の話を聞いていました。
「はぁ……なんですか?掘った魔力原晶を出口まで運ぶためのベルトコンベアーでも創れば良いんですか?」
「惜しい。方向性は合ってるけどそれじゃ70点ね」
「手も足も絞め技も出しますよエヴァ様」
「MMA止めてもらえるかしら」
「それでエヴァさん、ベルトコンベアーじゃないなら何作るんですか?」
私の問いかけにエヴァ様は「んんっ……」とどこか色のあるような咳払いをしてから、「もっと簡単な話よ」と口にしました。
「ねえ、マスドライバーって知ってるでしょう?」
「……は?」
「……え、なんて言いました?」
「マスドライバー。貴方達も知ってるわよね?」
『いや知ってるけども』
『産業革命から何年後の技術だと思ってるんだ馬鹿』
『実際何年後なん?』
『蒸気機関開発:2019年、魔導機関開発:2372年、マスドライバー開発:2853年』
『時事問題で出るレベルじゃねえか』
マスドライバー。
コメント欄の通り、つい最近開発されたばかりの地月間物資輸送システムのこと。
ざっくり言うと巨大魔導式電磁カタパルトといった感じで、簡単に仕組みを説明すると、荷物を入れたコンテナをものすごく加速させて宇宙空間まで飛ばすという代物です。
エクリプス皇国ミルリーフ州南東、シーザスターズ宇宙センターから少し離れた高地に設置された第一号機は最大輸送重量3000tという輸送能力と重量比でのコストは従来の100分の1以下、それでいて所要時間も従来の約半分である1日と、まさしく最新テクノロジーといったカタログスペックで、現在の月面開発を大きく推し進めているんだそうです。
……で、なんでそんなのがこの会話で出てきたんでしょうか。
「そんなの簡単よ」
「あっ地の文読まれました」
『何度目だよこのやり取り』
『ナチュラルに読まれる地の文からしか摂取できない栄養素はある』
そしてエヴァさんは相変わらず「いや何言ってるんですか?」みたいな顔をしているリリィさんに対してそれが正当なものかは分からないため息を吐きつつ「仕方ないわね」と一から説明を始めました。
「ほら、この侵蝕鉱って一直線じゃない」
「そうですね」
「出口まで魔力原晶持ってくのダルいじゃない」
「そうですね」
「なら出口まで飛ばせばいいじゃない」
「納得は出来ませんが理解は出来ました」
「じゃあそれ二項対立にして」
「……ギリ理解が勝ちました」
「そういう正直なところ好きよ、私」
『この意味は分からないけどちょっとエモそうなやり取りすき』
『人外百合はいつだって需要あるからな』
『後はもう少しおっぱいがあれば……』
『殺すぞお前』
『死ね』
『もしかしてこの配信ってNGワードとか無いの?』
『性別!!!』
『あっ性別って打つとそうなるんだ』
で、取り敢えず話がまとまったらしいエヴァさんとリリィさん。
これでようやく丸鋸ブッ放しゲーミングへと戻れます。
ついでに魔力原晶の採掘作業に戻れます。
私は一応自分の仕事が無いことを確認して、丸鋸片手に洞窟の奥へと戻りました。
「あっはは!♡やぁっと解体の時間だぁ〜〜っ!!♡」
『もうこいつ本当に何?』
『リョナラーでドSでチェンソーハッピーとか前世でどんな咎を負ってるの?』
『でも顔と身体が最高だから……』
『昔ロリ誘拐してましたって言われても納得するわ』
◇◇◇
ああ、やっぱ丸鋸って最高ですっ♡
効率的破壊っ♡
上限無しの蹂躙っ♡
ストレス社会の、特効薬……♡
「……ヤ?……ミーヤ!?」
「……っ、あ、エヴァさん?」
「早く来なさい!産業革命達成したんだから!」
「あ、すいません!悦に浸ってました〜!」
『隠せよ』
『この変態何?』
『もしかしてこの小説R-18にしようとしてる?』
というわけで仕方なく、しょうがなく、名残惜しく丸鋸のエンジンを切って私はエヴァさんの声がする洞窟の外へと出ました。
しかしそこにあったのはカタパルトではなく、ピンク色のレトロなドア。
「……あれ、マスドライバーは?」
「あ、そうそう、マスドライバーより転送装置創る方が楽だったの」
「なんか出来ました、ひみつな道具」
「わ〜、産業革命」




