【お嬢様】12枠目【大人気コンテンツ】
「リリィ、エゴサーチって面白いわね」
「最悪の書き出し更新しましたね」
「しょうがないじゃない、本当に面白いんだもの」
あの醜態から数時間経った午後の2時。
私はホテル内のスイーツバイキングの一席でスマートフォンを弄っていた。
正直私が普通の人間であれば今頃麻紐に首からぶら下がっていたところだけれど、私の肉体がそんなことを許してくれるはずがない。
なので今はこの死ぬほど恥ずかしい思い出を脳の奥へと押し込み、甘い物で洗い流すという手段しか私には残されていなかった。
まあ、怪我の功名というか、あの醜態を晒した御蔭でSNSなんかは信じられないほどの盛り上がりを見せてくれて、なんか登録者もそろそろ20万が見えてきたのだけれど。
「にしてもみんな私のこと大好きじゃない。エゴサが追いつかないって幸せね」
「随分楽しそうですね。「承認要求に踊らされて賽の目を外したりしない」なんてカッコつけていたのに」
「あら、何か矛盾してる?私はまだ、たったの一つだって賽の目を外してはいないでしょう?」
「……ふふっ、ええ、そうですね。そういうことにしておきましょう」
どこか気に食わないものを感じながらも、そんな感情は口に入れたナポレオンパイの甘酸っぱいいちごによって掻き消されていく。
サクサクの生地、挟まれた濃厚なホイップクリームも見事に噛み合っていて、動かす手が止まらない。
私はひとまず机の上に並んだケーキやらシュークリームやらを平らげてからメロンソーダで一息ついた。
「リリィ、そういえばミーヤはどこ?私がふて寝してる間にどこか行ったみたいだけど」
「ミーヤなら社宅の方に戻りましたよ。先に荷物をまとめて新居に送れるよう手配しておく、とのことです」
「へえ、手際が良いじゃない。言ってくれれば手伝ったのに」
「あのメンタルのエヴァ様に頼むというのは無理な話でしょう。冗談抜きで死にかけでしたよ」
「しょうがないじゃない。死ねるんだったらまだ死にたいわよ」
「恨むなら自身の体質を恨んでくださいね」
そう言ってクスクス笑うリリィ。
本来メイドってこんなんじゃなかった気がするのだけれど、なんて考えていると、彼女のスマホの通知が鳴った。
「あら、連絡?」
「そうですね、MurmurerのDMが」
「へぇ、もしかしてコラボのお誘いでも来たのかしら」
「いえ、そうではありませんが……少し面白い話が来ましたよ。ほら」
そう言ってリリィはスマートフォンの画面を見せてくる。
そのDMにはちょっとした、礼の欠かない程度の文章と、何かのリンクが貼られていた。
「【AG Network】……聞いたことはあるかもしれないけれど、あんまり詳しくは知らないわね」
「国内出版大手の【Ange Gabriel社】が運営しているネットニュースサイトです。エヴァ様のことを記事にしたいとのことで連絡してきたみたいですよ」
「あら、私人気者じゃない」
「どうやらそのようですね、残念ながら」
「残念ながら?」
「それで、下のリンクが出す予定の記事みたいですよ」
「これ?」
▽▽▽
中毒者続出?【グリーンデザート放送局】という超新星の膨張が止まらない
【グリーンデザート放送局】、わずか4日前に解説されたこのチャンネルはこの瞬間、まさしく目を見張るような勢いでその指示を拡大している。
メンバーは現在3人、メインでダンジョン攻略などを行うエヴァ・グリーンデザートと彼女の自称メイドであるリリィ・グリーンデザート、そして第2回から加わった受付嬢のミーヤ・アンブライドルドとなっている。
▷画像:グリーンデザート放送局のサムネイル(全3枚)
このようにサムネイルも本人達の自撮り、決して配信の技術が高いというわけでもない彼女達が何故これだけ注目を浴びているのか。
それは軽快なトークや類稀な容姿もさることながら、圧倒的に大きいのはエヴァ・グリーンデザートという人間が持つ特異性とそれを引き立てるそれぞれのキャラの濃さだろう。
「不死身」を自称する通り、このグリーンデザート放送局において他の配信者と一線を画す部分がその「グロさ」、そして圧倒的な「強さ」である。
第1回では全身を串刺しにされたり心臓を引き裂かれたり、第2回においては初手から腹部が抉り取られ、その後は自分のナイフが肝部に深々と突き刺さるなど、一発一発が本来であれば致命傷、放送事故となるようなものであろうと、エヴァ・グリーンデザートという人間にはかすり傷にさえならず、まるでギャグ漫画のようにその場で完全復活を果たしてしまう。
さらにそれを際立たせるのがそれに対するリリィ、ミーヤの対応である。
それがさも当然であるかのように解説を始めるリリィ、先述のグロさへの興奮を隠そうともしないミーヤの反応などはエヴァ・グリーンデザートの持つ圧倒的な「濃さ」にも負けることなく、わずか数回の配信ながらそれぞれの持つ強烈な個性を視聴者へと印象付けることに成功している。
そしてこの記事が執筆されている6/12日の朝に行われた質問コーナーにて別方向の武器を見せつけたこともあり、今後とも彼女達の進撃は収まる気配を感じさせない。
我々はもしかしたら、新たなる伝説の始まりを目撃しているのかもしれない。
△△△
「……良い気分ね、リリィ」
「これだからほんとエヴァ様チョロいんですよね」
「良いじゃない、褒められて悪い気がする方こそ人間として間違ってるわ。まあ私人間じゃないけど」
「それ持ちネタにするつもりですか?」
「駄目?学院ではバカウケしてたのだけれど」
「スナック菓子みたいな自慢ですね。まあ、エヴァ様が良いと言うならそれで」
そう言ってスマートフォンを差し出すリリィ。
私は彼女の手からそれを受け取り、「喜んで」「これからも応援よろしくお願いします」とだけ打ち込み、送信した。
「さて、リリィ、次は何やろうかしら?」
「そうですね、視聴者の皆様の要望としては雑談配信なんかがリクエスト多いですが……」
「じゃあそれで良いわ」
私がそう答えたと同時、今度は私のスマートフォンの着信が鳴る。
何かしら、と思って確認してみると、それはミーヤからの連絡。
いかにもハイテンションな、リョナラーとは思えないくらいの元気を感じさせる「良案件取ってこれました!!」という文字列と、そのダンジョンのスクショが送られてきていた。
「リリィ、次のダンジョン決まったわよ」
「へぇ、ミーヤが?」
「ええ。鉱山で素材集めですって」
「楽しそうじゃない?」とリリィに問いかけると、彼女もあんころ餅を頬張りながら首を縦に振る。
そして私達はミーヤの帰りを待ちながら、明日の計画を練り始めた。
「……そういえばエヴァ様、何でまだパジャマなんですか?」
「……、……っ、気づいてたなら言いなさいよ!!」




