【メイド】11枠目【たのしい朝活】
「取り敢えず引き渡し日までは宿泊を延長しましたので、それまではどうぞご自由に」
ギルドへの魔力核の提出、報酬金の受け取り、ドライブスルーでの夕食等諸々の用事を終えて、ホテルに戻ってきた10時過ぎ。
エヴァ様に代わって延泊や人数追加含む諸々の手続きを終わらせた私はミーヤと共にベッドに寝転がりました。
「なるほど、ミーヤもお疲れでしたか」
「そりゃそうですよ〜!こんな人前出るの久々でしたし、報酬貰いに行ったときの同僚の視線ヤバ過ぎましたし、あんなの見せられたら胸の高鳴り止まんないですし……♡」
どうしてエヴァ様の周りには変態しか集まらないんでしょうか。
いえ、類は友を呼ぶという言葉に太古より込められた説得力を考えたらそれも仕方のないことなのかもしれません。
もちろん私は違いますけれど。
「っていうか、エヴァ様もう寝ちゃったんですかね……?シャワー浴びてそっこ〜って感じですけど……」
「疲れたらすぐ寝ちゃいますからね。ガキなので早寝なんです」
「んむぅ……がきじゃないわよぉ……」
「あ起きてた」
「あと寝る前と寝起きとお風呂中は漢字力が大幅にダウンしてクソ雑魚モードになります」
「なんかそう聞くとちっちゃい子みたいですね〜」
「ガキですからね」
「あなたわたしとにかげつしかかわんないじゃない……っていうかぁ……こんなかわいいがきがどこにいるってのよ……」
「ガキは可愛いものですよエヴァ様」
「……あっ、そうじゃなぃ……とりけさなくても、いぃ……ゎ……」
「あとエヴァ様めちゃチョロいんですよね」
「ほんとに死なないだけって感じなんだ……」
「エヴァ様、そろそろ読みにくくなってきたので眠っていただけるとありがたいです」
「んんぅ……いわれなくて……ぉ……」
消え入るような声でそう呟きながら、もこもこふわふわのパジャマに包まれ、赤子のように丸まって眠りについたエヴァ様。
数秒経つとすでにすぅすぅと弱々しい寝息が聞こえてきました。
これで心置きなくミーヤに相談が出来るというものです。
私はスマートフォンの電源を入れながら、彼女に声を掛けました。
「実は明日の朝ゲリラ配信をやろうと思っているのですが」
「ゲリラ?私は大丈夫ですけど、視聴者さん集まりますかね〜?」
「問題ありません。既にMurmurerの方で告知しましたので」
「ゲリラ??」
「はい。エヴァ様は知らないのでゲリラです」
「あそっちのゲリラなんだ」
「ちなみに何やるんですか?」なんて問いかけてくるミーヤに私は原義の方の意味で適当な配信者を選び、そのアーカイブを彼女に見せました。
「……あっ、縦型配信ってやつですか?」
「その通りです。さっき言った通り、寝起きのエヴァ様はよわよわ♡でざぁこざぁこ♡って感じなので、寝起き凸して意識ぽわぽわ脳味噌ゆるゆる状態のまま、視聴者様から集めた容赦ない質問に答えてもらおうと思いまして」
「良いじゃないですかそれ〜!やりたいやりた〜い!」
レズのサディストでしょうか。
バレて吹っ切れてしまったのか、嗜虐性というものを隠そうという努力は一切感じられません。
まあエヴァ様が重症のマゾヒストと考えたら中々悪くない相性ではあるのですが。
「というわけで明日の8時に決行しますので、それまでにエヴァ様にぶつけたい質問など選んでおいてください。Murmurerの方で募集していますので」
「え、私も選んで良いんですか?」
「ええ。盛り上がりそうな質問をお願いします」
「やった〜!」
◇◇◇
「というわけで皆様、縦型配信からおはエヴァです。本日はグリーンデザート放送局のじゃない方、リリィ・グリーンデザートと……」
「おはエヴァ〜!新参者のミーヤ・アンブライドルドでお送りします!」
『待ってた』
『おは』
『おはエヴァ』
『あられもないエヴァ様が見れるんですか!?』
『おはエヴァ〜』
『エヴァ様をおもちゃにする配信と聞いて』
新進気鋭のグロエンタメことエヴァ様はまたも大バズリ中で、一晩寝ている間に登録者は大台も大台10万人を突破、土曜とはいえ配信開始時点で視聴者は50000人以上待機と想像以上の、まさしく飛ぶ鳥を落とす大盛況。
基本的には何をやっても成功するという少し癪に障る星の下に生まれているエヴァ様ではありますが、これほどまでとは流石に想像していませんでした。
これほど平和な時代だと一周回って人々も血に飢え始めてくるということなのでしょうか。
そんなことを考えつつ、私は視聴者の皆様に今回の企画趣旨等を改めて説明しました。
「事前に告知した通り、本日は寝起きのクソ雑魚エヴァ様で遊んでいこうという企画になります。ちなみにSNS等は私が勝手に運用しているので、当然ではありますがエヴァ様はこれから起こることについて何一つ知りません」
『こいつ本当にメイドか?』
『じゃない方で済ますにはキャラが濃すぎるだろ』
『うちの姉に似てる』
『お前の姉ちゃん美人過ぎない?』
『kwsk』
「というわけでこの扉の奥でエヴァ様がすやすや中ですので、早速始めましょうか。ミーヤ、開けて良いですよ」
「は〜い!……っと、おはようございますエヴァ様!!」
蹴り飛ばすような勢いでミーヤがドアを開けると、エヴァ様と思わしき布団の膨らみがもぞもぞと動きます。
しかし数秒した後、「まだ眠い」とでも言いたげに動きを止める膨らみ。
私は布団を剥ぎ取りつつ、眩しそうに身体を丸めるエヴァ様にスマホのカメラを向けました。
「エヴァ様、カメラ回ってますよ」
「んん……あさからなにやってるのよぉ……」
『もう見るからに寝起きクソ雑魚じゃん』
『お目々とろとろで草』
『かわいい』
『自傷行為とか知らなそうな可愛さ』
「エヴァ様、今から質問コーナーをやろうと思うのですが」
「しつもん……?ん……いいわよ、こたえてあげる……」
「これで本人の許可も降りましたね」
『おお』
『おおじゃないが』
『こいつヤバくね?』
『人の心がなさすぎる』
『判断能力の欠落に当たるだろ』
いかにも眠そうにまぶたを擦りながらも身体を起こしたエヴァ様。
先程許可も取りましたし、これで完全に合意の上です。
私からの合図を確認し、ミーヤは事前に用意しておいた質問のリストを開き、質問コーナーが始まりました。
「え〜っと、まず1つ目!『身長と体重、スリーサイズを教えてください!』」
『これ初手ってマジ?』
『エロガキいる?』
「んっと……これ、これ、これのこれ、これ」
『うわ二進数だ!』
『教えてエロい人!』
『163cm、45kg、72-51-75』
『ありがとうエロい人!』
『マジで崖じゃん』
「……わたしだって、もうすこしほしかったぁ……みずぎで、ちゃんと、たにまできるくらい……」
『泣かないで』
『貧乳はステータスだよ、希少価値だよ』
『ちょっと男子〜!エヴァちゃん泣いちゃったじゃん〜!』
「ちなみにエヴァ様の妹は二人共相当なモノをお持ちです」
『追加攻撃した?』
『フレンドリーファイアありかよこれ』
「次、2つ目!『今までで一番怖かったことって何?』」
「こわかった、こわかった……んぁ、ぴあす、こわすぎてあけれてないの……」
『かわいい』
『かわいい』
『他もっと怖がるべきものあるだろ』
『というかマジで寝起きのエヴァ様ょぅι゛ょじゃん』
「それじゃ3つ目!『コスメってどの辺のやつ使ってますか?』」
「こすめぇ……?わたし、ちょっとあつめるけどあんまつかわないの、よね……」
『は?』
『ふざけんなよ』
『それすっぴん!?』
『遺伝子格差社会だろこれ』
『すみずみまでピンとメイクしてるの間違いではなく?』
『ほんまこいつ何?』
『視聴者手のひらくるくるで草』
「じゃあ次は次は……」
『もしかしてこいつメンタルリョナ狙ってる?』
『頬を赤らめるのを止めろ』
◇◇◇
「それでは皆様、おつエヴァでした」
「おつエヴァ〜!また来てね〜!」
「……んん……おつ、えゔぁぁ……」
『おつエヴァ!』
『おつエヴァ』
『おつエヴァ〜!次の配信も待ってます!』
こうしてかれこれ数十問、時間にして1時間弱、同接は最大で10万人を越し、寝起き凸質問コーナーは大盛況に終わり、さらにはかわいいかわいい寝起きエヴァ様の醜態に釣られた視聴者の皆様が新たに数万人ほど登録者に加わってくれました。
まあ終わった瞬間エヴァ様は二度寝モードに突入しましたが。
改めて考えてみると、片や自分の肉体を一切省みることなく強敵を蹂躙し尽くす不死身のバーサーカー、片やよわよわでざこざこな要素にまみれた世間知らずの箱入り娘、人は二面性に惹かれると聞いたことはありますが、これほどまでにエヴァ様がエンタメ向きとは。
それからしばらくして、Murmurerのトレンド上位に入った「エヴァ様」「グリーンデザート放送局」の文字を眺めながら、下の売店で買ってきた遅めの朝食を食べていると、エヴァ様の部屋の方から悲痛な叫びが聞こえてきました。
「ああもうっ……なんで!!私!!!死ねないのよ!!!!」
今日もエヴァ様は平常運転の御様子です。