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【お嬢様】10枠目【採用です】

『乙』

『おつエヴァでした!』

『おつエヴァ』

『配信お疲れ様でした!』

『次も待ってるで』

『顔に釣られたけど想像の15倍面白かったわ。おつエヴァ』

『おつエヴァ〜』

『おつエヴァ』



 しばらく労いのコメントが流れるのを眺めてから配信を閉じ、私は緊張が抜けてくのを感じながら背を伸ばした。



「リリィ、おぶって。私もう疲れたから」


「はあ、仕方ありませんね」



 リリィはそうため息を吐きながらもワイシャツの袖を捲り、スカートの裾に付いた雪を払ってから「どうぞ」と私の方に背を向けてしゃがむ。


 私が両手を伸ばしてリリィの背中に身体を預けると、彼女は「よっと」と軽く私を背負い上げた。


 ベスト越しに伝わるリリィの少し低い体温はやっぱり安心できて、緊張のほぐれもあって私は少しウトウトしてしまう。



「……こうして見ると、エヴァさんもやっぱり人の子なんですね」


「こう見えて意外と可愛いところもあるんですよ。甘えん坊だったり、寂しがりだったり……」


「りりぃ、そのはなしやめて」


「はいはい、わかりました。あと漢字力がお亡くなりになってます」


「えっうそ」


「あっほんとだ」


「えっうそ」



 私はほっぺをぺちぺちと叩いて、少し無理矢理ながらなんとか意識を引き戻す。


 ふと見上げると、先程までの猛吹雪は何処へやら、空は雲一つない、見渡す限りの晴れ模様。


 魔力核を取り除いたとはいえ、ダンジョンがこれほどまでに穏やかな姿を見せるのかと少し驚きながら、私は小さくあくびをした。



「エヴァ様、お疲れでしたら眠ってもらっても構いませんよ」


「安心して。眠くなったら許可もなく寝るから」


「ふふっ、ではそうしてください」



 そして出口の方へと案内してくれるミーヤの指示に従い、リリィの背に揺られながら、私達はこのダンジョンを後にした。



『汚染個体討伐を確認』


『魔力核回収を確認』


『ミーヤ・アンブライドルド、エヴァ・グリーンデザート、リリィ・グリーンデザート、以上3名の生存を確認』


『皆様のご協力に感謝致します』



◇◇◇



「いやそんなのそっちが確認するべきじゃないですか!!?防犯カメラでも何でもありますよ!!?」


「……んむぅ……」



 やっぱり眠っていたみたいで、ミーヤの車まで運ばれていた私は、ブチギレ気味な彼女の電話の声で目を覚ました。



「はぁ!!?そんなのこっちの台詞ですよ!!消化できてない有給も溜まってましたし!!ええ!!ええ!!!今までお世話になりました!!!!」



 勢いよく電話を切り、僅かに顔を赤くして肩で息をするミーヤ。


 「何の電話?」と尋ねると、彼女は「いや大したことじゃないですよ〜」と手をひらひらさせながら言った。



「別にちょっと仕事辞めただけなので〜」


「……えギルド辞めたの?」


「あ、そうですそうです〜。なんか不倫沙汰巻き込まれた挙げ句に擦り付けられそうになったので〜。帰ったらたっぷりと証拠やら退職届やら送りつけてやりま〜す」



 運転席に座るミーヤは「これだから田舎ってゴミなんですよね〜」なんて、口を手で押さえながら笑う。


 まあ、目は笑っていないどころか、何も知らなければ「人でも殺したの?」と聞きたくなるくらいにガッツリハイライトが消え失せているのだけれど。



「リリィ、これ大丈夫かしら」


「スカウトしたのエヴァ様じゃないですか」


「ぐうの音は出るわね」


「抵抗を試みないでください」



 その後しばらくは「あっはは〜」と少し無理をしたように笑っていた彼女だったけれど、徐々にその表情は固まっていき、ついでにテンションも下がっていく。


 そして神妙な面持ちになったミーヤは、静かに私の方へ視線を向けた。



「ええっと〜……長期雇用っていけます?」


「思ったよりも現実問題ね」


「よ〜く考えたらこの車のローンヤバくてですね……」


「もしかして貴女だいぶその場のノリで生きてきたタイプ?」


「あ、そうです〜。24年そんな感じで〜」


「それもう24歳児じゃない……って、何の話だったかしら」


「長期雇用ですエヴァ様」


「あ、それだわ」



 まあ理由とかがどうであれ、彼女くらいの才ある人間を長期的に囲い込めるというなら有り難い話。


 受付嬢っていう仕事も、資格さえ持っていればフリーランスでもいけた気がするし問題ないはず。



「そうよね、リリィ?」


「何がですか?」


「肝心な時に限って読んでないじゃない」


「メタ発言とか冷めるので良くないですよ」


「チョキが出るわよチョキが」


「ああよりにもよって殴るのに一番向いてない手を」


「こう使うのよ!」


「あ目はやめてください!不死身なのはエヴァ様だけなんですよ!?せっかくのカラコンが!」


「それカラコンだったんだ……」


「……って、こんな茶番より雇用の話よ」



 こうして我に返るも、延べ17年間上流階級で温室育ちだった私には中々そういう就職的な経験が無い。


 どうしたものかと頭を捻っていると妙案が浮かび、私はぽんと手を叩いた。



「採用面接をやるわよ」


「面接?」


「ええ。あまり詳しくないのだけど、こういう時ってそういうのをやるんでしょう?」


「急に箱入りお嬢様みたいなこと言い出しましたね」


「あ、私は採用してほしい側なので特に異論とかは〜……」


「んじゃ決まりね」



 というわけで封鎖されてる上にそもそも面接とか出来るわけ無い焼肉屋の代わりの場所探し。


 調べてみるとお誂え向きに近所にファミレスがあり、私達はそこへと移動することにした。



◇◇◇



「……っと、これで大丈夫ですか?」


「ええ、感謝するわ」



 ミーヤにはリリィに用意してもらった履歴書のテンプレートに書き込んでもらい、埋め終わったらしいそれを私は受け取った。



『氏名:ミーヤ・アンブライドルド』

『生年月日:大陸暦2831年10月18日』

『住所:テューダーミンストレル州サンインロー市サンドリッジ500-2 テューダーミンストレル官舎』

『血液型:AB-2F型』

『魔力配列:N2インディペンデンス』

『保有資格:特殊汚染域管理免許、甲種特殊汚染域立入許可証、漢検準一級』

『学歴・職歴:2844年4月、州立サーアイヴァー魔導学院高等学校入学(2850年3月卒業)。2850年4月、国立ヘイローギルドスクール入学(2855年3月卒業)。2855年4月、国防省入省、ギルド管理委員会オーエンテューダーギルド配属(2855年6月退省)』


「まさかこんな典型的エリート街道がド変態なんて……って、待って、官舎?官舎ってあれよね、寮みたいなやつ」


「そうですそうです〜!私この前入ったばっかなんですけど、まだ全然家具とか揃えてなくて〜」


「辞めるなら出ないとじゃない?そこ」


「……あ」



 気がついたらしいミーヤは口を開けたまま数秒停止する。


 年上のド変態の、そんな様子に少し笑ってしまいながら私は「じゃあ、それも含めてね」と話を切り出した。



「というかエヴァ様がミーヤをめちゃくちゃ欲しがってる局地的売り手市場なのに面接とか必要ですか?」


「……もしかして意味ないの?これ」


「バリないですね。奇関数の積分くらい」


「それ全く以て無意味じゃない」


「はい。というわけでその辺全部飛ばして待遇の話をしましょう」


「もしかしてエヴァさん主導権奪われてます?」


「ガッツリ奪われてるわね」



 そしてリリィは適当なメモ帳を取り出すと、私に「エヴァ様給料とかの相場って理解してます?」と問いかけてくる。


 私は手をひらひらと揺らしながら答えた。



「そんなの知ってるわけないじゃない。こちとら社会の荒波なんて縁もゆかりもない17歳児よ?」


「はぁ、そんなことを誇らしげに言わないでください。……それで、ミーヤの方から何か希望などは?」


「希望?ええっと、そうですね〜……車のローンが払えて、人並みの暮らしが出来たら良いな〜、くらい?」


「リリィ、人並みって私基準で大丈夫?」


「駄目ですね。エヴァ様人じゃないので」


「あそっち?」



 そして私を抜きにして色々と話を詰めていく二人。


 私がドリンクバーに行って、トイレに行って、それで二回目のドリンクバーから戻ってきた頃にはすでに話はまとまってしまったらしく、リリィは「こんな感じでどうですか?」とメモ書きを見せてきた。



「……これ、ウチに来ればもっと楽じゃない?」


「というと?」


「ほら、そうしたら生活費だってこっちで出せるし、活動も一緒にやりやすいでしょ?今回の特典で家も貰えるんだし」


「え、いや、そこまでしてもらうのは……」


「別に良いじゃない。私が好きに言ってるだし、嫌なら断ってもらっても構わないわ。でも……ふふっ、貴女となら何か楽しくやれそうじゃない」



 そう答えて彼女の反応を待っていると、ミーヤは静かに目をつぶって頷いた後、ぱあっと、満面の笑みを浮かべて「よろしくお願いします!」と私の手を握る。


 私もぎゅっと、その手を握り返した。



「……随分とミーヤが欲しかったみたいですね?エヴァ様」


「ええ。知ってるでしょ?リリィ。私、結構寂しがり屋だもの」



 こうして彼女、ミーヤ・アンブライドルドが配信と、それ以外諸々込みで仲間に加わった。

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