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第28話 言わせておけばいいから



 


 インスタグラムには鳴り止まない通知。


 

相楽(さがら)くん、どうしよう」


「俺もこんなこと初めてだから分からないな……。ひとまず、コメント頂いたのなら返していこう」


 

 そこからは大変だった。

 俺の家に帰って、麗鷲(うるわし)さんは何十件もくるコメントにひとつひとつの返信していた。

 幸いにも愛のあるコメントが多くて、悩みながらも嬉しそうに返す姿が印象的だった。


 

 それを俺は横から見ているだけではなかった。

 俺も麗鷲さんと同じく、来る件数は少ないもののインスタグラムのアカウントにDMが届いていたのだ。



 なぜなら、麗鷲さんが投稿した写真にぬい服の作成者として、俺のアカウントをタグ付けしてくれていたからだった。

 麗鷲さんが載せている写真は今回の『アスタリスク』の新衣装だけでなく、この前のお花見の写真などもあげていた。それにもタグ付けしてくれていたので、俺が衣装を作ったと認知されたみたいだ。


 

 俺に来るコメントは、ほとんど『販売していないんですか?』という内容だった。

 それに対して俺は、ただただ販売していない旨を返すしかできなかった。

 

 『ぜひ、販売をご検討してください!』との声を多数いただけるのは有り難いことだけれど。



 ひと通り、SNSでのやりとりが落ち着いてから、俺たちは晩ご飯を食べながら話していた。

 

 

「でも、ここまで伸びるのは何かきっかけがあるはずなんだろうけどてんちゃん分かる?」

 

「それは、舞鶴(まいづる)(みやび)って人がリポストしたからかもしれない」


 

 舞鶴雅さん、有名人だろうか。

 俺そういうの疎いから分からないんだけど誰だろう?

 麗鷲さんにその人のアカウントを見せてもらう。


 

「え! フォロワー3.4万?!」


 

 調べると舞鶴さんはtiktokを中心に活動しているインフルエンサーで、色々な活動をしているなかで、趣味としてぬい活もしているらしい。 

 まさかそんな有名人の目に留まるだなんて。


 

「これも相楽くんのぬい服がすごかったからだね!」


「いや、てんちゃんの撮った写真が良かったんだよ!」



 俺たちは互いに褒めあった。

 俺の作ったぬい服は、新曲の衣装ということでファンの求める熱量があったのはたしかにある。

 だけど、SNSでのバズは写真のクオリティあってのものだと俺は思う。

 麗鷲さんにはばにらちゃんへの愛があって、自分のぬいをよりかわいく見せるために写真を撮っていた。だからそれが見た人に刺さったのだ。

 


「相楽くん、これまで作った服もSNSにあげていかない? 私は相楽くんの服をもっとみんなに見てもらいたい」



「うん、そうだな……。少しずつあげてみようと思う、ありがとうてんちゃん」



 趣味だからっていって予防線を張って逃げてたんだ。

 本当は自分の作ったものは見て欲しかったのだ。そうじゃなかったら、SNSのアカウントなんて作っていない。

 

 麗鷲さんと出会ったおかげで自信がついてきたぞ。


 

 

 ◇


 

 

 休みが明けて、高校へと登校する。

 校門を抜けたところで声をかけられた。

 

「おう、相楽さん」


「おはよう、竹内くん」


 前に、移動教室終わりに話しかけてきてくれた二人のうちの一人だ。あれからちょくちょく俺に話しかけてくれている。


「ちょっと聞いたかよ」


「どうしたの?」


 竹内くんは声を潜めるようにいった。


「あの麗鷲さんに彼氏ができたかもしれないって話」


「え!?」


 そんな話は初耳だ。彼氏!?

 いつのまにそんな相手が出来たんだろう……。


 

「相楽さんなら詳しく知ってると思ったんだが、聞かされてないみたいだな」


「……うん。どこからそんな話が?」


「それがさ、この間の休みにめちゃくちゃかわいい格好をした麗鷲さんを見かけたってやつがいてよ。その隣にかっこいい男がいたらしいぜ」


 

 この間の休み……?


 

「その男ってどんな見た目なの?」


「おお、気になるようだな。まあ相楽さんが学校で麗鷲さんといる時間が1番長いもんな」


 噂話が好きな竹内くんは続ける。


「おおっと、どんな見た目かだったよな。なんでもジャケットスタイルでヘアスタイルも今風でかっちり決まったらしいぜ」


 やっぱり。それ、俺だ!!


「その相手きっと彼氏とかじゃないと思うんだけどなあ……」


 俺は噂話をそれとなく否定する。


「そう考えたい気持ちは分かるぜ。でもよ、麗鷲さんの表情も結構リラックスしてたらしくてそのお相手にだけ見せる姿っていうの? 見たやつがいうには、彼氏じゃなくてもありゃあただならぬ関係だったって話だ」


「は、はぁ……」


 すごく噂が一人歩きしているみたいだ。


「そう落ち込むなよ。でもその男かなりかっこよかったみたいだから、強敵登場って感じだよな?」


 

「そ、そうだね」


 

 とても自分とは言い出せない雰囲気だ!

 どうしたものかと思いながら教室へと向かった。

 


「てんちゃんごめん! あの日、俺が変な格好したせいだ!」

 


 お昼休みに麗鷲さんとお弁当を食べているときに、彼氏ができたのでは、と誤解をされてることについて伝えた。

 

 これまで俺は舎弟かお付きの人みたいな扱いだったから、出かけていても何にもなかったけれど、今回はなぜか変な噂が立ってしまった。


 

「謝らないで。みんなには言わせておけばいいから」

 

「そういう訳にはいかないよ。てんちゃんに迷惑かけてしまうし……。あの男は俺だっていって、付き合ってないってこともいおう!」


 

 そうすれば麗鷲さんに変な噂が立たなくなる。

 俺が付き添いしていたって、これまで通り思われるはずだ。


 

「それだけはだめ」


 麗鷲さんは鬼気迫るような顔でこちらに迫ってきた。

 どうして?!

 

「噂があった方が男避けになるから私としてはいいの。それにその男の人が相楽くんってことにみんなが気づいてないなら相楽くんに迷惑かからないからいいでしょう?」


 たしかに、俺に被害がなくて、麗鷲さんにとってもいいことなのであればそのままにしていてもいいか。


「だからもっと言わせておこう」


「え?」


 それだとなんかニュアンス変わってくるんじゃ……。

 まあ深い意味はないよな、とこの話は終わってこの間行ったコラボカフェでの思い出に話題は移っていった。



 



 

 放課後。麗鷲さんは今日は予定があるそうで帰っていった。

 ということは久しぶりに晩御飯は別ということか。

 

 何食べようかな、カップ麺だと麗鷲さんに怒られちゃうし……。カット野菜でも塩胡椒で炒めればいいか、と考えて気づく。

 

 俺の生活にかなり麗鷲さんがいるんだな。日々の予定や行動はもちろん、いない時でさえ麗鷲さんのことを頭に浮かべているなんて。

 こんなことになるなんて、高校一年の一人の春休みを過ごしていた時には想像もつかなかった。



「相楽さん、すんません」



 帰り道を歩いていたら道路から、ふと声がする。

 そこには麗鷲さんのお世話係である岩橋さんが立っていた。



「お、お久しぶりです。どうされたんですか……?」


 何度か顔を合わせているとはいえ、急に強面の人が現れると驚く。

 

「ちょっと乗ってくだせえ」


 岩橋さんは道路に停めていた黒塗りの車のドアを俺を招き入れるように開いた。

 なんだなんだ! 怖いけどこれって拒否権はないよね!


 

 そして、発進して向かう方向は俺の家に帰る道のりだった。

 送迎してくれるのかなと思ったら車は俺の家を通り過ぎて、荘厳な門構えの日本屋敷に入っていく。



 連れてこられた先は麗鷲さんの家だ。

 友達の家だから大丈夫か、なんて楽天的に考えられない。


 

 なぜならばここは麗鷲さんの家でありながら、極道一家である麗鷲組の総本家だ。


 

 車を降りて、屋敷へとあがる岩橋さんの後ろをついていく。

 辿り着いた先は、四枚の(ふすま)をぶちぬいて鷲が描かれた大きな部屋。


 

「カシラ、相楽さんを連れて参りました」


「おう、入んな」


 カシラって、まさか……。


 

「失礼します」


 

 襖を開けた先にいたのは、ひとりの御老公。部屋の奥、その中央に鎮座している。

 顔に深く刻まれた皺、身に纏う着物、そのどれもが凄みがありただならぬ雰囲気を放っていた。


 俺は岩橋さんに連れられて、目の前にある座布団に正座する。


 え! 岩橋さんどこいくの?! ひとりにしないで!!

 俺の心の叫びも虚しく岩橋さんは襖を閉めて出て行った。

 

 

「おめえ、相楽と言ったな」


「は、はい! 相楽(さがら)(そう)と申します!」


「俺ぁ、麗鷲(うるわし)一哲(いってつ)だ。この組長をやらしてもらってる」



 やっぱりこの方は組長さんだ。つまり麗鷲さんの祖父にあたる人。

 

 一体、俺になんの御用があるんだろうと、一哲さんの次の言葉を黙って待っていたら「前置きはいいか」と(こぼ)して一哲さんは口を開いた。


 

「随分とうちの孫娘を連れ回してるみてえじゃねえか。こいつぁ一体どういう了見だい?」



 ひぃ、生きて帰れる気がしないんですけど!!






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