第27話 相楽くんはずるいよ
今日は麗鷲さんとコラボカフェに行く日。
俺は、決まりの悪さを覚えながら一人で歩いていた。
「咲茉のやつ……、これで本当にいいのか?」
昨日の午前に実家から咲茉がきて、俺は色々と店を連れ回された。
なんでも俺が麗鷲さんと出かけるならしっかりとした格好をしなくてはいけないらしく、それの手伝いを嬉々として立候補してきたからである。
着せ替え人形になった俺は言われるがままに服を買った。
「ジャケットなんて初めて着るぞ」
そう、俺は今はジャケットスタイルに身を包んでいる。
制服は学ランで、外に出かけるときはパーカーだからジャケットを着る機会がない。
着慣れないから窮屈だなあ。サラリーマンはこんな服を毎日着ているのか?
かっちりした格好にむず痒さを覚えながら街を歩いていると、ちらちらと視線を向けられる。
それもどれも女性からの視線で居心地の悪さを感じる。
やっぱり似合ってないんだろうか。俺をみてる人がくすくすと内心笑っているんじゃないかという邪推してしまう。
「それともこの髪型のせい?」
髪型がいつも違って、今日はヘアアイロンやワックスでセットしてきている。
これも咲茉に教え込まれたものだ。ギャルなだけあってファッション関連に詳しい。
今朝、昨日のことを思い出しながら鏡の前で試行錯誤した。
昨日教えてくれていた時に、『そうちゃん手先だけは無駄に器用だね!』といっていたから安心していたんだけど、セット上手くいってないのか?
思い出したら手先だけとか、無駄にとか余計な言葉が多かった気がするんだが。
くう、まんまと口車に乗せられてしまったみたいだ。
俺は格好つけている自分を一旦思考の隅に追いやる。
「それに咲茉め、今日のことを散々『デート』だなんていいやがって。緊張するだろ」
ぬい活をデートと言われてしまっては、待ち合わせの場所に向かう足もどこか重くなる。
それにしても、麗鷲さんとは家が隣だからこれまでは迎えにきてくれていたけど、今回は待ち合わせだなんて。
待ち合わせに指定された駅前のフクロウのオブジェを探す。
「あった。……あれは」
すると、そのオブジェにはふりふりとした可愛らしい格好をした長身の女性が一人。その女性の前に男性が二人いて何やら話していた。
「ねえ、俺たちと遊びに行こうよ」
「は? 話しかけないで」
「そんなこと言わずにさ」
「消えて」
「ひっ……は、はい」
女性のすげない対応に男性二人は意気消沈してどこかへ行く。
「あんなかわいい格好してて、めっちゃおっかねえじゃん」
「ちびるかと思ったわ」
二人は相当怖い思いをしたみたいだ。
「あ、相楽くん!」
当事者の女性が、笑顔を向けてこっちに向かってとたたと走ってきた。
その表情の変わり様に、さっきの男たちが目を丸くしている。
「え、てんちゃん?!」
男性二人に絡まれていたかわいい格好をした女性は、麗鷲さんだった。
いつもだったから声をかけられなさそうなのに格好で話しかけてもいいと判断されたのかな。
「うん。この格好変じゃない?」
恥ずかしいそうに袖で顔を隠しながら尋ねる麗鷲さんを俺はまじまじと見つめていう。
「全然変じゃない! リボンタイのフリルのシャツが可愛らしいし、ふわっとした青色のスカート、それにごつめのシューズが合わさってて、最高だよ!」
「そんなに褒めてくれるんだね」
「本当にそう思うんだ。何度だって言わせてよ」
髪型も青のリボンでハーフツインに結んでいて、とても女の子らしくてかわいい。
そして、俺があげた水色のギンガムチェックのおでかけポーチを肩にかけている。ばっちりだ。
「久遠ちゃんの担当カラーである青を使った推し色コーデ、とってもかわいいね。いつもはかっこいい系で綺麗な印象だったから最初分からなかったよ」
「今日はコラボカフェに行くから挑戦してみたの」
ライブやコラボカフェといった特別な場所に行く日は、いつもと違った格好がしやすいのだろう。
「本当に似合ってるよ。普段からその格好でも全然良いと思う」
「……ありがとう」
ふわり、と麗鷲さんが笑顔をみせる。本当にかわいい。
俺はどぎまぎしながらじゃあ、行こうかと歩き出した。
コラボカフェに向かって歩いている最中、いつも以上に人に見られる気がする。
やっぱり麗鷲さんがこんなかわいい格好していたらめちゃくちゃ目立つよな。
「相楽くんも今日はいつもと違うんだね」
ああ……、自分の格好には触れられないように待ち合わせの場所から離れたというのに。
「俺もコラボカフェに行くからちょっとオシャレしてみた」
デートだからなんて口が裂けても言えない。
「とってもかっこいいと思うよ」
麗鷲さんに真剣な瞳で、そういわれるとどこか自信が出てくる。
「そう? 良かった、来る最中に見られてたからヤバいんじゃないのかと思って心配してたんだ」
俺の発言のあと、麗鷲さんが固まって周囲を見渡す。
それからゆっくりと口を開いた。
「相楽くんその格好、私といる時以外にしたらだめ」
「え?」
「分かった?」
有無を言わさぬ圧力に、俺は首を縦に振るだけだった。
やっぱり変だったんだろうか……。
こんなかわいい子と、変な格好をした奴がいればそりゃ一層注目を集めるか。
それからコラボカフェに到着した。
整列して予約の時間をまつ。そして受付を済ませて店内へと案内される。
店内は、『アスタリスク』の雰囲気をイメージして星が散りばめられている。壁紙にはそれぞれのメンバーの撮り下ろし写真があったり、撮影スペースには等身大パネルが置かれ、質の良いスピーカーからは楽曲が流れてる。
「すごいね相楽くん!」
いつも以上にテンションの高い麗鷲さんが、席につくなり話しかけてくる。
好きなもので気分が上がっている姿はかわいい。
「うん! アスタリスク一色だ」
この空間を作り上げるのは素直にすごいなと感心する。
コラボカフェに初めてきたけど、これはファンにはたまらないだろうな。
そしてメニューの注文を済ませて興奮冷めやらぬ中、料理が到着した。
「うわあ! かわいい!」
コラボカフェは店内装飾もすごいけれど、カフェというだけあってその真価はメニューにある。
アスタリスクの楽曲をイメージしたメニューに、メンバーカラーのドリンク。この空間に添えられたら料理が一層映えている。
頼んだメニューはやはり久遠さんのメニューで、テーブルが青に染まる。
麗鷲さんはポーチからばにらちゃんを取り出してパシャパシャと写真を撮る。
きっとここ以上にぬい活するのに適した場所はないだろう。
「楽しいね!」
目をきらきらとさせて喜ぶ麗鷲さんは、俺にとってどんなアイドルよりもかわいいと思った。
ファンの多いこの空間でそんな感想はどうかと思うので口に出さないけれど。
ある程度、写真を撮り終えて料理を食べ進める。
こんなにも映えるのに味も美味しいなんて、コラボカフェにハマること間違いなしだ。
料理を食べ終えたからといってそれで終わりじゃない。
「パネルと写真撮りに行こ」
テーブルの上だけでなく空間全てを楽しむのが醍醐味。
それからパネル前にできている列に並ぶ。自分たちの番が来たので麗鷲さんはばにらちゃんを掲げて写真を撮った。
「てんちゃんも撮るよ」
「え……私はいいよ」
「そんなかわいい格好してるんだし、せっかくだから撮ろう」
俺はいつになく強引に写真を撮る。こういうのは周りの視線なんて気にせずに撮った方が思い出になる。また来られるわけでないんだから。
それに、周り全員が同じものを推している人たちなんだから遠慮なんていらない。
「え! か、かわいい……? 分かった……」
等身大パネルに並ぶ麗鷲さんに、改めてアイドル顔負けのスタイルとかわいいさなんだなと気付かされる。
「相楽くん撮ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
撮れた写真を見て微笑む麗鷲さんを見て、やっぱり撮って良かったと思った。
「すみません、お姉さん久遠ちゃん推しですか?」
他のお客さんに声かけられた。麗鷲さんは戸惑いながらも答える。
「そうです」
「やっぱり、そうですよね?! お姉さんの推し色コーデめっちゃかわいいって思ってたんです!」
「あ、……ありがとうございます」
初対面の人に真正面から褒められて麗鷲さんは照れているようだった。
コラボカフェではファンが集まるのでこうして話しかけられるのも、ままあるようだった。
それからも二人は少しの間話していた。最初はたどたどしかった麗鷲さんも好きなものを話すことで打ち解けていた。
他のカフェでは名前を出したら恐れられていたのに、こうして交流ができるなんて、見ている俺まで嬉しくなる。
「私のぬいと一緒に写真撮ってくれませんか?」
「良いですよ。撮りましょう」
そして、お互いのぬい同士で合わせて写真を撮っている様子に微笑ましくなる。良い場所だなここは。
話しかけてきた方が持っていのはメンバーを模したぬいだった。
「あの、ばにらちゃんのぬい服って新曲のですよね?! めっちゃ素敵です。お姉さんが作ったんですか?」
「私が作ったんじゃなくて、彼が作ってくれたんです」
「ええ、彼氏さんがですか?! すごいです!」
思わぬキラーパスに俺は面を食らう。
彼って言ったのを勘違いしているみたいだ・
「あの、彼氏では……」
「クリエイターさんってすごいです! こちらのぬい服は販売されてないんですか?」
この人、結構ぐいぐい来るなぁ!
「いいえ、販売などはしてません。趣味で作っているだけので……」
「ええ、それはもったいないですよ! ネットで売ってたり、即売会があれば私絶対買いますよ! 今後その予定はないんですか?」
「今ところそういうのは考えていなくて」
「はあ……残念です」
こんなにも絶賛してもらえて嬉しいな。
「すみません、話しすぎましたね」
それでは! と彼女は勢いよく去っていった。
慌ただしい人だったけど良い人だ。
あ、俺が彼氏というのを否定できないままだったな……。
◇
「コラボカフェ楽しかったね。予約してくれてありがとう」
帰り道、俺たちは顔を綻ばせながら歩いていた。
「一緒に行けて俺も楽しかったよ」
事前に楽曲を聴いたりライブ鑑賞をしていたおかげで俺も楽しめた。
またこういう機会があれば行きたいなと思えるくらいだ。
「相楽くんのぬい服とっても褒めてもらえたね」
「ああ、驚いたよ」
あれからも、ファンの人たちに話しかけられて、その度にぬい服に対する称賛があった。
「前にも言ったでしょ。相楽くんはすごいんだって」
趣味で作っていた服がここまで褒めて貰えるなんて思いもしなかった。
「俺だけじゃなくて、てんちゃんもみんなかわいいって言ってたよね」
「うん……ちょっと、いや、かなり恥ずかしかった」
麗鷲さんが頬を赤く染める。
麗鷲さんはあれから他の推し色コーデをしている人とも合わせて写真を撮ったりしていた。
「沢山褒めてもらえて嬉しかった。けど、まんまと相楽くんに乗せられちゃったな」
隣を歩く俺の顔を麗鷲さんがいたずらっぽく覗き込む。
「バレてたんだ」
「うん。私が前にこんな風なの着てみたいなって言ったからぬい服を作ってくれたんだよね?」
そうだ。てんちゃんはばにらちゃんと一緒のことをしたがるということに俺は気づいていた。
ばにらちゃんを洗った時は自分もお風呂に入ろうとしたり、ばにらちゃん用の着物作った時は自分も着物を着てお花見をしたり。
だから、自分に似合わないと思って躊躇している麗鷲さんだったけど、かわいい衣装をばにらちゃんに着せたら、彼女も着たくなるかなって思ったんだ。
「私のために背中押してくれてありがとうね」
「ううん。てんちゃんだけのためじゃないよ。俺のためでもあるんだ」
「どういうこと?」
麗鷲さんが小首をかしげる。ハーフツインにした銀髪がさらりと揺れる。
「俺が、かわいいてんちゃんを見たかったから」
これは顔の強い女の子が、かわいい服を着てるところが見たいという身勝手な自分の欲望だ。褒められるようなものじゃない。
それに、最終的に着ようと決断したのは彼女なんだから。
「本当、相楽くんはずるいよ」
麗鷲さんはそっぽを向いていた。けれど耳が赤い。
小っ恥ずかしいことを言った俺も赤くなっていることだろう。
それから黙ったまま歩く俺たちだったが、麗鷲さんがスマホを見て「え!」と目を丸くする。
「どうしたの?」
「こ、これ」
麗鷲さんが見せてくれたのは、彼女のインスタグラムのアカウント。
先ほどの、コラボカフェでのぬいの写真をアップしていたみたいだ。
この写真が一体どうしたんだろう?
『ぬい服かわいいです!』
『クオリティたっか』
『どこで売ってるんですか?!』
その写真に、いいねがみるみるうちに増えていて、コメントも沢山飛んできている。
「相楽くんが作ってくれたぬい服、バズっちゃったかも……」
「ええええええ?!」




