第26話 ねえ相楽くん。そんなことないよね? 天side
今日は相楽くんから『中間テストが明けたら、一緒に出かけない?』と誘われて、やっと迎えたデートの日。
部屋の姿見で自分の姿を確認する。
「ばっちり決まってる」
メッシュのニットトップスにレザーのミニスカートを合わせた隙のないコーディネート。
私はデートで着る服は戦闘服だと思っている。
極道一家で育ち、スーツや袴姿を着た男ばかりをみてきた。
正装に包まれた気合いが入った大人はかっこいいという感覚がどこかにある。
だから私もここぞという時はこうしたかっこいい服か、着物を着る。
顔がキツく、背が高い私に似合っているというのもあるけれど。
それから相楽くんの家まで迎えに行く。
「おはようてんちゃん。行こうか」
チャイムを押して出てきた相楽くんは、パーカーにチノパンとラフで力が抜けている服装。
相楽くん、今日もかわいい。
それから街へ出て二人で歩いていると、歓楽街へ差し掛かった。
「今はどこに向かっているの?」
「もうすぐつくよ」
見渡すと夜のお店や居酒屋、それにホテルが立ち並ぶ。
相楽くんって大胆なんだね。それでも相楽くんになら……。
悶々としていたら、相楽くんにとある雑居ビルの一室に連れられた。
そのさきに待つ光景は想像と違っていた。
相楽くんが連れてきてくれたのは推し活ショップだった。
うん、そうだよね。相楽くんがいきなりそんなところ連れてくるわけない。
ここもネットで見ていて来たかったお店だ。舞い上がって気づかなかったなんて。
相楽くんなにか買いたいものあるのかな?
「今日はてんちゃんに、おでかけポーチをプレゼントしたくてきたんだ!」
なんと、私にプレゼントをしてくれるために連れて来てくれたのだという。
相楽くんと出会ったとき、ばにらちゃんを落としたことを未だに考えてくれていて心配してくれたことに私は喜びを隠せなかった。
おでかけポーチについて楽しそうに話す相楽くんが微笑ましい。
勢いよくポーチを体にかけて実演して見せるのもかわいい。
相楽くんが好きなものを目を輝かせて話すこの顔が私は好きだ。
声が弾んでいて、いくらだって聞いていられる。
うーん、ポーチなににしようかな。
私が気にいるポーチとのことだけど様々な種類のポーチがあってどれもいい。
「この水色のギンガムチェックのデザインがいいんじゃないかな」
驚いて胸がきゅんと締め付けられる。だって、相楽くんが選んだそれは私もいいなって思っていたものだったから。
相楽くんとはかなり気が合う。ぬいが好きだったり、ご飯の味付けだったり、このポーチだったり。
相性がいいのかな、なんてひとり嬉しくなる。
「じゃあ、それにする」
相楽くんは私だけでなく自分のポーチも買っていて、デザインは違うけどお揃いでのものをかけて歩くのは楽しい。
ふと、視界に入ったのは高校生ぐらいの二人組の女の子。
「あの人たちの推し色コーデかわいい」
思わず口にしていた。
「てんちゃんも着たらかわいいと思うよ?」
「か、かわいい?!」
私があの子達みたいなフリルが多くついてる可愛らしい服を着たら、かわいいって相楽くんはいってくれるの?
「てんちゃんはお人形さんみたいに顔が整ってるから、ふりふりでかわいいのも良いと思う」
「お人形さんみたい?!」
もう、さらっとそんなこというのずるいよ。
からかっているわけじゃないみたい。
だけど、みんなから恐れられるようなこの顔。
自分がああいう服を着ることを想像することすら放棄する。
「あんなにかわいらしいのなんて、私には似合わない」
◇
「相楽くん、今日はなにが良い?」
「そうだなぁ。たくさん歩いたから元気出るやつとかどうかな?」
「疲労回復なら豚肉だね」
「あ、それいいね!」
私と相楽くんはお出かけの後、相楽くんの家でライブ鑑賞会があるので、スーパーで献立を決めながら食材を買っていた。
こういうお店には相楽くんに料理を作るようになってからくるようになった。なぜなら、家では自分で買い出しに行かなくても組員が買ってきてくれるから。
だからこうして相楽くんと回るの新鮮だ。それに一緒に暮らしてるって感じがとってもする。
家について、料理を作り終えて相楽くんと一緒に食卓を囲む。
もともと気に入っていたこの時間が、最近ではもっとお気に入りになった。
だって相楽くんのお家に、私専用のお茶碗とお箸があるのだから。
これは、私が夜に料理を作りにきた日に相楽くんが買って用意してくれていたもの。
「そんな大したものじゃないよ」という彼のいうとおり名品ではないけれど、どんな巨匠が作った名品より、どんなに値段がつくものよりも、私にとってかけがえのない大切なもの。
彼の生活の中に私がいて、私の生活の中に彼がいる、そんな日々が嬉しい。
ご飯中にちょっとしたハプニングがあってシャワーを借りて脱衣所にいた。
体を拭いて下着を身につける。
目の前には用意されている相楽くんのパジャマ。それを抱き抱えて顔を埋める。すううっと深呼吸をして匂いを嗅ぐ。
はあはあ、良い匂い……!
相楽くんの匂いを堪能してから、ようやく着替える。
ちょっと胸とかお尻あたりがきついけど、この締め付けが相楽くんに抱きしめられるみたいで心地良い。
◇
ライブ鑑賞会を終えてから相楽くんがちょっと怪しい。
初めは、クマができて寝不足で心配だったのだけど、それがここ最近ずっと続いている。
相楽くんは授業中にはぼーっとしていることが多くなった。
「相楽、おい相楽、聞いているのか?」
「ん、……あ、はい!」
「この答えは分かるか?」
ええっと、と勢いよく立ち上がった後、悩む相楽くんを見て、私はノート隅っこに答えを書いて助け舟を出す。
それで、なんとか答えた彼は「ありがとう」と小さくお礼をいって座った。
それからなにか思いついた様子でノートにがりがりと何かを書いている。
ぼーっとしているようで、今みたいに急に思いたったようにスイッチが入ることがある。どうしたんだろう。
ご飯を食べ終えて私が家を出てすぐのこと、部屋の窓からうっすらとアスタリスクの曲が聞こえてきた。
おすすめしたPVをみているのかもしれない……。
ズキっ、と胸が痛む。
相楽くんが久遠ちゃんのことを綺麗といってから、胸がちょっと痛い。
歌声って後から付け足していけど絶対あれは誤魔化してた。
でも本当になるのがちょっと怖いから誤魔化されてあげる。
芸能人を綺麗というのは別に普通だ。全然、悪いことじゃない。
それに推しを褒めてもらえて嬉しいのに、どうしてこんなことを考えてしまうのだろう。
相楽くんと私は相性がよくて好みが似ているから、推しが一緒になるのも頷ける。
アイドルにハマりすぎて、私のことが眼中になくなるのは嫌だな。最近は寝不足みたいだし。
はっ、健全な男子高校生が女の子のアイドルをみて夜な夜なしていることって……!
ねえ相楽くん。そんなことないよね?
ある日、私は思い切って尋ねた。
「久遠ちゃんのこと好きになっちゃったんでしょ?!」
だけどそれは私の大きな勘違いだった。相楽くんは私のためにぬい服を作ってくれていたんだ。
そして、サプライズはもうひとつ。コラボカフェに一緒に行けるように予約まで取ってくれていた!
SNSでは予約が取れないって声が上がってるのに……、相楽くんはどこまで優しいんだろう。
家に帰ってから、部屋で私はばにらちゃんに、ぬい服を着せる。
「かわいいねえ、いい服着せてもらえて嬉しいねえ」
想像以上にかわいくてサイズもばっちりで、PVの衣装がぬい服に落とし込まれて語彙力がなくなるほど感動した。
たくさんなでなでして、何枚も写真を撮る。
こんなにもかわいい服をばにらちゃんに着せてコラボカフェに行くなんて楽しみすぎる。
家の背景とは違って装飾された店内に、メンバーをモチーフにしたメニュー。
そこに新衣装を着たばにらちゃんをポーチに入れて連れて行く。
そして私が写真を撮っていて、それを相楽くんがみてくれていて、これ以上ない完璧なぬい活だ。
……完璧? 果たしてそうだろうか、と私の思考は立ち止まる。
なにかノイズのようなものが、完璧を遠ざけているように感じた。
コラボカフェは今週末。まだ時間はある。
だから私はある決断をした。




