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カセットとギターと魔王

作者: コンちゃん

あれは確か、大学3年の秋頃――

部活を辞め、心穏やかな自由人ライフを満喫していた、そんな季節のことです。


当時の僕はというと、下宿で一人、ギターをポロンポロンつま弾きながら、カセットテープにせっせと録音していたんですね。

……え、カセットテープって何かって?

それはもう、音楽業界の化石、アナログの象徴、クルクル巻くと指が痛くなるアレですよ。若者よ、ググるがよい!


で、これがまた自分の性格の問題なんですが、録音が終わると、もういてもたってもいられなくなるんですよ。

**「誰かに聴いてほしい!いや、聴かせねばならぬ!」**という謎の使命感に駆られてしまうんです。

だって、せっかく録ったんだもん。

人類に共有しなきゃ、ってなるじゃないですか。


でも当時の僕のギターの腕前なんて、それはもう、“音楽”というより“音の事故”。

コード進行というより“事故進行”。

聴く人を眠りに誘うどころか、恐怖で目を覚まさせるレベルだったわけです。


それでも、聴いてほしい。

このジレンマ。


で、ある日ついに僕は気づいてしまったんです。


「……これは待っててもダメだ。**受け身じゃ音は届かない!**こちらから攻めていかねば!」


そう決心した僕が取った行動、それは――


**「強制試聴」**です。


ウォークマン(これまた若者に伝わりにくいですが、昔のポータブル音楽プレーヤー)にイヤホンをつなぎ、それを友人の耳に背後からそっと(いや、かなり強引に)差し込むという、ゲリラ的試聴テロを始めたのです。


友人たちは当然、全力で嫌がりました。

「おい、またあいつが来たぞ!」と避けられ、教室移動の時はみんな僕の後ろを歩くようになりました。


そう、僕がイヤホンを差し込めないように。


……悲しいかな、ギターの音より人間関係の方が壊れそうになってきました。


しかし、そんな強制ギター拷問活動に夢中だったある日――

事件は起きてしまうのです。


場所は、我が大学の中でも屈指の古くて不気味な階段教室。

天井が高く、やたらと薄暗い。100人は入るその教室には、当時の学生の誰もが震え上がる“工業数学”の授業がありました。

しかも担当は、鬼畜な単位ハンター教授。

出席しても、課題出しても、テストが良くても単位くれない。まさに教育界の魔王です。


そんな授業中、僕の前の席にいた友人が、机に突っ伏して爆睡していました。

さすがに僕も「これはヤバい」と思いました。


このままじゃ、魔王に目をつけられて単位どころか魂を取られる!


そこで、僕はひらめいたのです。


「あ、そうだ。**僕のギターで起こしてやろう!**目覚まし時計がわりにちょうどいいじゃん!」


そう思った僕は、そっとイヤホンを彼の耳に装着し、ボリュームを……グイッとMAXに。

そして再生ボタン、オン!


次の瞬間、


「うわあああああああああ!!!」


と、彼は爆音の中で目覚め、魂の悲鳴を上げました。

教室中が凍りつき、教授の眼鏡がキラリと光り、僕は静かに席の下に沈みました。


……その日以来、僕は「音の刺客」として恐れられ、、、

そして、「二度とギターを目覚ましに使ってはならぬ」**という教訓を胸に刻むことになったのでした。


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