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3 早撃ちガンマン

承前 一夜の過ち、でしたか? 2 ワタシ美香ちゃん

「黙れ――と、済まん、こういうのは、聞かなくて良いから、でもないな、つまり、その、頼んで良いか? つまり、何というか……」

「美香に? 駄目だよ」

「いや、勿論嫌なら構わない。嫌なことは、全然しないで欲しいんだ」

「うん、高瀬君? も、嫌なの。ほんとは。でもね、嫌だって思っても、するでしょ? 嫌嫌嫌って、頑張るけど、ぐだぐだになっちゃうの。だから、美香駄目。頼む? とか? は、ごめんね、高瀬君に成る迄待ってて」

「ちょ、そっちこそ莫迦じゃないか。って、何が如何なって、高瀬さん、美香ちゃん、って、も、とにかく、聞いて、聞いて。俺の声だけ聞いて。あっちの莫迦と違って泣かせたくなんかないから。ほんと聞くなって、あの莫迦放っとこうよ。俺嫌い? 好きって、高瀬さん、大好き」

「ごめんね」

「じゃないって、違った、美香ちゃん、大好き愛してる」

「美香だよ?」

「そう、美香ちゃん」

「ぐだぐだで――」

「だからエロい、じゃなくて、でもないけど、エロ可愛い、って、エロ抜け俺。可愛い可愛い美香ちゃんが好き」

「好き好き言っちゃうの」

「言っちゃって言っちゃって。好き好き言っちゃう美香ちゃんが好き」

「うん、美香好きなの。我慢全然出来なくて」

「我慢なんて誰がすんの? 俺も大好き。好き好き好きって好きな娘に言うのめちゃ大好き」

「頼むのとか、美香駄目なの。高瀬さん、は頑張るけど、でも、美香、頼む? に、成っちゃう。お願いばっかり」

「お願い? もー、おねだりなんかしてくれたら最高。しない? って、悪いの、やっぱあっちじゃないか。あんた、責任取れなんて絶対言わないけど、説明、も、もう良いや。そのまんま、死んでて。美香ちゃん、さ。起きない? ってか、俺、このまんま、だっこして運んじゃって良い?」

「打ち首八つ裂き張り付け火炙りの刑に処す」

「死んでて、って、課長、今何言いました」

「要約すれば地獄へ堕ちろ、だ」

「……喧嘩嫌」

「済まん」

「泣くどころじゃないですよ、課長、俺脅すのは全然構いませんけど、高瀬さんが。俺等のは後なんでしょ。俺だって、やる気満々ですけど、後廻し。ちょぉっと、これから俺等――」

「やらせるかよ――って済まん。済まない悪い」

「マジで課長――」

「いや、済まない……」

「や、その、とにかく吼えてないで」

 吼える? 呻くって方じゃないかな。どっちだって嫌な音。好き好きって方も、嫌な感じに成っちゃった。美香だし。慣れてるけど、もっと嫌な声に慣れてるけど。でも、嫌。

「とにかくするな、やるな」

「や、とにかくって、そりゃ、美香ちゃんの――」

「でも、やるな。だから、つまり、だな」

 うん、聞き取るっての、できるよ。でも、辛いとか、そういうの、嫌なの。解らない方が良い。

「とんでもないこと、いや、高瀬君は全然全く断然悪くないんだが、だが、つまり、」

「課長?」

「済まん、その、美香ちゃん?」

 解るよ。優しい声。聞きたいのは、そういうの。でも、高瀬君みたい。頑張って、気遣って。辛いの、隠して。そういうのは、嫌。

「つまり、何だ、つまり、起きないか?」

「美香嫌って――」

「てのじゃない。本当に全く。唯……今、俺は、怖がらせてるよな、怖がらせたくないんだ、だから……」

「起きるの? 怖いの、高瀬君より、美香の方が慣れてるよ」

 喉奥で堪えたような、音、なのに、しっかり聞こえた。

「課長、えっと、課長ひとり帰れば済むって――」

「済むか。お前が、って、つまり、つまり、悪い、その、美香ちゃん、俺達、内緒話、して良いか」

 あ、悦いな、と、感じたと思ったのに。

「だからどさくさ紛れにそういうことするの、ほんと止めてくれません」

「お前で良い。いや、美香ちゃん、お願いして良いか、ちょっとの間耳、塞いでてくれないか」

「うーん?」

「嫌か。嫌だよな、嫌で当然だ。いや済まん」

「触るの嫌?」

「いや、高瀬君が」

「嫌?」

「いやだから高瀬、美香ちゃんが嫌ならしないから」

「美香好きだよ。くすぐったいってより、もっと、そっと? びっくりした。気持ち好い。お願いして良い? 好き。今の、好き」

「あんた」

「お前やれ」

「あ?」

「やって良いから、説明ってのをさせてくれ。美香ちゃん、本当に済まない。怖がらせたくないんだ、だから、少しだけ、怖い話になっちまう間だけ、聞かないでいてくれないか」

「怖いの嫌」

「悪い」

「今の、してくれる?」

「……課長マジ?」

「マジだ」

「耳塞ぐ? って、俺、それじゃ収まりませんけど」

「収まる。から、とにかく、耳だけ、塞いどけ」

「……や、解りました、から。え、と、高瀬さん、良い?」

「高瀬さんもきっと好き」

 うん、好きだな。髪が掛かっていたから、先に耳に掛けてくれる、その指が優しい。可怪しいな、後なのに。あれ、またするんだっけ? でも、する前だって、こんなの無かった、かな? 温かい。ふんわり。聞き取れないけど、寒いなって、右の耳は自分でぴたってくっつけられるけど、左の耳はふわっとしてるから、それぐらいは聞こえるのに、被さってきた掌はあったかい。ちょっと、きつくなった。けど、やっぱり温かい。ふんわりの方が好き。けど、うん、ちょっと聞こえてた声より、こっちの方が好い、のに。

「聞いたことないか? いや、あれは物語で現実じゃなかった、か? でも、とにかく……」

 如何しよう。ズレちゃった、のに、気付いてないのかな。言った方が良いのかな。自分の手でする? この手の方が好いなぁ。声が聞こえてくるから、もっと、この手を放したくないって、そう思っちゃう。駄目かな。

「や、だって、そんな、こと……」

 気付いてないよね? 怖い声。あったかいのに。掌こんなにあったかいのに、冷たい、凍った、声。だから、ズレちゃった? だから気付いてない。言わなきゃ。でも、怖い声出してないのに、声が無いのに、怖いって、そういうのが、聞こえる。

「……本当に人格分裂しているかなんてのは、あり得るかも俺は解らないし、そうだとも言っていない。けどな、とんでもなく高瀬君が、セックス嫌がってる、なんてな言葉じゃ追い付かない程に思っているなら、あり得るだろう?」

「だって、それって、だって、それ、強姦とか、あと何でしたっけ、性的何とかって――」

「解らないと言っているだろうが。過去にとんでもない目に遭っちまったのかもしれないが、単純に潔癖だとかの性分だって程度って、何処が単純で程度だ、じゃなくて、趣旨は解ったな」

「自分が……セックスしてるのを……認められない? そういう……その、嫌悪?」

「繰り返すが解らない。唯、目はある。忌避することを強いられている状況を否認する為に、これは自分が行っていることじゃない、とかな、軽いのなら、普通にやるだろう? 汚い遣り口するときなら、個人名じゃなくて、会社名でいく。こんなことをしているのは自分じゃなくて社畜なんだってな」

 聞こえてるって、言いたいのに。けど、違う、も、違くない、も、冷たい空気に出すのが怖くなる。冷たい空気が入ってくるのが嫌だから、開けた口を閉じる。耳も塞いでくれたら良いのに。

 眼は開けない。えっちしてるときは、その方が感じるし。明るいのも嫌いじゃないけど、感じたいときは、眼は閉じて感じるって感じるのが好き。

 今も開けたくない。だって、ほんとに気持ち好い。するの、大好きだけど、こういうのも、好きなんだな、って、感じてる、から、もっとこの儘でいたいな。駄目かな。空気は冷たいけど。掌はあったかい。自分の、頬とか手とかは、ずっとあったかい。肩とか背とかもずっとあったかい。えっちしてないのに。眠っていないの解ってるのに。寒くないのに。

「しませんよ」

 高瀬さんは知ってる。調子が良い声を窘めたことだってある。でも、威勢が良過ぎるってぐらいの声が周りを明るく感化する、力ある声だって、高瀬さんだって知ってた。力無く断言する声を聞いたら誰って思う。

「まぁ、お前はな」

 高瀬君は、知ってる。開け広げた笑い方をする人じゃないって。でも、作った皮肉の効きが強過ぎて隠される、他を嘲笑するのではない笑いだって気付いてからは、その密かな笑いを愉しんだ。こんな嗤い方聞いたら、聞き分けるのが巧いなんて、絶対思えない。

「けど、打ち首……あと何でしたっけ」

「斬首獄門四肢裂き焚刑だ。足りねぇが。言っとくが、俺と、お前が、だぞ」

「解ってます。拷問付けたって俺だって足りない。そんな目遭わせた奴なんて」

「先走るな。解らないと言っているだろう」

「でも、嫌だって冗談越えてだいっきらいで嫌だってことでしょう? 美香ちゃんだって、高瀬さんじゃないって、高瀬さんなら、好きだなんて、絶対言わない絶対反対だって」

 うん、そこは、嬉しい、かな。頑張ってるの、そう、ちゃんとしてるのをちゃんと見てくれてる。なのに。

「解らないと言っている。希望なら、俺の全くの妄想が良い。笑い飛ばしてぇよ。唯な、万分の一だって目があるなら、見逃せない」

「そりゃ。でも、でも、アリだってのは何となく解る。けど、でも、アリですか? 俺、そりゃ、さっきの俺なら強姦だってしちゃいましたよ、はっきりしないでいられたって自信全然無い。でも、高瀬さん、美香ちゃん、エロかった。じゃなかった、エロかったけど、すけべだった、じゃなくて、じゃなくて、気持ち悦さそう、じゃなくて、じゃなくなかったけど、えぇっと、えぇっとだから、」

「可愛かったな」

「そうっ。すっごく可愛かった。あんた泣かせたいとか言ってたけど、俺、そんなの冗談じゃない。そりゃ、それでもやっちゃいましたよ、きっと。でも、それだけだったら、後悔しかしてない。俺がごめんごめんで、好きだなんて言ってられない。って、それだ、好きだって、するの好きって、あんなに可愛く好きって、そんなの、嫌だ御免だ冗談じゃないって、本心思っててやれるのアリだなんて思えない」

「反動って目もある。それに、いや、これは措いて――」

「半端にぶっちゃけるの、止めて下さい。マジこれ、正念場ってとこでしょ。切片コレって最低人間でも、あんなに笑うってか笑うし笑ってるみたいって、それだ、愉しそうって、愉しいことしてるって、アレが嘘もんなら、俺だって嫌ですよ、って俺が嫌だってのを措いといて、嫌ってことも隠して? そんなことさせたい最低の最低じゃないっ」

「エキサイトの方を措いておけ。防音壁完備の室内で密談してんじゃねぇんだよ」

「ってか、俺等なんでこんなとこいるんすか」

「俺達が獣だからだ。密談にだって向かねぇが、高――っ莫迦野郎っはっ違うっ莫迦はこっちだ、高瀬君、今のはこの莫迦に言って」

「あ? って、あ……」

「……遅ぇよ、早漏のくせして」

「回数無しの妬みにしか聞こえませんって、って、って、え、と、高瀬さん」

「うん、気持ち悦いよ」

「って、って、」

「なでなで? 耳は好き。噛まれるの好きだけど、敏感過ぎる所為? ほんと痛いってときあるし、痛いの、ちょとなら、びくんって悦いけど、でも、こういうの、優しいの、好きなんだけど、やっぱり駄目?」

「う、う、うぅ」

「つまりはこういうときの為だ。高瀬、美香ちゃん、ちょっと手加減してくれ」

「駄目?」

「美香ちゃんは全くまるで悪くないんだがな、まるっきり駄目じゃないのが困るんだ」

「困らせるの嫌」

「良い子だ」

 うん、褒められたら、やっぱり嬉しい。でも。

「嫌だけど」

「美香ちゃんが嫌だって思うことは、絶対しないで欲しいんだ」

「美香もしたくない。けど、けど、駄目? もうちょっと、ちょっとだけ……」

 さっきの手を真似てみる。そっと。きっと(ためら)ってた、って、自分の頬を動かして解る。大丈夫って思うと、二度目の手。それでも、おずおずってなる。良い? 大丈夫? そう訊いてくる手を思い出して頬でそぉっと撫でるように。うん、好きだな。ぴたってくっつくのも好きだけど、こういうの、優しい感じ、悦いよ。

「もうちょっとだけ、駄目?」

「……姫の御希望は、ちょっと、だ」

「……俺、今、何処いるんすか。地獄? 天国?」

「煉獄で判決待ちってところだが、ちょっと越えたら神様の出待ちなんて俺が待ってねぇって刻んどけ」

「あんたに言われる迄無い」

「喧嘩嫌」

「だ、な」

「ごめんね、困らせるの嫌だけど」

「困ってない困ってない。もー、これ、天国。昇天したいってのが地獄で」

「困ってる」

「無い無い。ねぇ、美香ちゃん、ほんとに好き? こういうの、ほんとは嫌いってっことない?」

「おい」

「うーん?」

 ちょっとだけ、だけど、触れてるかなって感じが触れてるって感じになった。

「ちょっと、くすぐったい? もっと、もう、ちょっとだけど、もうちょっとだけ? して欲しいって、思っちゃうから、駄目だけど、でも、もうちょっとは、駄目?」

 痛?

「美香、気持ち悦ーよ?」

「加減が効かない莫迦がいるからな。なぁ、美香ちゃん」

「ごめんね」

「謝らないで――いや、もしかして、もう、癖か? 謝る方が楽なら謝ってくれたって良いが、美香ちゃん、全然ごめんってところ、無いぞ」

「癖? 性癖?」

 止まっちゃった。けど、あったかいし。これも悦いな。

「うん、そういうの。好きで困らせる奴? 困らせても、好きなこと、したいって、ごめんね、でも、もうちょっと、駄目? だから美香駄目だけど、でも、もうちょっと? 美香えっち好きだけど、気持ち悦いの大好きだけど、こういうふわふわ気持ち悦いのも悦いって、悦いよね、好いなぁって、ほんと好きなの」

「……高瀬君、」

「駄目だって解ってるから、高瀬君は頑張るけど、けど、美香駄目? もうちょっと、高瀬君で頑張るの、ちょっとだけ、待っちゃ駄目?」

「高瀬さん」

「美香嫌?」

「嫌じゃないっ。もー我慢なんか効くか、美香ちゃんずばり訊くけど、ヤるの嫌だ――」

「黙――」

「あんたが黙れってか理屈が黙れ」

「喧嘩嫌」

「嫌でもごめん、俺信じらんない、そりゃ俺の願望だけど、けど、ヤったばっかで、あっちの数ナシと違って未だ全然射てるってってか発射寸前。無駄弾出したくないから堪えてるけど、もうちょっと美香ちゃん引き寄せてこっちの頭美香ちゃんの頭につんつんしちゃうぐらいはって俺の膝乗っててってとき――」

 つんつんじゃなくて、がきって音がしたんだけど。

「だから理屈は――」

「抜いたろう、石頭、抜いてんじゃねぇ」

「あんたの拳が柔らか過ぎんすよ、アレ並に。頭も柔らかくしてくれませんか、石頭」

「喧嘩嫌」

「そうっ。そんな喧嘩してどっちが襲うかってやってんすよ、今。なのにっ。ね、美香ちゃん、嫌だった?」

「お前――」

「マジで死ぬほど嫌だった? 高瀬さんじゃいられなくなる程――」

「だから――」

「――そんなに嫌――っのっうっさいっ」

「……喧嘩嫌」

 荒い声も嫌。もっと荒い音もしてた。もっと嫌。あったかい掌もいっちゃって。

「……美香ちゃん、いや、高瀬君」

「……美香じゃ駄目?」

 怖いな。怖いってぐらいに優しい声だから、あれって思う。声に成ってない声が聞こえているから? だって、すっごい優しい。なのに、さっきの、怖い声より、怖い、気が、する。泣きたくなる。駄目って、訊いちゃった、から。


お読みくださり有難うございます。

束の間且あなたの貴重なお時間の、暇潰しにでも成れたら幸いです。


承後 一夜の過ち、でしたか? 4 こんなのはじめて

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