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°。★。°。☆。°。★。°。☆。°。★。°


 恐怖体験をした夜から一夜明けた翌日の放課後、オレは御影部の部室の前にいた。

 部活に入るかどうかは置いておいて、今のままじゃ危ないから話だけでも聞いてほしいと言われ、もう遅いから明日の放課後部室に来てくれと言われたのだ。

 部活には入らないとはっきり伝えたのにそこは流されているのに危機感を感じる。しかもこうして部室に来てしまっているのも、じわじわと追い込まれているような気がしてここまで来て入るのを躊躇っているのだ。


 やっぱり帰ろうかと思ったところで、残念ながら一足先にガラリと中から扉が開けられた。


「ああ、良かった。なかなか来ないから場所が分からなかったのかと思って迎えに行こうとしたんだ」

「ははは。ご親切にどうも」


 嬉しそうな丸山に続いて、オレは諦めて部室の中に入った。



「やあ、いらっしゃい」

「お邪魔します」


 部室の真ん中には大きめのテーブルといくつかのイスがあり、部長である御影先輩がそこに座って待っていた。


「いや~、ちゃんと来てくれて良かったよ」

「ははは」


 にこにことそんなことを言う御影先輩には、オレが帰ろうとしていたことがバレているのかもしれない。


「部活には入りませんが、今日はよろしくお願いします」

「まあまあ。そんな結論を急がないで、入るかどうかは話を聞いてから決めるんでいいんじゃないかな。とりあえずテキトーに座ってよ」


 やっぱり部活の勧誘を諦めた訳ではないらしい。ここでムキになって否定しても仕方がないと思い、とりあえず御影先輩の話を聞くことにする。

 オレと丸山が座るのを待ってから、御影先輩が口を開いた。


「じゃあ、×××(ピー)についてなんだけど……」

「なんて?」


 思わず食い気味に聞き返してしまった。


×××(ピー)?」

「聞き間違いじゃなかった。なんで唐突にエグい下ネタ始めるの!?」

「あ、君は意味が分かる子なんだね。いやー、久遠は意味が分からなかったみたいでフツーにその名前で呼ぼうとするから焦った焦った」


 楽しそうにけらけらと笑う御影先輩に、オレは勘違いであってくれと願いながら尋ねた。


「あの、それってもしかして……」

「アレの名前」

「やっぱり!!」


 にっこりと笑って宣った御影先輩の返事を聞いて思わず天を仰ぐ。

 そりゃあ『影』としか呼べないわな!! 日常会話でそんな単語使ってたら大問題だわ!


「三村は意味が分かるのか。博識だな」

「う゛~~~ん……博識とは違うかな」


 純粋な丸山の言葉に何とも居心地の悪い思いをしながら、御影先輩に話の続きを促す。


「じゃあここからは『影』って呼ばせてもらうね。君は影のことをどれくらい知ってるの?」

「何も知らないです。近くに見える人もいなかったですし」

「ご家族親戚も?」

「はい。会ったことのない親戚はわからないですけど」

「なるほどなるほど。じゃあ1から説明するね。まず影の正体なんだけど、あれは人の怨みの塊だ」

「え? じゃあもしかして浩太が襲われたのはオレのせい?」

「君そんなにその浩太くんが嫌いなの?」

「嫌いではないですが怨みはあります」

「ガチのやつじゃん」


 言いながら内心ドキドキして嫌な汗をかいていると、御影先輩がにこりと笑った。


「安心して? 怨みの塊って言っても、ただ自然に発生するわけじゃない。強い怨みを持った人が、決められた手順を踏んで、意思を持って発生させるんだ。だからもし君が浩太くんを怨んでたとしても、浩太くんが襲われたのは君のせいじゃない。君は方法を知らないからね」

「そうなんですね」


 御影先輩の言葉にオレはホッと胸を撫で下ろした。いくら奴に怨みがあると言っても別に嫌いなわけではないし害そうとも思っていない。


「ただそうして生まれた影は、怨みの対象と同時に力を持つ人間も襲う。力を持つ人間=自分を害する存在という認識なんだろうね」

「え」


 なんてこった。浩太には力はないと思うから、奴が誰かに酷く怨まれているらしいことが判明してしまった。

 しかも力を持っていると無条件で襲われるという事実。絶望しかない。怨みの塊なら大人しく対象に全力で向かっていけよ。


「ちなみに昨日の影はあれで倒せたんですか?」

「あの影は消滅したけど、根本の原因を取り除かない限りまた出てくるだろうね」

「やっぱり、ここ数日の幽霊騒ぎは同じ人が原因なんですか?」

「お、あの噂知ってるんだ」

「けっこーみんな知ってるんじゃないですか?」

「いや~、ボクの周りって噂に疎い子が多くてさ」

「あぁ……」

「面目ない」


 御影先輩の言葉を聞いてオレは思わず丸山を見て頷いた。


「それで、犯人ってわかったんですか?」


 御影部の活動内容や最近の彼らの行動から考えて、恐らくその犯人を見つけてどうにかしようと動いているのだろうと思い尋ねると、御影先輩はにこりと笑って頷いた。


「最初に襲われたのは中野、次に襲われたのは岩倉。君、恋愛ゴシップって好き?」

「知り合いのは気になりますけど、他人のは興味ないです」

「だよね~ボクも興味ない。まあそのせいで今回解決が遅くなっちゃったんだけど」


 そう言って御影先輩はため息をついた。


「聞いた話では、中野クンがバレンタインに原田さんに告白されたんだけど、遊ぶだけ遊んで1ヶ月で彼女を捨てたんだって。それを原田さんの幼馴染の岩倉クンが慰めて、最近は良い感じになってきてるらしい。ところで原田さんが中野クンに捨てられた時、岩倉クンの他に佐々木クンも彼女を慰めてたらしいんだけど、彼女は岩倉クンを選んだ。さて、犯人は誰でしょう?」

「……佐々木先輩」

「大せいか~い」

「くっだらね~~~……」


 オレの心の底からの言葉に、御影先輩は苦笑しながら頷いた。


「まあ痴情の縺れの末の事件なんてよくある話ではあるんだけどね」

「あ、でもそれってただの推測ですよね?」

「いや、確定だよ。今回悪かったのは、佐々木が初恋を拗らせた半ストーカー野郎だったってことと、オカルトが好きで無駄に詳しかったことだ。確認してみたら、案の定うちの実家に出入りした痕跡があった」

「御影先輩の実家?」

「うちのご先祖様は力を使って影を退治した最初の人らしくてね。昔はお偉いさんから依頼されてそれを仕事にしてたこともあって、影についてうち以上の情報が手に入る場所はないんだよ」

「ああ、だからそんなに詳しいんですね」


 オレは気になっていたことがひとつ解消してスッキリした。そこでふと別の疑問が浮かんだ。


「先輩たちの愛憎劇はわかりましたけど、浩太は?」

「ああ、それなんだけど。浩太くんは正確には襲われてないよ?」

「はあ?」


 え? まさか本当に作り話だったってことか?

 オレが内心ドン引きしていると、それを察したらしい御影先輩が説明を追加してくれた。


「久遠から聞いたからこれはボクの推測なんだけど。あの日久遠が影の調査のために学校に残ってたんだ。それでトイレの前で影を見つけたからいつも通り退治したらしいんだけど、君も久遠のやり方知ってるよね? 近づいてぱあんってやつ。ところでその時守衛さんに見つからないように久遠は全身真っ黒だったんだけど」

「あ、もう大丈夫です」

「あくまでボクの推測だよ」

「幼馴染のオレが断言します。その推測は事実です」


 つまり浩太は丸山を幽霊だと思ったと。動けなかったのもただのビビりだからだ。なんて人騒がせな。


「ところでこの後ここに佐々木が来るんだけど、君も協力してくれない?」

「あ、オレ部外者なんで帰りますね」

「え~~~!! 君も御影部入ろうよ~! 人の役に立つし、楽しいよ?」

「絶対嫌です」

「なんで~~~!?」


 まるで子供のように駄々をこねる御影先輩を見ながら、オレは昨日からずっと思っていたことを口にした。


「コスプレしてる部長の部活なんて入りたくありません」


 そう、今日も変わらず御影先輩は巫女服だ。山田に聞いてみたら、この先輩は普段からそうらしい。

 そんな部長の部活に誰が入りたいと思うのか。オレは入りたくない。


「これ別にコスプレじゃないよ? この恰好には深刻な理由があるんだ。御影家の人間なのに情けないことにボクには影に対処できる力が無くてね。身を護る為にイロイロと仕込みがしてあるこの恰好をしてるんだよ」

「はぁ」

「あ、信じてないね? 実際1年の時担任が信じてくれなくてしばらく制服で登校してたんだけど、3日連続で倒れたところで半信半疑ながらも許可がおりてそれ以来ずっとこの恰好なんだ」


 先生が許可しているんならその話は本当なんだろうし、大変そうだなとは思うのだが。


「もうちょっとデザインどうにかならなかったんですか?」


 何度も言うが巫女服だ。女性ものだ。


「いや、ボクもそう思ったんだけどね? 妹から『お兄ちゃんの為に一生懸命作ったの』って言われたら着るしかないだろう?」

「純度の高い嫌がらせか何かですか?」

流花(るか)さんは紬さんのことが大好きだぞ」


 丸山の言葉を聞いてオレは察した。これはアレだ。イケメンの兄を誰にもとられまいとする妹の独占欲だ。実際この恰好のせいでナシと判断する女性は多そうだ。とんだ策士だよ。


「だからこの恰好は止めることは出来ないんだけど、別にボクの趣味でこういう恰好してるわけじゃないんだよ? ね? 入ろう御影部! 楽しい青春をお約束するよ!」

「間に合ってますんでお断りします! 失礼します!」

「あっ」


 これ以上ここにいたら無理やり入部させられる気がすると思い、オレは言うと同時に逃げ出した。

 部屋を出ようとしたときに丁度人が入ってきたため危うくぶつかりかけたが、なんとか避けて外に飛び出しそのまま一目散に帰宅した。


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