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時間のレオーナ ~逆行する悪役令嬢の恋する相手~  作者: 川崎悠


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01 時間魔法

※以前、投稿したことのある過去作品です。

 短編だったものを、ちょっと手直しして再投稿しています。

 よくある短編→連載版、という違いではありません。

 読みやすくするために短く別けて投稿するだけな感じです。

 以前に掲載したものと、大きく内容は変わっていません。


※理由

 この作品を間違って、いつの間にか削除してしまっており、読者様に指摘されて初めて気付きました。消す意図がなかったため、改めて投稿させていただきます。


※内容は、ちょっと過激に報復ありで優しくはないので注意!

「レオーナ様が、ここで頭を下げて謝ってくれれば許してあげます!」


 王子の腕に守られている黒髪と黒い瞳を持つ男爵令嬢アイリーン・ドーラは、儚げな様子を周囲に振りまきつつも、そう宣った。


 言葉を投げかけられたのは、金色の長い髪に赤い瞳の色をした公爵令嬢、レオーナ・フェルメルだ。

 そしてアイリーンを庇っている王子、テルメオ・ドルクは、そのレオーナの婚約者だった。


 そう。『だった』。

 レオーナはたった今、テルメオ王子から婚約破棄を突きつけられたばかりだ。



 学園の卒業パーティーを行っている最中。

 そのパーティー会場において、先ほどテルメオ王子が声高にレオーナとの婚約破棄を宣言した。

 そして、つらつらと証拠もない、証言ばかりの『レオーナ公爵令嬢がアイリーン男爵令嬢を虐め、迫害してきた』という罪をあげつらい、今まさにレオーナは断罪されているところだった。


 被害者の『フリ』をし、王子だけでなく、他の令息も侍らせたアイリーンは男爵家の庶子でありながら、王族の血さえ継ぐ公爵令嬢レオーナに多くの人々が見守る中で……頭を下げろと宣ったのだ。


「──お話しされたい事は、それで終わりかしら?」


 凛と。レオーナは背筋を伸ばし、先程まで言いたい放題だった彼女、彼らにそう返した。


「……何だと?」

「ふふ。テルメオ殿下には、ようやく私の魔法をお見せする事が出来ますわね」

「は?」


 魔法。王国貴族、それも高位貴族にもっとも強く発現する力。

 魔法を使える者は、魔力を帯びた獣……『魔獣』の退治や戦争でも活躍する事が出来る。

 そのため、魔法使いとしての強さこそが貴族に求められる風潮が王国にはあった。


「レオーナ。貴様は魔法など使えないだろう。魔力ばかり高い、無能な女のくせに」


 だが、そんな貴族の風潮なのにもかかわらず、レオーナはその魔法を今まで他人に見せる事はしてこなかった。

 それは婚約者であったテルメオ王子が使えと命じても同じだった。

 テルメオ王子はそのようなレオーナの態度が気に入らず、冷遇してきた。

 そんな2人の不仲は既に周知の事になっている。


 結果、公爵家という身分と、高い魔力『だけ』の女が、王家に魔力の高い子を産むためだけの政略結婚をするのだとレオーナ・フェルメル公爵令嬢は陰で罵られてきた。

 そんな侮蔑をしてきた者の筆頭こそが、婚約者のテルメオ・ドルク王子だった。


 その挙句、彼は男爵令嬢アイリーン・ドーラに惚れ込み、寵愛する様を見せてきた。

 2人が破局を迎えるのは、もはや時間の問題だったと言えただろう。


「ふふ。私の魔法は使う条件が難しいのです。ですが、このような舞台を整えて頂けるなんて、私、とても嬉しいわ」

「何をふざけた事を。お前は魔法が使えない『無能公女』だろうが!」


 無能公女と罵ってきたのはテルメオ王子だけではなかったが、最も口にしたのはこの王子だろう。

 しかし、いくら罵倒しようともレオーナは今まで素知らぬ顔をし、常に冷めた態度を示してきた。

 その事がさらにテルメオを苛立たせもしたのだが……。


「──テルメオ殿下。一度でも私が『魔法を使えない』などと申し上げた事が、今までありましたでしょうか?」

「……なんだと?」

「使えないのではなく、使わなかっただけでございます。正確には使っては居ましたが、気付かせてはいなかっただけ、になりますが……」


 レオーナは、そう言いながら右手の人差し指を立てる。

 すると、そこには光の直線と曲線で描かれた立体的な『回路』が浮かび上がった。


「なっ……!」


 魔法を使う際に発現する魔法回路。

 その回路によって魔法の強さも質も変化するものだ。

 レオーナが見せたその光の魔法回路は美しく整い、また力強く輝いていた。


「私の最も得意とする魔法は……、──【時間魔法(じかんまほう)】でございます」

「じ……かん?」


 今までレオーナが見せた事のない魔法の行使に一同が驚愕する。

 先程まで公爵令嬢を蔑む事に熱中していたアイリーンも想定外の展開に驚き、焦りの顔を浮かべていた。


 ……【時間魔法】。

 そんな魔法があるなどと、この場に集まった人々は聞いた事がない。

 多くの貴族が振るう魔法は火や水といった自然界の5種類の属性を持つ攻撃的な魔法がほとんどだった。

 彼女の言葉が本当であれば、基本の枠組みには収まらない才能の持ち主、という事になる。

 レオーナ・フェルメルは……固有魔法の持ち主。

 そうなれば、彼女に対する評価が大きく変わってくる。


「【時間魔法】とは、時間に干渉する魔法でございます。正確には『時空間』に干渉する魔法でございましょうか?

 例えばですが、私は『過去に干渉』する事が出来ますわ」

「過去、に干渉……だと?」

「ええ。その通りです。ふふ」


 ニコリとレオーナ・フェルメル公爵令嬢は微笑む。

 そこには蔑まれてきた無能公女など居ない。

 威風堂々とした態度の、立派な公爵令嬢が立っていた。


「ですが過去に干渉する場合は制約が多いのです。おいそれと歴史の改竄は出来ませんわ。或いは改竄を試みようとも、この【今】に反映されません」


 レオーナは人差し指をひとつ立てて、堂々と己の魔法についての説明を続ける。


「例えば。私の手で『私が生まれる前』の『過去の私の親』を殺してしまうと、そもそも今の私が生まれない、なら親も殺されないはず……といった歴史的な矛盾を生み出す事が出来ないのです。それが私の時間魔法の制約となりますわ」


 お遊びの話で聞き齧った事があるようなパラドックス。

 それを大真面目にレオーナ公爵令嬢は語った。


「ですが。例えば、今の私にとってはありもしない。やってもいない冤罪(・・)である数々の悪行などですが……。このままで居れば、私の罪状の証拠・証言などはすべて捏造された『偽物』という事になります。

 私は当然、アイリーン嬢に手など下しておりませんでしたので」


 さらっと、元の話に戻るようにレオーナは自身の無実を訴える。


「な! 今更、そんなウソを、」

「──ですが。今から私が過去に戻り、挙げられた罪を『本当の罪』にする事は可能ですわ」


 と。激昂し、吠えるテルメオ・ドルク王子の言葉を遮るように、レオーナ・フェルメル公爵令嬢は言い切った。


「な……に?」

「え、どういう……」


 レオーナの言葉に目を見開き言葉を失う2人。

 公爵令嬢は、毅然とした態度のまま話を続けていく。


「王子殿下が、このような衆人環視の元で、公爵令嬢である私、レオーナ・フェルメルの断罪を声高に叫んだのです。

 真実が如何にせよ、人々は思う事でしょう。

 『もしかしたら本当のことかもしれない』と。

 そのような不安定さこそが、過去の時間の改竄には必要なのでございます。

 ですので【今】の時点では、私は『それは冤罪だ』と申し上げるしかありませんが……。

 私が【時間魔法】を使い、【過去】に舞い戻ってテルメオ殿下達がおっしゃった悪行を成してくれば……はい。

 殿下達の断罪は、たしかに私も認める、れっきとした罪とする事が出来ましょう!」


 そこでレオーナは笑みを深くし、満面の笑みを浮かべた。

 心底、楽しそうに。無邪気な笑顔だ。


「さきほどの『アイリーン嬢を階段から突き落とした』……でしたか?

 そちらも私、過去に戻って()()()()()()わ。

 過去で、しっかりと私の手でアイリーン嬢を階段から突き落として参ります。

 そうしましたら歴史が変わり、確かに【今】のアイリーン嬢は階段から突き落とされた怪我を負う事になりますものね?」

「な……」

「……は? ど、どういう」

「ええ。そのように階段から突き落とされても健康なお姿を保たれている【今】のアイリーン嬢ではありますが……私が本当に(・・・)突き落としました場合もそのままかは……ふふ。彼女の運次第、でございましょうか?」


 唖然と、その場に居た者達は信じられないものを見た顔をして黙り込んだ。

 にこやかに笑う公爵令嬢だけがパーティー会場の中では異質で。

 ハッタリか何かだと思う者も多く居た。

 それらは日頃から彼女を見くびり、見下していた者達だ。

 身分の高い令嬢が落ちこぼれで、無能である事を喜んでいたような醜悪な者達だった。


「う、嘘よ。そんなの!」

「ふふ。それはこれからのお楽しみ。では、アイリーン嬢。【過去】でお会い致しましょう?」


 再びレオーナ公爵令嬢が微笑んだ、次の瞬間。

 彼女の姿がパーティー会場からパッと忽然と消え去った。


「なっ!?」

「消えた!?」


 姿を消した公爵令嬢、レオーナ・フェルメル。

 彼女が向かった先は……【過去】だった。

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