不思議ちゃんタレント
不思議ちゃんで人気のタレント松田アキミが、突然バラエティ番組で。
「あたし宇宙人なんです」
不思議ちゃんキャラの彼女の事なんでまたはじまったと誰もが思った。
テレビを見ているボクも同じだ。
「アキミンは、サラダ星人だよね」
と、MCのお笑い芸人が
「ソレは違ったの。実は遠い銀河系にある地球に似た惑星ハルから来たの」
「ハルですか? ボクはアキの方が好きですわ。アキミンのことじゃないす」
スタッフの笑い声が聞こえた。
「昨夜、知らない女性が来て、ハルの事をあたしに」
それから彼女はその謎の女について話しだした。
その女は銀髪で黒い濃いサングラスをしていて銀色の全身スーツ姿だつたと。夢中で話す彼女をMCが止め、その後彼はアキミンに話しをふることはなかった。
ボクは録画しておいたこの番組を深夜に見ていた。当然ボクは松田アキミのファンだから見るのを楽しみにしていた。
彼女、はじめは霊や妖精等をよく見るオカルト少女で、よくあるミステリーバラエティ番組の常連ゲストだった。その愛らしい容貌で人気もでて、そのキャラを活かした特撮番組「不思議少女メイド・アキミン」で女優デビューした。
ファンしか見てなかったのか、十話で打ち切り。その全話を録画したディスクがボクの宝だ。
市販されたソフトも買ったが、第四話に本物の霊な映っていたとカットされている。この話は話題にはなったが真意はさだかではない。別の何かが映っていたなどと今じゃ都市伝説化している。しかし、放送されたその回を何度も見たがソレらしい物はわからない。
なぜか、このアキミンの宇宙人発言後このミステリーバラエティ番組にアキミンが出ることはなかった。
彼女のタレントとしての人気が下りぎみなので、新キャラとして出して来たのか? 前にもサラダ星人というキャラを出していたのにまた宇宙人ってどうなんだ。まあどんなキャラだろうがボクは彼女が好きだ。
東京警視庁の一課、特別係。ここがボクの職場た。
地方出身のボクだが、都内の署に入り交番勤務を五年、そしてはれて警視庁に。
しかし一課特別係とは。ほぼ仕事は他の係の助っ人。だが、ボクはにはもっとおかしな仕事にまわされる。新米なのは仕方がない、でもとにかくおかしな仕事ばかりだ。
夜、口裂け女に襲われたとか、カッパに夜這いされたとか、人面犬に薬を売りつけられた等。
これは一課の仕事か、いや警察の仕事なのかも怪しい。そういう通報があったら行かされる。交番勤務中でもあったにはあった。まさか警視庁でも、と思った。ボクんトコは警視庁の雑務係なんだろうか。
しかし、こういった怪異事件が多いのに驚いた。
「おい、水戸。よろこべ。今日は一課らしい仕事だ」
そう言って四角い黒ぶちメガネの岩瀬係長がボクに手招きをしている。
「ガマ男事件だ、知っているだろう」
「ハイ連続殺人事件のガマ男ですね」
「それ、わたしらに?」
アクビをしながらボクの横に来たのはボクの相棒の先輩倉田さんだ。
連続殺人犯のガマ男とは、半年前に5日で5人を毒殺した通り魔だ。顔がガマガエル似なのでそう呼ばれる。
連続5人の犯行後、まだ6人目は出ていない。
「アレは一課のエリート連中の仕事でしよ」
「まあそう言うな。彼等もいろいろ忙しいんだ。奴がこのところよく目撃されてる場所があってな、お前ら二人に行ってもらおう」
「ハイ、何処へでも」
「千葉だ。まあ本当に奴かどうはわからんが、とりあえず確かめてこい」
「クラさんは、確か房総出身だよな。九十九里だ、行って来い」
岩瀬係長は先輩だったので係長は倉田さんをクラさんと呼ぶ。
初春の海岸、さすがに海水浴客はいないが、サーファーたちがけっこう来ている。波間に浮かぶ黒いウェットスーツの連中はオットセイの群れのようだ。
「目撃情報はこの海岸近くで多いんです」
よくアニメで見る下ブチだけあるメガネをカケタ九十九里署の戸村女史とボクは目撃現場へとやって来た。
そこへミニパトが来た。
「どうしたんです?」
戸村さんがミニパトの運転席の年配の警官にたずねた。
「はい、海岸で喧嘩をしていると通報がありまして」
助手席から降りた若い警察官が軽く敬礼をし、浜の方に走って行った。
ボクらも海岸へ行って見ると奇妙な光景を目にした。
浜辺で数人が見ているのは、殴り合ったまま、立っている二人の男だ。警官二人もア然とした顔をしてその二人を見ている。
「見事なクロスカウンターだな」
そう言って止まったままのふたりを観察し始めた倉田さんだ。
「通報は?」
警官が周りにいる人たちに聞いた。
「わたしです。その背の小さい方の妻です」
「あたしは大きい方の友人です」
とそばの女性が手を上げて言った。
「コレは、どういうことですか?」
警官が二人にたずねた。
二人の女性が交互に話したことをまとめると、理由はわからないが男たちは何やら口ゲンカをはじめ、そのうち掴み合いになり、そこへたまたま通りかかった男が二人の間に入って止めたんだが、二人に突き飛ばされ、その男はケンカの仲裁をあきらめて何処かに行ってしまった。
「ウチの旦那は元ボクサーで、手を出さないようにしていたんですけど。仲裁に入った男が来て……」
クロスカウンター。昔の漫画で見た。二人が同時にパンチを放ち、ねらった方が腕を交差させ同時にパンチを当てるテクニック。実際の人間がやったのを初めて見た。
「ぐあっーっ」
突然、元ボクサーという小さい方の男が声を上げた。そしてそばに居た警官を殴りボクの方に殴りかかって来た。ボクはとっさにかわし男の腕を取り投げ飛ばした。
もう一人の警官が倒れた男の腕を取り押さえた。暴れる男を殴られた警官が立ち上がり協力し男を抑えた。男はすぐにおとなしくなると口から泡を吹いた。
「うお~」
ケンカをしていたもう一人の男も泡を吹いて倒れた。
「ケイちゃん!」
二人は死んだ。
検視の結果、コレは毒によるものとわかった。しかもあの通り魔殺人の毒と同じ未知の毒らしいことがわかったのは後の話だが。
仲裁に入った男は目撃者によるとあばたヅラのサカナ顔の醜い男だったらしい。アンコウにも似てたとか。
この事件ガマ男の犯行だったようだ。
ボクは昼飯は大学の先輩だった松平さんの経営する店の事務所でよく食べる。
と、いってもこの店は飲食店ではない。
ボクが大学の時に入ってたのはオカルト研で松平先輩はそこの初代会長でボクよりひとまわりくらい上の歳だ。本当は何歳なんだか知らない。けっこうな実業家らしく会社をいくつか経営している。ボクが居るこの店はその一つ。
ここは裏原宿にある「ウィッチ・パラダイス」という魔女グッズの店。
オカルト研究家でもある先輩らしい店だ。おまじないや占い、魔法好きの若い娘たちでいつもいっぱいだ。
トラララーラー
ボクのスマホの着信音がなった。倉田さんだ。
〘昼してる? 悪いがチーズバーガー買ってきて〙
倉田さんは、待ちあわせの場所を告げてきった。
多分映画を見ていたんだろう。
待ちあわせの場所は最近少なくなった単館の映画館の近くだ。映画を見ていたんだろう。
倉田さんと別れて二時間くらいだ。この人は食事と言って映画を見に行く。しかし、二時間の食事タイムは長いだろう。それに勤務中だ。上は知ってるのか?
五十代独身の倉田さんは昔の特撮映画が好きで、よく話しをする。ボクも特撮物は好きだが、世代が違うので倉田さんの話しは、よくわからない。昔のゴジラやガメラはどうだとか、あーだとか、ボクは、いつもうなずいてるだけだ。しかし倉田さんは最近の特撮も見てるのでボクのはなしにものってくれる。
恥ずかしいが成人した今もヒーロー特撮番組はやめられず毎回録画して見ている特撮ヲタだ。
「悪いなアイゼンまで行ってくれたの」
アイゼンは倉田さんの友人が経営しているバーガーショップで倉田さんが贔屓にしている。よっぽど好きなのか週に三食から5食はここのバーガーだ。
「たまたま近いとこに居ましたから。アイゼンバーガーは売り切れてましたけどチーズの方は有りました」
倉田さんはバーガーを食べながら。
「なま松田アキミみたぞ。舞台挨拶で出てた」
「倉田さん、『東京防衛坂501小隊出撃命令』見たんですか。誘ってくれれば」
「お前真面目だからなぁ」
ボクが松田アキミンを好きなの知ってるのに。なまアキミン見たかった。
「次の休みに見に行ってきます」
倉田さんは2つ目のバーガーにかぶりついた。
「知ってます? あの仕事どうなったんですかねぇ」
「例のガマ公か。なんだか都外でまた目撃があったらしい。県警があわててるらしいぞ、都内の凶悪犯が県内で目撃以上の事件だ、恐怖毒ガマ男だ。昔の映画みていだな。映画なら美女が欲しいとこだ」
「『美女と恐怖毒蛙男』ですか……不謹慎な話ししてますけど」
「美女か……美女は金星から来る」
「倉田さん、古いですって、金星は灼熱の惑星です。そんなとこから人が来ますか」
「つまんねえ奴だな。金星って言ったらヴィーナスだぞ。ロマンがある。つまらん事、言うな。あっ松田アキミな、舞台挨拶でハルという惑星から来たって言ってたぞ。まあわからんでもないが、今時アイドル・タレントが宇宙人だなんてキャラはどうなの」
「えっそんなトコでも、そのネタを。そうですか……でも、サラダ星とかミカン星とかより、惑星ハルってなんか、ありそうじやないですか」
「ハルがか……。やっぱりオレは金星がいいな。金星人の美女と地球の刑事が協力して悪のガマ男を捕まえる」
「なんですか、それ。今時中学生でも考えない内容ですよ。あ……すみません」
倉田さんの顔が変ったのに気づきあわててあやまった。
「なんであやまった? オレさ、昔ながらのロマンをつめこんだ物語に今の政治やら社会問題入れて本を書こうと思ってな……だめか?」
「ダメじゃないです。なんでも好きなこと書きましょうよ。いいんじゃないですか」
「つまんねえ話ししちまった。実はな、さっき係長から連絡あってな、また千葉へ行けとさ」
「ボクらがですか? 一課の先輩たちは?」
「アキバで起きたメイド連続殺人事件が動いたってんで連中そっちに。それにまえの事件現場にオレら、関わっただろ、都内の事件の資料持って県警に協力してこいとよ。一課らしい仕事だ行くぞ」
ボクらは倉田さんの愛車で九十九里署に向う。
でも運転はボクだ。
「鑑識の友人に聞いたんですが、ガマ男が九十九里で使った毒は、まえの犯行と同じようで少し違ってたみたいですね。今度のは、殺すための毒ではなかったらしいと」
「ああ、早耳だな。あの毒は少しずつ微妙に変わっているそうだ。人により効き方も違うが、結局みな死んだ」
「そういえば、このまえの二人、一人は暴れましたね。もう一人は泡を吹いて即死」
「ヤローなんかの実験でもしてんじやねーかっていう話もある」
「奴はなにをしようとしてるんですかね。もう七人も人を殺してます」
「快樂殺人とか街中で無差別に人を刺しまくるやからがいるんだ、まったく、捕まえねーと分からんのかもな」
「最初に暴れた奴が死ななかったらどうなります。あいつがゾンビみたいに人を噛んだりしたら噛まれた人も暴れだすとかいう毒だとしたら」
「まるでゾンビ映画だな」
「ゾンビですか……そんな事件は嫌ですね」
九十九里署に着く。
まえに海岸に同行してくれたメガネの戸村女史は今日は制服姿だった。実は事務か広報の人かと思っていた。警部補だった。ボクより上だった。
前回ボクより先に会った倉田さんは知っていたようだ。
「あれから、あの男の行動とかは?」
「特に目立ったうごきは」
「あの海岸で奴はすぐに立ち去ったらしいんですけど、何処かで様子を見ていたんじゃないかと」
「そうね。毒を盛ってただ殺そうとしたのなら逃げるだろうけど……コチラの捜査で実験という憶測が声が」
「そうなんですか。こちらでも遺体によって毒の成分のある薬品の量が違うので連続毒物殺人は毒の効果を試しているのではないかと言う意見もでてます」」
「その毒の成分は?」
「すみません。あまり詳しいことは。資料を持ってきてるのでそちらの科捜班とかにお渡しします」
「毒の中に未知の成分があったとか。なんですかね未知の成分って……マンドレーク、知ってます? あ、マンドラゴラの方が有名ですね」
「なんです? そのマタンゴみたいなのは」
「倉田さん知りませんか。魔法使い映画なんかに出てくる薬草です。それを土から引き抜く時ギャーとか声をあげるんです。それを聞いたら死んじゃうんですよね」
「ええ、ファンタジー小説とかで魔女の妙薬の必需品として出てくる植物です」
「マンドレークって実在する植物ですよね。童話とかに出てくるような魔法薬になんかなりませんけど」
「よくご存知で」
「ボク、大学でオカルト研にいたんで」
「そうですか。アレはもちろん叫んだりしませんし、魔法の薬なんて作れませんよね。でも毒性がありますから」
「あの…マンドレークが入ってたんですか?」
「あ、すいません。なんでも毒の中に未知の成分が入ってたと聞いたら、わたしファンタジー小説とか好きなものだからついこんな話ししてしまって」
「そういうのわからないでもないです。ボクも海岸で死ぬ前に暴れたのを考えてゾンビ化とか考えちゃう人間ですから」
「ゾンビ化ですか……そんなゾンビ製造薬を作っているとか、映画みたいですね」
「ゾンビでなくても、薬物で凶暴にして人を襲わすなんてとんでもない奴ですよ」
ボクらは都内での通り魔毒殺事件の資料を渡し、署内の刑事たちの捜査状況などを聞いた。近辺に居るんじゃないかと賢明に聞き込みや捜索活動をおこなっているようだがなんの成果もないそうだ。
捜査に加わることになったボクらはその日はビジネスホテルに泊まった。署内での泊まりもススメられたが、倉田さんが必要経費でおとせると、ホテルに泊まった。実は数日風呂に入ってなかったので、署内には風呂もシャワールームもなかったのが理由の一つらしい。
ボクも警察署内に何度も泊まったがタコ部屋みたいで男臭さの極みみたいな場所だった。何処でも一緒だろう。ビジネスホテルに行くという倉田さんにしたがった。
早朝九十九里署から電話が。
〘病院で患者が暴れて…〙
そういう事件は、ボクらには関係ないと思ったら。
暴れた患者が2、3分で倒れて亡くなったのだ。
「そりゃ海岸で死んだ男と同じじゃねーか」
すぐに暴れて死んだ患者が出たという病院に向かった。
暴れたのは3人で彼等に殴られた患者たちは十五人ほどで。亡くなったのは暴れた3人だけだそうだ。
「あのぉ暴れた患者に噛まれたという人はいませんでしたか」
怪我人の手当をしているヘルパーの若い女性に聞いてみた。
「噛まれた人……あ、暴れた患者さんを取り押さえにはいった人が噛まれたと言ってました」
「その人は?」
「リハビリ士の人だったと。リハビリルームにいるんじゃないかと。おおがらの男の人です」
「噛まれた人が、どうかなったっていうのは、なさそうだな。事が起きてからどれくらいたつ?」
「朝の連絡からもう一時間はたってます。病院の患者に奴は毒を。どうやって?」
「事務員の話によると、昨日から臨時で入ってた作業療法士の男いるそうだが、その男の姿がみえないそうだ」
九十九里署の大島刑事が教えてくれた。
やはりよそ者のボクらにはあまりよく思ってない刑事が多いが多い中、大島刑事は好意的に協力してくれる。なんでも彼も地元ではなかったのではじめは苦労したそうだ。
「その男は、魚みたいな顔だそうだ」、
「魚ですか?」
「目が離れていたとか、口か大きかったとか、アンコウとかカエルみたいな」
魚似か、あんこうとかだったらガマ顔だ。その男は。
「その男怪しいですね。男の書類とかは?」
「履歴書を見たが、デタラメだ。見たこともない住所に、電話番号はつながらない。名前も偽名だろう」
「倉田さん、薬の効き方が変わってきてます。今回は3人暴れてる。暴れずに亡くなった人はいないようだし。多分薬を投与されたのは3人。ねんのために噛まれたという人はしばらく隔離してもらいましょう」
「こう派手に事が起きると、オレらはお払い箱かもな。県の方も中央から来るぞ。警視庁も動くな」
「お払い箱なんて嫌だなぁこの事件、最後まで」
「まあいいじやねーか。暇になるぞ」
「暇って……倉田さん」
「昨日町中の捜査で見たろ明日、浜の駅のイベントに」
「ハイ、アキミンが来るって」
「行こう」
「勤務中ですよ、それはマズいですって」
「勤務とはきまってねーだろ。お払い箱ならイイじゃねーか。もし勤務でも、ヤローが現れる可能性もありうる。警備というタテマエでどうどうと行ける。地元の警察官は顔がワレてるからヤローも用心していて来ないかもしれないとか言って」
「倉田さん、とんでもない悪巧みじゃ……でもなまアキミン見たい」
◇ ◇
あたしの地元の九十九里町の浜の駅開店十周年イベントで今日の仕事は最後、クルマで都内に帰えるとマネージャーと別れた。
予約を入れてあった占い師のもとへ向かった。
そこは裏原宿にある魔法グッズショップ「ウィッチ・パラダイス」という店。そのショップの2階の占いの部屋に居る占い師ソフィア佐伯さんに予約を入れた。
彼女は某女性誌の「美しすぎる○○特集」で出てからスゴい人気で予約待ち半年とかになってたが、あたしのオカルト趣味から来た仕事で彼女と対談をし、仲良くなった。年齢も近かったのもあったし、なんだろ、とてもイイかんじに相性がいいとか、なんか初めて会った気がしなかった。すぐに友人関係になった。
そんな彼女と仲良くなったおかげで最後の客の後ならとすぐに会えると。
「お久しぶりです。松田さん」
対談した時のカジュアルなドレスと違い、いかにもな占い師らしい姿の占い部屋のソフィアさんはアラビアンナイトのお姫様のように目から下は薄いビンクのベールで覆っていた。フランス人とのハーフだという彼女の碧い瞳がよりきわだっていた。
「相談事と聞いたけど」
「はい。実は最近変な夢を連続して見るんです」
「どんな?」
「ある男に襲われる夢なんです」
「男に襲われる…。それは知り合い?」
「それが……ガマ男らしいんです。知ってます? ガマ男って」
「ええ、最近騒がれてる連続毒殺通り魔の」
「そうです。べつに男が名のったわけでも顔を見たわけでもないんです。その襲ってきた男が夢の中でガマ男だってわかるんです。はじめて、この夢を見た時はニュースで事件を知った日だったので、その影響かなと。でも、そんな同じ夢を何度も見るんです。なんだかホントに起こるんじゃないかと心配で」
「正夢になるんじゃないかと心配なのね。正夢ってよく見る?」
「いえ、特に見る事は。時々ですかね、あっココ、夢で見たみたいな偶然程度です」
「ガマ男ね……気味悪いわね。夢じゃ警察に言っても警護は頼めないわね。それじゃ手を」
ソフィアさんはあたしの出した右手の指に自分の人差し指を付けて10秒ほど沈黙した。
「どーも」
と、言いテーブルのカードを取り星形に並べ置いた。そして数枚のカードをめくり星の中央のカードの一番上をめくり見て何か考えてる。
カードの結果は?
テーブルに並んだカードはタロットかと思ったがなんか少し違う。友人でもタロットをする子がいるが、ソフィアさんのは絵柄が違う。タロットって描き手によって違うが表現されているものは同じだ。が、ソフィアさんのカードの絵は見たことない絵ばかりだ。
ソフィアさんは最後にめくったカードを見て言った。
「大丈夫。あなたは守られてる。もし、誰かに襲われたとしても、あなたを守る騎士がいる」
「騎士ですか……そんな人が」
「恋人とか、ボディガードじゃないのよ。わたし、騎士と言ってしまったけど、あなたには守り人がついてるの」
と、最後に見たカードを見せてくれた。そのカードには剣を持った裸の男が描かれていた。全裸で剣をかまえている単純な絵だ。でもなんで裸なのかしら?
「裸は特にどんな職とは限らないという意味かしら、それから絵は男性だけど、そうとも限らない」
あたしはソフィアさんの「大丈夫」が聞けてホッとして「ウィッチ・パラダイス」を出た。
ソフィアさんに話して良かった。正夢になるんじゃないかと心配していたんだ。
時間があったので原宿竹下通りを見て、渋谷により夕食をとりタクシーでマンションに帰った。
いつものようにマンションの向かいにある公園の反対側の出入り口付近で降りて公園の中を通ってマンションに。コレでもあたしタレントだからタクシーの運転手に住居を知られたくない。マネージャーがこの方法教えてくれたんだけど。
この辺はアパートやマンションが多いから、こっちの出入り口だとわからないとマネージャーが。公園はそんなに大きくないが木々が多く街灯が少ないのでカップルがよく居る。イチャイチャするのにイイ公園なんだろう。今夜は見かけない。
「おい声を出すな」
丁度公園の真ん中ほどまで来た時に誰が後ろからあたしの口をふさいだ。
「死にたくなかったら、オレの質問に答えろ」
ナニ、誰? まさかガマ男?
あたしの首すじに冷たい感触がした。何かを押し付けられた。刃物ではないようだ。
「松田アキミだな?」
あたしはコクリとうなずいた。
「間違いないな?」
もう一度コクリと。
「おまえはハルから来たのか?」
ナニ? こいつストーカー?
あたしはうなずく。
「いつ、この星に来た?」
「それは、声ださないと……」
「よけいなことは言うなよ」
「テレビとかで何度も言ってるけど、突然現れた銀髪、黒サングラスの女性に言われて。その時にハルから来たって、だからいつ来たかなんて聞かれても知らない」
「おまえにはハル星の記憶とかないのか……」
「ないは、ホントよ。あたしウソは嫌いなの霊感とかだって本当にあるんだから。オバケとかは見たことないけど」
「聞かれた事だけ答えろ!」
「オレがダレだかわかるか」
男は顔をあたしの前に。
ブサイク! サカナみたいなカエルのような、えっガマ男! とか、言ったら殺されるかも。
「知らない、あんたダレよ!」
「そうか……。おもしろい。使ってみるか」
首すじに何か針のような物がチクりと。
「イヤァアアア」
気がついたらベッドに寝てた。
横に看護婦さんらしい人が居た。
「あの、ここは?」
「あっ、大丈夫。落ち着いて。動かないでね」
そう言って看護婦さんは部屋から出て行った。落ち着くのは、あなたでは。
誰かが公園で倒れていたあたしを見つけ警察に通報して、あたしは病院に運ばれたらしい。横に座ってスマホをイジっているマネージャーが言ってた。で、その時にもう一人あたしとここに運ばれたという人が。
「舞さん、一緒運ばれたのは誰なの?」
「それがね、刑事さんなのよ」
刑事。あのガマ男じやなかった。でも、なぜ刑事が。
「あの公園の近くに住んでいる人でね、帰宅途中にあんたの悲鳴を聞いて駆けつけたんだけど返り討ちにあったらしくあんたの横に倒れてたのよ」
そうだったのか。返り討ちって頼りない刑事だ。占いで聞いたあたしの守り人じゃないわね。
「それから、あたしは大丈夫なんですか?」
「あんたもなんだけど、何か注射のようなもの射たれたでしょ。検査があるんで当分入院よ」
「刑事さんも射たれたのね。そうなんだ……」
あたしは、首すじを触ってみた。手触りではわからなかった。
「かなり細い針でやられたんで、わかりにくいみたいよ」
倒れていたあたしは、多分裸にされていろんなトコ診られたんだ。なんか恥ずかしい。
あたしが目覚めた夕方頃、刑事が来た。あの夜の事を細かく聞いてきた。ハルの事を話すと、その刑事は、あきれ顔になった一緒に来た若い刑事が一言「キャラですから」と言った。この刑事が帰り際に「ガマ男は松田アキミのファンなんすかね」と言うのが聞こえた。やはりあの男はガマ男だったんだ。
◇ ◇
記憶があいまいだ。あの夜ボクは。
九十九里の浜の駅イベント警護の途中に警視庁の一課からガマ男事件の担当が来てボクらはお払い箱になり東京に戻された。その日はなんだかむちゃくちゃして、仕事後倉田さんと呑んでから帰った。そのへんまでは大丈夫だ。で、アパート近くの公園まで来た時に悲鳴が聞こえて。公園に入ったら男が女性を。
「調子はどうだ水戸」
病室に入って来た倉田さんはリンゴを一つ手に持って言った。そのリンゴは見舞の。
「オマエなぁ三日も眠ったままだっから死ぬかと思ったぞ。驚いたぞ、病院に運ばれたと聞いてよ。オレの映画話し聞いてくれるやつがいなくなっちまう」
あの夜から三日たっていた。
「おまえもヤローに……。暴れて死ぬんじゃねーかと心配したぜ」
「昨夜聞きました。ガマ男だったらしいと」
「金子と村山が行ったて聞いたよ。しかし、格闘技じやけっこうな水戸を気絶させ、薬物投与するなんて、ヤローなかなかの強者だな」
そうだ、ボクは奴と格闘したが、並の力じゃなかった。あの時、奴のパンチをくらって。今、そこまで思い出した。倉田さんの話しでは、警察病院に運ばれたボクと女性は検査の結果、ガマ男が使った毒の成分が確認されたということで当分の間は入院が必要だと。
倉田さんは、映画の予定があると帰って行った。
聞き忘れたが、あの女性はどうなったんだろう。
翌日の昼前。まだ食欲がなく、栄養剤と、他の点滴があった。そこへ。
「失礼します」
病室に入ってきた女性はパジャマ姿だ。ここの入院患者だろう。誰だろう? なんか見た顔だ。
「あのぉあたし、あなたと公園から運ばれた」
あの夜の人か。聞き覚えのある声だ。
「あたしを助けに来ていただいたんですよね……巻き込んでしまって、すみません」
「なんであなたがあやまるんです。申し訳ないのは、こちらです。ボクが不甲斐ないばっかりに。この有様です。ほんとうにごめんなさい」
「あ、いえ。大丈夫なんですか?」
近くに来た彼女を見てわかった。
「あの、あなたはアキミン…あ、いや松田アキミさんですよね?」
はじめはノーメイクでわからなかったけど、デビュー時からずっと見てきたアキミンだ。その声、間違いない。
「はいタレントの松田です」
うわぁやっぱり。こんなにとこで会いたくなかった。ボクは点滴で寝たままだ。起き上がろうとすると。
「あっ、そのままで。無事で何よりです。あたしを襲ったのはガマ男と聞きました」
「ガマ男の話し聞いたんですね」
「はい。あなたが刑事さんてことも」
「わっ、よけいに恥ずかしい。あなたを救えなくてホント、申し訳ない」
「いいえ。悲鳴あげた時、あたしは……。来てくれて助かりました」
そんなことを言われたが、やはり情けない。
「奴はあなたを狙って現れたって本当ですか?」
つい刑事口調になってしまった。
「はい、松田アキミだな? と」
ハルの事を出したら病院に来た刑事が嫌な顔をしたので、やめたと彼女は言ってたが。
「話して」
奴はハルの記憶がないと知ると、自分を誰かわかるかと聞いたと。彼女ははじめ自分がガマ男か知っているのか聞いたと思ったらしいが、病院でよく考えてみたら、ハルの記憶がないので自分の記憶があるか確かめたと考えたそうだ。知っていたら何かまずいことでもあるのかと。
ガマ男とハルはなにか関係があるのだろうか? しかし、ソレはアキミンが本当にハル星の人間だったらの話だ。まさか奴までからんだ宇宙人設定じやないたろ。
「あの、刑事さん。どこかでお会いしたでしょうか? もしかして刑事さん、あたしの地下アイドル時代知ってます?」
なんでまた、そんな事を。
「なんか、刑事さんって初めてあった気がしないんです」「そうすか……実は友人に誘われて地下ライブに行ってあなたをはじめて見て、ボクはずっとフアンです。ライブには何度も」
言っちまった。病院で点滴中ってないよな。
「よっ! 水戸くん大丈夫?」
突然病室に入ってきたのは松平先輩だ。
「おや、カワイイ子のお見舞い? うらやましいじやなあの」
「違いますよ、先輩。あ、なんでここが?」
「しばらく顔みせないから知り合いに聞いたらココだって。驚いたよ」
「長居してすみません。あたしは」
と、アキミンは顔を見せないよう病室を出ていった。すっぴんのアキミン、間近で見ると可愛かった。もう少し二人でいたかった。
「今の松田アキミじやないの?」
さすが、先輩。わかったのか。
「彼女テレビでは疲労で入院とか……。なんで警察病院に」
あなたもです。顔が広いとは知っていたがよくボクがココと。そういえば「ウィッチ・パラダイス」のあるビルの4階にある葵探偵事務所も先輩の経営だ。ボクを捜すのなんてお手のものなのか? 本当にこの人はスゴい人だと思う。
「ソフィちゃんも心配してたぞ。ほんとは来たかったらしいんだけど仕事がいっぱいでね」
先輩の言うソフィちゃんとは「ウィッチ・パラダス」で占いをしているボクと同じ大学にいってたソフィア佐伯のことだ。現実世界のボクのあこがれの人。昼休みに「ウィッチ・パラダイス」に行くのは本当は彼女に会うためだ。しかし、最近雑誌で彼女が紹介されてから人気が出て昼休みになかなか会えなくなっていた。
「コレは彼女から」
先輩がベッドの横のテーブルに置いたのはボクが好きな洋菓子店の紙袋だ。ソレはもしやあの店の特製シュークリーム。そう思ったら食欲が。ありがとうソフィ。
「ソフィにお礼を言っといて下さい。嬉しいです」
「気にしなくていいよ。それ代金はボクだから」
先輩も大学時代からソフィをお気に入りだ。雑誌の仕事で人気が出て儲けもかなり出たと言ってた。ボーナスにクルマをあげたとか。
ソフィが占いをはじめたと聞いて店に占い部屋を作って彼女を雇った人だ。ボクの最大のライバルでもある。はっきり言って強敵すぎる。
「ところで水戸くん、ガマオにやられたんだって」
そんな事まで。
「先輩、どこで?」
「僕をなめちゃいけないよ」
「べつになめてはいません」
「ガマオにやられて生きていたなんてラッキーだったね」
先輩はガマ男をガマオと言うけど別に間違えて言ってるんじやいとわかる。この人のユーモアだ。
よく新聞に兇器の名を使い包丁男とか、バール男とか書いてあるけど。アレ、上に怪奇をつければ「怪奇包丁男」でスーパーヒーロー物のサブタイトルになる。包丁を持った男でなく包丁のような容姿の怪人がアタマにうかぶ。と倉田さんが言ってた。特撮マニアのボクも同じだ。そういうのはまだいいだろ。
ガマ男、薬物で人を暴れさせてあげくに死亡だ、まったく許せない奴だ。奴にのされるなんてヤッパなさけない。
刑事さんより早くあたしは退院出来た。
アナを開けてしまった仕事は同じ事務所のタレントさんたちがカバーしてくれて問題なかったようだ。
世間にはあたしが疲労で倒れて入院したことになっていたが、すぐにストーカー被害と報道された。
入院してたものだから暴行されたとう記事が週刊誌に出て芸能リポーター等が事務所に押し寄せた。が、すぐに騒ぎはおさまった。あたしのような二流タレントのスキャンダルより一流ミュージシャンの薬物所持で逮捕に人は動いた。芸能界なんてそんなものだ。
復帰し、はじめの仕事は以前から決まっていた「ビックリ!? 不思議チャンネル」という特番に。スタッフが集めたUFOとかUMA等のVを見るだけだ。ときどきコメントとかも求められるけど。
今日の出演者にはあたしがデビューする前から不思議ちゃんで売ってる西村あかねがいる。
彼女との共演ははじめてだ。その不思議キャラは演技なのか、じなのかわからないらしい。噂では普段は超が付くほど真面目な人と聞く。
「ハル星人さん、いままでの動画見てどうでした」
MCの大物芸人はあたしをハル星人とふってきた。
「みんなフェイクにしか見えませんでした」
おっとヤバ。つい本当のことを言ってしまった。ソレは誰が見てもそう思うVばかりだった。ソレにハル星人ってバカにした口調で言われたものだから。
こういう番組は不思議がってはしゃぐ方があたしの仕事だ。マズった。
「本物は映像に映らないよう行動してますよ。こういう番組に出るのはフェイクと思って間違いないわ。コレ見てエイリアンたちは笑ってるわよ、ねっアキミン」
西村あかねがホローしてくれた。さすが大先輩の不思議ちゃんだ。
「いや、コレねぇしかる機関によって本物と認められたVばかりだそうですよ。どうなんです米川さん」
米川という人はこの番組の監修もしているミステリー雑誌「アトラ」の編集長だ。
「どこの機関か知りませんが。世に出しても問題ないVですね」
「わたしは、二番目に出た動画が気になります。あの生物は、この次元の物じゃない」
西村あかねである。
あたしにはあのUFOらしき物から出て来た生物はCG映像にしか見えなかった。
「アレは異次元生物よ。昔見たことあるもの」
「昔の友だち? ペットですか? あかねさん。そう、カナメちゃんはなんだと思う?」
MCが天然中学生タレントカナメちゃんにふった。
「アレは宇宙人ですよ。異次元生物ってなんですか?」
彼女がしゃべったところでカンペが出た。
「生放送、どんどん不思議映像を視聴者の皆様に見ていただきたいので、次のコーナーにいきます。ゴースト・チャンネル」
「アキミン、復帰しましたね。昨夜の番組に出てました。ボクはいつ出られるんですかね」
ベットの横の椅子に座っていた倉田さんが缶コーヒーを飲み干した相変わらず飲んでいるのは練乳入りの甘いやつだ。
「明後日頃には出られそうだ。妙な物射たれたんだ、よく調べねぇとな。何が起こるわからないからな。オレは水戸に噛まれてゾンビにはなりたくねーからな。まえなら泡ふいて死んでたところだ」
そうだ。死ななくて良かった。
「アキミンも無事で良かった。でも、どうなんですかね。ガマ男的にはボクらに何も変化がないというのは。やはり、失敗なんですよね」
「ソレはヤローにしかわからん」
「ですね。あの、倉田さんはボクらのコト何か聞いてませんか?」
「そうだな、水戸と松田アキミは少し違うらしい。ヤッパ、あの娘は宇宙人なのかもな」
「えっ、彼女の検査で人違うところとか?」
「あ、イヤ。そういうのじゃなく。あの娘は薬物投与の痕はあったんだが。異常は何もなかったそうだ。水戸の体内には異物が見っかったんだ、そいつのせいで」
「異物ってなんですか?」
ボクは倉田さんに掴みかかって。
「エイリアンの卵でもあったんですか!」
「落ちっけ、そんな物あるか。大丈夫だ、そういう異物はオマエの治癒力で大分体外に出されてるそうだ。毎日の点滴さまさまだ。だから、もうすぐ出られる」
「ほっとしますよ。腹突き破ってエイリアンの子とか出てきたらたまったものじゃない」
「ガマ公がエイリアンだったらあるかもな。ん〜もしかしてハル星人ってーのはヤローの敵かなんかで、あの娘を狙ったのはそういう理由とか」
そういえば、ガマ男はアキミンにハルの事を聞いているガマ男異星人っていうのもなくはない。しかし、こんな話し倉田さんだから、他の一課の先輩たちには言えないな。やはりガマ男宇宙人説はありえるかも。
「実はアキミンはハル星から来た警察官かなんかで、この星に着き事故か、なにかで記憶をなくしそいつを確かめにアキミンを襲ったとか」
「昔のSF映画か?」
「本当にアキミンが宇宙人だとしての考えですけど。あると思います?」
「まあおもしろいけどな、そーいうのはオレ意外に言うなよ。当分どころか一生出られなくなるぞ」
珍しく倉田さんが真顔で言った。。
退院したボクは仕事に復帰した。
ガマ男に襲われたアキミンに監視がついた。事務所も女性だったマネージャーを男性に代えた。送迎時はいつも一緒だという。
彼女に薬を投与したガマ男は結果が知りたいはずだ。きっと彼女の近くに居ると。警察は彼女の近辺を張り込んでいるが奴は現れない。
ボクらもアキミン警護に加わった。
「なんだな、こっちも見張られてるな。あれは公安かな。一課の連中じや顔がワレてるからな」
「えっ、ボクらも」
「水戸んトコにもヤロー現れる可能性あるしな」
あれからひと月、まだあたしの周りを刑事さんたちが。ガマ男も現れない。まあこれだけ警戒厳重だとむこうも考えてるだろう。かえって逆効果なんじゃ。
あたしはテレビのレポーターで千葉県内のスナックに来ている。「マイラーメン旅」という番組で個人的に自分好みのラーメンを作って味わっているという人の所に行って紹介する番組だ。今日は五杯目のラーメン。あたしは大食いタレントじゃないんだけど。キツい。
スナック経営をしてい男性が趣味で作っているラーメンが美味しいと評判だとか。とても狭い店内にギリのテレビスタッフが入っての撮影だ。
本番前にも食べる。
「どうですボクのラーメン」
大きめのサングラスをした経営者は厚い唇の大きな口で言った。
「美味しいです。他で食べたことない味です」
などと何処でも同じ事を言ってしまう。ここは本番ではないので気にしない。まあそう言えば喜ばれる。
「アキミンさん。僕、あなたの大ファンなんです。そのラーメン、美味しいでしょ。宇宙一じゃないですか?」
そうきたか。ラーメンが地球以外にあるはずもない。でも、ここは彼にのっとくか。
「火星の担々麺の五倍は美味しいです」
「火星の担々麺の五倍ですか。金星の味噌ラーメン、食べました? アレは地球では出せない味だ。それより美味しかったです。アキミンも是非」
だなんて、この人、あたしにのっかちゃてる。
「実は僕、惑星ベェガスから来たんですよ」
と言ってサングラスをはずした。
「キャアアア」
あたしの悲鳴で大勢のスタッフが店内に入って来て男を取り押さえた。
サングラスを外した男がいきなりあたしに抱きついて来たんで、あたし声を出しちゃった。
「大丈夫ですか、松田さん。こいつはガマ男じやありません」
スタッフの中に刑事さん? 病院の。
松田アキミファンのスナック経営者がなまアキミンを見て興奮のあまり暴走したらしい。顔が少しガマ男に似ていたが、地元警察の調べではただの熱狂的なファンだったらしいガマ男とは無関係だった。
「そうか、水戸くんも大変だな。スタッフにもぐり込んでまで。だけどご贔屓のアキミン、間近で見てたんだろ」
「仕事中は頼りになりそうな連中も多いのでいいんですけど、心配なのはプライベートですね。ボク、あれから何度もあの公園の夜まわりしているんです。また現れるんじやないかと」
「ふんふん。ゴローコーも大変ね」
昼休みで弁当を食べていたソフィが懐かしいボクのあだ名を口にした。しかし、ボクのコンビニ弁当とは違いソフィのは近くの洋食屋が作っている特製弁当で豪華だ。
松平先輩、ソフィ、三人揃って昼飯を食べるのは久しぶりだ。
「ソフィちゃん、そのハンバーグ美味しい?」
「ええ、なんか味変わりましたよね」
「東くんが作ってるからね。おぼえてるかな。七代目オカルト研会長のアズマくん」
「アズマ会長は今、平和亭に」
弁当を頼んでいる近所の洋食屋平和亭は実は先輩がオーナーの店だ。アズマ七代目会長はコックになったのか。後輩の面倒がいいと評判の先輩は、何人も自分の経営している会社に入れてる。
「彼ね、実家の洋食店継いだんだけどね……残念な事に去年。前に彼の店で食べて気に入ってたからね、僕の店に」
本当に先輩には驚かされる。先輩はいったい何社の会社のオーナーなんだ。いまだ不明だ。
「あのね水戸クン。アキミンはナイトに守られてるから大丈夫よ」
彼女がボクをゴローコーと呼ぶのはきまぐれ。普段は水戸クンだ。ボクの名が水戸光邦。時代劇好きの婆ちゃんが、つけた。姓が水戸なのでいいだろうと。おかげで学生時代にはあだ名だらけだった。倉田さんもボクをコーモンって呼ぶ時もある水戸黄門のことだが、街中でコーモンなんて聞いて水戸黄門だと思う人はいまい。肛門を連想するだろうから、ボクが怒るので、最近は言わなくなった。ご隠居と呼んでた奴が中学の時に居た。中学生でご隠居はないだろ。ボクが水戸出身だからナットーとか言われたのは大学時代だ。その頃ソフィの仲のいい友人の娘が御老公と呼んでたのでソフィも時々。しかしソフィはゴローコーの意味をわかってない。と、話しがそれた。
ソフィとアキミンはある雑誌の企画で対談をしている。その時アキミンと仲良くなったと聞いて羨ましいと思った。が、今じゃボクも彼女に急接近だ。
「アキミン、対談後に一度ココに来たの。ガマオに襲われる夢を連続で見ていて心配だって」
「そんなことが」
「それがね、その日の夜にあの人襲われちゃったの。占いでナイトが守ってるから大丈夫って言っちゃた後なのよ。彼女に申し訳なくて」
「それは……でもソフィの占いあたるから。大丈夫だったじゃないですかアキミン」
「そうね、結果的にはね。あの時彼女怖い思いを。でも、水戸クンが助けに。ナイトって水戸クンかしら」
「いや、それはないですよ。ボクはナイトってがらじゃ。それにボク、返り討ちに」
「どうかなぁ。実はナイトなら騎士のカードが出たはずなんだけど。でも出たのは剣を持った男のカードだったのに。わたし、ナイトが、守り人がいるから大丈夫って。やっぱりあの男のカードは……」
「正義の宇宙刑事とか現れてアキミンを助けて去っていくんじゃないですか」
「水戸くん、そりゃマンガだね。今時流行らないストーリーだ。そうだな僕なら、『ストーカー刑事』とか書くね。アイドルのストーカー刑事が芸能関係の殺人事件を解決。もちろん主人公は水戸くんだ」
多才な先輩は、オカルト研究書の他にホラー小説やラノベなんかも書いている。多忙の先輩のどこにそんな時間があるのか。誰がゴーストライターでも。
「面白そうですね『ストーカーデカ水戸光邦』読んでみたいな」
「やめてくださいよ、そのタイトル、モロじゃないですか使用料取りますよ」
そこにスマホの着信音が。怪獣映画のテーマ音楽。
倉田さんだ。
〘飯食い終わったか? また九十九里に行くぞ。ガマ公の目撃があった。オレはクルマで先に行くから。水戸は電車で来い〙
「アキミン大丈夫ですかね」
〘ヤローが九十九里なら大丈夫だろ。彼女は今日は何処に?〙
「名古屋って聞いてます」
「水戸クン、お仕事がんばって」
と、ソフィが胸元で両手をグーにしてガッツポーズをした。うん、可愛い。
九十九里署にはボクが先に着いた。
署の戸村女史警部補と目撃があったという病院に来た。受付で目撃したという女医を呼んでもらった。
病院の待合室には例の騒ぎがあってガマ男の手配書が似顔絵入りで貼ってある。
「あいつまた病院内で何かするつもりなんですかね」
「そうね、なんだって九十九里なのかしら? はじめは都内でしたね。何かこっちにあるのかしら。そう昨日見つかった海岸の遺体もあの男の仕業かしら」
「海岸の遺体?」
「あら、新聞見てないの?」
「すみません初耳です」
「まだ詳しい報告は出てないのだけど他殺の件は報告があったわ」
「どんな死に方を? 目撃とかなかったのですか?」
「目撃はなかったの」
そこに白衣の中年女性がやって来た。
「内田です」
内田芳恵、内科の医師だそうで、屋上で何回か不審な人物を目撃しているという。
「立入禁止とドアには貼ってありますけど。ドアには鍵がかかってません。洗濯物とか干しているので出入りは自由なんです。何度か見たのですが、あれは病院の関係者じゃありませんでした。院内に貼ってある手配書の似顔絵の男でした。あんな顔間違えるはずありません」
「内田さんは何回も見てると。何しに屋上へ?」
立入禁止の屋上に洗濯物を干すのは医者の仕事ではない。戸村さんが聞いた。
「はい、あの私タバコを吸いに。そういう姿、患者には見られたくなくて。で、最初あの男を見た時は誰かほかの医師がタバコを吸いに来てるのかと。はじめは洗濯物のシーツごしでしたから。顔は。先日はっきり顔を見て、あわてて下に降り警察に。ここまでは昨日警察で。私は海岸の近くに住んでまして、今朝ここ来る途中に海岸の方から歩いてくる男を見たんです。信号待ちで停車している時に見たので間違いないです」
「奴はこの地にまだ居るってことで間違いないですね」
ボケットのスマホが震えた。確かめると倉田さんだ。
〘先に着いたかのか。クルマは渋滞にハマって今、署に着いた。何処だ?〙
「戸村さんと一緒です。目撃のあった病院ですけど、これから海岸の方に」
内田医師が言っていた海岸というのは例のクロスカウンターのあった海岸だった。今日の朝、奴はココに。海岸入口の小道前に倉田さんのクルマが来た。
「どーも。この前は。今朝の新聞で見たんですけど、遺体がココで」
倉田さんは知ってた。知らなかったのはボクだけか。
「えらく美人の仏さんだったと」
えっ遺体は女性だったのか。
「ええモデルのような体型で整った顔の美女でした」
昨日のことなので現場にはまだ現場検証中の鑑識人間が何人か居た。
「この海岸の近くに奴の隠れ家があるんすかねぇ」
さすがに海の中はなあだろう。宇宙人ならどうかと思うが、しらべようがない。
ボクらはいったん署に戻り昨日の美人の遺体の詳しい報告を聞くことにした。駐車場のクルマにもどり。戸村さんはココに来るのに乗ってきたミニパトに、ボクは倉田さんのクルマに乗った。署は例の病院の近くだ。ボクらのクルマが右折すれば病院という交差点で停まった時に後ろのミニパトのウィンドウから身体を出し戸村さんが。
「今、そこの路地にあの男が!」
「倉田さん、降ります!」
ボクはクルマから降りて戸村さんが言ってた路地に走った。路地のつきあたりまで行くと曲がり角だ、先方に歩いているグレイの作業服を着た男が見えた。
「おい、あんた」
男は走り出した、無言で近付けばよかった。
「おい、待て!」
足には自信がある、この距離なら追いつける。しかし、この路地やたらと角が多くすぐに奴を見失う。気がつくと病院の裏口に居た。まさか病院内に。裏口から中を覗いてみると看護婦が居た。
「すみません、ここからグレイの作業服の男入って来ませんでした?」
「あっそういえば、作業服の男が、階段の方に」
「ありがとうございます。ボク、警察の者です」
と、警察手帳を見せ階段の方に向かった。階段、表の出入り口へ逃げたんじゃないのか。上、屋上か、屋上に何かあるのか? この病院は三階建てだ、途中でまがり別の階段から出口に向かう事も。
二階上がった通路に居たヘルパーさんに。
「ココへグレイの作業服の男来ませんでしたか」
「その男なら上に上がっていったよ。なんです?」
ボクは応えずに三階へ向かった。追いつける、屋上に行ったのなら袋のネズミだ。三階の通路。見まわしたが男は居ないやはり上か。
「なんです? 騒々しい。ここは病院ですよ」
階段のそばの病室から出て来た中年看護婦に怒鳴られた。この人は、男を見たのでは。
「すみません。警察の者です。不審な男が居たので追ってココまで。怪しい奴見ませんでした? 作業服の男です」
「そういう男なら、さっき上へ」
やっぱり。
「屋上に上がる階段はココだけですか」
「エレベーターが」
それはまずい。ボクは、すぐに上に。
関係者以外立入禁止と書かれたドアの向いにエレベーターのドアが。動いてはいないようだ。やはり屋上に出たのか。屋上に出る前に電話をした。病院に居ることを告げ出入口を封鎖してもらった。すぐに倉田さんと署の大島刑事が来た。戸村さんも少し遅れて来た。病院の出入口の封鎖は完ぺきだと。奴は外に居るはず。スパイダーマンでもなきゃ外から降りられない。
「病院の周囲も包囲してます。屋上に」
戸村さんがドアに手をかけた。
「警部補、私が先に。危ないですから」
大島刑事がドアを開けた。
干されたたくさんシーツがはじめに目に入った。強い西陽が指していた。
シーツの中を進むと、広々とした屋上。とくに何もない。病院の周りには高い建物がないので海が見えた。
あいつは何処に? 屋上の周りには2メートルくらいの高さがあるフェンスがあるが、一箇所扉があるのが見えた。あれは、と声に出さずに戸村さんの顔みた。
「アレは非常用の出口です。あそこから逃げても下にウチの者が」
「上だ。タンクの上に」
大島刑事が走りだした。筒型のタンクの上に人が立っている。あの作業服の男だ。一度こっちを見て、背を向け片手を上げた。手に何か持っている。
ボクたちは男の頭上現れた物を見て声を上げた。
「なんだあれは!」
頭上に現れたのは大型トラックほどある大きな「タラコ」。色もソレだし。形がそうとしか言い表せないものだった。二本のタラコが並んだ形の物が浮いているのだ。金属のようではないが、生き物のようでもない。
「なんだありゃ~」
倉田さんがスマホで写真を撮った。
深海魚のような醜い顔の男は、また振り返り笑ったような顔を見せ、すぐ背を向けると頭上のタラコを見上げジャンプした。タラコの二つくっいたようなわれ目が開き男が中に入った。すると巨大なタラコは空に上昇して点となって消えた。ボクらはナニを見たんだ。頭の中にアルファベット三文字が浮かんだU・F・O?
ガマ男はやはり宇宙人なのか。 ボクはアキミンの話を思い出した。ハルの記憶。
二日前に、マンションに、あの銀髪、サングラスの女性が現れた。
「記憶は戻った? 危険よ。またあいつが、あなたを襲うわ。気をつけて。私もあいつを捜してます」
そう言って、マンションのバルコニーから消えた。
昨日ニュースで見た海岸で遺体発見。それは銀髪の美女という。あたしはすぐに、あの女性だとおもった。あの女性がガマ男に。そのことを警察に話そうか迷った。ハル星の事も話さなくてはならないからだ。病院に来た年配の刑事みたいに、またイヤな顔されるのではと考えてしまう。でも病院に運ばれた刑事さんなら。
警察に行く前にソフィアさんに会おうと考えてた。予約とか入れずに会えるかな? タメモトで「ウィッチ・パラダイス」に電話してみた。事務の女性が出て名前を伝えるとオーナーという人がかわった。
〘1時間半くらいに、三階の事務所に来てくれれば、昼休みだから大丈夫。会えるよ〙
聞き覚えのある声としゃべり方。対談の時ソフィアさんと来ていた人だ。スキンヘッドで
太い眉、黒い丸いサングラスの見た目としゃべり方にギャップのある人だった。あの人が「ウィッチ・パラダイス」のオーナーなのか。
あたしは一時頃に事務所に着いた。事務の女性が応接室に案内してくれた。早く来すぎたかしら。すぐにドアが開きあのスキンヘッドでサングラスのオーナーが。
「ソフィちゃん、まだ午前のお客が終わってないからもう少しまっててね。なんか飲む? コーヒー、紅茶。なんでもあるから言って」
「なんでも……ドクペなんて」
「有るよ、ドクターペッパーね」
あるんだ。スゴッ。
オーナーは室内電話で。
「ドクターペッパーとクリームソーダお願い」
すぐに事務の女性が持ってきた。並の喫茶店より早い。
オーナーさんはすごく雑談上手でどんな話題にも飽きさせない。話題豊富な人だ。二時近くになり。
「ごめんなさい。待たせちゃて」
オーナーがクリームソーダを飲みほすと同時にソフィアさんが来た。
「あ、いえオーナーさんが楽しい人で待った感じはありませんでした」
「これからの話し、僕が居て大丈夫かな? 席はずそうか?」
「大丈夫です。オーナーも聞いて下さい」
今まで話していてオーナーさんは信用がおける人だとわかった。どんな話しでも問題ないだろう。
「食事しながら失礼します」
ソフィアさんは手にした袋からハンバーガーBOXと
フライドポテトの束とストローの付いた容器をテーブルの上に出した。
「お忙しいところ、こちらこそすみません」
「いつでもいらして下さってかまわないですよ」
「しょっちゅうここで昼の弁当食ってる奴もいますから、今日は来ないみたいだけど」
とオーナーが。
「ここんとこ来ませんね忙しいのね水戸クン」
水戸クンってまさか刑事の。
「あたし警察に行こうと思ってるんです」
「どうしたの? なんかあった?」
「千葉の海岸で見つかった遺体なんですけど、多分知り合いです」
「銀髪の女性とニュースで、その人はあなたに会いに来た宇宙人?」
さすかのみが込みが早いオーナーさん。
「あなたにハルから来たと教えた女性ですね」
オーナーさんは昔流行った刑事ドラマの主人公のマネをして言った。
「アレはガマ男の仕業です。あの人は男を捜してると」
「あの、オーナー。このバーガーは?」
「あっわかっちゃた。いつものお店休みだったんだ。で、バイトの下村くんに渋谷のアイゼンに」
「そうなんでか、いつものより美味しいです。あゴメンナサイ」
「この話し警察に言っても大丈夫ですかね」
「いいんじやないの。警察だって遺体が誰だが知りたいだろうし」
「でも、でもですよ。あの人、宇宙人なんですよ」
って、言ったりしたらまたきっと。
「おかしなの来たって追い返されませんか」
「銀髪の人が宇宙人なら遺体解剖なんかでわかるんじゃないかなぁ」
「だとしても、さすがに宇宙人とか報道しないよね。世界が変わっちゃうもん。多分それなりの対応してくれるよ」
「オーナー、水戸クンに話してみれば彼の口からなら」
「水戸くんは、ただの新米刑事だからね。宇宙人とか言ったらまた交番にもどされちゃうよ」
「水戸さんて、もしかして病院にあたしと運ばれた」
マネージャーの舞さんが確かそう言ってた。水戸刑事。
「そう。あのガマオに返り討ちにあった水戸くんだ。彼、僕らの後輩」
そんなつながりが。あの人なら真剣に聞いてくれそう。
「電話してみようかしら。大丈夫かなぁ忙しそうだけど。最近、来てないのよねオーナー」
とか、言いながらソフィアさんの手はスマホの画面に。
「あっヤッホー。今、何処? えっいいなぁ。お魚美味しい? あ、そ。サプライズ!」
いつものソフィアさんとは違う。あの刑事さんと凄く仲がイイみたいだ。そんなソフィアさんがあたしにスマホを。
「お久しぶりです、松田です」
あたしは、銀髪の女性の遺体のことを話した。
〘なるほど、わかりました。ご協力感謝します〙
そう言って切れた。やはり忙しいようだ。
アレッなんか、変。目の前が真っ暗に。あたしはスマホをソフィアさんに返そうとして気を失った。
つづく