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役目を破棄した勇者  作者: 獅月クロ
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1話 やる気のない勇者


深く被ったフードに紺色の迷彩柄をした指穴付パーカー、それに足首にベルトの付いたズボンに踵のある革ブーツ、誰の服装かって?俺の普段着。


動きやすく、地味なりに格好いいと思う部分が有るからこそ着てるのだが、今日は病院で検査をするからって理由もあり軽装なのもあった。


まぁ、その検査も先程無事に終えたお陰で、

採血されてちょっと貧血気味でフラついてるんだがな…。


元々貧血気味なのに、尚更血を抜かれなきゃいけなくなったのは…死活問題な程にある理由があった。


検査結果は分かりきってるが、結果が出る二週間後迄は俺の大好きなアレを控えなきゃいけないことがある。


そう……。


「 猫カフェいけないとか…俺に死ねって言ってんのかな…… 」


ガンッと道端の電柱に額をぶつけ、絶望的な程に落ち込んでしまった。


背中や頭からキノコでも生えるんじゃないかってぐらい落ち込んだのは、

俺が゛ 動物アレルギー ゛かも知れないって事だ。


昔から家に猫を初めとする、犬、鳥、金魚とかいたのだが、俺だけがずっと喘息だったり蕁麻疹が出て、病弱だと言われ続け、

身体を丈夫にするからと父親から色んな武道を習わせられ、嫌々行っていたのだが、それでも治らなかったこの身体。


そして、最近…犬猫の愛護団体でボランティア活動をしよう!と思って、シェルターに行ったら、目が充血してくしゃみも酷いし鼻水も止まらなかった。


そのせいでスタッフの方に ゛ 一度動物アレルギーの検査をして来てください ゛と言われてする事になったのだった。


いや、結果なんて見なくてもあの医者が行ったパッチテスト?みたいなので皮膚痒くて仕方なかったし、それが羽根だった時点で致命的だわ。


「 犬猫だけじゃなく…全動物とか?なにそれ、俺がどれだけ動物が好きか… 」


ガンガンと電柱に額をぶつけてはブツブツ呟く。


「 ママ〜、変なお兄さんいるー 」


「 シッ、指差してはダメよ 」


高校から実家を離れたせいで寮生活になってペット禁止で動物に飢えていたから、

卒業後、社会人になって金を得てから猫、フクロウ、爬虫類カフェやら通ったりして、くしゃみとか咳酷いなりに楽しんでたのに…


「 俺が今まで病弱だった理由が、動物アレルギーだったから??なにそれ……耐性付いとけよ… 」


生まれた時からバカでかいセントバーナードっていう犬種のマリン(雌)が忙しい親の母親代わりって感じぐらいに一緒にいたのに、そいつにもアレルギー反応してたってことになる。


申し訳無さ過ぎて泣きそうだわ…。


「 動物が大好きなのにアレルギー…アレルギー…もう、つらっ…… 」


アレルギー用の飲み薬を貰ったにしろ、これを25歳になってから飲むってのもなんだか嫌だから、ゴミ箱にでも捨てたくなる。


もうポイってしてやろうかなってぐらいに心が痛くて仕方ない。 

 

「 ハァー……動物アレルギーが出ない動物とかいてくれりゃ…いいのにな 」


犬猫、鳥、爬虫類すら駄目な俺には無理だろうなって諦めて、深く息を吐いてから視線を上げて歩こうとすれば裏路地から出てきた、一匹の尻尾が長い綺麗な八割れをしたフワモコ系の三毛猫に目が行く。


「( どこ行くんだ? )」


お魚を咥えてる様子は無いが、と思い見ていれば三毛猫は歩道の隙間から顔を出し、左右を見て車が来てないのを確認してから歩き出した。


「( いや、車来てるからな!!! )」 


猫の視力は遠くの物はぼんやりと見えて、近くの物はハッキリと見えると聞いたことがあった。

つまり、あの猫にとって車は遠くにあり止まったように見えていても、人間にとっては動いている事になる。


飛び出した猫に気付かない普通車の運転手、俺は後先を考える事も出来ずに歩道の柵を超えて道路に出ていた。


「( 間に合え!! )」


「( なっ!!? )」


人が出てきた事で急ブレーキを掛けた運転手を他所に、猫の両脇を掴んで抱き上げては脚を止めようとするも、掛け走った事で急には止まれず反対車線の車が突っ込んで来るのが見えた。


「( やばっ…… )」


流石に轢かれると叫び掛ける通行人は思っただろう。


もちろん、俺も死ぬかと思った。


けれど一歩進もうとした時に足元に現れた謎の黄色い魔法陣によって、衝撃はやって来なかった。


「 っ〜………へ?? 」


変な格好で止まっていた身体は、急に地面へと落下し尻餅を付いた。


「 此れで全員揃ったか 」


服に引っ掴まる三毛猫と共に、俺は全く知らない場所へと来ていた。


ここ何処ですか???



「 此れで全員揃ったか 」


尻餅を付いた俺の他に、1番右から座り込んで癖っ気のあるミルクティー色の頭に手を置いてる同い年ぐらいか、少し年上に見える茶色の目をした青年は長袖の柄シャツにボロのジーンズといったラフな姿をしている。


2番目には疑問そうに首を傾げてる黒髪を半分バック上げにした青味がかった瞳の青年は白衣を着てる辺り医者か科学者なのだろうか。


俺を含めて3人がこの場にいるが、それ以外にも深々とローブを被った人達が12名、その中央というか背後には言葉を告げた如何にも王様って格好をした男が玉座に座っていた。


ここはどうやら玉座の間らしく、彼等の他に兵士や使用人と言った者達が大勢いる。


「( 何だここ… )」

 

俺は今さっきまで道路で猫を…猫!!


ハッとして手元を見れば明らかに怯えて震えてる三毛猫がいる為に、一緒に変な場所に連れてきてしまったんだと察する。

仕方無く片腕で抱いたままゆっくりと立ち上がれば、彼等も其々視線を重ねる。


「 此れはどういう状況?オレ…女とイイ雰囲気だったのに 」


「( ナニをしてたんだコイツは… )」 


腹辺りをボリボリ掻いて気怠けな事を言ったミルクティー色の男の言葉に変な方を考えてしまうが、あってるだろうな!社会の窓開いてるし!!


それをすっと上げた男と変わり、黒髪の俳優並みに美形の白衣を着た男性はポケットに入れていた高そうな時計を見て眉間にシワを寄せる。


「 時間が止まってやがる…… 」 


「 時間? 」


時間と呟いた事で俺とミルクティー色の髪をした男もまた其々のポケットに入ってたスマホを取り出し時間を見る。


確かに15時32分で止まっていた。 


「 どういうことだ? 」


「 驚く事も無理ないが、まずは挨拶をさせてくれ 」


「「 ??? 」」


俺達が其々疑問そうにしていれば、一人の口から顎髭を生やした60代位の年配に見える王様っぽい服装にゴテゴテの王冠を付けた男は告げた。


「 私は、この国…テルリック王国の国王である、フレデリック・アーブラハムと申す。君等は、我が国…いや…世界を救う勇者として、此処にいる12人の選ばれし魔法使いによって召喚させて貰った 」


「( ……王道のラノベ展開だな。てか、マジで異世界ってやつ?? )」


フレデリックが名字か、アーブラハムが名前なのか分からないが、薄々気付いていた此のよく分からない展開は、異世界へ召喚されたようだ。


俺は異世界系の動物やら獣人が好きだから、そういったゲームを幾つもやってるから察する事が出来るが、右側を見れば二人とも眉間にシワを寄せていた。


それもそうだ、一人は女しか興味なさそうな色男だし、もう一人は勉強ばかりしてきた様な医者っぽい人、

この中で唯一ゲームやら異世界を知ってそうなのは俺だけと雰囲気がそう語る。


「 ふはっ、世界を救う?魔法使い?なんだそれ、ハリポタかよ 」


「( ハリポタは知ってんだな!! )」


分かるぞ、パリピはそっち系の洋画がなら観てる場合があるってことは!


鼻で笑ったミルクティー色の…面倒だから色男でいいや。

その色男が笑った言葉に、フレデリック王の左側の傍にいた丸眼鏡を掛けた黒髪の宰相みたいな男は口を挟む。


「 直ぐに理解出来ないのは致し方有りませんが、貴方達がいた世界で優秀な方々なのは存じています。数百年に一度…召喚する勇者達は皆其々…特殊なエクストラスキルをお持ちのはずですから。私達には見えませんので、どうぞ確認してみて下さい 」


「 確認……? 」


疑問そうにしてる白衣の男性は俺の方へと視線向けた為に、こんな時…ゲームならよくタッチパネルとか出て来そうな為に、ちょっと猫を抱く位置を変えては身体のあちこちをタッチしてみた。


左手首に触れた瞬間、何やら浮き出した。


「 あった。左手首みたいですよ 」


「 左手首? 」


「 おっ!なんか出てきたぞ 」


「 本当だな 」


半透明の電子パネルに出てきたのは、種族、レベル、能力、そしてスキルだった。 


「 それは召喚して現れた勇者様達だけが見れるものです 」


「( ふーん……へ? )」 


俺はぱぁーと見ていたのだが、この内容は正に現実世界とリンクしていた。


いや、一部を覗いてだが。


「 エクストラスキル、誘惑(テンプテーション)?なんだこれ。敵のヘイトを集め…って分かるか? 」


自分のを見ていれば問われた言葉に、視線を色男に向ければどうやら俺に言われてるみたいだから答えた。


「 お兄さんはタンク役みたいですね。ヘイトってのは敵が攻撃する方向を決める際に、誘惑や挑発をした相手だけに攻撃するってこと。結構大事ですよ 」


「 誘惑かぁ……ホスト辞めたんだがな。今はのんびり経営者側に周っていたのに…また誘惑するとは、女だけがいいなぁ 」 


「( やっぱり元ホストの方でしたか!そんな気はしてたが )」


あれかな、夜の帝王みたいな渾名でもあったかな!?そんな気はするが…。


明らかに色男って感じがするから、納得したが、この勇者ってのは其々に役目があるみたいだ。


「 俺は回復(ヒール)らしい。状態異常を始めとする回復スキル?ってのが多い。外科医だから内科の内容はそんな知らんぞ… 」


「 回復なら杖職かな。遠距離攻撃を得意として、後方からの支援とか得意とすると思いますよ。まぁ…此れからの振り分け次第みたいですが… 」


レベルが上がれば、ステータスポイントの振り分けがある。

攻撃、素早さ、防御の三つでいい事は凄く初心者向きで分かりやすいが、此の二人はあまり気にしてないんだろうな。


「 先頭にいるなら攻撃だな、んじゃ…全部振っとくか 」


「 後方なら防御か?俺も全部でいいか 」


「 いや、えっ、待ってください! 」


「「 ん? 」」


ガーンと顎を外してるような魔法使い達や他の連中は知らんが、俺はハッとして止めようとすれば二人の手は止まった。


「 えっと…元ホストさんは防御。お医者さんの貴方は素早さと思うんですが…… 」


「 そうなのか?もう振ったんだが 」


「 これって新しく手に入るだろ?じゃ、大丈夫だって、次からそうすりゃいいって 」


「( いや…駄目な気がする…… )」  


最初は50ポイント存在した。

それ等、全てを1つに振ったのなら相当偏ってると思うんだが…。


俺はまだ彼等を見て振れてないからこそ、その行動力の早さと決断力に感心すらする。


「( ゲーム知らないって…恐ろしい )」


「 えっと…我々にはそのステータスってのは自身のを含めて見えません。ですが…聞いた話では10で1という計算らしく、全部で100。つまり其々10が最高値になるらしいです 」


「 ほう?なら俺は攻撃5だな! 」


「 俺も防御5だ 」


「( スキルと全く関係ない場所振っちゃってるぅぅう…… )」


ゲームの中なら、今からログアウトして作り直した方がいいってオススメする位のレベルだからこそ、めちゃくちゃ心が痛む。


これが、と言ってはいけないがこれが勇者ならこの国というか世界は終わると思う。


あ、いや…待てよ… 


まだチャンスはある?



「 一つ、質問して宜しいですか? 」


猫の尻を支えたまま右手を上げれば、宰相の様な男は視線を向けてきた。


「 なんでしょうか? 」


「 勇者を召喚したのなら…この国に此処にいる魔法使い達でも倒せない脅威があると思うのですが、それってなんですか? 」


もしかすればエキストラスキルなんて必要ないまま倒せる雑魚かもしれない!

そうなると彼等が変に振っても問題無いと思ったからこそ、問えば彼は答えてくれた。


「 其れを御伝えしたいと思って居りました。この世界は今、魔界の切れ目から現れる魔物達によって大きな被害が出ています 」


宰相さんは説明をしてくれた。

簡単に言えばこうだ。


此の世界には龍族や羽族が住む天界、人間や獣人が住む地上、そして悪魔と呼ばれる魔物が住む下界が存在する。


天界の連中は地上や魔界に鑑賞はせず、自分達の文化を大切にして過ごしてる為に、味方でも敵でもない。

だが、下界である魔界に住む魔物達は地上の人間を餌として喰いに出て来たり、領土を奪う為に戦争を吹っ掛けて来るらしい。


大半は晴れて月の出た夜が多く、それは満月がピークだという。


其の時に魔界から多くの魔物達が現れるのだが、此処数百年に一度と言う程に魔界の魔物達が強くなり被害が大きく出始めた事で勇者を召喚したらしい。

 

つまり俺に、人間ではない生き物を殺せって言ってる。


時計が止まったのも魔界の切れ目によって、時間の流れが壊れてるようで、それをもろに電子機器が影響を受けて狂った。


実際の時計は教会にある、時の鐘とセットについている聖なる時計(ハイリッヒツァイト)でしか分からないようだ。


それが表示した時間が、この世界にある懐中時計やら、この表の端に写し出される時間で分かるみたい。


「( なんか、凄く如何でもいいな…… )」


魔物を倒せないからって理由で召喚されるのは気に入らないんだが…。

人間ですら殺したことがない者達が、命あるものを殺せって馬鹿だろ。


説明を聞けば、俺を含めた二人共口を閉じた。


静まり返った空間の後、宰相さんは問い掛けてきた。


「 説明は以上です。貴方達の名前を教えてはくれませんか?私はフレデリック王に仕えるこの国の宰相であるアルバス•ベアディと申します 」


王様含めてご丁寧な挨拶をしてもらったと思い、俺達も色々言いたい事は山積みだけどまずは挨拶かと思い、小さく頷いた。


この三人の中で一番、年上っぽい医者さんから告げた。


「 俺は(ヘイ) 雲嵐(ウンラン)と申します 」


「( まさかの華僑(かきょう)の人だったんだ…。発音が日本語…ハッ!!この世界に来た特権か! )」


言語が統一されるのはよくある設定だが、日本人っぽい人かと思っていたが、何処か華僑系の俳優さんみたいに美形だった理由がわかった。


なら、と思い視線を色男へと向ける。


「 俺はだなぁ、ロベルト•ドゥ•フラディオだ。宜しくな! 」


「( なんとなく、名前格好いいし、身長もあって見た目いいとか…引く手数多だろうな…あ、次は俺か… )」


白い歯を見せ笑った色男さんが紹介した為に、俺も彼等の視線が向けられた為にふっと息を吐いてから答えた。


「 俺は桐生(きりゅう) 琥珀(こはく)。ごくごく普通の社会人でした 」


彼等とは違ってなんの取り柄も無い社会人の為に、そこまで驚かれる事は無いと思う為にサラッと言えば、王様達も余り興味無いようで俺をさほど見なかった。


いや、この゛ 容姿 ゛が嫌なんだろうな。


「 雲嵐、フラディオ、そして琥珀。まずは客室でゆっくりしてくれ。込み入った話は後日行う。其れまで各自此の城下を楽しんでくれればと思う 」


「「 はい 」」


取り敢えず、其々に返事をしてみたって位か。


フレデリック王に従うか如何かは、案内された客室で勇者と呼ばれた俺達だけで行う事になった。


「 あーぁ、狭い部屋に野郎二人と…、仕方ねぇか 」


「 客室なんだ、そう言うな 」


案内された場所は、入り口は1ヶ所でありベッドが3つ置かれた程度のビジネスホテルよりしょうもない部屋だった。

絢爛豪華な、なんてものも無くシンプルにもいいところだ。


窓際へと歩いたフラディオは軽く凭れては視線を外へと向ける。


「 下は水堀……、3階で上や横にも行けるような場所はないってか。完全に見張る為の場所だなぁ 」


「 廊下にも兵士がいるみたいだしな… 」


「( 水堀か、確かに飛び降りたりしたら音で分かるわな )」


逃げずに引っつかまっていた三毛猫の背を撫でては、服に立ていた爪をそっと外しそれでも嫌そうに抱き着くために両手を肩に乗せるようにし、撫でていれば雲嵐は視線を向けてきた。


「 そう言えば、その大人しい猫は御前のか? 」


「 ん?あーいや、助けようとしたら一緒に来ただけ。でも…異世界で放置するわけにも行かないし、悩んでるんだよな…餌どうしよう… 」


「 意外に魔物ってやつになってたりしてな!俺達の種族が人間じゃなくなったみたいによ! 」


「 そんなわけ…( いや、ありえるな… )」


そう、俺達は勇者である以前に人間では無くなっていた。


さっき、スキル確認をした際に種族の項目を見て知ったんだ。

左手首に触れ半透明の電子パネルを出せば名前の下に書いてある種族を見て思った。


「 そう言えば、俺は妖精族(エルフ)になっていたな…そんな気はないんだが 」


「 俺は巨人族(ジャイアント)だぜ?そんなゴツくないのになぁ…。それで、アンタは? 」


雲嵐はエルフ、フラディオは巨人族、そして俺は…有り得ないと思うような種族だった。


竜族(ドラゴン)…なんだよな。俺ってウロコでも付いてんの!? 」


「 ドラゴン…すげぇって思うが、全くそんな見た目じゃないよな 」


「 そうだな。強いて言うならそのアルビノの見た目が気になるぐらいだ 」


パッと頬に触れ鱗があるか確認したが、そんな様子は全く無い。

彼等と同じく容姿に変化が無い為に竜族なんて言われてもピンっと来ないんだが、雲嵐が言った言葉に視線は外れ、落ち着いてきた三毛猫が膝の上に移動した為に、その背に触れ答えた。


「 此の容姿は元々だ。でも、アルビノじゃないんだ。元々黒髪だったのがストレスで白髪になって、目は親譲りってだけさ 」


「 へぇ、ストレスって相当だな?女と遊んで発散すりゃいいのに 」


「 いや、女性より動物が好きなんで 」


「 ふはっ、だから竜族なんじゃねぇ?なんか、動物の一番上って感じするし。俺は防御特化?だから硬そうな巨人なんだろうなぁ。硬いのはこk… 」


「 納得した。…回復だから魔法系のエルフか 」


変な事を言いかけたフラディオに間髪入れずに雲嵐は頷いた為に、続きの言葉はかき消された。


其々の得意分野って言ってたもんな

それが種族もセットでってなると、分かる気もするが態々此の世界で種族変えなくてもなーって思う。


てか、竜族って天界にいるから地上の奴等と関わらないんじゃ…。


それなのに俺が竜族ってなにそれ。



其々にベッドに座り、話を続行しながら俺はこのパネルを色々と弄っていた。

触って悪いところは警報が出ると思うが、出ないならいいか。


「 お、フレンド登録機能あるみたい。やっときません? 」


「 LINE交換みたいな奴か?やるやる! 」


「 よく分からんが俺もやっておく 」


これは恐らく、勇者がパーティーとか組む時に此の世界に住んでる人達のステータスやら見るのに必要な為なんだろうな。


実際に、彼等とフレンド登録したことで彼等のステータスが見えるようになった。


「 おー!此の世界で初友だな!! 」


「 ふむ…メッセージも送れるのか。メール… 」


「( マジで攻撃と防御しか振ってねぇぇ… )」


二人とも、本当にそれでいいのか?って感じの場所しか振ってないから苦笑いが漏れ、メッセージ送る練習をしてる雲嵐からくる、謎の挨拶メールを無視しては、チームのところを見る。


「( あ、三毛猫…仲間になってた。それも種族…獣魔(じゅうま)って…御前…只の猫じゃないのか… )」


只の三毛猫がこっちに来て獣魔に変化したってことは、その内…進化したりするってことか?

性別を確認するべく、ちらっと見たけど三毛猫ならメスだろうと思い確認するのを止めておいた。

後々、セクハラとかで訴えられたくないしな。


「( てか、仲間のステータス…自分で振ること出来るんだな )」


三毛猫の名前も付けるようで、名前設定の部分を押して、空白の部分にメッセージを打ち込むように入れる。


「 折角、仲間になったんだ。名前をつけてやるよ。マオ 」


(マオ)…そのままだな 」


「 いいんだよ!雲嵐に影響されてな。つい 」


「 ミュー! 」


雲嵐の言葉に否定しつつ、ニャーでもなく仔猫みたいな鳴き声をしたマオに驚くもこっちを見上げて嫌そうにしない為に笑い掛けてはその頭から背中を撫でる。


「 あ~そういえば、雲嵐?だっけ。御前って中国人なんだな。琥珀は…日本人? 」


「 そうだな、俺は中国人だ。言語に違和感なかったから気にしなかったが 」


「 それは俺も思った。やっぱり異世界に来た特典?みたいなやつじゃないかな 」


「 異世界すげぇな!こうやって国が違う奴等が集まってんのに、言語に困らなくていいって、楽だわー 」


「「 確かに 」」


彼等も言語について違和感が無いと思ってくれてて安心した。

てか、やっぱり大人だけあるのか異世界に来たっていうのに凄く落ち着いてるんだが。


普通、学生ぐらいなら騒いでそうなのに二人は全くそんな様子もなく俺と同じくパネルを見ながら話をしている。


受け答えはちゃんとしてくれそうな人達だからこそ、こっちから聞いてみることにした。


「 二人は、異世界って言われて驚かないです?俺は結構…驚いてるんですが… 」


敬語であるべきか、タメ口でいいのか分からないから変な喋り方になってしまってるが、二人に問い掛ければ其々に顔を見合わせては、フラディオが先に答えた。


「 そりゃ、内心すげぇ驚いてるし意味分かんねぇけど。人前で大声出すのはかっこ悪いし…俺の性にも合わないしな。なんとなく流れに身を任せてりゃ分かるんじゃねぇかなーと。少なからず此の使い道も分かって来たし 」


嗚呼、やっぱり大人だなって思った。

下手に声を荒らげず、雰囲気すら驚いてる様子を極力出さないって辺りは凄いなって思う。

 

「 俺は驚きと言うが焦りが大きな。手術前だったから…急に居なくなって大丈夫なのかと心配で胃の辺りがキリキリして痛む……胃薬欲しいぐらいだ 」 


「 …それ、多分…自分で胃の辺りに手を翳して回復(ヒール)って言えば治ると思いますよ 」


「 そうなのか?…ヒール 」


雲嵐に至っては素直に言ったことをやってくれるなーと思えば、彼は胃の辺りに手を置きスキルを発動させれば、淡い緑色の光が現れ、それはすぐに消えた。


「 あ、痛みが消えた 」


「 マジかよ!?すげぇ、胃薬必要ねぇじゃん 」


「 此のスキル…医者泣かせだ… 」


「( もっとスキルがレベルアップしたら、そうなるだろうな…何でも治せそうだ )」


自分で回復したのに何故か落ち込んでる雲嵐に内心笑っては、スキルがあることを思い出しマオのステータスを振る事に決めた。


「( 俺が攻撃特化みたいだから、素早さと防御に入れてやるか… )」


スキルはひっかくとかみつく、アタックみたいなものしかないから、それなら素早さに30分を振って、残り20を防御にした。

これなら攻撃が多少少なくても敵の攻撃も避けれるしダメージも食らわないだろう。


「( 可愛い猫が傷付くのは嫌だからな! )」


スリスリと身に頬を擦り寄せていれば、ふっとあることに気付く。


「 くしゃみが出ない!!俺は動物アレルギーじゃないのか! 」


「 あ、俺も花粉症なのに酷くねぇわ。目とか痒くないし 」


「 同じく、鼻炎だったのにそんな気は無いな 」


「 アレルギーじゃないのは強い!!これで俺はマオを好きなだけモフれる! 」


「 ミュー? 」


そうか、異世界に来たからマオは獣魔って奴になったからアレルギー反応が出ないのか。

それともこの世界では動物?がいないから根本的にそういったアレルギーという病気がないのは嬉しいな!


「 あ、俺…麻痺耐性あるわ 」


「 アレルギーは麻痺耐性に入るのかい!! 」


アレルギーは平気!と喜んだ瞬間に、それがステータスの一つとして習得してるのは頂けなかった。


俺もよく見たら麻痺耐性、毒耐性はあるんだが。


毒ってなに?あ、爬虫類か……納得。


「 それで、御前達はこれから如何するんだ?恐らく…この国の為に働けって言われるぞ 」


耐性について悶々としてる時に雲嵐の言葉に、俺達は動きをピタリと止めた。


勇者として召喚されたなら、其の言葉が言われるのは分かり切っていたが、

正直…俺だけじゃなく彼等も全くやる気はないだろうな。


「 綺麗な女と遊べるって約束出来るならここに居てもいいと思うが、折角なら…此の世界で飲み屋でも運営して金儲けしつつ女といちゃつきてぇな 」


「 俺は魔物といえど生き物を倒す事は出来ない。勇者なんて無理だ 」


「 …攻撃、防御いないなら俺もやることないな。薬草集めでもして新しい薬でも開発でもするかな 」


自分で言うのもなんだが…

三人共、勇者の資格って本当にあったのか??


召喚失敗したんじゃね???



其々好きな事を言った後に、この国が致命的だと気付けば、ベッドに倒れたフラディオは天井に片手を伸ばし告げる。


「 勇者が必要って世界で、其の勇者がこんな調子でいいのかよ。やる気は無いが…なんつーか… 」


「 無責任って事か? 」


「 そう!それだ! 」


雲嵐の言葉に起き上がったフレデリックは、指先を俺達へと向けては言葉を続けた。


「 役目を与えられて来たのに、何もしねぇのはなーって 」


確かに、二次元だけの話だと思っていた異世界へと来たし、其れなりにやってもいいと思うがあの王様を含めた奴等の視線が嫌だったな。


悩む雲嵐を横目に俺は膝の上で眠る三毛猫のマオの背を撫でては、答えた。


「 確かに勇者として召喚されたなら魔物討伐が一番、此の国の為だろうが。さっきも言ったが…人間以外の生き物に手を出したくは無いし、根本的に急に呼ばれて国の為に命投げ出して、働けってのも可笑しな話だと思うんだよな 」


「 琥珀は攻撃特化っぽいし、御前がノリ気じゃねぇと致命的なんだけど。まぁーでもよ、其の言葉には一理あるわ。俺も向こうで運営者として仕事してたのに、急に居なくなってあいつ等困ってるだろうし…それ考えるとな 」


独り言のように言ったからタメ口になったが、それを気にしないように答えたフラディオに少し嬉しくも思う。


住む国も違うし、元ホストやら言ってたから性格面が難有りとか勝手に想像していたが、案外しっかりしてるし、寧ろ運営者として色んな奴を見てきたのか俺の容姿すら興味無いのがありがたい。


「 俺は次男だから長男が跡を継ぐだろうから、帰ろうが此処に留まろうがどっちでもいいが…御前等は帰りたいなら、やるべき事はやった方がいいんじゃないのか? 」


「 其れがさぁ…居なくて困るだろうが別に帰らなくてもなーって感じ。俺がいなくてもやれるだろうし。寧ろ、国の為に死ぬよりどっかで運営して異世界のねぇちゃん達と楽しんでた方が良くね?と思い始めた 」


「 帰る…帰らないの選択なら、俺はもちろん帰らないを選択する。だってアレルギー無いからな! 」


アレルギーが麻痺やら毒耐性としてなってるのはアレだが、それでも飼いたかった猫は傍にいるし、マオを守れるなら側にいたいと思う。

元の世界に戻ればマオとはまた離れなきゃいけないし、アレルギーでシェルターのボランティアさえ出来ないのなら俺は帰る理由がない。


「 此の世界にいる色んな獣を見て、触れ合いたい! 」


「 ふはっ、琥珀は揺るがねぇなー。んじゃ…俺も色んな国にいるねぇちゃん達と楽しむって方向性にするかな。雲嵐は? 」


右手を握り締めて夢を告げれば、フラディオと共に雲嵐へと視線を向ける。

この三人の中で一番年上っぽい彼はよく考えてるだろうな。

俺達が言ってる事すら簡単ではないとなると、彼の眉間が寄ってるのが分かる。


「 あの王が何も言わないなら、俺も色んな国を見て周りたいが…そう簡単に手放してはくれないだろ 」


「 それは言ってみなきゃ分かんねぇんじゃないか?取り敢えずさー、夜まで此処にいるのは萎えるから、城下っての見て来ないか?だって、あの王様も言ってたし 」


「 それ賛成!この世界の事、もう少し知りたいし 」


「 そうだな。取り敢えずは腹拵えもしたいしな 」


「「 おう!! 」」


俺達は一旦話を止めて城下を見て回る事にした。


スマホの時計は15時で止まってるが、この世界の流れではまだ昼前。

其れなら城下を見て周るのも別にいいだろうって事になり、其々に廊下を出れば見張りは居なく、案外簡単に城の外に出る事が出来た。


「 んじゃ、またな 」


「 また後で 」


「 あいあい!またなー! 」


門の外に出ればお互いに手を振り好きな方へと歩いていく。


「 さてと、マオ。まず初めに金の貯め方を知らないとな 」


「 ミュー! 」


猫は気紛れで着いてこないって思っていたが、仲間になったのもあるのかちゃんと足元を歩いて着いてくるあたり可愛い。

まぁ、マオの方が脚が遅いから身体を抱き上げて肩に乗せて、歩く事にした。


誰かに脚でも踏まれたら可哀想だからな。


「 おぉー。城下町って感じ 」


少し歩き城下に出れば、煉瓦の二階建ての建物が建ち並び、古い文化が色濃く残る英国の様な建設物ばかり。

異世界というより、外国に旅行した様な感覚だから浮足立つ。


「 こんにちは、今日のオススメはなにかしら? 」


「 いらっしゃい!今日はなぁ~ 」


「 食べ物は俺達がいた国と似たようなものだな 」


中には果物か野菜か分からないようなカラフルな物もあるが、大半は見た目と味が似てるんじゃないかってものばかり。


其の中でマオが食べれそうな物を探していれば、悲鳴が聞こえてきた。


「 キャァァア!! 」


「 なに? 」


青果屋の前に立っていれば悲鳴が聞こえた先へと目を向ければ、人込みを割り走って来る男の姿があった。


「 盗人よ!!誰か、捕まえて!! 」 


「 チッ、退け!! 」


「( 王道展開ってやつな )」


よくある盗人を捕まえたらいいって感じに見えた為に、手元にあった大根らしき野菜を持つ。


「 オジサン、後で支払うから許してな 」


「 え?お、おう 」


一言保険を掛けては、背後を走り去る盗人目掛けて投げ付けた。


「 っ!!?ぐふっ!! 」


思いっきり後頭部に当たった盗人はそのまま盛大に前のめりで滑る様に転ければ、俺はゆっくりと近付き無傷だった大根を拾う。


「 観念して、鞄返すついでに謝れよ 」


「 チッ、クソが!! 」


「 おっと。あぶねぇー 」


動いた瞬間に何か目の前を通過した事に瞬時に避けたが、それはスパンと持っていた大根が切れた為に刃物だと察したが…刃物より切れ味いいな。


立ち上がった三十代後半の古びた服を着た盗人は、左手に短剣を持っていた。


「( そりゃ切れ味いい訳な… )…よし、マオ。ちょっと降りててな。危ないから 」


「 ミュー? 」


面倒くさいがそっちがその気なら仕方ない。

肩に乗っていたマオを地面へと降ろし、ついでに大根も横に置けば、少しだけ距離を離れてから盗人の前へと立つ。


「 止めといた方がいい。怪我をする 」


「 はっ、怪我をするのはテメェだ。殺してやる、クソガキ 」


「 ガキって年齢じゃないけど…( 日本人って童顔に見られるもんな )」


前のめりで倒れたせいで盗人の顔面には擦り傷が付いてるが、其れが増えると思うなんて言葉は言えずに、男は短剣を向けて突っ込んで来た。


「 クソッ!! 」


振り被ったり切るような動作をするのを最低限の動きだけで交わしつつ、野次馬との距離を見てから余り後ろに下がるのも被害が大きくなると察した。


「 仕方ない…… 」


「 なっ!! 」


はっと息を吐いてから、拳を握り締めた。



「 そう言えばさー 」


「 ん?どうした 」


「 あの琥珀ってどっかで見た事あるんだよなぁ 」


俺が盗人退治をしてる間に、同じ方向に歩いていた彼等は話をしていた。


フラディオの言葉に雲嵐は自らの顎に手を置き、視線を左へと向け考える素振りを見せてから答える。


「 確か、軽量級キックボクシングの世界大会で8回防衛して無かったか?9回目の時に膝を悪くして現役引退した気が 」


「 あ!そいつだ、32勝の無敗で辞めたんだっけ?なら…この、基礎能力っての高くね?? 」


「 嗚呼、高いだろうなぁ。だから…彼奴が勇者としてのやる気が無い時点で…この世界は終わってる 」


なんの話をしてるかは分からないが、目の前で鼻血やら咥内を切って口はしから血を流してる盗人をよそ目に、鞄を取り返し盗まれた御婦人へと返していた。


「 本当にありがとうございます!! 」


「 いえいえ、当たり前のことをしただけなので 」


「 いえ、大切な物が入っていたので。本当に助かりました 」


凄く頭を下げられた事に、寧ろ申し訳無さを感じるが俺は御婦人が立ち去ってから、チャリンとお金が入る音が聞こえてハッとしてから、青果屋へと戻った。


「 あ、おじさん。大根代払う! 」


「 いいって、それより兄ちゃんつえぇんだな? 」


「 ちょっと武道を習ってただけさ。これ、代金!受け取ってくれ!!! 」


半透明の電子パネルを出して、何故か手持ちの所持金が増えた事に疑問になるも、そこから其の中から100と数字を押してから手に落ちてきた金を出し、

青果屋のオジサンに押し付けるように握らせ、即マオを連れてその場を離れた。


「 お、おい!兄ちゃん!! 」


背後で呼ばれるような声が聞こえたが、あれ以上の騒ぎになりたくない為に逃げてしまった。


「 はぁー…今騒がれたらこの国を出辛くなるんだが… 」


「 ミュー? 」


裏路地に入りハッと息を吐いていれば、腕から降りたマオは此方を見上げて来た為に、ふっと笑い掛けては自身の左脚へと目を向ける。


「 バイク事故で左膝を負傷してたが…異世界に来たお陰で動けたな… 」


あの時も雨の日に猫を助けようとしてバイクと接触し、俺は大型バイクの車輪に引かれて膝を粉砕したんだよな。


身体を強くするって理由から、キックボクシングをしていたがそれも出来なくなって現役を引退し、それとなく社会人として生きて来た。


無理矢理父親から言われて始めた為に、キックボクシングが好きだった訳じゃないから、止めたことで色々重りから逃れられた気もしたが、逆に心にぽっかりと穴は空いたな。


上手く動かない膝に苛ついて、そのストレスを猫カフェとかで癒やされて発散してたが、やっぱりそれでも何か足りなかったのかもしれない。


今は動けた事にスッキリしてる。


「 マオ、そんな心配した顔を見せなくても大丈夫さ。俺は接近戦なら強いから 」


「 ミュー! 」


返事したように尻尾を立てて目を閉じたマオの頭を撫で回してから、その場にしゃがみこむ。


「 俺のせいで異世界迄来てしまってごめんな?絶対に守るから 」


「 ミューォ 」


そのままそっと抱き上げて頭へと頬を擦り寄せてから、肩に移動させ乗せてから歩き出す。


あの騒ぎも少し落ち着いただろうから、移動しても大丈夫だろ。


「 そう言えばさっきチャリンって聞こえたが…もしかして… 」


裏路地を出る前に確認したいと思い、左手首に触れ半透明の電子パネルを出せば、名前の近くにある金っぽい数字の傍に1600と書かれていた。

さっき迄これはゼロだったからこそ、あの戦闘で増えたんだと知る。


「 それに…レベルアップしてる。レベル2だ 」


こういうゲームって魔物やモンスターを倒してレベルアップやら金を得るのかと思ったが、人間でも問題無さそうって事は俺にとって好都合だった。


「 フッ…そうか、人間でもいいのか。そうなのか!! 」


「 ミュー……… 」


ふはははっ!と悪役みたいな笑い方をすれば、直ぐに止まっていた脚を動かしていた。


自分より小さくて弱い生き物を苛めるのは許さないし嫌だが、人間という同種族であり武器を持ってる奴なら構わない。


「 御前、旅人じゃねぇな?此の国の奴か? 」


「 さぁ…?如何でも良いから戦闘しようぜ 」


「 はっ、武器も持ってねぇ農民風情が勝てんのかよ 」


「 やってみれば分かるさ 」


此の世界は、盗人、盗賊、海賊を初めてする冒険者やら騎士に対しても゛ 戦闘 ゛と言うモードの様な物に入れば経験値が貰えるよう。


俺は異世界から来た勇者の特権として、相手を見るだけで仕事とそのレベルが表示されるのはすごく便利がいい。


「 そ、そんな…。この…俺が………ぐはっ 」


「 レベル6に一気に上がったな。流石…レベルが上な冒険者なだけある 」


ステータスポイントは後から一気に振り分けるとして、今は戦闘をしてレベル上げをすることに決めた。


そして何より、敗北した者は手持ちの金から3割ほど失うらしく、倒せば倒すだけそいつ等から敗北金としての金が貰える。


其れも本人の意志無く金が減って、俺の方に追加されるのだからこの世界はなんて便利なのだろうか。


「 よし、俺の勝ち 」


「 が、は…… 」


゛ レシピ ナックルを習得しました。ナックルを作成しますか? ゛


レベル15に上がった辺りでレシピってスキルが増え、其れにより物を作成する事が可能になった。

必要な素材が書いてあるが、初期ナックルに至ってはそのままでいようだ。


「 ナックル…ナックルねぇ、明らかに武器着けて殴るのは嫌だな。今は必要無い 」


゛ NO ゛と言う選択をしてから、ナックル作成は後回しにし、ある程度の金が溜まった為に避けさせていたマオへと視線を向ける。


「 そろそろ昼だ。飯にしようか 」


「 ミュー!! 」


嬉しそうなマオに俺も笑顔になり、慣れたように直ぐに肩に乗ってきたマオの背中を撫でては、食堂へと向かった。


街の中央へと行けば食事する場所は幾つもあり、其の中でも人の出入りが多い場所へと入る。


「 いらっしゃいませ!おや、見掛けない顔ですね? 」


「( 美女が来た…!! )」


猫がいるし、余り人が多いところは嫌だろうと思い端の席に腰を下ろせば、白いエプロン姿をしたロングの金髪に青い目をしたドールのような綺麗な子がやって来て驚いた。


ずっとモブみたいな住人や冒険者や盗賊ばかりだったから、こうして美女がいる事に新鮮さがある。


「 ちょっと、この国に来てて 」


「 そうなんですか?私は此処の熊食堂(ベア•カフェテリア)の看破娘をしている…アルマ•スカーレッドです。ゆっくりしていってくださいね 」


笑顔が素敵な可愛い子だけど、その頭上にある黄色いクマ耳っぽい獣耳を見て察した。


看破娘というか、此処の娘なんだろう。



このオッサンのギルドの連中を含めて、野次馬が辺りを囲った為に逃げ場は存在しない。

いや、逃げるなんてかっこ悪いからするわけない。


定められたリング内で戦うことには慣れてるからこそ、此の状況ですら闘争心が燃え上がる。


「 武装しないのか?せめて武器を持ちやがれ 」


「 悪いが、冒険者でもない一般人なんでな。装備含めて何も持ってないさ 」


「 あ?俺を舐めてんのか、クソガキ 」


「 別に舐めてないさ。良いから始めよう 」


「 チッ…ゴミクズが 」


口が悪いって親に言われなかったか?

てか、もう少し挑発する言葉を選ぼうなんて言いたいが、コアト•クローヴィス…面倒だからオッサンでいいや。


此のオッサンは片手に赤い大斧を出すなり、それを軽く振ってから俺の方に片手を向けてきた。

こっちから来いって事なんだろうが、この状況からして俺からなんだろう。


「( 仕方ない、やるか )」


地面を蹴ってから距離を一気に縮めれば、オッサンは僅かに目を見開く。


「( このガキ、速いっ!? )…っ!! 」


「 流石に一撃じゃ沈まないか 」


「 いっ、クソ!! 」


顔面へと蹴りを入れたが後ろに僅かに揺らぐ程度で、倒れはしなかった。

直ぐに態勢を整える前に持ちやすい頭を掴んでは身体の向きを変え、鎧の隙間へと蹴りをぶち込む。


「 っ、ガハッ!! 」


「 嘘だろ… 」


「 あの団長が、やられっぱなしなんて… 」


「( 鎧は完全じゃない。動きやすくする為に関節を曲げる部分に隙間が開く。それはつまり…人間の弱点だ )」


肘の後ろ、脇下、そして膝裏と隙間がある場所へと何度も蹴りを叩き込めば、このオッサンは抵抗する事も出来ずに地面へと倒れた。


「 が、はっ…… 」


「 さてと…まだやるのか?俺は別にいいけど 」


「 っ…… 」


神経へと直接蹴りを入れた事で大斧を持っていた手は痺れ、力が入らなくなったのか重みのあるそれを持てなくなった。

そして無駄にデカい身体に合わせた重苦しい鎧のせいで立つこともままならないのなら、如何足掻いても勝つのは不可能だ。


「 如何した?クソガキやらゴミクズと言ってた奴が、自分がゴキブルのように地面に這いつくばってんじゃ無いか 」


「 っ!! 」


「 情けないな、散々暴言を吐いたのに負けるなんて。ほら…さっさと負けを認めろよ 」


マオはやって来て背後から俺の肩に飛び乗り、一緒にオッサンを見下げていれば彼は動けなくなった事に舌打ちを漏らしては顔を上げた。


「 チッ、生意気なんだよ!!クソガキァァアッ!! 」


「 おっと… 」


身体から光が放ち、立ち上がった男と共に後ろへと跳んで避ければ、男はあんなに関節を蹴って麻痺させたのに大斧を持ち直した。

まだ立とうとする気持ちは感心さえする。


ふらつきながらも立ち上がった男は音を立て大斧を地面へと突き刺せば、スキルを発動する言葉を告げる。


「 炎を俺に力を授けろ。地獄炎(ヴァルカン)!!! 」


火の玉が集まる魔力によって大きくなり大斧の前へと現れれば、其れにより野次馬達は騒ぎながら離れて行った。


「 此処に来て初めての魔法スキルだ 」


「 はぁぁあっ!!! 」


呑気に感心してる俺とは裏腹に火の玉はゴォォオッと音を立て向かって来た為に、右手を出しては俺も勇者特典にあったスキルを使うことにした。


魔法解除ディーアウフヘーブング


「「 !!?? 」」


魔物相手に使うスキルだろうが、魔法に対するものなら全て゛ 無効化 ゛するこのスキル。


スッと空気が消えるように目の前にあった火の玉が無くなれば、飛ばしてきたオッサンを含めて唖然となった。


「 駄目じゃないか。こんな人が多いのに特大魔法なんて…他人の迷惑になるってママから教わらなかった? 」


「 っ、そんな……… 」


自ら膝を付き倒れたオッサンは゛ 負け ゛を認めたのだろう。

装備していた鎧や大斧は失い、辺りにいたギルドメンバー達もまた服装がシンプルになった。


「 なっ、何が起こって!? 」


「 俺の武器がねぇ!! 」


「 俺も装備がない!! 」


「 こっちは回復薬(ポーション)が消えた! 」


「 嗚呼、所持金全て。って…金になるもの全てって意味だったのか。ごめんな?全部貰ったわ 」


「「 !!!! 」」


この喧嘩を知らない他のギルドメンバー達も自分達の手持ちが失われると意味が分からないだろうな。

金になるもの全てが失われるってどんな気持ちだろうか?


まぁ、俺もここに来た時は無一文だったから似たようなものか。


「 人数がいるならまた金を貯めて俺に挑みに来てな 」


「 待て!テメェ…いや、御前…名前、なんていうんだ? 」


ひらっと手を振ってから歩こうとすれば、オッサンによって止められた言葉に振り返り視線を向けてはニコッと笑顔を浮かべてやった。


「 俺はただの農民、名前なんてねぇよ。それじゃ…頑張ってー 」


1から集めて、また挑みに来てほしい。

その時は数人が束になって掛かってきても構わないからさ。


「( まぁ、次から所持金全てって言うのは止めとこう。俺が負けた時に無くしたら怖いし )」


肩に乗っているマオの背を触れてから、人込みの中へと入りその場から立ち去った。


さてさて、沢山貰ったのはいいが使わないものが多過ぎるからどっかに売ろうかな。


「( 売ったらまたギルドメンバー達が買うだろうし、寧ろ…それでいいからなぁー )」


ふらふらと適当に歩いていれば、武器屋を見付けた為に立ち寄ることにした。


「 いらっしゃい!おや、見掛けねぇ奴だな? 」


「 こんにちは、ちょっと遊びに来てて。此処って武器や防具って買い取ってくれますか? 」


「 もちろんさ!買い取る以外にも造りもするぜ! 」


武器屋であり鍛冶屋だったらしく、いかつい大柄のオジサンは見た目よりも優しそうな雰囲気があって安心した。


「 おや、お客さんかい?って、さっきの! 」


「 御婦人!? 」


「 おっ、妻が言ってた盗人を倒した奴か?こりゃいい!がはははっ! 」


大声で笑う旦那さんを他所に、あの御婦人がここの人ってことに驚いた。


世間って狭いな…

いや、街の中だから仕方ないか。



「 こりゃまた紅虎団のものじゃねぇか。兄ちゃんやるな? 」


「 俺もちょっとびっくり、まさか…所持金を掛けたら全員分の手荷物なんて 」


「 そりゃ、神の名の元に争う前の賭け事は正当化されるからなぁ 」


売る物を出していいと言われた為に出せるだけ全部出せば、その武器や防具を見てオッサン…ではなく…アンドリュー・パロットさんは笑っていた。

俺はパロットさんと呼ばせて貰うことにした。


「 神の名の元か… 」


呟いた俺の言葉は聞こえなかったようで、それは少し安心はしたが問われた言葉に首を傾げた。


「 これ買い取ってもいいが、兄ちゃん武器とか持ってねぇのか? 」


「 持ってはないが…作ればある 」


「 じゃ、一番よく使う武器にこいつ等を食わせりゃいい。合成強化ってやつさ。そしたらこの武器や装備にある効果を得る事ができるんだ 」


さっきナックルを作ろうとして止めたからな。

其れを使うときを考えて、合成強化をすればいいのか。

売って販売された時にさっきのギルドメンバー達が買いに来ればいいと思っていたのだが、折角貰ったからにはそれも悪くないな。


「 俺が作れるのは初期ナックルなんだが、構わないだろうか? 」


パネルを出して、スキルの項目を移動して見ていればパロットさんは大きく頷いた。


「 そりゃなぁ、俺が作りゃ最初から属性や能力付いてるが、こんなにありゃ無くてもいいさ 」


「 ふむ、なら作ってみるか 」


ナックルを作成するってボタンを押し、次は゛ YES ゛を押せば、直ぐに手元に古びたボクシンググローブのような物が現れた。


「 でも、何でもかんでも食わせりゃいいってもんじゃない。装備にはレベルや能力の上限ってのがある。そのナックルを2つ、3つ持つならいいけど、1つなら選んだ方が… 」


「 なるほど、火属性なら火の特化型とか…そういえ系統な…なら、これとこれを合成してっと 」


「 兄ちゃん…。本当に農民かよ… 」


最初のナックルは火属性の特化型にした。

紅虎団が火属性の持ち物が多かったのもあるが、最初に言われたスキルを10にしていくのを優先したからそうなる。


山になった装備や武器をどんどん食わせていき、ランクの低い物はレベル上げの方に使い、高いものはスキルアップの方に使う。


「 火属性ファイヤーナックル、レベルMAX、これを覚醒させて、と… 」


「( 流石、150人分の武器と防具…… )」


覚醒に必要な宝玉も今回の武器に含まれていたから、此等を分解して素材を手に入れてから覚醒に至った。

そして、手に入れた武器の殆どを無くせばあのボロボロのボクシンググローブは姿を変える。


火竜の鉤爪イフリートアーマーリング。爆破効果付きだから、殴った衝撃と共に対象物を爆破させるみたいだ 」


「 兄ちゃん…本当に農民かよ……(※2回目)」


赤い爪のようなゴテゴテのレトロゴシックのアーマーリングが両手に嵌められた為に、この効果とスキルを確認してから、同じくブーツの方も似た物にし、作ってる最中に装備のレシピもあったからそれで服を作った。


ファンタジーの世界で言う拳闘士ってやつだろうな、服装からしてそんな気はする。


動きやすい首元まである黒いインナーに赤い生地に白い虎模様が入ったロングジャケット、長めの黒い腰布にベルトや大きめのポケットがついたボトムス履き脛を隠すような靴と言うなの武装。


「 軽いし動きやすくていいかも。熱変動耐性がついてるから、砂漠や雪国でも平気ってことかな。パロットさん、どうですか? 」


「 あーうん……兄ちゃん…本当に農民か? 」


「 農民と言うか、多分冒険者です! 」


アーマーリングのついた親指を持ち上げグッジョブとすれば、何故かパロットさんは苦笑いを浮かべていた。


そんなに変だろうか?この人が装備に食べさせたらいいって言ったからやったんだけどな。


上限である覚醒五回を終えた此の火竜の鉤爪は普段使うには余りにもチートだと思うから、手持ちに戻し、余った武器で強化したこっちのシルバー細工に見える紫掛かった毒竜の鉤爪ヴェレーノアーマーリングで十分。


レベル55迄しか上がらなかったし、覚醒する材料も足りないから一時はこれを使おうと思う。


まぁこれもよっぽどじゃない限り使わないから直して、手や足の装備を元に戻し服装だけは今のまま変える。


「 そ、そうかい。あー、兄ちゃん。その猫は獣魔か? 」


「 マオは獣魔族みたいです 」


「 なら、俺の娘がやってる獣魔や獣人族専用の鍛冶屋に行くといいぜ。俺からも連絡入れておくしな! 」


マオにも着けれる防具があることが嬉しくなった。

ぱあっと明るい顔を見せては深く頭を下げる。


「 ありがとうございます!マオ、早速行ってみようか! 」


「 ミュー! 」


「 行き先はこれな。獣魔や獣人族の装備は特殊だから、それに特化した奴が最初に造ると型ができるからいいぜ。後は娘のリリアがよく知ってると思うから聞くといい 」


直ぐにメモを差し出してきたパロットさんから、行き先の地図を受け取ればそれを見て頷く。


「 色々ありがとうございました。また此処を利用させてもらいますね! 」


「 おう!いつでも来りゃいい。妻を助けてくれた恩は忘れねぇから 」


「 はい。では、また 」


奥さんにも挨拶すれば、俺はマオを連れてパロットさんがやってる鍛冶屋を後にした。


「 素材として使えなかったガラクタとかは買い取ってくれたのはありがたい。あれも溶かして使えるみたいだし…良かった 」


「 ミュー! 」


武器のレベルを上げているとランクの低い初期装備みたいなのは、レベル上げとして使い辛くなっていった。

経験値が入らないって言ったら正しいから、そういった系統は買い取ってもらった。


気持ち的に手荷物が減って嬉しく思う。


「 杖や盾は二人にあげよう。その為に強化に使わなかったし 」


ギルドの中には魔法職やタンク役もいたみたいで、そいつ等の道具はすごく彼等に向いてる。

俺だけが全部、装備の餌にするのは気が引けるから貰ってくれたら嬉しいな。


「 さてと、リリアさんの場所は…余り離れてないな、良かった 」


裏路地に入って行き、3つめの十字路を曲がり、更に左の通路を2つ進めば小さな工房があった。


「 リリアの獣魔•獣人専用屋…ここだ 」


見付けた事に安堵してはメモをポケットに入れようとし、中から悲鳴が聞こえてきた。


「 キャァァアッ!! 」


本日2回目となる悲鳴に反射的に扉を開く。


「 どうしました!!? 」


バッと開けばそこには、鏡の前で自らの格好を見て頬を染めている大きな狐耳と尻尾を持った金髪の獣人と、その横には親指を立てている青髪の女性がいた。


そういえば、奥さんの方は栗色の髪をしてたがパロットさんはスキンヘッドだったから分からなかったが、眉毛は黒に近い青だったな。


まさか…青髪の女性が、リリアさん??


「 おや?いらっしゃい、なんの御用かね? 」


「 あ、いや…パロットさんに紹介されて 」


「 あのクソオヤジかや?へーえ、連絡来て、来てたわ。ええよええよ、適当に待ってて 」


「 あ、はい 」


パロットさんや奥さんと違って凄く口調が独特的だな。


それが少し驚くも、店の中を見させてもらうことにした。



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