家族
オリジナル小説第3話。
今回のお話は、稲葉偆くんと狼のお話です。
紗奈から見つけ出して来て欲しいと言われたのは稲葉偆だった。
偆と狼は、段々と仲良くなって行き距離も縮まり、狼にとっては初めての友達だった。
そんな2人が主役の本編、
ぜひ、ご覧ください。
「狼くん。」
優しい声で紗奈に呼ばれた。
はい!と返事をして紗奈の所へ小走りして行った。
「あのね。この子知ってる?」
紗奈が男性が写っている写真を見せた。
「いえ。でも、どこかで見たことあるような……」
「この子、稲葉偆って言う子でね、狼くんと同い年なんだけど……」
色んな所で取られている写真を机の上に出していった。
「でね。この子雇おうと思っててね。探してきてくれない??」
笑顔で微笑みながら、狼の手を握った。
「わっ……わかりました。でも、偆の居場所は俺にも今はわからなくて……」
「それなら……」と紗奈がスマホを取り出して、狼に見せた。
「ここに行ってくれるかしら。今場所送るからお願いね?あと、魁士くんも連れて行っていいから、行ってらっしゃい♡」
いつも通りの紗奈からの無茶ぶりに狼は苦笑いした。
魁士は外出中だったため、メールをして連絡を入れておいた。
「よし。とりあえず、僕だけでも向かうか。」
交通手段を使い、駅から10分程歩くと図書館に着いた。
「ここで合ってるんだよね。」
周りをキョロキョロを見渡しながら、写真の子を探していた。
「狼ーーーーーー」
大きな声を出して狼の元へ走ってきた。
「しっーーー。魁士さん、ここ図書館ですよ」
「わりぃ、わりぃ。」と笑いながら狼の背中をバシバシっと叩いた。
「痛いです……」
「まぁ、細かいことは気にしねーの。で、居たのか?」
「あっ、一応見つけたんですが合ってるのかわからなくて……」
狼が写真を眺めていると、魁士がそのまま男の元へと近づいていた。
「ちょっと、魁士さん!!」
狼の言葉も聞かずに、男に話しかけた。
「なぁ、お前、稲葉偆か?」
「はい……そうですが、なんの用でしょうか?」
「俺は用はないんだけどよ、うちの社長がお前に用あるみたいなんだわ。ってことで、付いてきてもらうわ。ほら、狼。そいつのカバン持て。」
「はっ、はい……!」
魁士が男を担ぎ、ドタバタと騒ぎながら、図書館を後にした。
そして、なんのことかわからず稲葉という男はそのまま車に乗せられた。
「急に連れて行ってなんなんですか?俺は研究に忙しいんすけど。」
「はぁ?知らねぇーよ。お前は今日から俺らの仲間になる奴だ。だから、黙って事務所まで着いてこい。紗奈さんが認めたってことは良い奴なんだろうしな。」
紗奈さん……?と呟き、そのまま何も言わなくなった。
狼が心配そうに振り返ったが、なにか考え事をしている表情だった。
「魁士さん、これって誘拐とかになりませんよね?」
小さな声で魁士へとしゃべりかけた。
「大丈夫だろっ。俺らは一応紗奈さんの依頼みたいなもんだしな。」
「……。なるほど」
少し納得してない顔をしていると、魁士が狼の頭を運転をしながら片手で撫でた。
「大丈夫だっての。こいつも仲間になるんだしな。受け入れような、先輩っ」
「せっ、先輩???!」
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「あら〜。狼くん、魁ちゃんお疲れ様♪そして、偆くんいらっしゃいっ!」
紗奈がニコッと微笑みながら、偆の元へと近づき手を取った。
「紗奈さんですよね!やっぱり!」
目をキラキラとさせながら、手をグッと握り返した。
「祐さんは元気ですか??」
「えぇ。今は離れた所にいるけど、銃の研究をずっとしてもらってるわ。」
2人は話に花を咲かせていた。
「お知り合いなんですかね?」
「そうなんじゃねーの?祐さんとも知り合いみたいだしな。」
「祐さんって、紗奈さんの旦那さんですよね?僕の銃を作ってくださった」
「そうそう。祐さんずっと研究所に篭ってて、半年に1回出てくるくらいだからな。俺も去年会って以来会っていないかもな」
「えっ?そうなんですか!?」
驚いた表情で紗奈の方を見ていた。
まだ祐とは会っていない狼はどんな人なのかも知らなかったのだ。
祐の事を話をしていると、紗奈に声を掛けられた。
「狼くん、今日から偆くんのお世話係ね。」
「僕ですか?僕も魁士さんにお世話が係として付いてもらってる身なのですが……」
「それはそれ。これはこれ!ってことで、今日から偆くんのことよろしくね。あっ、私、祐さんと打ち合わせがあるからじゃあ後は頼むわね♪」
紗奈はそう言い残し、嵐のように去って行った。
呆然と立ち尽くす3人。
「あっ、あの……。狼さんでしたよね?」
「はっ、はい。」
「狼さん、よろしくお願いします!」と深々と頭を下げた。
「よっ、よろしくお願いいたします」
狼も釣られて頭を下げた。
「2人とも硬っ苦しいっての。」
魁士が2人の頭をグッと抑えた。
「呼び捨てでいいんじゃねーの?お前ら同い年だろ?」
でも……と狼が渋っていると、偆が狼の手をグッと握った。
「よろしくね。狼。俺も呼び捨てで呼ぶから狼も俺のこと呼び捨てで呼んでくれよ。仲間にもなるんだしさ!」とニコッと歯を見せて笑った。
「じゃあ、偆。今日からよろしくね。」
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「祐之さま。」
「入れ。」
鉄の扉が開くと、男が祐之の元へ膝まづいた。
「どうした?」
「春神狼を見つけましたが、初めの指示通り殺せば宜しいのでしょうか?」
「そうだ。躊躇うなよ、確実に殺せ。痕跡は残すな。わかったな?下がれ。」
はっ。と一礼をして扉を開き男が出ていった。
男が出ていった後にピンク色の髪をした女性が入ってきた。
「よかったのですか?祐之さま」
「いいんだよ。どうせ、あいつも駒の1つだ。」
「あら。そうですのね。」
女は口元に手を当ててクスッと笑った。
「それより、真莉。君の仕事はどうかね?」
「それなら順調でございます。裏切り者を全て排除させて頂きました。」
「ありがとう。真莉はいい子だね。」と祐之は真莉の頭を撫でた。
真莉は少し頬を赤らめ、自分の頬に手を当てた。
「真莉。君には期待しているよ。」
祐之は真莉が頬に当てている手を重ねた。
「はい。今後とも私めにお任せくださいませ。」
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「そういえば、狼ってどうしてインフェースドにいるの?」
「成り行きかな。僕、紗奈さんにスカウトされたんだ。居場所が無かった僕に居場所を与えてもらった恩があるからここにいる。それに、ここの人達凄く優しいんだ。」
狼は、嬉しそうに偆に話をしていた。
「それに、魁士さんだって優しいんだ。」
「おっ!狼、分かってきたじゃねーか」
魁士が後ろで嬉しげに狼達の会話を聞いていた。
「そうなんだな。狼は優しい世界で育ったんだな」
偆は少し悲しげな表情を見せた。
「偆もこれから優しい世界で過ごせるよ。偆の過去に何があったかわからないけど、俺は偆の友達だよ。」
背中をポンポンと優しく叩いた。
「ありがとう。狼。」
ニコッと笑い、狼に拳を突きつけた。
狼は驚きながらも、拳を合わせた。
「なぁ、お前らお腹減らね??」
後ろから2人の背中をぽんっと叩いた。
「そうですね!」
「お腹空いてきたかもしれないです。」
「うしっ!それじゃあ、焼肉でも行くか?」
魁士が2人の手を引っ張って、焼肉屋へ向かうことになった。
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「ほら、お前ら好きなの頼め!俺が奢ってやる!」
「いいんですか?魁士さん。」
心配そうに狼が魁士を見つめた。
「あぁ。紗奈さんから経費もらってっからな!」
「なるほど……」
自慢げに魁士が2人へと封筒を見せつけた。
苦笑いしている2人は、目を合わせてニコッと笑った。
「そういや、偆って家族は?」
「家族はいませんが、拾ってくれた恩人はいます。」
「そうなんだね。僕も家族いないから気持ちわかるな。」
「狼も…?」
コクリと苦笑いして頷いた。
「…僕は家族に捨てられたんだ。それで、紗奈さんに拾って貰ったんだ。だから、家族はいないけど、今ここが僕の帰る場所で家族って言えるのかもしれないんだけどね。」
そっか。と偆が相づちをうっていると、魁士が狼に抱きついた。
「……っ!魁士さん!?」
「大丈夫だ。前に言ったが、お前は俺らが必ず守る。それが仲間で俺ら家族だろ?」
ニコッと魁士が狼へと微笑んだ。
「はいっ!!」
そんな2人をニコッと微笑んだ。
「仲いいですね、魁士さんと狼は。」
「当たり前だ。こいつは大切な家族の1人だからな」
魁士が狼の肩に手をかけた。
「大切……か。」
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3人はご飯を食べ終え、ベロベロに酔っ払った魁士を事務所の部屋まで送り届けたあと、偆に2人で話をしたいと呼び出された。
「ごめんね。偆。お待たせ。」
「うんうん。全然!それより狼、今日は星が綺麗だよ!」
「本当だね。トウキョウでもこんな綺麗な星が見えるんだね。」
2人は空を見上げた。
「そういえば、話ってどうしたの?」
あぁ。と狼を見つめ、口を開いた。
「家族がいない話はしたじゃん。…俺、狼見ててこいつって強いんだな。って感じた。」
「僕は強くなんて……」
「いや、狼は強いよ。狼見てたら、スゲーって尊敬しちゃうから、僕のやるべきことが実行出来ないっていうか…だから」
偆がポケットへと手をかけた。
「あれぇ?まだ2人とも起きてたのぉ?」
「叶さん?」
ひょこっと後ろから叶が顔を出した。
「そんな所いると、風邪引いて魁士にも社長にも叱られるよぉ…」
ニコッと笑顔で偆に微笑んだ。
偆が、先に寝ると言って部屋へと足早に帰ってしまった。
「…どうしたんだろ。偆。」
すると、叶が狼に顔をグッと近づけ手をグッと握った。
「狼ぅ。なにかあったら、僕に言ってねぇ。」
「えっ?」
叶はニコッと微笑み、バイバイと手を振りその場から去っていった。
「どうしたんだろう、叶さんまで」
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翌朝、目覚めると事務所がいつもよりバタついていた。
「おはようございます。どうしたんですか?」
狼は結蘭に話しかけた。
「あぁ。狼、おはよう。それが、優さんの作った新作の銃が無くなってるらしいんだ。」
「この前、魁士さんが試してた銃ですか?」
「そうなんだよ。あのバカが無くしたんじゃないかって言ってたんだけど、最後紗奈さんが金庫に入れたらしいんだよ。」
「ぼ、僕も部屋見てきます!っいたた……」
狼が走って部屋に戻ろうとすると偆が立っていた。
「ごめん。狼、大丈夫?」
「うん、僕こそごめんね。」
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「紗奈さんの旦那さんが作った新作の銃が行方意不明なんだ。それで、皆で探してるんだ。」
偆はなにも言わずにすっと受け入れ、狼と一緒に探し始めた。
クスッと偆が笑いだした。
「偆?」
「狼は真っ直ぐだね、やっぱり。狼ともう少し前に会いたかったな。…ほら、探そっか。」
えっ?と驚きながら、狼もなにも聞かずに一緒に探した。
全員で探したが、銃は出てこなかった。
そして、防犯カメラは結蘭が解析したが、何者かによって夜中の部分は映像が削除されていた。
「困ったわねぇ…」と紗奈が頭を抱えていると、偆が紗奈に近づいた。
「紗奈さん、俺少し外の見回りしてきますね。もしかすると、銃を持った男が見つかるかもしれないですし!」
そういうと紗奈の肩に手を置き、ニコッと笑い1人で事務所から出ていった。
狼が追いかけようとすると、叶が狼を止めた。
「狼ぅ。これ持っててぇ。」
「これは…?」
叶が狼に地球儀型のキーホルダーを渡した。
「これはねぇ、遥と作ったんだぁ。……偆には気をつけて。それは狼を絶対守ってくれる。僕は皆に伝えないといけないことがあるから、先に追ってくれる??」
すっと、狼へと体を寄せて耳元で囁いた。
「……。」
少し顔を下げて、目を瞑り深呼吸をした。
「わっ…わかりました。じゃあ、行ってきます!」
目の色を変え、叶の顔を真っ直ぐ見つめた。
そして、キーホルダーをポケットへと入れて事務所を急いで出ていった。
「おっ、おい!狼っ!」
「魁士ぉ。」
魁士の手をグッと握り、ニコッと微笑んだ。
「みんなぁ、ちょっと聞いて欲しいんだけどぉ……」
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「偆、どこ行っただろ??」
狼はシンジュク周りを走り回って探していたが、偆の姿は見つからなかった。
「はぁ……はぁ…っ。うん?」
走り回って探していると、少し遠くの方で悲鳴が聞こえた。
駆けつけてみると、街はめちゃくちゃになっていた。
ビルは倒れ、車からは煙が出ていた。
狼が黒煙が上がる中周囲を見渡して歩いていた。
呼吸が段々としづらくなっていた。
人々の泣き叫ぶ声が響いていた。
狼が銃を取り出し、空に向けて撃ちシールドを張った。
崩れたビルの上に立っている男を見つけて、手を震わせながら銃を向けた。
「あのっ!!貴方が主犯ですか……?」
声を震わせながら聞いた。
すると、男はフードを取り狼の方へ向いた。
「えっ……」
狼へと振り向いた男は、偆だった。
偆は、狼を見下ろし銃を向けた。
「はぁ……。君にだけは最初に見つかりたくなかったなぁ」
そう呟くと偆が引き金を引いた。
銃弾は狼の顔をすり抜け、頬に傷が出来た。
「狼、ごめんな。」
偆がポケットから小さい球を取り出し、空中に投げ、ニヤリと微笑んだ。
すると、空中に投げた球は幽霊へと即座に変わった。
「…さぁ。あいつを殺してくれ…」と幽霊達に呼びかけると狼に向かって攻撃をしてきた。
狼は、ポケットから銃を取り出した。
「……ごめんなさい。」
銃弾を撃ち続けた。
「ハッハハハッ。」と顔に手を当てて空を見上げて笑った。
(偆……だよね…?)
意識を保てるようにはなっていたが、戦闘にはまだ慣れておらず何発も銃弾を放っているうちに体力の限界が近づいていた。
「っはぁ……はぁ…」
ゆっくりとした足取りで狼へと近づき、頭に銃を突きつけた。
「狼。今までありがとう。じゃあね。」
偆が引き金を引こうとした瞬間に、偆の手元に棒のような物が飛んできた。
「狼ーーー!!!!」
偆が持っていた銃が地面へと落ちた。
魁士が狼の元へ走り、首根っこを掴み力づくで引っ張った。
狼は後ろへと投げ飛ばされてる間に、魁士が偆が投げた銃を取りに行き、偆に銃口を向けた。
「おい、偆。どういうつもりだ?狼にまで手出しやがって。」
「どうもこうもねぇーよ。テメェらの大事なもんを奪うのが目的なんだよ、クソ野郎。お前なんか鼻から眼中にねぇよ。」
ニヤリと笑みを浮かべ、背中からナイフを取り出した。
魁士は危機一髪で避けたものの、ナイフが顎の当たり血が流れた。
「魁士さんっ!」
「お前が1番邪魔なんだけどね。」
偆が狼に球を投げ、殺せっ!と叫んだ。
幽霊を打ち、足を滑らせその場に倒れこんだ。
ポケットに入れていたキーホルダーをグッと握りしめた。
すると、光を放ち狼の周りを覆うシールドが張られた。
襲ってきた幽霊達は光と共に消えていった。
ポケットからキーホルダーを取り出すと、ピカピカと光り、耳を済ませると叶の声が聞こえてきた。
「狼ぅ。大丈夫??」
「叶さん!僕は大丈夫です。叶さんのおかげで。」
「よかったぁ…。僕今現場の傍にはいるんだけどぉ、シールドに入ろうとすると弾かれるんだぁ…」
狼がゆっくりと起き上がり、偆の傍から離れて叶の方まで走っていった。
「叶さん!叶さん!偆が……魁士さんが……!」
外にいる叶に話かけていると、叶が狼が持っているキーホルダーをさした。
「これですか?」
「投げてぇ。大丈夫!僕が受け止めるからねぇ」
叶がニコッと微笑んだ。
狼は頷き、思いっきり叶へと投げると、投げた場所のシールドが割れた。
「やったぁ!」と狼が喜ぶと、叶が外から走り狼へと抱きついた。
「うわぁっ!叶さん、ありがとうございます!」
よしよし。と狼の頭を撫でた。
そして、割れたシールドにポケットから取り出した銃で修復した。
「魁士は?どこぉ?」
「こっちです!」
2人は、魁士と偆の元へと向かった。
すると、魁士に偆が銃を向けていた。
「やっぱり…ね。」
「偆!!魁士さん」
偆が持っていたのは、紗奈が作った銃だった。
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「紗奈さん、この銃は?」
「これは相手の能力を無効化できるのよ。あとね。そうだわ、実践しましょうか。狼くんは怪我されたら困るから、魁士くん、お願いっ」
紗奈が笑顔で、魁士へと銃を手渡した。
「紗奈さん、その笑顔が怖いですけど……」
「魁士くん、私を打ってみて。」
魁士と距離をとり、両手を広げながらその場に立った。
「えっ?怪我しますよ」
「いいから、打ってみて。」
魁士が静かに深呼吸をして、銃を構えた。
引き金を引くと弾丸が紗奈に向かって放たれた。
すると、その弾丸が紗奈に当たる直前にその場に落ちた。
紗奈は顔の前で手を合わせて歯を見せて笑った。
「よかったー!当たらなくて」
「えっ。紗奈さん、元から実験してたんじゃないんですか?」
「してないわよ。祐さんに危ないから実験してね。とは言われたけど、祐さんの腕は信じてるから大丈夫かなと思ったの。」
「でも、紗奈さん。どうして弾が直前で落ちたんですか?何か銃にしかけでもしたとか?」
「そうよ!さすが、狼くんね」
紗奈が狼の肩に手を置いた。
「でも、この力を使えるのは……」
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「……。」
「魁士ももうそろそろやばそうだねぇ。」
偆の放った弾を避けて反撃はしているが、もうそろそろ限界を迎えていた。
対抗し、魁士も銃を放つも偆に当たる前に弾が弾かれてしまう。
「くそっ!おい!偆、一旦休憩しようぜ。」
偆も限界も迎えていたが、銃によって体を操られているようだった。
「あの銃は人並み以上の能力がないと使えないって言ってました…」
狼が下を向き、震えていた。
「そうだねぇ。偆はもう限界を迎えているから、あの弾がなくなったら銃と同じで死んじゃう。偆はなんの才能がないただの人間。」
「……」
狼は唇を噛みしめ、自分の手をグッと力強く握った。
「叶さん。僕が偆を助ける確率はありますか?」
「狼だけなら0に近いかなぁ。僕は偆の気持ちが少し分かるんだ。だから、ちゃんと後世させて仲間として連れ帰らないとね」
「はい!」
物陰から2人は姿を表し、二手に別れ偆を囲んだ。
(3人なら…)
(可能性はあるだろう。)
叶がジャンプし、空中で銃を構えた。
「狼!!魁士!!!!」
魁士が上を見上げ、叶へと銃を投げつけた。
「叶!俺に構わず打て!!!」
叶は魁士から貰った銃と自分の銃を構え、偆の周辺に弾を打ち付け、シールドを張った。
その間に狼は偆へと近づき、叶から預かった特殊な銃を使い、偆を撃った。
偆はその場に倒れ込み、後ろで腕を縛った。
「偆!偆!!!」
狼が魁士と偆の元へ駆け寄った。
偆は正気ではなく、魁士が取り押さえるも暴れていた。
「あぁ!!!!?うぅっ!!!!!」
偆は意識を失ったまま、狼を払おうと左右に体を動かしていた。
「偆!偆!しっかりして!!僕だよ。狼だよ。」
偆が暴れなくなった途端、銃声が鳴り響いた。
「狼っ!避けろっ!!!」と叶が叫ぶと、勢いよく偆が狼を突き飛ばし、狼はその場に倒れ込んだ。
「偆っ!」と狼が振り向くと、心臓を射抜かれた椿が口から血を吐き出し、そのまま膝から崩れ落ちた。
「偆!!!」
狼がすぐさま偆に駆け寄った。
「テメェっ!!!!!」
魁士は、偆を打ったハットの男目掛けて撃ったが、その場から男は立ち去られてしまった。
「偆、偆っ!起きて。お願いだから…」
すると、偆から息が漏れた。
「しゅん……?偆。」
偆は冷たい手で狼の顔に触れた。
「ら……う。」
「偆……」
狼が顔に触れた手を、狼は優しく触れた。
「……。ごめんな。」
涙を流しがら、偆の話を聞いていた。
「俺は狼に酷いことした。その…罪が今執行されただけだ…。俺は…あいつに使われたんだな。俺の体は…元々あいつらの実験体に過ぎなかった。用済みになったから…処分されたんだな……」
魁士が怪我をしながらも、狼と偆に近づいた。
魁士が銃口を偆に突きつけた。
「お前、裏切ってやがったんだもんな。」
「魁士さんっ!」
狼が魁士の服をグッと引っ張った。
「止めるんじゃねぇ。こいつは俺らでも処分しなきゃならねぇ。……おい、偆。テメェが言ってたヒーローがこれか?テメェがっ!こいつ(狼)みたいになりてーって言ったんじゃねぇのかよっ」
叶が魁士の肩に手を置き、左右に首を振った。
魁士は胸ぐらを掴んでいた手を離した。
すると、偆の目から涙が何滴もこぼれ落ちた。
*********************
狼と叶が来る前のこと。
「おい。てめぇはなにしてーんだよ、偆。」
「俺は、あの方に認めてもらうために潜り込んだんだ。お前らを殺せば、狼を殺せば僕をナンバー3には入れてくれるって言われたんだ。」
「あの方って誰だよ?」
魁士が偆へと近づくと拳銃を取り出し打ち始めた。
「おい!ただの拳銃で俺が死ぬかよ。クソガキ。」
魁士は銃弾を避け続け、偆の元へと突っ込んで行った。
「おい、偆。お前がなにしてぇのかイマイチ分からんが……。狼は渡さねぇぞ、この野郎」
ニヤリと笑い、偆の顎に銃を突きつけた。
すると、偆が高笑いをし銃を下ろした。
「ハハハハッ。狼のこと本当に大事なんすね」
「当たり前だ。お前が狼を殺すって言うなら俺がお前を先に殺すまでだ。」
「君たちにはもう少し早く会いたかったよ。僕は狼みたいなヒーローになりたいんだ。あいつと出会う前から僕はあの人から聞いてたから知ってた。でも、もう手を汚してしまったから戻ることは出来ねぇんだよ。」
魁士が偆へと1発頬を殴った。
「わりぃな。うじうじしてる奴を見てるとイラつくんだわ。まぁ、そのなんだ……お前は俺らの所に来い。狼もその方が喜ぶだろうからよ。」
魁士は照れくさそうにして、偆へと手を伸ばした。
「……。ありがとう。」と偆が魁士の手を取ろうとした途端、突然苦しみ出した。
「どうした?おい、偆っ!!!」
その後、銃に体を蝕まれていったのだった。
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偆の傷口からはどんどん血が流れていた。
息は段々と薄れていき、意識が遠のいていった。
「魁士さん、叶さん!偆はこのままじゃ……このままじゃ……死んじゃいます。」
狼が声を震わせながら、偆の手をグッと握った。
「……ヒーローには僕はなれなかったですよ……魁士さん。」と魁士へと微笑みかけた。
魁士が偆に向けていた銃は下ろし、自分のポケットにしまった。
「…最後に……言っておきたいことがある。」
「偆、最後なんかじゃないよ!」
狼が涙を浮かべていると、偆は笑いながら首を振った。
「……狼にだから聞いてほしい。人はちゃんと見極めないとダメだよ…。狼は優しいから…ね。しっかり……魁士さんと叶さんの言うこと聞いてれば大丈夫。きっと狼を守ってくれるよ。」
そっと狼の頬に手を触れた。
「でも、偆がいないと……。僕にとって初めての友達で…だから失いたくない。お願いだから最後なんて言わないで……」
狼は大粒の涙を流しながら、頬に触れられた手を握っていた。
「……はぁ……狼、泣くなよ。お前に、もう少し前に会ってたらな……。人間でもこんな優しい奴がいたなら、早く気づけてたら狼みたいなヒーローになれてたかもしれないな。ありがとう、狼……。強く……生きろよ」
偆はそう言い残し、ニコッと笑いゆっくりと眠るように目を閉じた。
「やだよ……ねぇ、偆!!!偆ってば。叶さん、偆は助かりますよね……?」
手当に当たっていた叶は首を振った。
「そんな……。偆……。」
狼が呼びかけるも、偆からの返事はなかった。
狼は偆に抱きつき、声を出して泣いていた。
「くそっ!!!」
「狼。魁士。帰ろう。」と目に涙を浮かべながら、叶が呼びかけた。
狼は腕で涙を拭い、偆をおぶり、シールドの外へと出た。
今回の事件では、死者10名、けが人23名出たそうだ。
なにも知らない警察達は、単なる建物が崩壊した事故だとして片付けたそうだ。
(偆。僕がこの世界を変えてみせるよ。約束する。)
事務所全員で埋葬した。
わざわざ、紗奈が偆のお墓まで立ててくれた。
また、来世でこのインフェースドに戻ってくれるようにと意味も込めて。
一方、狼は帰ってからも狼はもぬけの殻状態だった。
あの事件の日からもう5日は経過していた。
「狼くん、大丈夫かしら。」
「墓に行った時もそうっすけど、最近狼、誰とも話したがらないっすよね。あの日から5日でしたっけ?」
「結蘭くん、話してきてくれない?」
結蘭の背中をポンと押してニコッと笑った。
「……わかりましたよ。」
結蘭は狼が腰かけているソファの前に座った。
「狼。」と呼びかけても狼は反応なく、ぼーとしていた。
「狼はよく頑張ったよ。」と頭を撫でながら優しく声をかけると、狼から涙がボロボロと零れた。
「狼に俺の姉さんのこと話したことあったっけ?」
うんうんと横に首を振った。
「そっか。俺の姉さんシーラの連中に殺されたんだ。両親を早くで亡くして、姉さんは俺のことを大切に育ててくれた。言わば母親みたいな感じで、凄く俺は大好きだった。俺、後から知ったんだけど、シーラの連中に研究物資を渡していたんだって。それで用済みになったから殺されたらしいんだ。」
((俺は…あいつに使われたんだな))
狼は結蘭の話を聞いていて殺された偆のことを思い出した。
「……。偆も同じこと言ってました。」
「そうか。狼は裏切った偆のこと恨んでる?」
「恨んでません。悪いことはしたとしても大切な友人だから。」
狼は手のひらに乗せていた偆のペンダントを見てニコッと微笑んだ。
「俺も狼と同じなんだよね。俺も姉さんを恨んでない。俺を最後まで守ってくれたのは紛れもなく姉さんだから。だから、悲しんでる暇もなくてその人の分も大切に生きようって俺は思うんだよね。だから、狼も自分らしく生きていくべきじゃないかな。」
「そうですよね。」とコクリと頷いた。
ありがとうございます!と言い、立ち上がって結蘭に深々と頭を下げた。
そして、紗奈にも頭を下げ、魁士の部屋へと向かった。
「あらあら。すっかり元気取り戻したみたいね。」
「そうみたいですね。」
「さすが、結蘭くんね。」
「そんなことないですよ。俺が狼のことほっとけない理由がやっとわかったかもしれないです。」
「あら、それはよかったわね。」とフフッと紗奈が口元に手を抑えて笑った。
「あっ。社長もしかして知ってて俺に行かしたんすね。はぁ……頭まじで上がらねー…」
結蘭が頭を抱え込んでいると、笑顔で紗奈が背中を撫でていた。
*********************
「魁士さん。狼です。」
「入れよ。」
ドアを開けると、棒の飴玉を加えながら椅子に座っていた。
「大丈夫なのか?もう」
「はい。ご迷惑お掛けしてすみませんでした。」
深々と頭を下げた。
すると、魁士が立ち上がりポンポンと頭を撫でた。
「お前が無事でほんと良かったよ。したら、仕事でも行くか。ほら、ささっと行くぞ、狼。」
魁士が狼にハットを被せた。
「はいっ!」
……To be continued