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第3話 同居の始まり

 カフェで自己紹介をした後、電車に乗って最寄り駅まできた。

 そして今、駅から家までを2人で歩いているところ。

 横目でチラリと、彼女の容姿を再確認する。


 腰まで伸びた黒髪に、ぱっちりと大きい瞳。

 身長は150cmを少し超えたくらいだろうか、少し年齢よりも幼い印象を受ける。

 服装も線の細いインナーに薄手のアウター、ミニスカートにハイソックスと相当女の子らしい格好で、当初想像していたものからだいぶ離れている。

 なんというか、一言でまとめると”かわいい”になる気もするのだが、気のせいだと言い聞かせて絶対口から出ないようにしよう。


「? 何かついてる?」

「あぁ、ごめんごめん。何でもないよ」

「へんなの」


 眺めていたのがバレたらしい。これからはバレないように気をつけよう。

 というか、変なのは男とこれから同居だってのに全く動じてないお前だよ、なんて考えつつも結局反対してない俺も同類なのだろう。


「あ、そうだ。呼び名は"ヒロ"のままでいいか? ちょっと男っぽいから嫌とか、大丈夫?」

「うーん、一応、マヒロって呼んでもらおうかな」

「分かった。マ、マヒ……マヒロだな」

「噛みすぎじゃない?」


 噛んだというか、女の子を下の名前で呼ぶというイベントに照れていただけなんだけど、それは言わない。

 勘違いしてくれているならそのままにしておこう。


「そうだ、私はタイキ呼びのままでいい?」

「まあ、本名そのままだしな」

「確かに」


 なんだかこうやって話していると、やっぱりこの女の子マヒロはヒロなんだなと強く感じる。

 波長が合うというか、気が休まるというか、懐かしい感じというか。

 掴みきれない感覚だけど、確かにそう感じるのだ。

 と、そんなことを話しているうちに、俺たちの新居についた。


「着いたよ、あのマンションの6階」

「マンション、結構大きいね。あ、私の荷物ってもう中?」

「もちもち。外に置いておく理由もないし、中に運んでおいた」

「ありがと」


 じゃあ入るか、と言いかけたところで、ふと気づく。

 ご近所さんから見ればこの状況、入居初日に彼女を連れ込む若い男(悪い意味で)に見えるんじゃないだろうか。

 荷物を運ぶときに何回か挨拶もしたし、おそらく何人かには顔も覚えられているであろう。


「えっと、マヒロさんに一つ相談があるんですが」

「なに?」

「今2人同時に入ると、あまりよろしくない気がしてですね、時間おいてから入りません?」

「そんなの、どうせ後でバレるんだし変わんないでしょ。むしろ、見せつけてやるくらいの気持ちでいこう」

「まあ、たしかに?」


 強かなマヒロの意見に流されて、結局二人で家に入ることにした。

 案の定、挨拶をした近所の人に声をかけられたけど、その声かけが「妹さん?」だったのでそういうことにしておいた。

 マヒロはふくれてたけど。



「おー、結構広い」

「なかなかだよな。いい物件を見つけてくれた親に感謝」

「これで家賃5万円なの?」


 家賃、食費は折半ということになった。

 俺が誘ったのだから家賃はいいよといったのだが、マヒロがそこは譲らなかったのだ。


「家賃5万な理由は、単純に親戚が経営しているからだよ」

「よかった。事故物件とかじゃなくて」


 そんなこと言うマヒロはお化け全般が苦手だ。

 以前、ノリで怪談を話したことがあったのだが、その後めちゃくちゃ死体撃ちされたことを覚えている。

 それ以降、マヒロの前では絶対に怪談を話さないようにしている。

 ……今、マヒロが女の子だと言う認識を持ってあの時の行動を振り返ると、少し可愛い行動だった気分になってきた。


「マヒロの荷物はヒロの部屋に置いてあるから、また開けといて。カッターも置いてあるから。力仕事がいるなら俺を呼んでくれてもいいし」

「分かった」



 しばらくお互いの部屋で黙々と荷解きをした後、冷蔵庫の中身が何もないことに気づきファミレスに行ってご飯を食べた。

 すると、帰ってくる頃にはもう7時を回っていて、お風呂どうする? と言う話に自然となっていた。


「どっちが先に入る? 俺はどっちでもいいよ」

「じゃあ、入居一番風呂は私がもらっちゃおうかな」

「着替えとタオル忘れるなよー」

「分かってるよ」


 マヒロは部屋に戻って、着替えを取ってからお風呂に向かった。

 今日ずっとマヒロと一緒にいたから久しぶりの1人の時間と言うわけなのだが……改めて考えると今、壁をいくつか挟んではいるが、同じ家で女の子がお風呂に入ってるんだよな。

 なんというか、不思議な感じというか、相手がマヒロだから煩悩はそこまで湧いてこないと思っていたのだが、そうでもないというか……


「煩悩退散煩悩退散。あ、そういうえっっ系の本どこに隠そう」


 ナチュラルに隠すという思考になるあたり、だいぶ俺もこの状況を意識しているなと感じつつ、部屋に戻って隠せる場所を探す。

 ベッドの下、ベタすぎる。本棚の裏、取り出しにくい。よし、卒業アルバムの箱の中に入れておこう!(狂気)


「危機は回避した……」



 それからリビングに戻ってテレビをぼーっと眺めていると、ガチャという音と共にヒロがお風呂から戻ってくる。


「お湯加減どうだっ……た…………?」


 目線を移動させたそこには、うっすいTシャツ一枚のマヒロが立っていた。

 その薄さといえば、目を凝らさずとも下着まで見えてしまいそうで……

 むしろ、ちらちら見えている気がしなくもない……

 と、そこまで考えて慌てて目線を逸らす。

 見てはいけないものを見てしまったこの感じ。

 煩悩退散煩悩退散と心の中で唱え続ける。

 しかし、煩悩が強すぎて全然退散しない。

 除夜の鐘でぶっ叩かれたい気分。


「んー? あっ!」


 煩悩の元マヒロも状況に気づいたらしい。

 とりあえずなんとか上に何か着てくれ。目塞いどくから。

 煩悩の攻撃をガードで受けてるけど、そろそろ割られそうなんだよ!


「あっご、ごめん……家では基本こんな感じの服装で……」

「とりあえず、服着てー! 煩悩が!」

「ぼ、煩悩? とりあえず服着てくるー!」


 バタンっ! と勢いよくドアの閉まる音を聞いて、やっと目を開ける。

 マヒロは部屋に戻ったのだろう。とりあえず一安心だ。

 ……それにしても、なんというか、相棒が女の子だということを改めて知ってしまったというか。

 今日再三実感したはずなのに、それとはまた違う実感の仕方というか。

 ……いや、思い出すのは避けよう。それが平和への第一歩。

 ガチャ、と控えめなドアの音が聞こえて、リビング入ってきたマヒロは『たかなし』と書かれた体操服を着ていた。

 狙ってるの? ってくらいベタというかなんというか。

 俺に若干刺さっちゃうからやめて欲しい。


「ごめんなさい……一人暮らしで慣れちゃってた」

「いや、いいよ、うん。次からこういうことはなくしていこう」


 というか、一人暮らしの時はずっとあんな格好だったのか。

 じゃあ、俺とゲームをしている時もずっとそんな格好で……いやいやいやいや、煩悩退散だ。


「えと、とりあえずお風呂どうぞ?」

「あ、あぁ、うん」


 気まずい雰囲気から逃げるように、着替えをとってきて、色んなものを意識しそうになる思春期脳をぶっ飛ばしながら、お風呂に向かった。




「はーお風呂上がりはスッキリするなー」

「あの、タイキ、お願いがあるんだけど」

「んー、何?」

「私、人様に見せれる春物のパジャマ持ってないから明日一緒に買いに行って欲しい」

「……分かった。朝からでいいか?」

「うん!」

「待ち合わせは……決めなくていいか、同じ家だし」

「そうだね」


 惜しむような沈黙が少し続いた後、


「じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」


 おやすみを言い合って、お互い部屋に戻ろうとする。

 その途中、ヒロが背中を突いてきて、


「あの、私、中学の時はずっと一人暮らしで心細かったから、誘ってくれて本当にありがとう。じゃあ、おやすみ!」


 そう言い残し、マヒロはぴゅーっと去っていってしまった。

 まあ、問題は山積みだけど、マヒロが楽しんでくれているなら何よりだ。

 ベッドに入ると、今日は色々疲れたからか、すぐに眠気が訪れた。


───────────────────────


 マヒロ視点


 タイキとの同居がついに始まった。

 けど、タイキにドキドキしているうちに1日が終わっていた気がする。

 タイキは私に全然ドキドキしてなさそうだったのに。

 あ、でもお風呂上がりの私にはちょっと照れていたかも。

 いや、その後服を着ていたらスッと対応されたし、そんなでもなかったよね。

 ベッドの中で、そんなことを考える。

 寂しいというか、悔しいというか。

 せっかく最高のタイミングで女の子だってバラせたのに、思っていたより反応が薄い。

 だから、明日の私は攻め攻めだよ。

読んでくださってありがとうございます!

面白ければ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと、モチベーションに繋がりますので、是非よろしくお願いします!

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