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名前を考えなくては。とは思えど、ぱっと思いつくものでもない。と、同僚の一人がこんな事を言った。
「皆で名前を考えればいいじゃないか」と。
これはありがたい。二つ返事ではじまった女の名前決めは、ほかの部署も巻き込んでかなりの数が集まった。
ほかの部署も巻き込んだせいで名前決めは広間に集まって行うという大ごとになり、なぜか御館様が上座で音頭を取っている。
「ではこれより、天女の名前を決める」
威厳のある声で宣言をすると、俺の隣にいる女に袋を差し出した。
「一枚ひくがいい。それが天女の名前になる」
くじ引きの予行練習をしておいたから、女は練習どおりに袋に手を突っ込んで一枚の紙をひいて、俺に向かって誇らしげに微笑んだ。よくできたという意味を込めて頷いて返すと、笑みを深くしていた。
御館様は折りたたまれた紙を受け取ると、上座へ戻って仰々しく読み上げた。
「天女の名は…………“そら”」
上座で紙を掲げて見せる御館様は、手元に戻した紙を眺めて満足げだった。
「良き名だ。うんうん」
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「そら」
「……?」
「お前は、そら」
「……?」
名前を教えても、理解が難しいようだった。だから俺はいつも教えているものを指した。
「目」
「め」
「鼻」
「な」
「口」
「ち」
そして、そらの膝の上で眠っているふじを指して。
「ふじ」
「じ」
そして。今ここには無いが、眠る真似をして床を指して見せ。
「ふとん」
と言うと、女は元気よく答えた。
「とんっ!」
女はどういうわけか布団が大好きだった。だから布団という言葉はすぐに覚えてしまった。得意げな様子が、なんとも滑稽で愛らしい。
ここで、俺は女を指して言った。
「そら」
すると女は少し考えてから、ゆっくり自分を指して、
「…………そ」
と言い。首を深く傾けて思案したあと、俺を指した。
「ん。」
短い声の中に、「お前はなんだ。」という問いが含まれている気がして、俺は自分を指して言った。
「や、き、ち」
するとそらはまた俺を指して短く「ん」と言って。
「や……ち」
そして自分を指して、
「…………ら」
と言った瞬間、何かに気が付いた様子で、にこーっと花が咲いたように破顔した。それから半刻、俺と自分を交互に指して「やち、そら」と気が済むまで言い続けた。