第70話 「みけクエスト3」
「みけちゃんがいないんだけど……ってそれはさっきアンタに言ったか」
「……いや、たぶん……」
「俺が昼ごろまでトランプ付き合ってたけど、その後は知らないな」
「……てーとやっぱアンタが怪しいか」
カシスさんは、さっき俺にさんざんボロクソに言ったわりに全然反省していなかった。
ひでえや。
「こういう時は……うん。人に聞こう」
「ま、そうね」
「……いや、冒険者ギルドだ……」
どういうこと?とカシスとふたりユーミルに尋ねる。
「……つまり」
彼女は姉と話をし、彼女は王都から南に去ったそうだ。
しばらくここは安全。
それと、みけとギルドで会い彼女に冒険者登録をさせたと。
ずいぶん無茶なことをする人だなぁ……。
「子どもに渡していいものじゃないだろ」
「……だからイカレてるって言ったろ……」
「ううーん」
なんだかな。
その一言でなんでも許しているようで気に食わない。
まあ俺が説教しに行ったら、即プチ殺されるらしいので結局俺もだんまりなんだけど。
とにかく、ギルドか。
依頼なんか請けていないといいけど。
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予想は悪い方に当たるもので、すでにみけは出発していた。
ネコ探しの依頼、仲間は盗賊のクラック。
「クラックってアレか、カシスとザリードゥの『誓約』にちょっかいかけてきた」
「……そ、いつもああいう下ネタ飛ばしてる親父みたいなヤツよ」
【鴉】と【火線使い】のヤバイプレイがどうたらとか、あんま覚えてないが。
そのあとカシスに厨二暗殺者ムーブをかまされすごすご退散していたな。
「……私も尻、触られたことある。あのスケベオヤジ……」
「うへえ、マジか」
昭和の遺物か。
「……だから、そこも心配。さっきのアンタじゃないけど……」
「いやあれは完全に冤罪だったろ、普段から清廉潔白だろ」
「とにかく、急いだほうがいい」
「聞いてる?」
ユーミルは、もしみけに危険がありそうなら絶対に止めろ、とみなに話した。
言われるまでもない。
それと、
「……盗賊としてはどうなんだ?」
「ん……平均かな。初級だけど解錠や調査は得意で、ふつうの依頼だったら十分こなせる。前衛も、そこらのチンピラには負けないと思う」
「それにみけの魔法か……」
たぶん大丈夫、だと思いたい。
ネコ探しというのはなかなかやっかいな依頼で、だいたいそれだけで終わらないケースが多い。ネコを探していたら殺人事件に巻き込まれたり、盗賊ギルドの抗争に巻き込まれたり。
ひどいケースだと魔人や吸血鬼と戦わされるらしい。
案外恐ろしい依頼なのだ、ネコ探しというのは。
受付に事情を話し、依頼人の家を聞く。
なんとか間に合えばいいのだが。
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俺たちは依頼人の話し通り、裏路地へ。
周囲を調べ始めたそのとき、地下へ通じる階段から足音が。
急いで身を潜める。
そうして、階段からみけとクラックが現れた。
……みけは髪がくしゃくしゃで、ツインテールが片方解けている。
服はスカートが砂まみれ。
そしてその手をひくクラック。
なにやらにやにやと、気持ちの悪い笑みを浮かべている。
――――火精の励起を、刹那で完了。
「ユーミル、ヤツを止めろと言っていたが……」
「ああ」
「別に、アレを殺してしまっても構わんのだろう?」
並列想起で『火矢』を並び立てる。
一発ずつ、腹に叩き込んでやろう。
苦悶の声を響かせるといい。
「私の分もとっとけよ。
……素人め。コレの正しい使い方を教えてやる。
鎖だけでの切断ってヤツを見せてやるよ……」
ちゃりちゃりと鎖の鳴く音があたりに響く。
カシスは「ん?」とマヌケな声を上げた。
みけがこちらを見る。
「――わっ、わっ。その……」
なにかマズイところを見られたという顔だ。
そうか、なるほど。
『火矢』を『火弾』に切り替える。
「みけ!その男から離れろ、そいつがなにかするより俺のほうが速い!」
「よー、師匠じゃねえか!……なに怒ってんの?」
「てめえヌケヌケと……」
「待って」
カシスの制止の声。
彼女の指差す先には、テディが器用におぶった子猫の姿。
うーん……あれ?
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その後、みんなで冒険者ギルドへ。
みけは初めての依頼の報酬を受け取り、それを銀貨に換金。
きっちり半分をクラックに渡す。
俺は謝礼として彼にエールを1杯奢った。
ただまあ、彼の疑われる要因自体は擁護できないけどね。
セクハラ下ネタ魔人なんてのは、ちょっとな。
「なんであんなキモ……じゃねえ、にやついてみけの相手してたんだよ」
「いや、あの子はすごいぜ。数年後にはとびきりだ」
「あー」
うちのトカゲマンと同じ見解か。
しかしみけを見て早く大人になれよと言っているようでもあり、あまり好きな見方じゃない。
あいつは、まだまだマトモな子ども時代が必要だ。
「だから下心がまったくないっちゃウソになる。今のうちに仲良くなっときゃって……」
「やっぱ今殺して……」
「だーっ、冗談だよ」
わるいわるいと俺の肩をバシバシ叩く。
うーむ、俺はこの人すこし苦手だなぁ……。
ザリードゥとはまた方向というか、湿度が違う。
あくまで冒険者同士、ビジネスでのお付き合いに留めておきたい。
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みけと改めて話をする。
お金のことは心配しなくていいと念を押した。
カシスからは奨学金のような案もでたが、それはみけが大人になって、返したければそうしてくれ、と伝える。
「冒険者はしばらくはダメだ。イリムみたいに成人してからな」
「そーです、レディになってからですよ」
「……イリムさんは大人なんですか?」
「なんと恐ろしいことにな」
「ちょっと!そこのふたりひどくないですか!?」
「ミリエルは……なにがしたい?」
ユーミルが尋ねる。
「私は……まだまだ経験不足だとわかったので勉強がしたいです。
魔術もそうですし、他にもいろいろ」
「……わかった」
結局、街の小さな学校に週3日、通わせることになった。
これは一般教養やなんやかんや。
魔導はみけの部屋の本がたくさんあるし、優秀な魔法職がふたりもいる。
俺のは残念ながら教えられるようなものじゃない。
あと、魔法の話だとみけともあまり噛み合わなかった。
どうもアルマ、みけ、砦のオスマン。
この3人は言っていることが似ている。
ユーミルとは結構通じるんだけどね。
それから、みなで仮の保護者となる以上、コレは言わねばならないと思う。
みけは頭がいい、きちんと自分で判断してほしい。
「……まれびと、さんですか……」
「ああ、俺とカシスはな。しかもあちらの世界で同じ国だった」
そういえば最初の街で私刑された青年もそうだったようにみえる。
なにか、意味があるのか、偶然か。
みけはうーんと悩んでいる。
「本の中でぐらいしか知らないんですよ……フザケている……わけじゃない顔ですね」
「真剣だね」
「この世界にはなにをしに来たんです?」
「気がついたら、森で散歩してた」
「うーん……召喚なのかな……でも誰が……。直前の記憶は?」
「俺はたぶん酒飲んで寝てた……のかな、カシスはトラックに轢かれて」
「トラック?」
「すごくでかい馬車だと思ってくれ」
みけはさらにうーんと悩む。
「どちらも世界との接点、存在が薄れた状態ですね……お酒も魂の遊離を……」
「えーと、みけさん」
「なんですか?」
「考察はいいんだけど、その、いいのかな」
「いま考え中なんですけど」
「えーと……じゃあ後にする」
結局、みけはまれびとであることはどうでもいいと言った。
あそこから自分を助けてくれたのが、悪魔だろうと殺人鬼だろうと。
そしてたぶん、絶対に。
あなた達は悪い人じゃない、と。
「あの屋敷で、本物の悪党を毎日見てきた私が言うんだから間違いありませんね」
みけは自信たっぷりだった。
思わずくりくりっと頭を撫でてやる。
「ええ、やっぱりこっちのほうが好きです」
みけはにっこりと笑った。
それから、それから。
冬がきて、外の依頼の数が減り、自然と王都内での仕事が中心になった。
新年が来て、あけましてもやった。
どうやらこちらの世界にはない風習のようで、カシスと一緒になってみなに説明した。
月が巡り、イリムの誕生日。
ドッキリは大成功だった。
それからそれから。
みけの救出からたっぷり半年が過ぎた。
特殊な依頼を請けたり、地下遺跡に潜ったり、本当にいろいろあった。
季節は春で、夜もだんだん冷え込みがやさしくなってきた。
夜の帳が降りきった通りをすすむ。
王都での暮らしも慣れてきたもので、近道や裏道にもずいぶん詳しくなった。
いつもの宿に帰るには、ここの角を曲がったほうが早い。
……そうして、角の先、その街灯に。
小さな人影が助けを求めるように揺れていた。
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※この章に今後追加される王都小話と銘打ったものは短編集のようなより道です。
これから彼らにはまた旅に出てもらわなければならないので、日常回をやりやすい王都滞在時に期間を固定したものになります。
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