第65話 「王、王妃、衛兵」
みけの引っ越しは怪力ふたりのおかげですんなり済み、部屋への設置も終わった。
元々の宿のベッドは安物で、昨日一晩みけはなかなか寝付けなかったそうで、ベッドもお取替えと相成った。
セレブかな。
あとは服がいくつかに、本。
特に本は大量で、それを収める本棚が4つで狭い安宿の部屋がさらに狭くなる。
床の底が抜けないかちょっと心配だな。
ちらりと本の背表紙を検めるとやはりというか、魔導書のようなものが多い。
基礎的なものからよくわからんものまで。
俺も少し勉強しておきたいと思っていたので、みけに頼んで数冊借してもらった。
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みけの引っ越しという依頼が終わり、俺たちは街にくり出した。
路地から表通り、さらに王都の正面広場を横切りギルドの左手へ続く通りへ。
ここは通称ギルド通りと呼ばれており、そこをしばらくすすむと、右手に商店通りとなる。
ここは以前、武器やアイテムを見繕いにきた場所だが、生活の道具はもちろん、玩具やお菓子を扱う店も豊富だ。
王国で一番あらゆる物が揃う場所と言われている。
商店通り手前は屋台がいくつも出店しており、その中でもザリードゥのオススメであるワニ肉の串焼きを頂く。
見た目はサービスのいい大きめの焼鳥で特に抵抗感はないが、ワニを食うのは初めてである。
というかワニ、いるんか。
「なあザリードゥ」
「なんだ師匠」
「コレは……共食いになるんじゃないか?」
「ハッ、ならねぇよ」
彼は串焼きを両手に4本抱えており、1本を豪快に一口で平らげた。
イリムはにこにこと、みけは恐る恐る口にしていた。
俺も一口、焼鳥と唐揚げの中間サイズのブロック肉に噛みつく。
「わっ……おいしいですね」
「おおー、これはなかなかです!」
「……結構いけるな」
「だろ?」
味はジューシーな鳥ササミというか、豚肉っぽい鶏肉というか。
比較的あっさりした味わいに、濃いめのソースがマッチしている。
ワニというからもっと強烈なのを覚悟していたのだが。
「ところでワニって、どんな動物なんですか?お屋敷の本では読んだことありません」
「私も、大樹海のはるか南の沼地にいるとしか……」
「えーと、こいつ」
とザリードゥを指差す。
「こいつのが四つん這いになって、口がもっと長いとワニになる」
「ええーっ!」
「ザリードゥさんのお仲間なんですか?」
「いや全然似てねェからな、あんなブサイクどもとは。
一日中アホみたいに口を開けてて知性のカケラもねぇ」
どうやら彼の基準ではまったく違うお顔らしい。
他種族から見たら人間とサルもこんな感じなのだろうか。
ザリードゥはがじがじと旨そうにワニ肉を頬張っている。
あれを人間とサルに置き換えてみる。
……ちょっと吐き気がこみ上げてきた。
テレビで世界の珍味、みたいな番組でサルが出ていたが俺には絶対ムリだ。
串焼きをくしくしやりつつ、商店通りへ入る。
ここは入り口付近はノーマルな商店街だが、少し奥に入るだけで雑然とした空間となる。
規則性がなく、非常にごちゃごちゃと、階段やテラスで2層、3層と店が積まれている。
日本の築地や、中国の九龍城のようなカオスな雰囲気で、歩いているだけで楽しくなってくる場所だ。
子どものみけなんかまさにどストライクであり、あっちにウロウロ、こっちにウロウロと落ち着きがない。
人混みも多く、ちょっと心配だ。
「迷子になるなよー」
「あっ……すいません!」
トテテテテ、とみけがこちらに駆け寄り、わしっと俺の服の裾を掴む。
これなら確かに安心だが、キラキラとした瞳で上下左右、せわしなく好奇心に満ちた視線をやっている彼女がかわいそうだな。
「行きたいところがあったら教えてくれ」
「……はい!」
「おっ、私も手を繋ぎましょう!」
とイリムがみけの左手を掴む。
するとザリードゥが「肩車でもしてやれよ、パパさん」と冷やかす。
そういうオマエがしてやれよ、背も高いんだし……と思ってザリードゥを見たが、彼の後頭部はトゲのような突起が並んでいる。
個体差もあるだろうが、リザードマンに肩車の文化はないだろう。
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いくらかみけのリクエストで店に寄りつつ、当初の目的である玩具屋に。
店内に入るとところ狭しと色の洪水。
玩具、お菓子、子ども服。
どいつもこいつも原色がキツイ。
ザリードゥはこんなカラフルで甘いものばかりの場所は嫌だ、とどこかにふらりと消えてしまった。
まあ、わからなくもない。
ぐっ、と俺とイリムを引きずる勢いでみけが飛び出す。
目を輝かせ、山と積まれたぬいぐるみを手に取る。
クマ、ネコ、イヌ、……その他エトセトラ。
つくりとしては古めというか伝統的というか。
いわゆるテディベアによく似ている。
もこもこしたものもいるが、フェルトのような素材でキリッとした顔立ちが多い。
値段をみるともこもこが金貨3枚、フェルトが金貨1枚。
みけは、もこもこを愛おしそうに撫でている。
「それ、プレゼントにしようか?」
「えっ!?」
「イカれた場所からの出所祝いだよ」
「……ですが……」
「それに魔導書も貸してくれただろ、それの代金だとでも思えばいい」
「……本当に……いいんですか?」
「おうよ」
みけはありがとうございます、と頭を下げたあと、もこもこ達の厳選モードに入った。
しばらく……本当にしばらくかかりそうな雰囲気を纏っている。
「師匠、私には何かくれるんでしょうか」
「ああ、そこのアメちゃんだったらいいぞ」
「……へえー、これが師匠が言っていた格差社会というやつですか……」
「いやだってお前なんのお祝いよ、誕生日とかだったらちゃんとするよ」
「そうですか、では」
イリムから誕生日を教えてもらった。
それは俺がこの世界に飛ばされてきた、その前日であった。
あと4ヶ月ちょっとか、きちんと覚えておこう。
みけの厳選は残り5体にまで絞られてきたが、まだまだこれからが本番だろう。
俺もぶらりと店内をうろつく。
と、カラフル度が低く、木製品の茶色や、駒や盤の白黒がメインの大人しいエリアを発見する。
ここは雰囲気からして対象年齢がぐっと高いな。
チェスのようなボードゲームに、いくつものカードゲーム。
木でできた置物や人形、パイプなんかもある。
このエリアならザリードゥも大丈夫だろう。
カードゲームのひとつを手に取ると、これもやはりトランプだった。
近くにはルールブックらしきものもあり手に取ってみる。
パラパラとめくり、いくつもの遊び方に目を通す。
驚愕した。
ババ抜きも、神経衰弱も、ポーカーも。
大富豪も、ダウトも、スピードも。
俺が知っているモノはすべて収録されていた。
さらにあまり詳しくはないがブリッジやラミーなども載っていた。
本の最後には著者の紹介。
西方諸国の南西、自由都市といわれる街の商人にしてまさに大富豪。
数々の新しい遊びを開発し、特にトランプとそのルールブックで巨万の富を築いた男、ラザラスとある。
まず、間違いない……この人はまれびとだろう。
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