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第51話 「ニコラスとジェルマン」

予感はあった。


いつもの宿で起き、身支度をし、階下へ降りると、カウンター席にアルマが居た。

にこにこと、いつも通りの笑顔で。


「……話、いいか」

「ええ」

アルマの隣に座る。


紅茶を2つ頂けるかしら、との彼女の注文に宿の主人はうちにはない、とだけ返事をする。

そう、この店の飲み物は、水か白湯か、お酒ぐらいしかないのだ。


「では、薄めのホットブランデーを2つ頂けるかしら」


無口な宿の主人は無言でオーダーに応え、手早く注文のカクテルをカウンターに並べた。

かぐわしい香りが湯気にのって店内に広がる。


「……それで、話というのは?」

「この指輪なんだが」


左手をカウンターに乗せ、右手で指輪をいじる。

それだけで、たぶんわかってくれるだろう。


「……それを渡した時、理由はお話しましたよね?」

「悪いが覚えてない。記憶力に自信はないからな」

「あら」


残念ですわね、と呟きアルマはブランデーを一口。

すぐに顔をしかめ、懐から小瓶を取り出し、中身を数滴カップに垂らす。


「死なれると私が困るから、それをあげました。

 全部こちらの都合なのであなたやイリムさんが気にする必要はありません」

「その理由を聞きたいんだ」


アルマの目をまっすぐ見る。

隠し事は、なしにしてほしい。


「……まあ、そろそろ頃合いでしょう……と、その前に」


彼女は懐から赤紫色の液体が詰まった小瓶を取り出し、蓋を外した。

とたんに周囲に甘ったるい香りが満ち、すぐさま宿の主人が静かにカウンターに突っ伏せる。


「これで、秘密のお話もできますわね」


------------


「まず……そうですわね。

 あなたの故郷の世界でニコラ・フラメルという名前に心当たりは?」

「…………。」


やっぱアルマは、俺がまれびとであることは看破してたか。

自衛のため、その方法は後で聞いておこう。


で、フラメル、か。

……うーん、聞いた覚えがあるような。

しばらく考え、唐突に思い出した。


「ニコラス・フラメルだっけ。賢者の石を持ってるだとか」

音割れじゃないほうのポッターで読んだことがある」


「…………そうですか。やはり祖は…………」


なんだかしんみりした様子でアルマが黙ったので、こちらは静かにホットブランデーとやらを啜る。

……あ、これお湯割りなんだ。


「では、サン・ジェルマンという名前に覚えは?」


ふむ……聞いたことあるような、ないような。

しばらく考えたがちょっとわからなかった。


「ない……かな」

「そうですか。まあ、ただの詐欺師なので野たれ死んだのでしょう」


そのふたりが、なにか関係あるのだろう。

ブランデーをちびちび呑みつつアルマの言葉を待つ。


「……そうですわね。

 理由はふたつあります。まずはひとつめ」


彼女は、彼女の家の話を始めた。


------------


開祖が、錬金術の秘奥に至った。

ソレを家の秘術とし、彼は妻とふたり違う世界へ旅立った。

そうして、フラメルの家は栄えた。

祖の残した赤い石をもって、錬金術の大家となった。


しばらく……数百年ののち、ある道化師がフラメルの家を訪れた。

自分は驚異の男であり、あなたの家にさらなる繁栄をもたらすでしょう。


その男の話術に先祖は夢中になった。

そうしてある日、祖の残した秘術の記録と赤い石は永遠に失われた。

なんとかわかったことは、その男はまれびとであり、また元の世界に帰ったということだけ。


それ以後、名門であったフラメルは没落した。


「……祖は、まれびとの世界に移り住んだ。そして、祖の遺産をまれびとの詐欺師に盗まれ逃げられた。

 フラメルの娘たる私には、その失敗を解決する義務があります」


強い意思を感じさせる声で、アルマはそう言った。


「……その手がかりになるというわけか、俺は」

「はい。なにぶんあなた方は、すぐに殺されてしまうので」


「……ふたつめは?」

「恐らく、あなたには役目があります。……この世界に呼ばれた理由が。

 ただ、これはまだ私の推測にすぎないので、ちょっと、今はまだ……」


しばらくアルマの言葉の続きを待ったが、それきり彼女は黙ってしまった。

……まあ、ひとつめの理由でも納得はできるか。


「そのうち、できれば話してほしいかな」

「ええ、ありがとうございます」


であれば、本来の目的に入るべきだな。

ラトウィッジの多重結界の対処方を。



アルマとふたり、地下水路へ。

彼女も王都の地下に精通しており、この宿からすこし行ったところの裏路地から地下へ。

迷うことなく先導してくれる。


彼女の腰のランタンと、俺の『灯火』の明かりだけで暗い下水道をすすむ。

ごくたまに巨大ネズミと遭遇する以外は特に問題ない。

危険は少なく、雰囲気は怖く、たまに敵でびっくり。

そして女の子とふたりきり。


このシチュエーションは……そうか。


「お化け屋敷みたいだな」

「なんですの、それ?」

「ここみたいな怖い雰囲気の場所をわざと作って客を楽しませるんだよ」

「……ほうほう」

「迷うようにしたり、脅かし役のオバケがいたり、トラップがあったり……あれ?」


言っててなにかにすごく似ている気がしてきた。

アルマがずばり指摘する。


「それは地下遺跡ダンジョンの練習施設ですか?」

「こっちの世界にもあれば楽しそうだよな」


「新人冒険者の訓練施設ですか……面白いですわね」

「だろ」


「オバケ役は死霊術師ネクロマンサーに用意してもらえば実戦訓練も……」

「いや、そこはこだわらなくてよくない!?」


お化け屋敷で客にケガさせたらアウトだぞ。

あとそれ誰の死体借りるんだよ。


しばらくして目的地へ。

ラトウィッジ邸へ繋がる上り階段である。


アルマは片眼鏡モノクルを3枚ほど重ねたモノで周囲を観察。

ふむふむほうほうと唸っていたが、すぐに「霧散の方向でいきましょう」と答えを割り出していた。


「霧散って、魔力霧散みたいな?」

「ええ」


ではさっそく取り掛かりましょう、とアルマはきびすを返した。

本当に、彼女は優秀な魔術師だね。



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