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第40話 「トカゲとヒューマン」

壁に貼り付く砦の外階段を降りていくと、騒ぎの中心が見えてきた。

人だかりが輪になって、ふたりの男を囲んでいる。

男の脇には枯れかけた木と、うずくまる人影。


「や、……あー、アンタは見ないほうがいいかも」


苦虫を噛み潰したような顔でカシスが言う。

視線の先、うずくまる人影。

まったく微動だにしない。


「もしかして……」

「まあ、そうね」


気づいたら階段を駆け下りていた。イリムも後に続く。

人混みをかき分け、すすみ、輪の内側に飛び出た。


にらみあうふたりの男。

足元には誰かの死体。

……いや、あれはおそらく……。


「吊るした罪人を下ろすたあ、お前もやつらと同じまれびとかぁ!!」


口角をあげ、ツバを撒き散らしながら男が吠える。

対するトカゲ人は、さも面倒くさいモノを観察するように男を眺める。


「リザードマンのまれびとがいるかよ、聞いたこともねえ」


「じゃあ、なんでそいつの縄を切りやがった!?」

「だーからぁ、さっきから言ってるだろ。胸糞わりぃって」


ヘラヘラとした態度で、トカゲ人……リザードマンがくるくると両の手に握った長剣を回す。曲芸のように操る長剣が、ピタ、と一時停止したかのように固まる。


まるで慣性などこの世に存在しないかのように。

剣のさす先には、うずくまる死体の姿。


「吊るして、晒して、石投げて。

 雑魚が優越感に浸ってるさまは気持ちがわりいって言ってるだろ」

「俺の村は【氷の魔女】にやられた……!

 コイツらにはいくら復讐してもしたりねえ!!」


「あー……マジで腕以上に頭もわりいのね」


リザードマンのその言葉は、対する青年のなにかに触れたようだ。

獣のような絶叫を上げながら、手にした長剣を大上段に振り下ろす。


リザードマンは、右の長剣で華麗に攻撃を受け流し、左の長剣の柄で、男の後頭部を殴りつけた。あ……と男は声を漏らすと、その場にどさりと倒れ込む。


「他になんか、意見あるやついるか?」


ぐるりと周囲を観察するリザードマン。

にらんでいる者もいれば、やっぱあいつ強えなと感嘆している者、目を伏せる者、さまざまだ。


だが彼に意見する者はひとりもいなかった。


「じゃ、とりあえず神サマ判定な」


そう言って彼は、うずくまる死体の上に手を掲げる。


「【葬送】」


リザードマンが何事か呟くと、死体が光輝きながら分解されていく。まるで、光の糸となってほどけるように。

ぱさっ、と。死体の衣服だけが地面に残された。


「んー、やっぱこいつもか。不思議なもんだなー。

 こいつら何者なんだろな?」


顎に手をあて、悩むリザードマン。

見世物は終わったとばかりに、だんだんと人の輪が散っていく。


「ザリードゥ?」と後ろからイリムの声。

ああ、どこかで会ったことがあると思ったら、彼か。


辺境の街で、イリムをこてんぱんにした傭兵だ。

彼女が手合わせを願い、二十本中一本しか取らせなかった男だ。



「おお、嬢ちゃんじゃねえか」


リザードマンの青年、ザリードゥが手をふる。

スタスタとこちらまで歩み寄ると、ずいっと大きな手を差し出してきた。


「お久しぶりです!」とイリムが元気よく手を握る。


「えーと、アンタは確か師匠サン、だっけ?」

「ああ」

「人間はほんといろいろ変な名前が多いよなぁ!」

「いや、名前じゃ……まあいいか」


ザリードゥは、身長2メートルほどの大柄なリザードマンだ。

手入れされた革鎧や部分鎧、2本の長剣は彼の傭兵としての経験を物語り、こうして目の前で見ると実際以上に彼が大きく見える。


いわゆる強者の「圧」を感じるのだが、気圧されるようなものではなく、むしろ不思議と安心感が湧いてくる。あったかい優しいクマが友達にいる、というのが例えとして近いかな。


「イリムと師匠もやっぱここに来たか。今の王国で名前を売るならやっぱここしかねぇしな!」

「【槍のイリム】で宣伝する所存です」

「おお、いいねいいね」


ザリードゥはなんだか嬉しそうだ。


「師匠サンは確か、炎使いなんだろ?ここにはサイコーじゃねえか」

「火に弱い……んだよな?」

「ああ、森ゴブリン、森トロール、みんな炎が弱点だ。

 いくつかある設置兵器もだいたい炎絡みだ」


それは助かる。

というか、設置兵器……いわゆる、大型弩砲バリスタ投射器カタパルトもあるのか。


「……て、ザリードゥ。アンタだったの」

「ようカシス!珍しいなお前が戦場働きとは」


「私は前線にはでない。後方支援のつもりよ」

「手先だけは器用だもんな」


勝手知ったるといった風なカシスとザリードゥ。


「えーと、知り合い?」

「前に王都で何回か、同じパーティで依頼を請けたことがある」


「こいつ超優秀だろ?ここまでの盗賊はなかなかいないぜ」

「ちょっと……やめてよ」


カシスは褒められて満更でもないようだ。

しかし、依頼を請けた……か。


「ザリードゥは傭兵だと思ってたけど、冒険者のパーティとも組むのか?」

「俺っちは冒険者の資格も取ってるぜ、ほれ」


と懐から銀色の金属板。二ツ星の証明書。

なんと中堅の冒険者でもあったのだ。


「ザリードゥの実力ならがんばれば三ツ星もいけそうだけど……やっぱ今でも傭兵稼業と半々なんだ」

「まぁーな。遺跡や洞窟はあんま好きじゃねーし」

「アンタでかいからね」


カシスが他の冒険者とここまで気軽に話しているのは初めて見た。

王国のギルドでも、彼女の知り合いはそこそこいたが、だいたい反応はそっけなかった。


……そういえば、彼に注目したさっきの件。

あれは、どうなんだろう。

少し探りを入れてみるか。


「さっきの騒ぎ……大丈夫なのか?

 吊るされたまれびと……を勝手に降ろして」


「んー、死んだあとのことはこの国の法に規定はねえ。

 だから何しようと別にいいんじゃねえの?」


彼はさっき、胸糞が悪いと言った。

吊るされた遺体に対してのさらなる暴力が。

彼も、もしかして……。


ぐい、とカシスが俺の肩を引く。


「ザリードゥ、なんなら私たちと同じエリア組まない?

 アンタが前線だと、すごく助かるし」


「おお、それはいいですね!

 私の成長も見てほしいです!」

「オイオイ!女子ふたりに頼まれちゃ、断りようがねぇな」


ザリードゥはカラカラと、いーぜOKだと笑っている。


じゃあ決まり。また後でね……とカシスに引かれザリードゥと別れる。

ずいぶん強引だが、これはなにか話があるということだろう。


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