第33話 「旅道中」
「踊る白馬亭」をでて3日目。
白馬亭といえば、あの事件の解決の礼なのか、アクア・ヴィテという名のウィスキーをゲットした。
宿の亭主から3本ほど。1本1ルクス、つまり金貨10枚ちょっとするそうな。
こいつはいいもんもらった、ちょっとずつ呑もうと最初の1本を開封したら、それだけでイリムとカシスからブーイングを浴びた。
「えっ、ふつうに臭い」
「師匠……それはですね、ちょっと」
うーん、焚き火から離れて呑むのは悲しいし、かといって。
……しょうがなく一時封印する。
そうか、パーティももはや男女比が逆転し、女性陣の声のほうが強いのだ。
こんなダンディズムあふれる酒はだめなんだ。
あと未成年いるからねぇ……。
多少残念だが、2本は売って軍資金か。
開けちゃったやつはこっそりチミチミ頂きますか。
4日目であるが、今日は緊急の依頼を請けた。
定番のゴブリン退治で、数が少しばかり不安で20匹ほど。
王国にここまで近い場所ではだいぶ珍しいらしく、一日も早い駆除が望まれた。
3人パーティでの初めての依頼。
今までのイリムとのふたり旅に、カシスも参加し安全はずいぶん増した。
戦士と、魔法使いと、盗賊。
パーティバランスは悪くない。
しかもカシスは前線もこなせるシーフで、投げナイフがとてもうまく、レイピアもそれに次ぐ。
彼女いわくイリムには敵わないそうだが、俺では一撃目はなんとか防げるかな、で二撃目で殺される自信がある。そして彼女の投擲の速さは俺の『火弾』並みだ。
シーフというよりもはやニンジャである。
なんなく仕事をやり遂げる。
その夜、イリムが寝息をたて始めたころ、
「……カシス、ちょっといいか」
焚き火を囲みこれから就寝時間。単刀直入に切り出す。
「お前ちょっとおかしくない?」
なんなの?という顔をしたあと、彼女は得心したかのように言う。
「私ってだいぶ強いでしょ」
「……うん」
そうなのだ。
明らかに、動きがおかしい。
とてもJKの女子とは思えない。
「ここに飛ばされて2年、いろいろあったけどさ。
一番は驚いたのは自分の体かな」
ヒュッ、と抜いたレイピアをくるくる回し、見せつけるように俺へと突き突き切り払いの都合3回の攻撃をかます。時間にして秒に満たない早業だ。
しかも肌に触れるか触れないかというギリギリの距離を正確に。
カチン、と得物を鞘に収め、カシスは呟いた。
「元の世界だと、必死に練習してもここまでは……ね」
彼女は静かに、自分のことを語った。
家は古い剣術の家系で、こどものころから剣を叩き込まれてきた。
才能はまあまあで、でもふたつ上の姉に敵うことはただの一度もなかった。
この世界にきて、生きるために初めて真剣を握った。それは、剣術からすると非常に攻撃的な、突きを主体にする突剣だった。
「それから、行商やらこすい盗賊まがい、たまに冒険者ごっこもしたりとかで……」明らかに、途中から体が違うことに気がついたそうだ。
「発想に体が追いつく……って感じかな。
無茶な体勢で避けて突いて、体を捻ってかわして」
気がついたら、その動きは故郷の世界とは変わっていたそうだ。
「アンタはどうなの?」と問われる。
……俺は、飛ばされて特に人間離れした覚えはない。
棒術は防御のためで、その動きはあくまで人間の範疇だ。
「残念ながら、お前が見てのとおりだよ」
ふふっ、とカシスが笑う。
「武器の扱いは確かにそうだけどさ。
魔法が使える人間なんて私たちの世界にはいなかったでしょ」
アニメやゲームじゃないんだから……と。
「まあな」とカシスと一緒になって笑う。
それからしばらく、互いの知っているゲームの話で盛り上がった。
彼女は2年前のJKのわりにゲームもそこそこ嗜んでいたようだ。
この世界でまさかこんなオタな会話ができるとは。
まえの世界のことが少し懐かしくなった。
……カシスを見る。
彼女の瞳もとても懐かしそうで、とても寂しそうだった。
急なゴブリン退治で遅れたが、いよいよ明日の昼頃には王都に着くそうだ。カシスはおもに西方諸国で活動していたので、王都に来るのはこれで2度目だとか。
「最初に見ると、ちょっとびっくりすると思うよ」
だとか。
今は野営で、俺が見張り番だ。
パーティが増えたおかげで夜寝れる時間も増えた。これはすごく大きい。
「順調ですか?」
「……ええとですね、いい加減慣れてきたけどなんでいつのまにか一緒に焚き火を囲んでいるのよ?」
アルマだった。
実はこの人幽霊とかじゃないよね?
「先日の殺人事件では、ありがとうございました」
すっ、と優雅にお辞儀をされ、思わずびくっ、とする。
こういう所作はとても洗練されていてやはりいいとこのお嬢様を思わせるのだが。
「いや、ほとんどそこのカシスと、あとは匂い追跡のイリムのおかげだよ」
「いまはその3人で?」
「ああ、ちょうど昨日も軽く依頼を請けた」
それはいいですわね、と呟いた後、「ところで精霊術は育ちましたか?」と。
「…………いや、あまり」
アルマと別れた後の、あの辺境の街での一ヶ月間はそれなりに訓練は続けていたのだが、あの「まれびと狩り」以降は、そんな暇は取れなかった。現時点では術の手数は足りている、というのもある。
「ああ、『大火球』はなんとか実戦で使えるかもしれない。
サイズを少し控えて、10秒ほどで発動できた」
戦闘で10秒というと恐ろしく長く感じるものだが、今は仲間がふたりいる。
「あの、私がお見せした『燎原波』は?」
「あれはちょっと、今の俺には無理だ」
イメージが難しいし、なにより効果がデカすぎる。
正面のものすべてを薙ぎ払って焼き尽くすとなると、関係のない第三者や、最悪仲間を巻き込む可能性が高い。まだまだ確実に、自分に自信ができて術使いとして成長してからだ。『火葬』はその点、火力は凄まじいが指向性の攻撃なので、まだ俺でも扱える。
「そうですか……ですが、いずれは大規模破壊の手は必要になりますよ」
「まあ、訓練はしておくよ」
アルマはそうそうそれと、……といくつか術のアイディアを提供してくれた。特にそのほとんどが「戦闘の最中には使わないもの」だったのは助かる。
戦闘時に即座に選ぶ手札としては、まだまだ3、4種類に絞るべきだ。たぶん、術使いの先輩として、アルマもそこらへんを汲んで教えてくれているのだろう。
俺の師匠は、アルマで決定だな。
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そうして、やっと。
目的地たる王都にたどり着いた。
「おおおおお、かっけー!!」
「すげーですよ!山に街が、ぐるりと!!」
「やっぱキレイな街よね」
三者三様、それぞれに小並感を炸裂させる。
いや炸裂させているのはオノボリさんふたりだけか。
カタチとしてはモン・サン=ミシェルに似ている。
小高い山をぐるぐると取り巻くように街と塀が連なり、山の上には立派な石造りの城が。
そしてその山の裾野には、赤茶けた屋根とレンガの街がどこまでも広がっている。まごうことなき、ファンタジーの王都である。
とても壮大だ。
「そういや、下の街には塀があまりないように見えるけど」
「ここは衛兵の巡回がまともだから、あまりモンスターは近づいてこないの。あと、あんな広い街を塀で囲うのはムリでしょ」
ふーん、しかしそうすると。
「冒険者いらなくね?」
「王都は王都で問題あるの。地下に広がる広大な地下遺跡だとか、これだけ人がいたら今度は人間同士の問題とか。仕事には困らないわ」
よりなんでも屋さん度が上がるわけか。
「さ、入りましょ」
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