第254話 「『樹霊祭』」
『樹霊祭』
大樹海のケモノ族に伝わる、大地と木々とその他大自然のもろもろに感謝する祭りだ。
いつもはあまり人目に出てこない村の巫女さまも参加し、みなの前で祭事を行う。
ちなみに、人目に出てこないというのはしきたりだとかの陰気臭いものではなく、巫女さま本人の性格だとか。
出不精の引きこもり体質か……うちのトウカと似ているな。
案外ふたりを会わせたら話が合うのでは。
去年のトウカはまだまだ祭りなど人出の多い場所はムリだったが、今年なら彼女も参加できるだろうし。
しかし……そういえばこの村の巫女さまが使う文字はニホン語、つまりまれびと文字だったな。
そのおかげで俺が旅立つときに書き残した手紙は、しっかりカジルさん達に伝わった。
昔に流れ着いた、巫女的な能力を持つまれびとあたりが開祖だろうとわざわざ詮索はしなかったけれど。
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それから場所を移し宿のカウンターへ。
酒場の亭主らしく、師にとっておきの酒をふるまう。
これはあの【踊る白馬亭】から取り寄せた、とっておきのウィスキーである。
あそこでカシスと探偵ごっこをしたのも懐かしい。
「ほう……この匂いはピートか。大地のチカラの賜物じゃて」
かつてイリムやカシスに臭い臭いと抗議されたダンディーな酒は、予想通りアスタルテには喜ばれた。
そして彼女は本題を切り出した。
「して、今年もまたおぬしに話をふりにきたのじゃが」
「えーっと。残念だがお断りします」
「……ふむ」
アスタルテの話をやんわりと断る。
これで5度目、彼女の提案とは……黒森の主、闇産みの討伐である。
師によれば、『現在』の戦力が2000年まえに滅びた古代文明期を除いて、最強だという。
俺、そしてその仲間たち。
残機を使い果たしたがいまだ最高の魔法使いである【紅の導師】
死神×少女コンビである【月喰らい】と【異端の魔女】
そしてなにを隠そうこの世界の最強種族の長たる【三竜】
駒として、これだけのものが揃っていると。
「悪いが……俺はいまの生活に満足してる。イリムがいて、娘もふたりいて、……あとはまあ対人コミュ障の居候もいるしな」
「……。」
「俺の方針は変わらない。わざわざ危険な蜘蛛の巣を突こうとは思わない。ただ……」
目を細める。これだけは違えぬと、決して譲れぬと。
「もし家族が、仲間が。すこしでも脅かされるのなら、そのときは容赦せず焼き払う。ご自慢の森ごとな」
「……ま、よかろ。今はまだ……な」
この話はこれでお終いとばかりに、アスタルテの表情が砕けたものとなる。
イリムも加わり、そこからは気楽な世間話だ。
「そーいえば、アレですよね! 私たちが引退したあたりから……」
「ああ、第三次冒険者時代、だっけか」
「なんじゃなそれは」
「トウカの……あ、いや。『氷の魔女の領域』が溶け去ったことで、そこがまるまる新たなフロンティアになっただろ」
「ああ、あの北方に踏み入る命知らずかいの」
そう。
かつての冬の世界、死の世界は消え去った。
そうして拓けた広大な世界、新天地。
新たな住処、暮らしを求めて旅立つ者たち。
彼らの護衛として傭兵や戦士も必要だ。
そしてそう……冒険者である。
1000年前の魔族のエリアに点在するあらゆる古代都市の廃墟や遺跡、そこに眠るお宝や術式は彼らを惹きつけてやまない。
いわばアメリカの西部開拓時代のように、世は北部開拓時代の幕開けである。
かつてなく活気に満ち、熱に満ちている。
「師匠、私もふたりの子育てが終わったら、アレですね! 冒険してみましょう!」
「うーーーーん、まあ。安全は確保したうえでね」
「はい!」
にこりとまんまる笑顔で応えるイリム。
二児の母でありながら、いまだ彼女の心は元気いっぱいだ。
……まあまだ24だし、アッチの元気もいまだ盛んだし。
つーか3人めができるのも時間の問題ではなかろうか。
「で、冒険者といえばあのふたりですよ!」
「ああ、ここまで轟いてるな……こんな田舎までねぇ」
かつての仲間、ユーミルとザリードゥはなんと二人組で冒険者を続けている。
チーム名は【執行者】
世にはびこる盗賊や悪人を、ばっさばっさと成敗する姿から名付けられたとか。
……まあ、ユーミルとの初遭遇も今はなき【異端狩り】を鎖でぐるぐる、ギロチンでグシャ! だったしな。
俺やイリムもたまに一緒に参加して、冒険したり依頼をうけたりしていたが、そういう時に限って「ゴブリン、オーク、トロール、たまのワイバーン退治」など魔物限定だ。
イリムは大丈夫みたいだが俺のメンタルだと盗賊退治はちょっとキツい。
それは、仲間である彼らもわかってくれている。
「でも、ユーミルとザリードゥが組むなんて意外ですよね」
「うーん、そうか? 昔から見てたが、なんだかんだ仲がいいってやつだろ」
あの旅の道中でのケンカや言い合いも、いってみれば痴話喧嘩みたいなもんだ。
たがいに恋愛感情などはないみたいなのでちょっと違うかもしれんが。
「みけちゃんも、最近はよく名を聞きますね。
【巨人の乗り手】、【白き石の天使】、【死霊錬金術師】……ううっ、通り名の数はそれすなわち冒険者の武勲です、凄いですね」
「【槍のイリム】だって、大陸中どこだって通じるだろ」
「それはもちろん!」
えへん、と胸をそるイリム。
まあ、以前彼女に「夜のほうでも槍のイリム名乗ってもいいんじゃね?」と冗談ふかしたらマイスピアをへし折られかけたが。
あのときはマジで危なかった。
せっかく名前を取り戻してまで拾ったこの命、大事にしないとね。
ちなみにみけは現在19。
よく村にも遊びに来て、俺とイリムの子のめんどうも見てくれる。
そのときに冗談かなにかだろうが、彼女とした会話を思い出す。
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「昔は師匠さんも狙ってたんですけどねー」と唐突に。チャールの頭をなでなでもふもふしつつ。
「まじか」
「おおっ、でた! とーちゃんのまじかー」との娘の言葉に笑顔で「ふふっ、まじですよー」と答えるみけ。
「……ううむ」
いくつか分岐が違ったらそういう未来もあったのか。
俺からするとそんな気はなかったのでほとんどあり得ないレアルートだろうが。
みけルート……ううん……さすがに言い訳の余地もなく即ロリコン認定、カシスに処刑されてゲームオーバーな未来しか予想できん。
いまの成長した姿なら大丈夫だろうが……しかし。
「そういえばみけは、ジェレマイアとは?」
「さっぱり振られちゃいました」
「ふむ」
「なんでも、『あちらの世界』に残した妻以外と結婚する気はない、と」
「おおっ……意外と硬派だな」
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しかしみけは冒険でザリードゥやユーミルと組む以外は、フラメルの屋敷にこもりきり。錬金術と死霊術の研究に明け暮れる日々だ。
もうちょい、年頃の娘らしく外とも交流してほしいものだが……まあそれは彼女の自由か。





