第240話 「氷の城」
「見えました、師匠!!」
「あれか!」
ぐんぐんと北上し、寒空を駆けた。
障害はすべてジェレマイアと……たまの抜けをユーミルが取り除いた。
2時間か、3時間か。
ひたすらに飛び続けたさきに、その城はあった。
白く輝く氷の城。
元あった魔王城が凍りつき、雪と氷に染め上げられている。
「……キレイ、ですね」
イリムがほう、と息をつく。
たしかに、この世界でみたどの城よりも綺麗で美しい。
戦いのための城ではなく、芸術作品のような城。
「……シンデレラでも住んでそうだな」
ノイシュヴァンシュタイン城、だったか。
某有名テーマパークのお城のモチーフであり、ひとりの王が現実から離れ引きこもるために築いた、夢と幻想の城。
あれにそっくりだ。
「師匠クン。いかに装飾が優れていようともあれは魔女の城だ。ためらいなく破壊しよう」
「……ええ、ですが」
こうして間近で視てわかる。
外装が桁違いだ。
芸術的にも、概念的にも。
「壁面は……『熱杭』でも難しいかと」
「ほう。君のでもかね」
「俺のでもです」
びっしりと強大な氷が何層も。
存在年数は……ざっと500年モノ。
積み上げた年月、想いが違う。
「窓か……正面の大扉ならいけるかもしれません」
「ふむ」
窓から突入は迷う可能性が高い。
それに狭い個室ではパーティが十分に戦えない。
大扉は、敵の待ち伏せもあるだろうが全員で対処できる。
俺の『俯瞰』、ユーミルの『死法の魔眼』、ジェレマイアの『5秒後の世界』と奇襲にも対応できる。
「師匠! ここは正面から正々堂々いきましょう!」
「……そうだな」
リンドヴルムに乗ったまま、さらなる火精の励起に入る。
焔の道により、この冬の大地にありながら火精の調子もすこぶるいい。
なんだかんだ火竜の爺さんも、チカラを貸していたのだろう。
「――じゃあ、ぶち抜いたあとはいっきにいくぞ」
「ええ!」
イリムの元気な、
そして闘志に満ちた笑顔。
「よっしゃいくぜ! ――『聖戦』、前掛けしとくぜっ!!」
ザリードゥの気合のひと声。
みなを包み込む清浄なる輝き。
「……【鎖憑きの魔女】、いざ参らん……うん、これってつまり『魔女の饗宴』じゃね?」
魔法少女なワードをつぶやくユーミル。
こんなときでさえ彼女はマイペースだ。
――よし。
『熱杭』の装填も充填も済んだ。
あとはこれを、ありたけ全力であの扉に叩き込むのみ。
「……。」
そうして目標を、華美な装飾の大扉をにらみつけると……そこに異変がおきていた。
静かに音をたて、ゆっくりと開きだしたのだ。
「――!?」
「どういう……ことでしょう」
気づけば、吹き荒れていた吹雪も、さきほどまでジェレマイアが対処していた雲霞のごとく押し寄せていた雪翼竜の群れも……すべてすべて収まっていた。
しーんとした静寂。
凍える大気も、こころなしか穏やかだ。
「……誘っている?」
「それか罠だろう。まあ、飛び込むしかあるまい」
城の正門を越え、大扉まえに広がる前庭へと降り立つ。
庭を彩る石柱や、木々や花々。すべてが白く凍りついている。
「ここもキレイですね」
「……ああ」
全力で警戒しつつ、口を空けた大扉まで歩む。
カツン、コツン、と氷の階段を叩く音が足元から。
耳に入る音はそれだけだ。
城に入ると、廊下がまっすぐに続いていた。
『俯瞰』を走らせると、両脇に続くいずれの部屋にも誰もいない。
家具と、火のない暖炉だけ。
「進もう」
さきほどと同じ、みなの足音だけが廊下にひびく。
気配も、音も、それ以外にはなにひとつ存在しない。
まるで時間が止まっているかのようだ。
――ある一点を、除いては。
廊下のつきあたりは丁字路になっており、その正面にはひときわ豪華な大扉が。
真紅のように赤く、ところどころに美しいレリーフが。
「ここだ」
レリーフのひとつひとつはさまざまな動物……いや魔物をかたどっている。
かつての魔王城の名残だろうか。
巨人や翼竜、狼。
ゴブリンやオーク、コボルトまで。
その、魔物の群れの扉のさきに……とても広い空間がある。
「この先に、ひとりでいる。
女性……いや少女といってもいい」
「……ついに、ですね」
「ああ」
「師匠クン、いかな見た目が幼子といえど、ためらいなく殺したまえ」
「……ええ、わかってます」
みなを見渡し、みなでうなずく。
ここまでこれた。
ついにここまで。
その想いとともに扉を開く。
ひとりではなく、みなで一緒に。
「……。」
扉のむこうには、玉座の間が広がっていた。
赤いビロードの道がまっすぐに伸び、それを立柱の連なりが囲っている。
そしてその先に、大きな大きな氷の椅子……そしてその玉座に座る、少女の姿。
髪は長くさらさらと、透き通る青のようであり凍りつく雪のようでもある。
警戒しつつ歩む。
彼女に動きはない。
「…………。」
そのまま、玉座の階段……彼女と5メートルほど距離を保ってみなで構える。
そこで初めて、彼女はおもてをあげた。
「………………。」
その瞳には、たしかな感情、意思を感じた。
生きている者の、そして対話が可能な者の目だ。
ひとことでもいい。
話がしたい。
その後殺し合いになるとしても。
最初の言葉は決めていた。
しかし、俺が声をかけるよりもさきに、彼女……氷の魔女は頭を下げた。
そして懇願した。
希った。
やっと望みが叶うのだと。
「どうか……殺してください。
……お願いします」





