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【メイン】超ショートショート小説たち

超ショートショート『冬眠中のピアノ曲』No118

作者: なみのり

冬の日。


私が家のコタツでぬくぬくしていると、どこからか踊るように飛ぶ蝶が現われた。


一瞬妖精かと見違えたが、そのくらい美しい蝶だった。


いきなり押しかけてきたその美麗な蝶は、なんだかえらそうに言う。


「あなた、ピアノはできて?」


「...弾けた頃もありました。」


私は自信なく答える。


また弾けたらいいな、とはよく思うのだけど。


「はあ...まあ、いいわ。


あなた、私と一緒に来なさい。」


と言うなり、虹色の蝶はドアをすり抜けて消えた。


なるほど。そうやって入ったのか。




どうせ暇だったので、私は蝶について石畳の道を征く。


両手にそびえる家々の窓から、オレンジの光がもれている。


でも外の空気は凍てつくようでうっすらとだけ白い霧も出ている。


厚手のコートを着てきたのだが、それでも寒い。


「ねえ、どこまで行くの?」


「すぐ分かるわ。」


蝶は氷のような冷たい声で即答する。


なんだか、せっかくついて来たのに邪険にされている気がする。


それに、蝶は人通りのない道を選んでいるようで、だんだんと道は荒くなってくるし、何回も階段をおりたため日は差し込みずらい。


蝶はひとつのドアの前で不意に止まると、こちらを振り返る。


「さあ、この先よ。」


「え?私から入るの?」


この先に何があるのだろう?


黒い梶の木のドア。


その上にあるボロボロの木の看板には、『ネムリソウ』の文字。


もしかして、このお店の中に、なにか恐ろしいもの...人さらいとか、殺人鬼とか、そういうのがいるのだろうか?


この蝶が私を騙して、連れてきたとか?


ドアひとつあるだけなのに、想像は止まらない。


「...いや、あなたから入ってよ。」


「どうして?」


蝶の言葉は相変わらず冷たい。


その上不思議な圧があって、そうせざるをえない気がしてくる。


...私は胸の前で小さくお祈りをすると、ドアを開けた...




ドアの先は、不思議な酒場だった。


暖色の木で出来た店内。石造りの暖炉と飴色の炎。食欲をそそる肉とあぶらの匂い。賑やかで柔らかな笑い声。


そしてなにより驚いたのは、お客さんだ。


ジャケットを着たくまに、紳士服のかえる、ダッフルコートの若いトカゲ。


「…...冬眠中では?」


この問いにはくまさんが答える。


「あんたここは初めてか。


ずっと寝てたら暇になるだろ?


だからたまにはこの店で集まるのさ。」


「あんたがピアノ奏者さん?」


不意に、近くにいた賢そうな顔のねずみに声をかけられる。


キッチリした服装からして、この店の人だろう。


「そうよ。」


蝶は私をさえぎるかのように鋭く声を出す。


「ではこちらへ!お客さんがみんなうずうずしてますからねぇ。」


手を引かれ、ピアノの前まで連れてこられてしまった。


お客さんたちの視線がいっせいに集まる。


私はカチコチに固まりながら、椅子に座り、少しいろみがかった白い鍵盤に指を置く。


それから後ろを振り返り、お客さんを見る。


...少し話しながらも、私とピアノを気にしている様子が見て取れる。


わくわく、うずうず。


そんな波を目に見えて感じるようだ。


まあ、上手くいかなかったら私も料理とお酒を頼めばいいや。


それで、いい休日だったってことにして。


...私はそう思い、リラックスしてピアノをひき始めた...

お読みいただきありがとうございます!


まだまだ若輩者ですが、小説を続けるためにひとつひとつ頑張っていきます。


なのでご感想・ご指摘なありましたら、是非コメントを頂けると嬉しいです!

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