212. 狙撃兵の意外な正体
“我慢。我慢は最大の美徳だ。”
――エストラトの大臣
狙撃兵が怖いのはどこから撃っているのか分からないからだ。認識外からの射撃は避けにくいのは言うまでもない。デザルト王国で見た狙撃兵は最大1kmぐらい先の標的を射ぬいていた。ここはデザルト王国よりも技術レベルが高い高原国であるし、前世の狙撃兵レベルの者がいてもおかしくはない。
「岩肌にうまく隠れてるんだよね」
まだ千聖を抱えて走り続けているのだが、息ひとつ切れた様子もない。地面を滑るように走っているので何かのスキルを使っているのかもしれない。そもそも『妖孤』だから走るのはお手のものだろう。
「音が聞こえる前に、どうやって撃たれたってわかるの?」
狙撃された弾丸は音速を超えるため音は着弾した後から聞こえる。つまり、音を聴いてから避けても絶対に間に合わないのだ。
「こう、キラって感じで光るんだよね。僅かにだけど」
言われて千聖も山中を見てみるが、僅かな光なんて確認出来るはずもない。真っ暗の中なら分かるかと思って暗視スコープのメソッドをオフにしてみるが、まったく何も見えなくなった。
これは玉藻に任せておいた方が良さそうだと判断したので、脇に抱えられながら大人しくする。
「射撃が切れたから東側の城壁へ移動する」
狙撃兵が潜伏していると思われる場所は神殿の東にある山中に偏っている。玉藻が確認できただけでも10人以上の部隊で30箇所以上に狙撃銃が固定されている。数からしても狙撃兵の質からしてもかなりの時間が費やされている。
「素朴な疑問なんだけど」
東の城壁に取りつくことに成功し、ようやく落ち着いて話せる時間が作れた。千聖を下ろした玉藻は着物の懐から何かを取り出している。
「この暗闇の中でどうやって標準つけているのかな?」
「あ……」
自分も玉藻も関係者はすべて暗闇の中を自由に移動できていたので盲点だったが、射撃している方はもっと夜目が効かないとならない。いや、夜目が聞くだけでは、もう説明のつかないレベルだ。
一般的に視野が広くなると光量が少なくなる。つまり、遠くのものを拡大してみようとすればその分、暗く見えるのだ。
これは千聖の使っている暗視スコープも同じで、拡大した場合はより暗く見えにくく映る。
「吸血鬼を狙っている組織ってなんだろうね」
「あては会わん方がええと思いますけど」
夜目が効き、近代的な狙撃銃を多数持ち、組織だった攻撃を行える。たくさんの吸血鬼を相手に戦うような人たちなのだから、それぐらいは普通なのだろう。
「でも、吸血鬼に対抗できる手段は他にないんだし、なんとか味方に引き入れるしかないよ」
「その、なんて言いましたか?」
「ヨゼフ?」
「ヨゼフはんのことをごっつい好いてらっしゃるんですなぁ」
「……そ、そうなのかな?」
どことなくクルトに通じるところがあって、好きか嫌いかで言えば『好き』に分類される。ただ相手は5才と言うこともあり恋愛感情ではないと思う。守ってあげたいと思うと同時に無償の愛情をくれる相手だ。
「あてもすぐにでも助けて差し上げたいけどなあ」
玉藻では無理なことはわかっていたし、まだ吸血鬼や狙撃兵の正体すらもわかっていないのだから、なんとかしょうもない。
「撤退かなあ……」
「撤退は勇気ある人しか出来んとこですわ」
ヨゼフも気になるし狙撃兵の正体も気になる。ヨゼフの跡を付けてから今までのことを思い出すと疑問も増える。出掛けに襲われなかった理由や夜目が異常に良いにしては吸血鬼に見えない玉藻も襲う理由など、少し考えただけでもたくさん出てくる。
「これがゲームなら何でも知ってるオペレータのお姉さんとか、親友とか出て来て教えてくれるんだろうなあ」
「そうかもしれんね」
玉藻はあまりゲームをしない人種かと思ったが、意外にも話が通じた。そして、千聖も『なんでも教えてくれる存在』を思い出す。『掲示板』には実況されていると書かれていた。しかし、未だにレスは1件のみ。実況をどれぐらいの人数が読んでいるかは分からないが少ないことは間違いがないだろう。多分、『掲示板』のレスは千聖の行動如何に掛かっているのだ。
千聖が主人公らしい行動をすれば、実況を見る人が増え、それにともなって『掲示板』へレスをくれる人も増えるだろう。ならば、千聖はここでヨゼフを助けるべきである。
「でも、死ぬんだよなあ……」
この世界がゲームでやり直しの効く世界ならば、千聖は喜んでヨゼフを助けにいっただろう。それどころか、あのデザルト王国で黒幕の8人に囲まれたときに全員を相手取ってバトルを仕掛けたかもしれない。万が一にでも勝てれば挑戦する価値はあると考えるからだ。
それにヨゼフを助けなくてはいけない理由に乏しい。普通の人間はあって間もない人のために命を懸けたりしないし、勝強くもないのに吸血鬼に挑んだりしない。
一方、打算的に考えれば、ヨゼフを助ける意味があることも確かだ。ヨゼフは巨人族でありデザルト王国の地下にある巨大戦艦を操作できる可能性が高い。それだけではなく、ヨゼフのレベルが上がれば巨人族特有のスキルを取得し、千聖の『上書き』で使えるスキルを強化できるだろう。
吸血鬼に勝つ方法はふたつ思い付いた。後は覚悟を決めるだけであるが、一人では決めきれない。誰かに背中を押してほしい。ほんのちょっとだけ背中を押してくれれば吸血鬼に挑む勇気が湧いてきそうなのだ。いや、蛮勇をもって理性を制し、不可能を可能にするための賭けに出ることができそうなのだ。
「『掲示板』へ書き込みしよう」
選択肢はいらない。実況を見ている人に『主人公』としての格を与えてもらおう。誰の目に触れなくともやることは決まっている。未来の自分のためにもヒロイックな行動をすべきなのだ。
『掲示板』に書き込み終わると、玉藻に向き直った。
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■対話型掲示板連動告知
>千聖の閲覧範囲
千聖が掲示板を閲覧している時間は決まった範囲があります。範囲時間外の投稿は閲覧していません。
また作者の投稿も閲覧していません。
閲覧時間:
2018年12月09日 0:00~2018年12月16日 23:59
対象掲示板:
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1171390/blogkey/2187628/
>千聖の投稿
千聖の投稿は作者が代行します。以下の書式で投稿された発言は千聖が発言したものとして扱ってください。
【サブタイトル】は千聖が今ストーリーのどこにいるかを表しています。
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書式例)
千聖「(発言内容)」【サブタイトル】
投稿例)
千聖「今、異世界にいるんだが、何か聞きたいことある?」【207. 義妹の消息を追って見たら】
※個々の投稿への返信は千聖の状況によります。
>千聖の行動への反映
知り得た情報は千聖の判断により逐次行動に反映されます。どの投稿の情報を元にしたのかは、初回に限り出来うる限り描写します。
ただし、文章そのものや名前は出しません。
■用語説明
>拡大すると暗い<
デジタル画像を拡大するのとは異なり、光学系の装置は受光する部分の面積で明るさが決まります。千聖も画像をデジタル処理できれば、この問題を解決できるのでしょうが。
>ヒロイック・ポイント<
と言うシステムを備えたTRPGがありまして、英雄的な行動にはプラス補正が入るシステムでした。熱いセッションが期待できます(ただし、大声出すのでうるさい)




