131. レーダーに映る影と軍事バランス
“お腹減った。夢を食べよう”
――トッポ族の冗談
初めての外界試験は秘密裏に行わなければならなかった。ドラゴンを探知できるかどうかという要件を律儀にテストする必要性はまったくないのだが、本物のドラゴンが協力してくれるわけなので、やらない手はなかった。またこの試験は急遽実装された自動迎撃システムのテストも兼ねている。
チユのレーザー兵器はこりに凝っており、レーダーから貰った位置情報を元にして掃射が出来るようになっている。レーダーの精度はそこそこあり、高度も何となく程度には分かるので空中でドラゴン程度の大きさの物体を迎撃することが出来るようになっていた。
この世界には飛空船があるので、このままでは運用に乗せることは出来ないが、周辺にゼクスしか飛んでないことを確認しながら行うので問題はないと判断していた。
「じゃあ、行ってきます……」
ゼクスはドラゴンの姿に戻り、背中にはチユが乗っている。どうやら自分の作った兵器の威力を実感しておきたいようだ。ふたりはすぐに東の方へ飛んでいってしまった。
「あのまま、駆け落ちとかしないかな?」
「大丈夫ですわ。ゼクス様はチユ様のお気持ちを大事にされているようですし」
最近はチユの方からゼクスによっていっている気がしていた。ゼクスはそれなりに信頼を得ており、チユの側にいても怒られることはなくなるどころか、逆に居場所を探されるときもあるほどであった。
ゼクスとチユのふたりはセットでいることも多くなったため、姉妹のように思っている人も多いとか。
「とりあえず、遠ざかっていくのは取れてるね」
レーダーと言えばPPIスコープだが、そこまでの実装は出来なかったため、オシロスコープのようなもので反応を見ている。原理としては単純で障害物が遠ければ遠くに反応が出て、近ければ近くに反応が出るというだけのものだ。
分解能は時間との兼ね合いもあって8方向にした。本当はくるくる回転させれば良いだけなのだが、そうすると装置が大きくなりすぎて持ち運びが難しくなるからだ。これから繰り返し外界実験をする際に性能を確認したら持ち帰って改良を施す必要があるため、小型化するまではこのままでいくつもりだった。
「なんか、いまいちね」
スクリーンに表示される情報にノイズが混じっているため、エルは不満そうだった。ノイズが混じる原因は2つある。ひとつは千聖が作った受信機の性能の問題。もうひとつは発信器から出ている電波と似た電波が自然界でも発生する場合。これらはノイズとなってスクリーンに現れてしまい、ゼクスを正確に捉えることが難しくなる。
「え……でも……」
しかし、反応がどう見てもたくさんある。これはゼクス以外にも空中に浮かんでいる物体があるのではないだろうか。
「これ、何かいるよ!」
「! ……ゼクスより大きいわね」
エルが素早く簡易計算した結果を示す。
「実験中止! 実験中止!!」
そう言うと千聖は中止を伝えるべくゼクスたちが飛んで行った方へ空飛ぶ靴で走り出した。縮地を使っているのでゆっくり飛ぶゼクスにも追い付く筈だ。
「数的には10ぐらいあったわ。あれってなによ?」
「ゼクス様より大きいのなんて飛空船ぐらいですわ」
当然、他のドラゴンがいなければという前提条件が着くが、ツクヨミの予想は間違ってはいないことを他のふたりも分かっていた。
周辺国を含め飛空船の総数は多くない。全部合わせても10艦はないはずだった。もし周辺国のどこかが秘密裏に飛空船を作っているとしたら、それは武力行使に出る前触れだ。特にタイガ大公国から恨みを買っているが、他の国もデザルト王国をよく思っていない。関税の問題だけではなく、国の才能を吸い上げる人質政策に、生産量の増加を求める内政干渉、更には細かな人事への口出しなど、とにかくデザルト王国の強い立場を傘にきた外交政策が多い。
「見つからないといいけど……」
見つかったら逃げればいいだけではあるが、戦争に使われる飛空船だとしたら、なんらかの対空装備があってもおかしくはない。それこそチユが作ったレーザー砲などは原理が簡単なだけにどの国も作ろうと思えば作れる筈だ。
「とにかく、急ぎましょう」
しばらく走るとゼクスの影が見えた。その先にはまだ飛空船は見えていない。
「ゼクス! チユ! 実験中止!」
思いっきり叫ぶと向こうも聞こえたようで反転して千聖たちの方へ折り返してきた。千聖たちも反転し、ゼクスを導くように走り出す。飛空船がどの程度の速度で飛んでいるかわからないが、なんとか巻けそうだった。
「どうしたのじゃ?」
並走するようになるとチユと話ができるようになる。
「10隻ぐらいの飛空船らしき影がレーダーに映ったんですわ」
「レーダーの故障ではないのか?」
「故障だとしても一旦中止にした方がいいわ」
何かが起きる予兆をみなが感じていた。それも8才の自分たちでは何も出来ないであろうことが。
「わかったのじゃ。ゼクス!」
「うん」
スピードを上げて実験を開始した場所に戻った。すぐにレーダーを確認すると、まだ反応を拾っていた。作り上げたレーダーの性能が良いことに喜びつつも飛空船がどこへ向かっているのか確認しなければならない。デザルト王国に向かっているとすれば歩兵を相当数積む必要があるだろうが、10隻程度では占領作戦は難しいだろうし、空爆を考えているにしても砂漠を渡ってくることを考えると爆薬はそんなに積んでいないだろう。
飛空船団の目的は単なる演習である可能性が高く、誰の目にも止まらないところで、練兵していたに過ぎないと思われた。
「問題はどこの国の船かね……」
エルもツクヨミも知らないと言うことは、少なくともタイガ大公国とクヨミ国ではないということだろう。10を超える船団を自国の要人に秘密に出来るわけがない。
「順当に考えたらタカマノ帝国だよね」
今いる場所が砂漠の東側であるということは高原2国のどちらかである可能性が高く、国力を考えたらヴァルハー神国では無理だろう。
「協定違反なのじゃ!」
デザルト王国の国防のため、周辺国はデザルト王国と飛空船の製造数に制限を持っている。そうすることでデザルト王国は国の安全を確保すると共に独立を保っているのだ。周辺国もデザルト王国がどこかひとつの国のものになることは望んでいないため、それを遵守している。
これが破られタカマノ帝国がデザルト王国の持つ権益を得るとすれば大問題であり、タイガ大公国やアシツ王国、プライン共和国は食糧の輸出を止めるであろう。そうなると食糧生産力の劣る高原国は戦争を継続することが難しくなる。
反対に平原3国のうち一国がデザルト王国を占領したとしても、タカマノ帝国が鉱物資源の輸出を停止し、さらに武器を他の国に輸出するため、すぐに軍事バランスが崩れてデザルト王国の占領が難しくなる。
このような微妙なバランスのため、デザルト王国は独立を保っているのであり、一番最初に動いたところがババを引くという構図のために戦争が起きていないだけであった。
しかし、どんなに完璧に見えることでも、長い間変わらなかったことでも、抜け道はある。デザルト王国が取りうる立場はふたつある。ひとつは今と同じように独立を保ち、周辺国と対等に貿易すること。もうひとつは周辺国の共同管理地となり、すべての国の属国になることだ。
デザルト王国の要人が一番恐れるのは「属国」になることだろう。
「どの国が協定違反をしたのか調べて他の国にも知らせないと」
可能性が低いとはいえ、エルもツクヨミも自分の国が荷担していれば立場は悪くなる。それでも千聖の益となるよう動くのは、それだけ3人の結束が強いということだろう。
「ボクが見てきます……」
「それはダメなのじゃ! ドラゴンが現れれば飛空船を増やす口実を与えてしまうのじゃ」
チユの指摘はその通りだ。千聖もそう考える。しかし、今、飛空船を確認できるのはゼクスだけだ。飛空船がどんな兵装を積んでいるか分からない以上、空飛ぶ靴で接近するのはリスクが高すぎる。
「大丈夫です。ものすごい高い位置から確認するだけですから。人間は空を飛ぶと自分より高い位置は確認しないですし……」
そう言うとドラゴンに変身し、垂直に飛び上がっていった。
>運用<
システムを作ったら使う人がいるわけで、運用に載せないシステムは単なるゴミです。
>PPIスコープ<
ドラゴンボールレーダーみたいなタイプの表示装置です。平面図として見ることが出来るため、位置関係が分かりやすい特徴があります。
>オシロスコープ<
病院の生命維持装置についているようなタイプの表示装置です。作るのが簡単。
>分解能<
解像度と同じように操作線や画素の数でレーダーに映る影がいくつになるか決まります。レーダーは使う周波数によって分解能が決まる。
>内政干渉<
国家の独立を脅かすような要求は兎に角嫌われます。相手が信じてくれるようなお人好しばかりならそれも可能でしょうが、国力に差があると信じてもらうことは難しく、内政干渉と捉えられる方が多いでしょう。
>属国<
主権を持たない国。法律や自前の軍隊を持たないため国と呼べるか怪しい。ただし、属国だといろんなことをアウトソーシング出来るので経営は楽。
>協定違反<
国際協定は実行力がないと無意味。




