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スペース

作者: 斎藤康介

 口のなかには、まだアルコールの匂いが残っていた。

 水を飲みたいとおもいベッドから立つと、身体がふわりと浮きあがる感覚がしてバランスを崩した。おどろいてまわりを見れば、自分の部屋ではなかった。薄く黄色がかった壁、すこし離れた場所にあるソファーに昨日着ていた服と下着が無造作に投げかけてあった。

 下着?

 この時になってようやく自分が裸であることに気づいた。あわててベッドのほうを見れば、自分の重みで沈んだくぼみの横で覚えのない男が寝ていた。

 すこしずつ昨晩の記憶がよみがえってきた。

 昨日、職場の後輩と飲んでいた。この後輩は年齢が6歳下だったが、自分のことを慕ってくれていた。特に自分の旦那が単身赴任となってからは、週末になるとよく誘ってくれるのだった。

 飲むのはいつも同じ居酒屋だった。女二人ではなんとも色気のない店なのだが、値段の割に料理の種類、特に日本酒の数が多いことと適度に騒々しいところが気にいっていた。

 ハイボールを数杯飲んだあと、日本酒を飲みはじめたころだった。隣のテーブルにいた男二組のほうにグラスが倒れた。それがきっかけだったとおもう。

 シャワーの温かさが、じわりと解きほぐすように頭をはたらかせつつあった。ふと旦那の顔が浮かんだ。罪悪感はなかった。今回がはじめてのことではないのだ。旦那が単身赴任となってから、旦那の分だけ部屋があいた。そのスペースを埋めるようにお酒を飲んだ。それが行きすぎたときに何度かおなじことがあった。ただ気持ち悪さが残っていた。

 男を起こさないように服を着ると、顔を見ることなくホテルをでた。

 朝焼けがまぶしかった。タクシーを捕まえようと探したがやめた。いそいで帰ったところで旦那がいなくなったスペースが埋まるわけではなかった。ならもうちょっと朝の空気を肺に満たした方が健康的におもえた。

2019.9.17誤字修正

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― 新着の感想 ―
[一言] スペース、空白にも色々あるが、満たされない心や時間はなかなか埋めるのは容易ではない。主人公が最後、朝の空気で肺を満たすのは、見知らぬ男と交わったあとに残る不快感や夫への罪悪感を浄化している…
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