モンスターが武器そのものをドロップする訳
!クエスト発生!
かっこよくて、珍しくて、しかも強い剣を持ってきて!
剣は炎属性がいいなあ。
依頼者:都市ブレスロッド在住の少年
報酬:ハイメタ3個
「これは……行かねばなるまいよ」
Sky Adventureの面々は、やけに古風な言い回しで決意した。
Place:ブレスロッドのとある民家
“レアくて、実用的に強い火の剣”という項目をクリアできなくて、数々の冒険者を断念させてきたという、いわくつきのクエストを受注した冒険者一団SK。
彼らはここ最近名前が売れ出した、中級冒険者である。キャッチフレーズは、お使いから戦闘依頼まで。お店もやってるらしい、冒険者の定義を問いたくなるような集団だ。
パーティメンバーは五人。盗みもできるリーダー、舟長。回復も使えるが血の気の多い、魔法使い。マイペースに周りを庇う、剣士。いざというときは即死で一撃死、アサシン。魔法防御が皆無な物理アタッカ―、斧戦士。どこからどうみても戦闘向きのパーティだ。
さて、今回の依頼者はどんな人物であろうか?
「こんにちはー、クエスト見てやってきましたー」
パーティ随一の魔法アタッカー、魔法使いさんが先行のあいさつをかます。
「おばさんたちが、今回僕の依頼を受けてくれた人?」
「こんな年若い(16~20才)パーティをとっ捕まえて、おばさんおじさん呼ばわりとは、いい度胸だ。目が腐っているようだな。眼科を紹介しようか」
魔法使いジョブは防御や耐性に難のある職だ。煽り耐性も低い。
「まあ、待てよ。こういう年頃の少年少女は、すべての大人が年寄りに見えるもんだ。その程度の暴言は流してやらないと後で尺が詰まるぞ」
「物語の進行にかかわる現実的な都合なら仕方ない」
キャラクターは書き手の心配なんてしなくていいはずなんだが、変だな。
「どうでもいいけどさ、おっさんたち。今度はちゃんと持ってきてよ? 僕だって友だち待たせてるんだから」
キミが友だちを待たせる以上に、冒険者の皆さんは時間を費やしているんだってことを伝えようと思ったけど、行数が足りない。
「やったぜ、おまえら! おじさんからおっさんにランクアップしたぞ!」
「誰も言わねーと思うからオレが言うけど、それランクアップじゃないぜ」
「正直、表現が変わっただけで、ダウンもアップもしてないと思うの」
知力で力を競うのが、魔法使いの在り方だ。ただし、頭がいいのと頭の回転が速いのはイコールで結べないし、ステータス上の知力の数値は魔法の威力にしか関与しない。
Place:フィールド / 大陸ディラスト
ここはブレスロッドを出たすぐの草地。安全地帯ではないので当然モンスターは出るが、仮にも中級冒険者である彼らの敵ではない。それに、SKは身分不相応にも飛空船をもっていた。空にも敵は出るけれど、エンカウント率は地上と比べ圧倒的に少ない。だから、動かなければ安全なのだ。
「炎の剣ね。大剣のベリアルとかどうよ?」
「ベリアル? 確かこの辺りの火山で取れるヤツだよな。ちょっと待て、リストをあさってみる」
「こっちのリストはあさっておいたよ、舟長。どうやら手持ちにベリアルはないみたい」
「パッと取り出してクエストクリアって訳にはいかねーな」
因みに前者のリストは、貢ぎ済み炎の剣のリストで、後者のリストはSKが所持するアイテムポーチのリストである。被っていたら時間をロスしてしまう。事前の調査は肝心だ。
「特定の武器、がベリアルじゃなかったら、戻ってくるんかね?」
「戻ってこなかったら、今頃あの少年が金持ちだろーが」
「まあまあ。普通は戻ってくるでしょ? 心配しないの」
「レアっていうから気になるんだよ……これが冒険者の性か」
「ドロップ品とか超レアだぞ。落ちないんだからな!」
ふはは、と寂しそうに笑って沈黙が落ちた。沈黙は落ちるけど、武器は落ちない。
なんてしょうもないダジャレを言うのはやめよう。
Place:火山コクエン
火山というだけあって暑い。
フィールド上では好きなだけ上空を飛び回れるこの火山も、頂上に行くには麓から登らなければならない。それを知っているから、こんなところでへこたれていられないはずだが……。
「目的のモンスターはここの頂上です!」
「もしかして:ボス?」
強敵の予感とドロップ運が、彼らの決意を凍えさせていた。
「ドラゴン族で首が何本もある敵なんだろ、分かるぜ」
「今回は一本らしいよ、舟長」
「ヤマタノオロチでもなきゃ、フツーは頭一ッコだけだよなあ」
「暑いなあ。敵も強かったらどうしよう」
「あのな、どうせ炎属性のモンスターしかいねーんだよ。水か氷の魔法で一掃できるだろ? おまえの力が頼りなんだ。しっかり頼むぜ」
いつになくかっこいい……いや頼もしい舟長。それも気弱になった準リーダー、魔法使いのせいか。相対効果か。イメチェンか。どちらにしても冒険者たちは前に進むしかない。
Place:火山のふもと
「Take何回目ですか? これ」
「2桁に入ったかも……。さすがボスモンスター。なかなか落としてくれないね」
「山頂までの道のりが、長くないのが救いだな」
「オレたちが欲しかった素材は順調に集まってるようだな。もう少し頑張るか」
「この世界の理に干渉して、物欲センサーをOFFにできればいいのに」
「もしかして、できちゃったりするの?」
「干渉云々は簡単だけど、問題は物欲センサーなんて項目がないってことだろうね」
「なるほど」
Place:フィールド / 大陸ディラスト
「わーい、やっと落としたぞー!」
魔法使いの歓声に拍手が巻き起こった。みんな嬉しかったのだ。
あれからさらに10回ほど登山してやっと手に入れた大剣は、大事なものなのでアイテムポーチから出していない。ボスを倒してダンジョンの入り口に戻された一行が、確かめもせずにフィールド上出てきたせいでもある。
「やったな、さあ、今日は帰って寝よう!」
「もう夜か……長かったような、短かったような」
感慨深げにアサシンがつぶやいた。
しかし、いつも彼らが素材のための遠征に行くときは、1週間から数か月かかるのがデフォルトである。今回の旅路は、目的がたった一つだったとはいえ、奇跡的な速さであったと言えよう。
Day:翌日
Place:ブレスロッドのとある民家
「やあ、少年! ごきげんいかが? 超レアい炎の剣、持ってきたぞ☆」
「口調は統一してやれ。誰だか分かんないだろ」
昨日のテンションを持ち越すのはよく考えてからにするべきですね。反省。
「ほんとに一日で見つけたの……? って、うわ、デカッ」
深夜テンションにもめげない少年は我々の癒しである。ありがとう。
「コクエン火山のボスモンスター、焔竜が落とした武器だぜ。銘は黒剣、名はベリアルだ」
「40分の1の確率で落とすらしい。かなりレアだな!」
「キミがこの剣を使うには2、3年待つ必要があるだろうね。けど、これが扱えるようになったら、しばらく敵なしなんじゃないかな。魔法剣のなかでもかなりランクが高いよ」
「大剣の分類の割にやたら斬れやすいぞ。気を付けてな」
「あ、うん、ありがとう」
問答無用で受け取らせる流れを作った冒険者たち。おおむねその試みは成功した。
しかし……。
「ドラゴンが落とした武器だって言うけど、どうやって落としたの? なんで溶けてないの? 実は体液まみれだったりするの?」
子ども特有の何故なに攻撃だ!
この少年は、ベリアルが竜の身体に刺さっていたとでも思っているのだろうか。
現実を知る冒険者にとって“モンスターが落とした、もしくはドロップした”の一文は事実以外の何物でもなかった。けれど、未来の冒険者かもしれない人物に、そんな夢もロマンもない回答をする訳にもいかなかったのである。
「溶ける訳ねーだろ。この剣には炎の力が宿ってるんだぜ? 炎の力にも耐性を持ってるはずだ」
「ドロップした、と言っても、モンスターをこづいたら口から出てきたってことじゃないからね。じゃあ実際はどうかって? それは見てのお楽しみかな」
「ボスの力が込められた剣だからな! そりゃあ神秘的な力で守られている。だから、この剣は血まみれでもよだれまみれでもない。なんだったら洗浄してやってもいいけどな」
「ドラゴンの血は特別な力を持つこともあるから、洗浄するのはおすすめしないな。飲んだり触れたりしただけで不老不死や超人的な力を得た、という伝承を聞いたことがあるだろう? この焔竜にそれだけの力はないが、おそらくその剣には似たような作用が起きているはずだ。剣士が言ったように、神秘的な力でプロテクトがかけられていて、一生朽ちないとかな」
「結論を言うとですね、大丈夫ってことです」
「お姉さんの意見はないの?」
「ロマンチックな発想を思いついていたけど、口をはさむ隙がなかったのです」
このあと仲間内でバラします。
Title:本題
「ロマンチック&ファンタジックな考え方で失礼します」
「はいどうぞ」
モンスターを倒したとき、彼らは霧のようにほどけて消えるがいなくなった訳ではない。
コアという生命力の塊のようなものに転じているからだ。コアは見えないが、コアからは自らを倒した冒険者を判別できる。コアには本能があり、モンスターだったころの記憶はない。自らの力を誰かに託したいという思いでそこにあるだけである。
冒険者に対して、力を受け継ぐのにふさわしいかどうか、コアは選定を行う。それに選ばれればコアは固有武器などに変化するが、ふさわしくなければレア素材になってしまう。もしくは、もっとランクを落として汎用素材になってしまったり、なくなってしまったりする。なくなる=何もドロップしない、ということ。
しかし、コアの試練で許される条件はそう厳しくない。これは逸材、申し分ないと言わせる場合もあれど、微妙だけどまあいいかぐらいの気持ちで託されることもあるわけだ。
これが、ドロップ運などを気にせず戦ったときも落ちることがある、通称“物欲センサーの揺れ”現象なのだ。
魔「後半のアレを書きたいがためにこの話を書いたのに本編に入らないとか……。
ああ、これを使っていつか話が書きたいなあ」
舟「いま書けばよかっただろ」
魔「……なるほどね」