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第六話之一「夏とテストと休止期間」

続きます。


 夏と言えば、体育祭。それは不完全燃焼に終わった。

 夏と言えば、海。受験で多分行けない。

 夏と言えば、夏休み。その前にあるのは、期末試験。


「えーーと。はい、キチンの波、ジュグラーの波、クズネッツの波、コンドラチェフの波。景気循環の周期が、一番短いのは……んー、浅川さん」


「ホイ☆ チキンです☆ あっ、キチンでした、てへぺろ♡」


「……ブフッ。は、はい。そうですね。名前が短い順に……フヒ、周期も短いと、フ、覚えてくださいね」


「はーい☆ キチンと覚えますっ☆☆」


「ブヒョ! ……コホン。失礼。……じゃ、じゃあ、試験範囲はここまでで」


 月曜日。いい加減、俺も浅川さんの言動には慣れてきた。生徒とは誰とも話さない代わりに、先生にはよく懐き、概ね好かれているようだ。先生はウケているが、生徒は相変わらずの冷め具合である。

 ようやく今学期の試験範囲が全て発表され、来週から約一週間のテスト期間が訪れることとなった。正直言って、一般受験であれば、大学受験に内申点は関係ない。成績の良し悪しに興味がない俺は、卒業できる程度の成績が取れればいいやなんて思ってしまって、なかなか勉強に身が入らない。

 当然だが、テスト前一週間は、部活動の休止期間になる。つまり、テスト本番期間を含め、二週間ほどは浅川さんと部室で会えなくなることになる。ちょっと寂しい。



******



「織部君って、勉強はできるの?」


「……中の下くらいかな」


 昼。以前まで、自分から日比谷君達のところに行くのが迷惑かもしれない、という思いから、誘われない限りは部室で浅川さんと食べていたが、最近は自分から日比谷君のグループでご飯を食べるようになった。何か深い理由があるわけではなく、単純に、この暑さの中、冷房設備のない西校舎まで歩くのも、そんな中でご飯を食べるのも面倒くさかったのと、ようやく日比谷君達と打ち解けたから、というだけだ。


「進路は大学?」


「うん、特にやりたいこともないし」


「じゃあ、みんな一緒だね」


 日比谷君とそんな他愛もない話をしていると、そんなことより、とモッチが割って入ってきた。


「お前さ、最近浅川さんとはどうなんだよ」


 急に浅川さんの話題に切り替わった。このクラスで、浅川さんの話題を躊躇なく出せるのは、モッチだけだ。浅川さんの話題になると、日比谷君と、その隣で購買のサンドイッチを食べている、泉君という友達は、若干気まずそうな顔になる。もちろん悪意があってのことではないのは分かるが、相対的に、モッチの人格の素晴らしさが際立つ……。だが、今回に関しては、モッチお前、厄介な話題を出しやがって……!


「……どうって、普通に話すけど」


「好きなん?」


 ……躊躇なく、ド直球に核心をついた質問を投げてくるのも、モッチだけだ。運動部ってこんな奴ばっかりなのか?


「いや、……まだそこまで考えたことはないけど」


 嘘。いつも寝る時妄想してる。ただ、正直今は、付き合うとか合わないとか、そういう要素を抜きにして、今のこの距離感での生活を楽しみたいという気持ちだ。


「……織部君は、あの人の話……あんま知らんの?」


 サンドイッチを食べ終えた泉君が、小さめの声で囁いた。あの人ってのは、浅川さんのことだろうが、話というのは……。浅川さんの昔の話だろうか。小中高と一緒だった人が学校にいるなら、そういう話はたくさんありそうだが。

 ……興味はある。が、浅川さん関連の話は、どうも悲しい話になるような気がするから、あまり聞きたいと思えない。


「ま、いいだろ! 噂話程度の情報で、余計なこと言うもんじゃねーぜ、泉」


「……まあ、そうだな。ごめん、織部君」


 モッチが、表面上は軽く、しかし言葉裏には強く、泉君の発言を制止した。その雰囲気を察した泉君は、浅川さんについてそれ以上話さなかった。それからは、テストがどうだとか、部活がどうだとか、下らないいつもの話に切り替わり、浅川さんの話は、テストが終わり、終業式近くになっても、掘り返されることはなかった。

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