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第十四話之三「友達」

 今までの俺はアホだった。昨日泣きながらこの激動(俺の心が)の二日間を振り返って実感した。


 コミュニケーションには順序と言うものが存在する。俺は浅川さんに対友達とのコミュニケーション(発展編)の授業を強制させていたんだ。

 新たに構成を練り直す。最初は、出身校、部活、趣味、家族構成、家の場所。このあたりから攻めていくべきだったのではないだろうか。

 今日は、それを踏まえて進めていく。ギャグはその後だ。


「浅川さん。今日もよろしくね。大丈夫、今回はちゃんと考えてきたから。最初は自己紹介から。それから、出身校、部活、趣味とか。で、その話が終わったら、今度は――」


「おりべっち、もういいよ」


 浅川さんはきっぱりと言った。「おりべっち、もう……。……いいよ♡?」だったか?

 いや違う。脳内お花畑の俺でも、NOの意思表示としての「いいよ」だったことは間違いなく聞き取った。


「えっ、どうして? 大丈夫、セクハラみたいなのはもうしないし」


「ううん、そうじゃなくて。……今日のお昼休み、部室で待ってるね」




 ……なんで? 日比谷君達じゃ私に釣り合わないという話か?

 それとも、純粋に俺と二人きりじゃないと嫌という話か?

 恐らく後者に違いないが、余計なことを言って不快にさせるのが俺の十八番である。もしものケースに備え、ここでは当たり障りの無いよう「分かった」とだけ返事をした。




「お待たせ、浅川さん」


 と虚空に向かって話しかける。いけない、まだ下駄箱だった。

 昼休み、「今日は浅川さんと食べてくる」と日比谷君に言い残し、いつもとやや様子の違う美少女の待つ個室空間へと、はやる気持ちを抑えきれないまま俺は早足で向かった。

 何の要件なんだろう。汚い妄想を巡らせてはいたが、実際のところは最近の俺の言動に対する、肯定的なのか否定的なのか、何かしらの意見が下されるのだろう。

 急にむさ苦しい男共で囲ったのは良くなかったか。まずは中性キャラ担当の日比谷君で慣れてもらうべきだった。


 ごちゃごちゃと反省しても時すでに遅し。反省材料が膨大すぎて、部室前に着くころには俺のテンションは中々に下がっていた。

 怒られたらどうしよう……。と扉の前で静止していると、「おりべっち? 別に着替えてないよ~」という、ややズレたお声が部室の中からかけられた。


「て、てっきり、また着替えてるんじゃないかと思ったよ、ナハ、ハハ」


「あはは。まあ、座って座って」


 言われるがままに座った。弁当を出し、机の上に置く。浅川さんは既にお茶の用意までしてくれていたようで、そっとお茶が差し出された。俺と浅川さんの入室タイムラグのおかげで適温に冷めたお茶を口に含み、俺は自然な形で話題を振る。


「いい茶葉だね。ところで、茶と言う漢字は、茶話会、喫茶店のようにお話しする機会が用意される場合の名称によく使われているんだなぁ。あっ、ごめんごめん、お話と言えば、今日は何か話があるんだっけ?」


 今朝の話をちゃんと覚えてくれていたことが嬉しいのか、浅川さんはプッと吹き出し、ケラケラと笑った。いや、笑うところか?


「やっぱりおりべっちは面白いね。……うん。お話しよっか」


 このタイミングで笑うなんて、俺の顔が面白いと暗に馬鹿にされたような気がするんだが。

 

「……で、もしかしてなんだけど、日比谷君達じゃ、嫌だったかな」


 俺は男らしく、核心を突く質問を火の玉ストレートで投げた。


「ううん。そうじゃないんだ」


 ボールだった。


「あの人達と話すのも楽しいし、もちろん、他の人とも話せたらなぁって気持ちはあるの。でもね、そうじゃないというか」


 浅川さんは、どう表現したらいいのか分からないという風に、頭を唸らせながら言葉を選んでいるようだった。


「なんというかね、自然でいいというか……。自分のペースで、相手もこう、なんだろう、受け入れてくれる心の準備はできた状態で、というか……」


「……つまり、友達は斡旋されて作るものではなくて、お互いが納得した、自然な形で作りたいってこと?」


「そう! もちろん、おりべっちがやってくれたことは、とっても嬉しいことだし、迷惑だなんて全然思ってないの。でも、心の準備とかもあるし……」


 自分で働きかけておいて何を言ってるんだと思うが、浅川さんの言いたいことはよく分かる。婚活パーティや街コンで恋人を探すことに若干の抵抗がある人の気持ちのような、友達や恋人は、できるだけ自分の力で探していきたい気持ち。

 もちろん俺にもあるし、それが浅川さんにもあるのだろう。

 本人が嫌がっている中で、さらに強行するのは愚策中の愚策だ。このあたりで俺も手を引こう。御崎さんと仲直りさせてあげたいという気持ちもあったが、それこそ自分自身の力で解決していくことなんだと思った。浅川さんの為にも、余計なことはしたくない。


「それにね」


 浅川さんは小さく続けた。


「私は、おりべっちと二人でいる、この時間が大好きだよ。大切な人と一緒に過ごす、とっても幸せな時間」


 ……え、なんだって? 難聴か? それとも、妄想世界と身体が入れ替わったのか?

 

「現実だよ、ちゃんと聞きなさい、おりべっち」


 現実だった。


「おりべっちと出会って、やっぱり誰かとお話しするって楽しいな、友達っていいなって思ったの。……でもね、友達って呼べるなら、誰でもいいわけでもないの」


 確かにそうかもしれない。

 俺の場合で言えば、趣味が合うから浅川さんと友達になったように、共通の趣味があるとか、ノリが合うとか、そういう要素は重要な問題だ。


「おりべっちの場合、最初は趣味が合うから……だったかもしれない。けどね、今はそれだけじゃないの。ちょっと……ううん、だいぶ変態だけど、ちゃんと私のことを見てくれるところが好き」


 ん? 変態? 変態が好きって言ったか?


「変態だけど気を使ってくれて、知らないところでたくさん頑張ってくれて。そんなおりべっちと一緒にいるうちに、他に友達を作ろうって気持ちがなくなっちゃった」


 いつの間にか物凄く褒められてる。


「おりべっちと一緒にいられたら、それだけで十分なの。他になにもいらない……って、重いね、私」


 浅川さんは笑う。

 重い。世間一般で言えば、確かに重いかもしれない。

 ただ、薄っぺらな人間関係しか築いておらず、深い人間関係に飢えた俺にとっては、軽すぎる。二十四時間背負っていくこともいとわない。

 浅川さんを独占したいという重い気持ちを隠して今回は行動したが、結果として、その「独占したい」という気持ちは浅川さんにとっても軽いものだったのかもしれない。


「……独占してもいいんだよね?」


 あ、口に出た。


「えっ、独占? 何を?」


「玲奈を」


「ちょっ……」


 今さら何を言っても、浅川さんは俺に幻滅しないだろう。この際だから言ってやろう、俺の想いを。


「本当は朝から晩まで、一日中ずっと浅川さんを独占したい。浅川さんが喜ぶかなと思って日比谷君たちと仲良くなってほしいと思ってたけど、本音では俺だけの浅川さんでいて欲しかった。だから、今回浅川さんにそう言ってもらえて嬉しかった。浅川さんの笑顔も、怒った顔も、悲しい顔も、全部俺だけに見せてほしい」


「あ、あわわわわ」


 浅川さんはたじろいだ。よし、もう少し行けるか。


「……なんなら、無人島に駆け落ちして二人で暮らしたいと思ってる。二十四時間どんな時も、浅川さんがこれを見たら、食べたら、体験したらどう思うのかなって思ってる。浅川さんのことを考えてるときが一番幸せ。今の幸せは昼休みと放課後の部活中だけ。正直、この部室が異世界に飛ばされて、一生二人で過ごしていくことになればいいなって毎日思ってる。あっ大丈夫、もちろんやましいことは一切無しでも我慢できるから。でも、浅川さんが求めるなら、その限りじゃないよ。絶対に浅川さんに恥ずかしい思いはさせないから」


「…………なんか色々台無しだよ。ま、今さらもういいけど」


 お互いがお互いに本音を打ち明け、引き分けの戦いとなり今日は試合終了となった。

 また更に、仲良くなったんじゃないかな?




 時は経ち、文化祭。

 俺達は無事に部誌を完成させ、晴れて渡り廊下の一角に販売スペースを設けた。

 売れ行きに関しては、文化祭が開催して三時間、販売冊数三冊。

 もちろん、購入者は日比谷君、モッチ、泉君だ。他にも何人かチラホラと部誌に手を伸ばしてくれる人はいた。しかしどういうことか、浅川さん担当のイラストページを流し見し、一度は顔がパッと明るくなるのだか、俺の担当である小説ページに突入するとすぐに顔が暗くなり、冊子を元に戻しどこかへ去ってしまうのだ。

 テーマを人を選ぶダークヒーロー物に変更したことが仇になったのかもしれない。

 やれやれ、そんなことなら万人受けするテーマで執筆するべきだった。


 そうするうちに、午後三時、文化祭の閉会時間になってしまった。

 田舎の文化祭は、一日で終わる。校内と一般日を分ける必要がある程、この寂れた学校では集客は見込めないからだ。通りがかった日比谷君によれば、お化け屋敷ですら並ばなかったらしい。




「……売れたのは三冊だけど、手に取ってくれただけでも嬉しいよ、俺は」


「うん。私も満足だよ。大事なのは思い出だよね。……おりべっちと一緒に過ごした、この時間も含めて」


 二人で笑い合い、撤収準備を進める。これが青春だと言わずしてなんと言うのか。今まで味わったことのない清々しい気持ちに体を預けながら、浅川さんとの時間を楽しむ。

 そんな時、販売スペースにひょこりと顔を出し、「まだやってますか」と一人の生徒が来店した。


「あ、まだ大丈夫です……って、……ちよちゃん」


「……一冊下さい、れいちゃん」


挿絵(By みてみん)


 浅川さんの顔に咲いたこの日一番の満開の笑顔に、思わず俺は、御崎さんに嫉妬した。


終わり


ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。


小学生以来、初めて書いた小説ですが、とても楽しかったです。


小説技法に至らないところが沢山ありモヤモヤすることが多くありましたので、今後は技量を高めてまた投稿していきたいと思います。

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