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第十四話之二「友達」

「最近よそよそしいなぁって思ってたから、今日はびっくりしたよ。この整合性取れて無い感じ、何か変なこと考えてるでしょ」


 本棚の整理を終え、席に着きながら浅川さんは言った。読心術は健在だった。

 いや、読むまでもないか。隠れてない隠し事を続けたって仕方ない。今回は堂々としていよう。


「浅川さんの魅力をみんなに知ってもらおうキャンペーン実施中ですね」


「な、なにそれ……」


 志願した覚えのないPR活動と、突然できた専属マネージャーに困惑していた。

 そうだ、浅川さんを地元のアイドルにするのもいいな。それに耐えうる魅力が備わっているのは保証する。


「そんなわけで、明日からもよろしく」


「あ、やっぱりまだあるんだ……」




「おはよウーパールーパー」


「えっ? ……あ、うん、おはよ、おりべっち」


 最近の浅川さんはどことなく勢いがない。以前なら、発言のいたるところに☆やら♡やらの記号が、三角コーナーにたかるショウジョウバエのように鬱陶しくまとわりついていたのだが。


「今日の昼も、みんなで食べよう」


 浅川さんは、何か言いたげな思いつめたような顔をする。どうしてだろう、友達を作りたいと思っているんじゃ、なかったのかな。




「いただきます。浅川さんを」


 昼休み。浅川さんは気まずそうな顔をする。どうしてだろう、心の内ではツッコミ甲斐のあるボケだと思っているはずなのに。


「織部、浅川といるときそんなキャラなのな」


 やばい、特選ギャグだけ披露してしまったばかりに、変態キャラとして見られているような気がしてならない。


「いや、違う違う。台本通りだから。このあと浅川さんが重ねボケする手はずだから」


 浅川さんに助けを求める。他の男の前だとしおらしくなるなんて聞いてないぞ。

 「おりべっちの人肌でしっかり温めてから味わってください☆♡☆」くらい言ってくれよ。そしたらこの場も暖まる・浅川さんの好感度も急上昇・俺達はめでたく結婚じゃないか。


「いや、織部君とは、そこまで仲良しじゃないから。この人が一方的にやってるだけで」


 ……。

 俺は本気で凹んで、昼飯を全部残した。




「ごめんね、おりべっち。別に本気で言ったわけじゃないから、元気出して」


 気づけば、昼休みの浅川さんからの拒絶の後から、俺は一言も喋っていなかった。

 あの後の昼休みは散々なものだった。あからさまに元気をなくした俺を見て、日比谷君だけでなく、泉君までも気を遣い、浅川さんに「まあまあ、でも実際は~~」的な台詞(ショックで全然覚えてない)をかけてくれていた。

 しかし会話は弾むことは無く、昨日以上に不気味な空間が教室の一角に出来上がっていた。ある意味で目的は果たせたのかもしれないが、俺が犠牲になるのは本意ではなかった。


「大丈夫。全然気にしてないし。本当は好きなんだって分かってるし」


「……え?」


 この日の夜は一人泣いた。


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