表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

第十四話之一「友達」

 御崎さんから色々聞いた。

 事の発端の原因は御崎さんにあったのかもしれないけれど、それを責めることはできなかった。

 軽々と「助けてやればいいのに」と言う事もできなかった。……人間、人を攻撃することよりも、人を守ることのほうが数倍勇気がいる。

 俺もそこにいたら、浅川さんと今みたいに仲良くできたかは分からない。


挿絵(By みてみん)


「お、おりべっち。今日はお仕事ないんだね」


 部室のドアを開けると、せっせと本棚の整理に勤しんでいる浅川さんが待ち受けていた。

 伸びた手の先を見ると、「小説の技法」や「比喩表現のコツ」など、見覚えのない小説関係の参考書が並べられていた。


「これ? 部費で新しく買ったんだよ~。これでおりべっちも文豪だね☆」


 いや、既に文豪なんだが……。

 それはともかく、残り少ない部費から、浅川さんが使わない小説の参考書代を捻出してくれたのか。


「やっぱそうだよね、浅川さんはそういう女の子だ」


「ん? えっ、浪費癖ってこと……?」


 日比谷君達から初めて話を聞いていた時、どうしても拭いきれない違和感があった。

 それが、この自己犠牲の念と、今まで積み重ねてきた経験から感じ取った、浅川さんの裏表無い優しさ。家畜ではなく、ペットに対する優しさのように、見返りを求めない優しさだ。


 …………。


 部室の端の席で、執筆活動も放棄して色々と考えた。

 今更だけど、浅川さんがクラスで肩身の狭い思いをしなくて済むよう、何か手助けをしようと決めた。

 偽善的なお節介かもしれないが、浅川さんの行動から察するに自主的に一人でいたいわけではなく、どうにかして人と関わりたいという欲求が見え隠れしている。

 ここで俺が手助けすることは、決して自己満足な完全な空回りではないだろう。

 浅川さんの幸せを願う俺としては、協力せずにはいられない。 


 個人的には浅川さんを独占したいね。




「ねえ日比谷君、今日の昼、浅川さんも一緒にいいかな」


「えっ!? いやあ……、もしかして、この前言ったこと、気に障っちゃったかな」


 どうやら、仲良くすると殺される、という発言に、俺がムッとしてその疑惑を払拭しようと動いたように見えたらしい。まあ、それも無いとは言えないけど。


「いや、そういうことじゃなくて。単純に、浅川さんを紹介したい」


 モッチがいる以上、噂を聞いていないという建前の下で動かなければいけない。


 というより、そもそも噂を本気で信じてる奴なんて、本当はいないんだろう。今の状態を作り上げたのは、この田舎特有の閉鎖した社会構造にあると感じる。

 みんな無視してるから無視しておこう。障らぬものに祟りなしという、この右にならえの風潮を壊せるのは、部外者の俺しかいないんじゃないか。


「紹介……? あっ、……なるほど。……うん。みんなにも言っとくね」


 社会構造に異議を唱えているうちに、日比谷君は急に物分かりが良くなっていた。俺の熱意ある行動から、気持ちを汲み取ってくれたんだろうか。




「えっ、お昼? 部室じゃなくて、教室で?」


「そう、ここで。日比谷君達もいるから」


「え、それって迷惑なんじゃ……」


 昼休み、俺は心配する浅川さんをよそに、親戚の集まる正月に急に知らない親戚の友人が新年の挨拶に参上した時の、どうすればいいんだろうというような、気まずくそわそわした姿で待っている人達が集まる、いつもの席へと向かった。


「はい、こちら浅川さん」


「え、あ、こんにちは……」


 あ、どもども、あ、どうぞ、と、珍しい来客に男達は緊張した面持ちで挨拶を交わす。

 さすがのモッチも、こうして面と向かうと緊張するらしい。


「……いや、いつもは元気なのに、今日は静か、なんだね」


 少々の沈黙の後、日比谷君が恐る恐る口を開いた。泉君は沈黙を貫く姿勢を見せており、目すら合わない。モッチは、まだ状況を飲み込めていないらしい。……日比谷君はちゃんと説明してくれたんだろうか。

 他のクラスの人達も、今度は一体何が始まるんだと言わんばかりの、好奇心に満ちた表情で俺達の卓をチラチラと覗いていた。


「浅川さんのお兄様曰く、あの痛いキャラは浅川さんなりの高校デビューなんだって。浅川さんも止め時を見失っているらしい」


 「おりべっち!」と太ももを強めに叩いてきた浅川さんの頬は、懐かしさ漂う赤みを帯びていた。大丈夫、こういうのは先に言っといたほうが後が楽になるから。


「は、はは……。二人の仲の良さが伝わってくるね」


 結局昼休みは、俺が浅川さんの情報を公開し、それを聞いたみんなが俺に質問をし、俺が浅川さんにそれを質問し、浅川さんが答えるという、サッカー日本代表監督の記者会見を思わせるスタイルでの食事会となった。




「……どういうこと、おりべっち」


 放課後、案の定浅川さんに詰め寄られた。心なしか怒っているようにも見える。


「いや、紹介しようと思って、浅川さんを。……め、迷惑だったかな」


 浅川さんは納得の行かない表情で、ジッと見つめる。事情を説明すると浅川さんはどうせすぐ泣くから、今回は言わずにおこうと思う。


「別に迷惑とかじゃ、ないけど……。顔だけ知ってる親戚の人と急にご飯食べさせられた感じ……。心の準備とかあるし、もっと早めに言ってほしいな、とか……」


 あの場にいた人間の気持ちは一緒だったようだ。

 確かに、あれが合コンだったら幹事の俺はボコボコにされていただろう。ごめん、次は気を付けます。

 次もあるの? と言いたげな表情を浮かべる浅川さんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ