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第十話之三「勉強合宿」

******



 夕方になり、どちらからともなく、勉強合宿は終了した。

 結局休憩の後は、見かねた浅川さんのご好意で、丁寧に勉強を教えてもらった。

 浅川さんの兄は大学で教育学を学んでいるそうで、浅川さんは兄に勉強を教えてもらっているらしい。確かに、浅川さんの勉強法や教え方は丁寧で、学校の先生に教わっているような感覚に陥る。こんな可愛い先生の授業だったら、やる気も湧くのだが。


「お互い勉強するための合宿だったのに、ごめん」


「いえいえ、人に教えると、自分も伸びるんだよ~☆。……だ、だからこれからもうち来てね」


「お願いします、浅川様」


「はいはい♪」


 じゃあそろそろ帰るかな、と思っていたところで、扉をノックする音が聞こえた。どうぞ、と勝手に俺が返事をすると、再度お母様が登場された。


「おりべっち君、よかったらご飯食べていかないかしら?」


「あ、いえいえそんな、家族水入らずのところに入るなんて、それにお父様も」


「いいのよ! それにパパはまだ帰ってこないから大丈夫よ。玲奈もいいわよね?」


「えっ……ちょっとママ、おりべっ……織部君を困らせないで」


「あら、もうおうちでご飯の用意されてるかしら?」


「あ、いえ、いつも私が作ってるので問題ございませんが……」


「じゃあ是非! カレーだから遠慮しないでいいわよ」


 お母様は上機嫌で台所へ戻って行った。正直、僅かに期待はしていたが、まさか実現するとは。

 カレーのテーブルマナーって何だったっけ? 左手はトイレでお尻を拭くほうだから、食べるときは右手を使うんだよな。

 ……あれ、俺右手でお尻拭いてたっけ。食べる前に手でかき混ぜるとかもあったような。


「……おりべっち、ごめんね。嫌だったら今からでも帰っていいからね」


「ん、大丈夫。俺手の皮厚いから、熱くても全然触れるし」


「? うん。ま、まあ、大丈夫ならいいんだけど」



******



 参考書を片付けていると、お母様にリビングに呼ばれた。するとびっくり、お兄様も同席されるそうで、既に着席されていた。至って普通の、どこにでもいるお兄様という印象。オタクと言われればオタク、そうじゃないと言われればそうじゃない、という境界線上にいるような、今流行っている風の風貌である。顔は、さすが浅川家、なかなかの美貌である。

 軽く会釈をすると、お兄様は一瞬動揺した後、浅川さんが悪いことを考えた時にする表情と同じような顔をして、会釈を返してくれた。


頂きます、お母様


はい、どうぞ〜。おかわりもあるからね


細かい作法が分からなくて不安だったが、どうやらスプーンを使っても良いらしい。厳格な家じゃなくて良かった。

そして、美味しい。コクと甘みと辛みとかその辺が、良い感じに絶妙で、具もなんか煮込まれてて美味しい。

続いて、俺はサラダに手を付ける。大皿に盛られたサラダを、取り分ける専用の、木製のトング的なものを使い、小皿に分けてもらうという、女子力システムだ。

このサラダは、確か、コールスローだったか、シーザーだったか、はたまた和風だったか、いや、エスニックかもしれない。とにかく、なんかお洒落なサラダである。

味も素晴らしく、国産のいい野菜を使用した、文句無しの味。例えるならそう、砂漠で三日三晩飲まず食わずで、どこにあるかも分からないオアシスを目指し、飢え死にするのかしないのかのところで、サラダバーに遭遇した時のサラダの味かな。


いやあ、男一家の食卓には並ばない、素晴らしいお食事でございます


「あらそう?ありがとうね、おりべっち君」



「おりべっち君ってあのおりべっち君?」


 え、どの?


「兄ちゃん、やめて」


「コイツな、口を開けばすぐおりべっち君の話ばっかりなんだよ」


「ちょっ……」


 浅川さんが分かりやすく焦りだす。

……さっき浅川さんから聞いてた話と違うんだが。


「えっ? もしかして部室のパソコンの陰に一緒に隠れて浅川さんの機嫌が悪くなったこととか、トイレに不審者がいると思って助けに行ったら浅川さんがパニックになった件もですか?」


 あ、こういうお下品なことは家庭内で言ったらまずいか。ま、もう遅いけど。


「えっ!? 何それ! 面白そうじゃん、聞きたい聞きたい」


「ちょっとおりべっち! 言うわけないでしょそんなの! 兄ちゃんはもう喋らないで」


「前までは学校のことなんて話さなかったのにねえ……」


「ママも黙ってて!」


「お前おりべっち君大好きだもんな、ハハハ」


「ほんと。よく連れてきたわねえ、ウフフ。もう一息かしらね」


「うるさいうるさいうるさいーーー!」


「あ、あはは」


 ……まじかあ~~! そんな好きか~~! 調子乗りたいけどここじゃ乗れねえ~~!

 家族公認の男として迎えられたってことでいいですかね? もう泊まっちゃってもいいですかね?

 浅川さんが猛烈に怒り出し、お兄様の唐揚げがすべて奪われるのを見ながら、俺はあくまで平静を装い、幸福と言うスパイスの効いたカレーを平らげた。


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