第十話之一「勉強合宿」
夏休みもあと一週間。ラブラブデートにラブラブ夏祭りにラブラブワンナイト。何気に色々あったな。
夏期講習期間も終了し、夏休み中の部活も今日で終わり。そろそろ、受験も文化祭準備も本腰を入れていかないとな。
浅川さんはと言うと、いつもは液タブとにらめっこしているのだが、今日は見慣れない本と格闘していた。
「なにそれ? 絵の本みたいなやつ?」
「ん? あ、いや、英語の単語帳だよん」
珍しい。あの浅川さんが部室で勉強とは。
……俺は本を買うとすぐにブックカバーを外すタイプなので一瞬気が付かなかったが、浅川さんが使っている参考書は、俺が持っている単語帳と同じ本だった。
「あ!それ俺もそれ使ってるわ。どこまで覚えたの?」
「全部だよ~。夏休みは一日一周が日課なのです☆」
え、今なんて? 千九百単語というボリュームを誇るこの「エイミング1900」を、浅川さんは既に覚え切ったと?
……いや、まだ焦るのは早い。単語だけ覚えたって、文章は読めないんだ。俺は夏期講習で、最先端の受験テクニックを身につけた男だぞ。まだ渡り合える。まだ六百単語しか覚えてなくても、十二分に渡り合える。
「今日はこれで終わり! 次は……」
浅川さんはゴソゴソとバッグを漁る。
……なんと浅川さんは、難関大志望者がドヤ顔で持ち歩くと言われている「入試現代文へのプロセス」を取り出した。おいおい、現代文なんぞ対策する必要……いや、やるとしても冬からでいいんじゃ、ないのか? ネットにはそう書いてあったぞ。
まさか、この時期に現代文の対策を始める程の余裕があると言うのか……? 俺はやっと日本史の参考書を開き始めたというのに。
「現代文の対策してるんだ、へえ~。でもさ、現代文なんて対策しなくても、八割くらい合ってるときあるよな、あは、アハ」
さりげなくできる男をアピール。ま、小説家たるもの、現代文くらいできるわっつーことで、な。
「……いつも八割とってるの?」
「え、いや、たまにだけど」
「現代文はみんなそうだよ。それで実力を過信してると、本番で足元すくわれちゃいますよ、おりべっちさん」
くぅ~~……!時々くる浅川さんの正論は、マジで心に突き刺さる!
何よりも、今まで遊び呆けてると思っていた相手が、実はかなりの努力家だったという事実。テスト前に、俺っち勉強してないぜと笑ってた奴が、めちゃくちゃ勉強していた時以上の衝撃。夏休みの間、ずっと謀りやがったな、玲奈……!
「ま、ま、そうね、そうそう、現代文、大事だよな〜、アハ……」
どうする。このままじゃあ、引き下がれない。俺にも、男としてのプライドってもんがあるんだよ!
「たしかに、夏期講習で勉強したら、結構点数伸びたわ、現代文、あと、英語も、日本史も、確か」
「おっ!おりべっちさんも頑張ってますね☆☆!」
「ま、まあね!残りの夏休みはもうね、家で勉強合宿みたいな感じよ!」
ゲーム、アニメ、ご飯、アニメ、勉強、アニメ、ゲーム、ご飯、勉強、睡眠くらいのサイクルでな!
「……勉強合宿」
あ。浅川地雷踏んだかも。
「勉強合宿!」
「漫研は、勉強合宿をします!」
また始まった。いや、俺が始めてしまった。




