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第九話之一「合宿するの?」

 週に一度か二度、二人の予定に合わせ、不定期に行っている部活動。今日は、ちょうどその部活動の日だ。夏休みもやや終盤に入りつつある中、俺達は文化祭用の部誌の制作に勤しんでいた。

 高校三年生の夏と言えば、運動部や就職・進学推薦組を除けば、基本は受験に向け気持ちを切り替え始めている時期だ。

 もちろん俺も例外ではない。部活動以外の時間は、学校の夏期講習や、適当な参考書を使って、着々と準備を進めていた。

 ……浅川さんは大丈夫なんだろうか? 俺が言うのもあれだが、勉強をしているようには見えないんだよな……。どうせ家でずっとアニメとか見てる。間違いないね、ちょっと聞いてみようか。


「夏休みと言えばさ、受験――」


「合宿☆!」


「いや、違うけど」


「夏休みと言えば合宿! 作画の都合上、プライベートビーチでのスイカ割りが定番だと思います☆!」


「それはアニメの話だろ! ……まさか、プライベートビーチ……持ってたりするの?」


 私服とか浴衣とか金銭感覚とか、何気に良い所の出身感があるから、もしかしたらありえるかもしれない。


「いや、無いけど」


「はい」


「でも、合宿行きたい☆! 最悪秩父でもいいから! 合宿行かないと夏じゃないよう~~」


 んな子供みたいなこと言われても……。受験の話題はどこかへ行ってしまったが、どうせやってないだろうなと、この怠けた感じから察した。

 合宿――。つまり、浅川さんと二人で旅行と言っても過言ではない。ちょっと余裕ぶってクールに構えてる俺だけど、正直喉から手が出るほど行きたい! 間違えて混浴しかない宿予約なんかしちゃったりしてね。顧問の先生のお酒をジュースと間違えて飲んじゃって、泥酔した浅川さんが浴衣を脱ぎだしたりね。酔った浅川さんは、急に王様ゲームを始めるんだ。浅川さんは王様になる。告げた命令は、一番の人と王様が――

 ……待てよ、顧問の先生? そんな人いたっけ? 合宿って、顧問の先生が引率しないと成り立たないよな?


「……行くとしても、引率の先生はどうするんだ。そもそも……俺、顧問の先生に会ったことないんだけど」


「あ、一応いるんだよ☆! 徳永っておじいちゃん先生! いつも十九時くらいに部室の鍵を閉めてくれてます」


 いたのかよ! ……ま、そりゃそうか。

 徳永先生、どんな人なんだろう。できるだけ事を荒立てず、数年後の定年を待つだけの日々を送る、部活動に対しても消極的な人なんだろうな。

 ……そういえば、浅川さんの口ぶりからは、なんとなく漫研も合宿行ってる感があった。いつまで浅川さん以外に部員が残っていたのか知らないけど、かつては合宿に行っていたことがあるんだろうか。


「ちなみに、去年の合宿はどこ行ったの?」


「いや、漫研が合宿とか行くわけないじゃん。あ~あ、アニメの見すぎだよ、おりべっち」


 これだからオタクは……。とでも言いたげな顔であしらわれた。夏と言えば合宿ですぅ☆ 合宿行きたいんだぁ~☆ とか言い出したのはお前だろうが!

 まあでも、純粋な意味で、合宿に行きたい気持ちは分かる。健全な高校生の夏っぽくていいしな。……ただ、部費はこの前の駅タブー……じゃない、液タブだったか、にほとんど吸い込まれてしまった。とても合宿なんて無理な話である。行きたいなら液タブ売ってこい。


「合宿、海、花火、肝試し、告は……じゃない、カードゲーム……」


 一人妄想を広げる浅川さん。……普段の自分を見ているようで恥ずかしい。


「前の学校じゃ、運動部は校内合宿とかやってたぞ。それでいいんじゃない?」


「それは合宿とは言えません!やだよこんなとこで寝るの! 海! 花火! おばけ! 行かせろー! 連れてけー! うがー!」


 ま、そりゃそうだ。校内合宿なんて、汗臭い男どもの泥臭い青春感しかない。いくら二人一緒でも、さすがにこの場所は俺も嫌だ。


「じゃあ無理だ、おとなしく諦めなさい」


「うう……」


 浅川さんはしょんぼりと落ち込み、部室には、浅川さんの深いため息と、悲痛なうなり声が響き渡った。



******



「……あ、やっぱありかも、海と花火が無くても、他は、……うんうん、あるある、縮まる縮まる」


 先ほどの会話の終了から十五分程が経った。もう合宿の話題なんて終わったと思っていたが、浅川さんはまだ諦めていないようで、何やら小声で、ぶつぶつと独り言をこぼし始めた。

 そして、急に元気になり、勢い良く立ち上がったと思うと、浅川さんは嬉しそうに口を大きく開いた。


「ドンドン! ぱふぱふ! 校内合宿☆!」


「え?」


「漫研は校内合宿をします!」


 ……やっちまった。俺は余計な入れ知恵をしてしまったようだ。こうなると浅川さんは止まらない。

 部活を早々に切り上げた俺達は、早速、承諾を得るため、職員室へ向かった。

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