第八話之三「夏祭りに行きたい二人」
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花火も終わり、浅川さんを家の近くまで送り、自分も家路につく。今日は人生で一番良い日だったと思う。帰ったら今日の出来事を一分単位で日記に記そう。そして、これからも、浅川さんとの毎日を日記帳に記しておこう。いつか老後、二人で読むために。
祭りの余韻に浸っていると、後ろから、聞き覚えのある声と、見知らぬ女性の声が聞こえ、だんだんと近づき、ついには横に並んだ。歩くの早すぎだろ。
「お、織部じゃん、お前も祭りだったん?」
「……モッチ! ……と」
現れたのは、浴衣ギャルを連れた、甚平姿のリア充モッチだった。コイツ彼女いたのか……! と思ってたら、ギャルが話しかけてきた。
「あ、おりべっち君じゃん! ども! 分かる?」
ノリがモッチみたいだ。……というか、ギャルが俺のことをあだ名で呼んできた、だと……!? ……え、クラスにこんな派手な子いたっけ。
「あはっ、分からないか~、凹むなぁ」
怖い。ギャグのつもりだろうけど、ギャルのお言葉と言うものは、カースト最下位の俺にとっては、本能的に重く受け止めてしまうものなのだ。
ギャルを凹ませてしまった。新学期に俺の机は無い。
「おい、千代、あんまそういうことすんなよ」
「あはは、ごめんごめん~」
この強者の戯れ感が怖い! そういえば、モッチにしても、一方的に俺が親近感を抱いてるだけで、モッチからしたら俺なんて新参者、村人A的な存在なのかもしれない。
……今の光景だって、客観的に見れば、ヤンキーカップルが根暗ぼっちに絡んでる図にしか見えない。逃げたい、一刻も早く。内弁慶の俺には、ゴリゴリの外弁慶は相手にできないのだ。
「千代。御崎千代だよ~。前のほうに座ってるから、顔とかわからないかもね」
御崎千代? どこかで聞き覚えのある名前だ。どこだったか忘れてしまったが。
「あ、アハ! よ、よろしく、ミサキチ、ョさん」
キョドりにキョドる俺を見て、ギャルは笑い出す。
「……あはーっ! ミサキチって、あはっ! 切るとこそこじゃないから! おもろっ!」
「……オイ! 千代、お前先行ってろ。少しだけ織部と話すから」
「あっはーっ! じゃーあそこのコンビニで待ってるよ~。……ごめんね、おりべっち君! また学校でね」
「ま、また、うん、また」
謎のギャルは先へ進んでいった。……えっ、モッチは俺に何の用がある?俺の女に惚れてんじゃねーぞコラ的な何かか?
「悪いな、織部。あいつテンション高いとああなるんだ」
「あ、あはっ、ぜ、全然、大丈夫」
全然、……家で休めば大丈夫。
「ならいいけどな。……で、お前誰と祭りいったん?もしかして浅川さんか?」
ちょっと不機嫌な表情だったモッチが、急にニヤニヤしながら肩を組んできた。本題はそれか。聞かれたくないことだが、脅されるよりは全然マシだ。
「う、うん」
「オホー! やるじゃん織部! 写真とかあんの?」
「う、うん」
浅川さんの可愛さを、ちょっと誰かと共有したい気持ちもあったので、今日撮れた最高に可愛い写真を見せた。
「ええええ! これ浅川さんかよ!? めっちゃ可愛いじゃねーか!」
…………気持ちいいー!!! そうです、浅川さんめっちゃ可愛いんです! 知らなかったでしょ~!! 俺は知ってました~~~!!
……と思いながらも、必死に平静を装う。
「ヤバイな、久しぶりにグッと来たぜ、千代より可愛いんじゃねーのか、なあ織部!」
当たり前……あ、違う、これトラップだ。調子乗って、うん! とか言ったら不機嫌になる奴だ。
「はは……。御崎さんとはタイプが違うし、それに凄い綺麗だと思ったよ、御崎さん」
「織部、お前分かってるな! ……で、祭り、上手くいったか? ……あ、お前らもう付き合ってんだっけ」
どこ情報だよ! ……最初に噂流した奴、小学生並みの推理力だな。どう見ても、まだただの友達――
「外で手ェ繋いで抱き合ってキスしてたらしいじゃん」
いやしとらんわ! ……って、まさか、あの時の野次馬……!
つーか余計な尾ひれつけやがって……!
「いや、それちょっと嘘だわ……。まだ付き合ってないよ」
「そうなん? でも"まだ"ってことは結構考えてんじゃん」
コイツ、計画通りみたいな顔してやがる……! まんまと策に溺れた俺氏、敗北。
「ま、可愛いし、ちょっとは、うん」
「ウヒャヒャ! ちょっとじゃねーだろお前! ベタ惚れしてるくせによ!」
……祭りのテンションのモッチ、うざ!
「あはは……。でも、浅川さんって、言動で敬遠されがちだけど、実際話してみると普通の女の子って感じだよ」
俺が引き気味にそう言うと、テンションの高かったモッチの顔が、少し曇ってしまった。何か変なことでも言ったか? え、心の声、声に出てた?
「あー、あのな……別に、言動が原因じゃないんだよ、織部」
え?
「え?」
「……いや、忘れてくれ、織部! ……んじゃま、千代待たせてるしそろそろ行くわ! また今日のこと聞かせてくれな! そんじゃ」
気になる言葉を残して、モッチはコンビニまで走っていった。その時、御崎千代という名前の既視感の正体を思い出した。
御崎千代――。以前浅川さんが言っていた、小学校からずっと、同じ学校に通っていた女の子の名前だ。浅川さんが、”ちよちゃん”と親しげに呼べる相手であり、噂話ではなく、ちゃんとした経験から、浅川さんの過去を知る唯一の女の子。
……まさかあんなギャルだったとは思わなかったが、モッチが、浅川さんの話題を出したり、泉君の発言を制止したりしていた理由が、この御崎千代さんと関係があるのかもしれない。
「……言動じゃなかったら、何で、浅川さんは……」
夏祭りの終わりに、無くなりかけていた疑問が、大きくなって、再浮上してきた。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
書き溜めた部分がなくなってしまったので、もしかしたら、少しの間だけ更新が止まるかもしれません、、!




