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第八話之三「夏祭りに行きたい二人」

******


 花火も終わり、浅川さんを家の近くまで送り、自分も家路につく。今日は人生で一番良い日だったと思う。帰ったら今日の出来事を一分単位で日記に記そう。そして、これからも、浅川さんとの毎日を日記帳に記しておこう。いつか老後、二人で読むために。

 祭りの余韻に浸っていると、後ろから、聞き覚えのある声と、見知らぬ女性の声が聞こえ、だんだんと近づき、ついには横に並んだ。歩くの早すぎだろ。


「お、織部じゃん、お前も祭りだったん?」


「……モッチ! ……と」


 現れたのは、浴衣ギャルを連れた、甚平姿のリア充モッチだった。コイツ彼女いたのか……! と思ってたら、ギャルが話しかけてきた。


「あ、おりべっち君じゃん! ども! 分かる?」


 ノリがモッチみたいだ。……というか、ギャルが俺のことをあだ名で呼んできた、だと……!? ……え、クラスにこんな派手な子いたっけ。


「あはっ、分からないか~、凹むなぁ」


 怖い。ギャグのつもりだろうけど、ギャルのお言葉と言うものは、カースト最下位の俺にとっては、本能的に重く受け止めてしまうものなのだ。

 ギャルを凹ませてしまった。新学期に俺の机は無い。


「おい、千代、あんまそういうことすんなよ」


「あはは、ごめんごめん~」


 この強者の戯れ感が怖い! そういえば、モッチにしても、一方的に俺が親近感を抱いてるだけで、モッチからしたら俺なんて新参者、村人A的な存在なのかもしれない。

 ……今の光景だって、客観的に見れば、ヤンキーカップルが根暗ぼっちに絡んでる図にしか見えない。逃げたい、一刻も早く。内弁慶の俺には、ゴリゴリの外弁慶は相手にできないのだ。


「千代。御崎千代だよ~。前のほうに座ってるから、顔とかわからないかもね」


 御崎千代? どこかで聞き覚えのある名前だ。どこだったか忘れてしまったが。


「あ、アハ! よ、よろしく、ミサキチ、ョさん」


 キョドりにキョドる俺を見て、ギャルは笑い出す。


「……あはーっ! ミサキチって、あはっ! 切るとこそこじゃないから! おもろっ!」


「……オイ! 千代、お前先行ってろ。少しだけ織部と話すから」


「あっはーっ! じゃーあそこのコンビニで待ってるよ~。……ごめんね、おりべっち君! また学校でね」


「ま、また、うん、また」


 謎のギャルは先へ進んでいった。……えっ、モッチは俺に何の用がある?俺の女に惚れてんじゃねーぞコラ的な何かか?


「悪いな、織部。あいつテンション高いとああなるんだ」


「あ、あはっ、ぜ、全然、大丈夫」


 全然、……家で休めば大丈夫。


「ならいいけどな。……で、お前誰と祭りいったん?もしかして浅川さんか?」


 ちょっと不機嫌な表情だったモッチが、急にニヤニヤしながら肩を組んできた。本題はそれか。聞かれたくないことだが、脅されるよりは全然マシだ。


「う、うん」


「オホー! やるじゃん織部! 写真とかあんの?」


「う、うん」


 浅川さんの可愛さを、ちょっと誰かと共有したい気持ちもあったので、今日撮れた最高に可愛い写真を見せた。


「ええええ! これ浅川さんかよ!? めっちゃ可愛いじゃねーか!」


 …………気持ちいいー!!! そうです、浅川さんめっちゃ可愛いんです! 知らなかったでしょ~!! 俺は知ってました~~~!!

 ……と思いながらも、必死に平静を装う。


「ヤバイな、久しぶりにグッと来たぜ、千代より可愛いんじゃねーのか、なあ織部!」


 当たり前……あ、違う、これトラップだ。調子乗って、うん! とか言ったら不機嫌になる奴だ。


「はは……。御崎さんとはタイプが違うし、それに凄い綺麗だと思ったよ、御崎さん」


「織部、お前分かってるな! ……で、祭り、上手くいったか? ……あ、お前らもう付き合ってんだっけ」


 どこ情報だよ! ……最初に噂流した奴、小学生並みの推理力だな。どう見ても、まだただの友達――


「外で手ェ繋いで抱き合ってキスしてたらしいじゃん」


 いやしとらんわ! ……って、まさか、あの時の野次馬……!

 つーか余計な尾ひれつけやがって……!


「いや、それちょっと嘘だわ……。まだ付き合ってないよ」


「そうなん? でも"まだ"ってことは結構考えてんじゃん」


 コイツ、計画通りみたいな顔してやがる……! まんまと策に溺れた俺氏、敗北。


「ま、可愛いし、ちょっとは、うん」


「ウヒャヒャ! ちょっとじゃねーだろお前! ベタ惚れしてるくせによ!」


 ……祭りのテンションのモッチ、うざ!


「あはは……。でも、浅川さんって、言動で敬遠されがちだけど、実際話してみると普通の女の子って感じだよ」


 俺が引き気味にそう言うと、テンションの高かったモッチの顔が、少し曇ってしまった。何か変なことでも言ったか? え、心の声、声に出てた?


「あー、あのな……別に、言動が原因じゃないんだよ、織部」


 え?


「え?」


「……いや、忘れてくれ、織部! ……んじゃま、千代待たせてるしそろそろ行くわ! また今日のこと聞かせてくれな! そんじゃ」


 気になる言葉を残して、モッチはコンビニまで走っていった。その時、御崎千代という名前の既視感の正体を思い出した。

 御崎千代――。以前浅川さんが言っていた、小学校からずっと、同じ学校に通っていた女の子の名前だ。浅川さんが、”ちよちゃん”と親しげに呼べる相手であり、噂話ではなく、ちゃんとした経験から、浅川さんの過去を知る唯一の女の子。

 ……まさかあんなギャルだったとは思わなかったが、モッチが、浅川さんの話題を出したり、泉君の発言を制止したりしていた理由が、この御崎千代さんと関係があるのかもしれない。


「……言動じゃなかったら、何で、浅川さんは……」


 夏祭りの終わりに、無くなりかけていた疑問が、大きくなって、再浮上してきた。


ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

書き溜めた部分がなくなってしまったので、もしかしたら、少しの間だけ更新が止まるかもしれません、、!

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