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第八話之二「夏祭りに行きたい二人」

(7/20)挿絵変更しました

******



 夏祭り当日。案の定、俺の小説熱はとっくに冷めていた。


 小説には取材が必要? ……じゃあ、姫娘(※番外編参照)の作者は魔法美娘界マジックビューターエデンに直接取材に行ったのか?

 恋愛小説も、推理小説も同じことだ。奴らはロケハンなんかしていない。全て想像で書いている。多分。


「本当の小説家ってのは、想像だけでなんでも書ける。……そうだろ?佐藤先生」


 小説といえばロケハン? どこの素人だ、そんなこと言ったのは。

 はあ……ロケハンなんて、めんどくせえ。無駄だ、そんなの。祭りは祭りだろ。俺はベッドに寝転がり、時計を確認した。あと三十分後には、家を出なきゃいけない。


「ロケハンなんてしたくねーな……ロケハンがなけりゃ、浅川さんとデートなのによ……」


 …………ん?

 ……待てよ……?ロケハンしなけりゃ、浅川さんと二人で夏祭りに行くイベントなんじゃないか?


 ……俺はなんてアホなんだ! これ浅川さんとデートじゃん! ……しかもめちゃめちゃ強引に誘っちゃった気がするわ! しかもクラスの人とか普通に来るんじゃ……、しかもデートなのにあと三十分で支度しなきゃいけない!

 俺は急いで洗面所に駆け込み、髪型を整え、いつかの浅川さんの服装を思い出し、最大限かっこいい服を選んだ。



******


 一八時。全力で自転車を漕ぎ、待ち合わせ時間丁度に到着した。


「ゼー、ゼー、……よかった、まだ来てないのか……」


 辺りを見渡すが、ふた通り存在する、浅川さんらしき人は見当たらない。俺は息を整え、最大限余裕そうな自分を演出した。


「ふふ、もう来てますよ、おりべっちさん♪」


挿絵(By みてみん)


 目の前には、浴衣を着た可愛い女の子が一人。隣に、オリベッチという外国人がいるのかと確認したが、俺の両脇は空いている。


「えっ……誰?」


「もう! またそれ~っ!」


 ……俺は、こんなに可愛い女の子と、いつも部室で一緒にいたのかと、自分の幸運さ、無知さが怖くなった。そして、これからこの美少女と一緒に祭りを歩く。そう考えるだけで、俺の心臓ははち切れるくらいに鼓動した。



******



「私、りんご飴食べます☆!」


 そう言って、買ってきたのは五百円の大きいほう。歩き始める時に、そんな大きいサイズのほうを食べ始めたら、邪魔すぎてこの先何も買えなくないか? と思ったが、正直、今の浅川さんは、何をしてもめちゃめちゃに可愛い。そのりんご飴を横から思いっきり齧って食べても、その結果歯茎から出血しようとも、全てが愛おしく思える、それくらい今の浅川さんは可愛い。あ、あと荷物は僕が持ちますんで、いくらでも買っちゃってください。


「りんご飴って食べ辛いよねぇ……あ、箸折れそうじゃ」


 オーソドックスに、浅川さんは普通にぺろぺろと飴を舐め溶かし始めた。ああ~っ可愛い! 取材だって言って写真撮ってもいいかな! いいよな!?


「あ、あさ、あさかかわ、浅川さん、しゃ、写真。取材、いい? い、いい?」


「……ふふ、いーよ」


 ……ヤバい。こんなに可愛かったか? 本当に浅川玲奈さんで合ってるのか? 奇跡的に俺のドッペルゲンガーと同じ場所で待ち合わせしてた別の浅川さんとかじゃ、ないよな?

 俺は、写真と動画を間違えたふりをして、一応動画も確保した。


 それからも、金魚すくいや、射的、ヨーヨーすくいなど、祭りっぽいことを手当たり次第にやってみたが、浅川さんに意識がいきすぎて、何をして、何を話したのか、全然思い出せなかった。その代わり、出店を楽しむ浅川さんの笑顔は、全て脳裏に焼き付けておいた。



******



 突然、空が明るくなり、少し遅れて、ドン、という打ち上げ花火の音が響いた。


「あ、花火☆! 見にいこ! おりべっち♡!」


 浅川さんに引っ張られ、花火会場に移動した。都会の花火大会の会場と違い、適度に座れる、そこそこの混み具合なのが嬉しい。

 たまたまリュックに入っていた、ビニール袋と適当なノートを敷物にして、俺と浅川さんは適当な場所に腰を下ろした。


「こんなに近くで花火を見るなんて、何年ぶりかわからないな~。凄い綺麗だなぁ」


「あ……うん、めっちゃ可愛いな」


「?? 可愛い? 今の花火、キャラクターの形とかだったの☆? 凄いな~!」


 この幸せな時間が、いつまでも続いたらいいのに。……せめて写真にだけでも、と思い、俺は花火と、浅川さんの姿をカメラに収めた。


「可愛いよ、玲奈」


 花火の音に合わせて、俺は囁く。


「?? えっ? ごめん、もっかい~」


「大好きだぞ、玲奈」


「?? なになに? もーちょっとおっきく!」


「抱きしめていいか、玲奈」


「き・こ・え・な・い・よ!」


「結婚しよう、玲奈」


 花火が終わるまで、俺はこの茶番をひたすら続けた。

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